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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第20話 『フィオラの秘宝』

 ――グラファス峠近郊、森の中。


 卓斗がエルヴァスタ皇帝国で稽古に励む最中、悠利、セレスタ、セラ、レディカは依頼であるフィオラの秘宝を探すべく、グラファス峠へと向かっていた。


「てか、思ったんだけど……千年もの間見つかってない秘宝がこんな短期間に見つかるとは思えないよな」


 そう言葉にしたのは悠利だ。他の者も確かにと頷いていた。


「見つかる訳がない物を今から探しに行くって事よね。何か無駄な時間過ごしてる気分よね」


 レディカもこの依頼に不満があった。レディカが何より不満なのはメンバーの方だが。


「いつ魔獣が襲ってくるか分からない、気を緩めるな」


 先頭を歩くセレスタが、ニ人に注意をする。ここグラファス峠の近郊では、凶悪な魔獣が住み着いており、民間人や騎士、魔法使いでさえも近付かない場所。

 悠利達は、いつ魔獣に襲われてもおかしくない状況だった。


「確かにこの森、不気味過ぎるんだよな」


 昼間にもかかわらず薄暗く、動物の気配さえ感じない。奇妙な静けさが、不気味さを煽った。


「どんな魔獣か知らないけど、私達でも倒せない相手じゃないよね」


 レディカの言う通り、今回の依頼に選出されたメンバーは副都でも上位クラスに名を連ねる者達で集められていた。

 ランクはもちろん、魔法、剣技でAランク以上の評価を得ている。卓斗に関しては魔法、剣技はBランクだが。


「それは分からんな。取り敢えず油断は禁物だ」


「貴方達は、何もしなくて結構。私一人で魔獣は倒せるから」


 そう話すセラに、レディカはまた苛立ちを募らせる。それを察知したのか悠利がレディカよりも先に口を開いた。


「例え一人で倒せたとしても、今回は駄目だ。せっかく四人で行動してるんだから、チームワークで行こう」


「チームワークなんて、くだらない」


「あんた、友達とか居ないでしょ。まぁその性格だったら居たとしてもすぐに嫌われるわね」


 レディカの言葉に、セラは足を止め強くレディカを睨んだ。


「貴方に言われたくない。それに、騎士に友達なんて必要もない。居ても邪魔なだけ」


「そう。じゃあ、あんたは一生一人で孤独に生きるのね」


「それでも別に構わない。私が信用する者はただ一人だけ。その人だけでいい」


 セラは、何か思い耽る表情でそう話した。一匹狼の孤独なセラでさえも、ただ一人だけ信用する人物が居た。


「へぇ、あんたでもそんな人が居るんだ。でも、そんな性格じゃその人にも愛想つかれるわよ」


「それ以上言うと、容赦しないわよ」


 セラは、レディカに歩み寄り激昂する。レディカも負け時と睨み返す。そんなニ人の間に悠利が割って入り込む。


「ちょっと、喧嘩は無しって言っただろ。こんな状況で魔獣が出たら怪我人が出るかも知れないだろ。今だけは喧嘩しないでくれよ」


「はぁ、私とエレナよりも仲が悪いな、このニ人……」


 セレスタも、喧嘩の絶えないニ人にため息をついた。



 ――その時だった。



「静かに!!」


 セレスタが突然、人差し指を口に当てて静まるように指示した。悠利達も突然のセレスタからの言葉に、周囲に気を張る。


「何か近くに居る……」


「まさか、魔獣?」


 その時だった。茂みから体長三メートルはあろう大きなゴブリンが木の棒を振りかざし襲い掛かってきた。全身緑色で赤い眼をして、口を大きく開け、歪な声を発し、牙からは唾が垂れている。

 悠利達は、ゴブリンからの攻撃を避けて、二手に分かれる。悠利とセレスタ、セラとレディカ、そして真ん中に巨大なゴブリン。避けられた事に苛立っているのか、低い声で唸り声を上げている。


