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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第18話 『エルヴァスタ皇帝国』

 最古の国エルヴァスタ皇帝国の皇帝陛下、それは弱冠十歳の幼女だった。


「其方らは、副都の者じゃな? 今回は依頼を受けてくれて感謝するぞ」


 幼女の皇帝陛下は、ピンクと白色の漢服を着ていて肩にレースを掛けている。椅子に腰掛け、卓斗達をまじまじと見つめる。


「えーっと……本当に皇帝陛下?」


 卓斗は未だに信じれなかった。


「何じゃ、其方はしつこいのぅ。妾はエルヴァスタ皇帝国皇帝陛下エルザヴェート・エルヴァスタじゃ」


「マジかよ……」


「あと、国の名前と皇帝陛下達の名前も同じなのは?」


 セレスタが、ある事に気付いた。それは、エルザヴェート達の性の名と国の名前が同じ事に。


「簡単な話じゃ。最古の国を創りあげたのがエルヴァスタ一族じゃ。最古の一族であり、最初に国を創りあげた一族。それが妾らエルヴァスタ一族。そして、その一族の名を国に名付けたという事じゃ」


「では、陛下達はエルヴァスタ一族の末裔という事ですか」


「うむ、妾もクライスもここに住む者全員がエルヴァスタ一族じゃ。例え血が繋がっておらずとも妾達は家族そのもの」


 扇子の様な物で顔を仰ぎながら話すエルザヴェートにますます違和感を覚える卓斗達。

 見た目は完全なる幼女なのに知識といい喋り方といいそれは何年もこの世界を生きてきた熟年の風格すらさえ見えるからだ。


「本当は、年齢はかなり上だったりしてな」


 卓斗が冗談交じりにそう話すと、エルザヴェートは不敵な笑みを浮かべた。


「ほう。其方、妾の年齢は十では無いと言いたいのかのぅ。ふむ、大いに面白き事よの。それが、意図を持っての発言なのか、それとも天然なのか……」


 すると、エルザヴェートの眼の色が段々と黄色く変色していく。


「陛下、それ以上は」


 クライスが片手を広げ、卓斗達とエルザヴェートとの間に壁を作る様に立つ。エルザヴェートの黄色く変色した眼は元の赤色へと戻った。


「別に止める事ないじゃろ。妾は何もする気は無かったぞ? 特別に話してやろうと思っただけじゃ」


「話す? 一体何を?」


 クライスの背中から、ひょこっと顔を出したエルザヴェートが笑顔で口を開いた。


「妾は、体年齢十歳の実年齢千三百歳じゃ」


「は!?」


 卓斗達は、思わず声を上げてしまった。ぶっ飛び過ぎた事を言い放ったエルザヴェートの言葉など、卓斗達は信じれる訳が無かった。


「千三百歳!? 何の嘘だよ!! そもそも人間がそんな長い事生きてられねぇから」


 その場に居た者達は、卓斗の言葉に頷いた。


「つまらない冗談は、後にしてくれる?」


 セラが冷たい視線でエルザヴェートに睨みを効かせた。エルザヴェートは暫くセラを見つめ再び口を開いた。


「ふむ、信じる信じないは其方らの自由じゃ。じゃがこれを知っとるかのぅ。不老年珠という言葉を」


「不老年珠? 何だそりゃ」


「言葉というより、魔法かのぅ。まさしく言葉通り不老の力を手に入れる魔法じゃ。禁忌の魔法じゃがの」


「そんな魔法、聞いた事無いぞ」


 セレスタはもちろん、卓斗達だって初めて聞く魔法だった。禁忌の魔法、不老年珠。


「不老年珠、歳を取る事を止め、殺される以外に死ぬ理由が無くなる。まさに不老不死の力。妾は千三百年前に十歳の時にこの魔法を自らに掛けた。まぁ信じる信じないは其方らの自由じゃがな」


「確かに、最古の国が出来たというのも千三百年くらい前の話の筈……まさか本当に……」


 セラは疑いの目でエルザヴェートを見るが、当のエルザヴェートは悠々と扇子を振っている。例えこれが嘘だとしても、今ここでその嘘を付く必要は皆無だ。だとしたらこの話は本当の話と思っても良いのかもしれない。


「なにあんた、まさか信じるの? そんな話嘘に決まってるじゃない。こんな話を信じちゃうあんたってお子ちゃまね」


 レディカに皮肉を言われ、少しムッとした表情をするセラだが、何も言い返さない。


「はい出た、無視。うざー」


「まぁ良い、それより本題じゃ。此度は依頼を受けに来てくれたのじゃったな」


 卓斗達がここへ来た目的、副都での実技演習の為の依頼を受ける為。それが、エルヴァスタ皇帝国からの依頼、宝玉の捜索だ。


「依頼の内容じゃが、ある物を探して欲しいのじゃ」


「あれだろ確か、フィオラの秘宝? ってやつ」


 卓斗達は、ステファから聞いていた。


「よお知っておるのぅ。そうじゃフィオラの秘宝じゃ」


「そのフィオラの秘宝って、どんなの?」


「フィオラとは、人の名じゃ。フィオラ・シンフォニアと言っての、妾の旧友じゃ。かつて共にこの国、エルヴァスタ皇帝国を創り上げた仲じゃ」


「へ? じゃあ、千三百歳って……本当?」


 レディカも、段々とエルザヴェートの話を信じ始めた。そんなレディカをセラは横目で睨む。


「妾はこの世界全てを支配し、世界国家を創り上げようとしていたのじゃが、フィオラがそれを反対した。そして対立した。フィオラは、仲間を集めて国を創った、それがヘルフェス王国じゃ」


「王都を!?」


「左様、フィオラの仲間にはイオ、シャル、セシファ、ティアラという者達が居てのぅ、妾は此奴らに敗れた。じゃがその際、フィオラは自らと共に妾の能力を封印した。その代償が自身の魂を宝玉に閉じ込める事じゃった」


「あのー、話を聞いてる感じだと、エルザヴェート……さん? が悪者だって事しか分からないんだけども……」


「どの時代にも世界を震撼さす者が居るものじゃ。その時代は妾じゃっただけの事よの。悪辣姫などと恐れられたものじゃ」


 卓斗達は、少し警戒した。かつて世界を恐怖に陥れた諸悪の根源が目の前に居るからだ。


「なに、そう警戒するでない。悪者じゃったのは昔の話じゃ。永く生きて妾も変わった。それに、妾に勝てるのもフィオラだけじゃ、其方らでは足元にも及ばん」


「そのフィオラとやらは、自らの魂と共に封印したと言ったな、ではなぜ皇帝陛下だけは魂でなく能力だけだったんだ?」


 エルザヴェートの言葉に警戒を解いたセレスタが疑問をぶつけた。


「簡単な事じゃよ、妾の力が強過ぎたのじゃ。自らの魂を代償に封印したが妾の一部しか封印出来なかった。じゃが、妾にとってはその一部が大きかった。封印された能力は妾の実力の半分を占めておったからの」


「その能力って?」


 卓斗の質問に、エルザヴェートは少しの間を空けて答