「ちょっと、こいつでかくない!?」


「怖いなら、逃げても構わないけれど」


 セラの挑発に、レディカはふんと鼻を鳴らす。


「冗談はやめて。誰がこんなのにビビるのよ」


「しかし、デカ過ぎないか? ゴブリンって魔獣の中でも最弱クラスだろ?」


「ここが、誰も寄り付かない理由……こういう事なのかもな」


 セレスタの言葉に、悠利が首を傾げる。


「魔獣が特化してるんだ。大きさも、強さも」


 普通のゴブリンに比べて、倍以上は大きいこの巨大なゴブリン。その威圧感は最弱とは呼べないものだった。


「まぁ、四人なら何とかなるか……!!」


 悠利がそう言葉にした瞬間、悠利とセレスタの背後からニ体目の巨大なゴブリンが木の棒を振りかざし襲い掛かってきた。セレスタは、とっさに剣を抜き、木の棒を受け止める。


「ニ体目!? 何体居るんだこいつら……!!」


 セレスタと巨大なゴブリンが剣と木の棒を交える中、悠利も剣を抜き巨大なゴブリンに斬りかかる。だが、その強靭な体を切る事が出来ず、弾かれてしまう。


「硬っ!?」


「そっちのゴブリンは任したぞ!!」


 もう一体のゴブリンと対峙していたのは、セラとレディカ。よりによって相性最悪のニ人が共闘する事となった。


「はぁ!? 私がこいつと!?」


「それは、こっちのセリフ」


「言ってる場合かよ!!」


 巨大なゴブリンは、セレスタを振り払い悠利に振りかぶる。


「くそっ!! 喋る暇も与えないってか!!」


 悠利は、防御魔法を唱えゴブリンの木の棒を弾く。


「ちょっと大人しくしてろ!! テラ・ボルガ!!」


 悠利が、手をかざすとそこから、青い稲妻が巨大なゴブリンを襲う。だが、平然と立つゴブリンに悠利は驚く。


「はぁ!? 雷効かないのかよ!!」


「この体、容易には傷をつける事は出来ないか」


 セラとレディカも巨大なゴブリンと睨み合っていた。すると、セラが一歩前へと出る。


「貴方は手を出さないで。私一人で十分だから」


「あっそ、じゃあ私は何もしないから。あんたが死にかけても助けないから」


「結構よ。そんな事有り得ないから」


 セラが手をかざすと、青白いテラがシューっと現れ、だんだんと槍の形に変化していく。


「何その武器……」


 レディカも思わず、眼を見開き驚いた。テラが武器へと形態変化したからだ。


「貴方には関係ない」


「ムカつく」


 巨大なゴブリンの振りかざす木の棒を槍で振り払うと、木の棒は粉々に砕け、ゴブリンは驚いた様に声を上げた。


「案外脆いのね」


 セラが、槍にテラを込めるとまた、青白く発光しまた姿を変えていく。槍はだんだんと弓の形へと変形していった。


「今度は弓に変わった……」


 レディカは、不思議で仕方なかった。武器が違う武器へと変形していく。それは、セレスタや悠利達も驚く事だった。


「その武器、まさか……」


「知らない方がおかしいけれど」


「神器……」


 セレスタは、セラの武器を知っていた。神器、そうセレスタは言葉にした。


「神器? 何だそれ」


 悠利はもちろん、レディカも聞いた事の無い言葉だった。


「この世界に、五つしか存在しない特殊な能力を持つ最強の武器。どうしてお前が?」


「私は、あの人に近づく為にもっと、強くならなきゃいけない。その為にこの武器を手に入れた」


 セラは、矢を持つ様に指を作ると、テラが集まり矢の形を作る。そして、矢を引き、ゴブリンに狙いを定める。


「その為には、誰にも邪魔はさせない」


 セラが矢を放つと、矢は凄まじい勢いでゴブリンの方へ飛んでいく。地面を抉り、唸りを上げてゴブリンの体を貫通していく。


「凄い……」


 レディカは思わず、そう言葉を零し、すぐさま手で口を塞いだ。


「貴方に褒めて貰っても、嬉しくない」


 巨大なゴブリンは、宙を舞いドサっと地面に倒れ込む。心臓を貫かれ即死だった。もう一匹のゴブリンもまさかの事態に冷や汗を流していた。


「次は貴方」


 セラは再びテラで矢を作り、もう一匹のゴブリンに向けて発射する。またも、心臓を貫き、ゴブリンは倒れ込む。


「さすが……」


 悠利もセレスタもレディカでさえも、言葉が出てこない。屈強な巨大なゴブリンをたったのニ発で倒してしまったからだ。

 セラは副都でも、魔法と実技のランクはSランクで自身のランクもSランクだった。だが、レディカはセラの実力を認めたく無かった。


「たかがゴブリン相手くらいで大袈裟よ。それくらい私にだって出来たから……」


「そう、それは次に期待ね」


 弓が青白く光り、消えていくとセラはそう言葉にして歩き出す。レディカは、唇を噛み締めセラの背中を見ていた。


「ほら、レディカちゃんも早く行くよ」


「ほんと、何なのよ……」


 悠利達は、再びグラファス峠へと歩き出した。



 ――エルヴァスタ皇帝国では、卓斗が稽古に励んでいた。一度目は黒のテラにのめり込まれ暴走してしまった。チャンスはあとニ回とエルザヴェートから告げられ、卓斗は再び稽古に励む。


「あとニ回……よし!!」


「うむ、では黒刀を作るのじゃ」


 卓斗は、日本刀の形をした黒刀を作る。


「よし、今回はいい感じだ」


「うむ、暴走の気配も今の所無いのぅ。今なら説明しながらでも出来る」


「お願いします」


 いつ暴走してもいい様に、エルザヴェートは大剣の黒刀を手にしている。クライスも剣を抜き、いつでも対応出来る様にしていた。


「黒刀は、魔法の能力を無にする事が出来る。これは、さっきも話たの? 黒刀を扱える様になると戦いを有利に運べる。後は暴走せん様に保つだけじゃ」


「やべぇ……集中力がちょっとでも切れたら、意識が持っていかれそうになる……これを維持すんのか……」


「さっきよりも大分、上手くいっておるの」


 先程とはうって変わり、暴走する気配が見えなかった。


「意識が完全に持ってかれると分かったら、黒刀を消すのじゃ。それなりに対応は出来るじゃろ」


 すると、卓斗の意識は突然、暗闇の中へと彷徨っていった。卓斗は何が起きたのか分からず辺りを見渡すが、何も見えない真っ暗な空間。すると、どこかしら声が聞こえてくる。



 ――君に一度目の試練が来たみたいだね。



「この声……」


 卓斗は、この声に聞き覚えがあった。以前この世界に飛ばされて直ぐの時、蓮を探しにリンペル国へと行き、そこでレイテ・マドワールと戦っていた時の事。

 突然、暗闇の中を彷徨い、その時もこの声が聞こえてきていた。女性だという事しか分かっていないが。

そして今回もまた、この声が聞こえてきている。


「お前は誰なんだ」



 ――もう分かってるんじゃないの? エルザヴェートと話して勘付く事ないかな。



 卓斗は、エルザヴェートとの会話を思い返した。話した内容を思い返すと、黒のテラについてと、フィオラの秘宝についてが浮かんだ。そこで、卓斗はある事に気付く。


「もしかして、エルザヴェートさんが言ってた、フィオラって人?」



 ――正解だね。そう、私の名はフィオラ・シンフォニア。



 驚く事に、卓斗に語りかけて来ていた女性の名は、エルザヴェートの旧友、フィオラ・シンフォニアだと名乗った。だが、卓斗には理解出来ない事が沢山あった。


「いやいや、本当にフィオラって人? 大体宝玉に魂が封印されてるはずじゃ……」



 ――疑い深いんだね君って。君がこの世界に突然来た時から、私の魂とエルザヴェートの能力を封印した宝玉は君の体に取り組まれたんだ。



「待て待て、何で俺の体に!?」



 ――それは君が試練を乗り越える為さ。



「さっきから、試練試練って何の事だよ」



 ――君がこの世界で乗り越える試練はニつ。一つ目は私が開発した黒のテラを使いこなす事。そしてニつ目は、いずれ来たる世界の終焉を止める事。



「ちょっと待て、聞きたい事があり過ぎるって。まず、黒のテラを作った?」



 ――うん。私がこの世界に平和を齎す為に開発した。最強の魔法。扱うのにそれなりのリスクがあるけどね。エルザヴェートはそのリスクに負けて、平和を齎すどころか終焉へと導いちゃってさ、止めるのに苦労したよ。それに、私の部下も一人ね。



「何だよそれ……後もう一つ、いずれ来たる世界の終焉って?」



 ――うーん。まだ絶対とは言えないけど、私の勘かな。君がこの世界に来てくれて感謝してるよ。私の力を使いこなせてくれると思ったからね。だから、君を選んだ。



「俺がそれを止めるって事……」



 ――そう。君なら出来るさ。まずは、私の力を使いこなして、リスクに負けては駄目だよ。完全にのめり込まれてしまったら、元に戻るのは困難だからね。エルザヴェートは、千三百年生きて元に戻れたみたいだけど。



「俺が本当に、この世界の終焉を止めれるのか?」



 ――それは君次第さ。私が見込んだ男だからやってのける筈だよ。私は信じてる。



「そんな重荷、俺が背負えるのか? それに、エルザヴェートさんはあんたを解放したいって言ってた。だから、千三百年もの間、フィオラの秘宝を探してるって」



 ――それは嬉しい事だけど、この封印は黒のテラを用いてるからね。例え見つけたとしても、今のエルザヴェートでは封印を解く事は出来ない。



「じゃあ、どうやって?」



 ――君が黒のテラを完璧にするのさ。そうすれば、私を解放出来る。でも、その時が来るまでフィオラの秘宝は君の中に在り続ける。だから、君が頑張るしか無いんだよ。



「じゃあ、今皆が探し回ってるのって……」



 ――正直、無駄な事だね。仮に君が黒のテラを完璧に出来ずに死んでしまった場合、また別の誰かの体にフィオラの秘宝は移り、試練を迎える。黒のテラを扱う者にしか、行えない試練をね。



「俺は何で、黒のテラなんだ?」



 ――黒のテラは、世界を救う者か、滅ぼす者に宿るんだよ。君に宿ったって事は、君がこの世界を救うか、滅ぼすかって事になるね。是非君にはこの世界を救って欲しいよ。



「俺にそんな大役……」



 ――そろそろ時間だね。私がこうして語りかけている間は暴走しない筈だよ。それと、毎回毎回こうして語りかけるのも無理だから、そこは気を付けて。それじゃあ、頑張るんだよ。



「あ、おい!! ちょっと!!」


 フィオラからの語りかけが途絶えた瞬間、目眩が起きたように視界がグルグルと回り出す。

 すると、暗闇を彷徨っていた卓斗は視界がだんだんと元に戻り、目の前にはエルザヴェートが立っていた。

 卓斗は、日本刀の形をした黒刀をブワッと消すと、ガクッと膝をついてしまう。息が切れ、虚ろな目をしている。


「はぁ……はぁ……危なかった……」


「ほぅ、十分が限界かのぅ。極力、妾らがいん所では使わん様にの」


 卓斗は、ギュッと手を握りしめ自分を責める。チャンスは後一回。これで暴走しそうになった場合、卓斗は黒刀を一日十分しか使えない事になる。

 それに、暴走してしまうリスク付きだ。そして、フィオラから告げられた試練の真相。卓斗の頭は混乱していた。


「それに、なんか俺の中で語りかけて来たんだ……」


「語りかけて来た?」


「フィオラが」


 卓斗がそう言葉にすると、エルザヴェートは目を見開いて驚いた。千三百年もの間、探し続けた旧友が卓斗に語りかけて来たからだ。


「フィオラじゃと!? 其方の中で何があった!?」


「簡単に言うと、フィオラの秘宝は俺の体の中にある」


 突然として、告げられた衝撃の事実にエルザヴェートとクライスは言葉を失った。



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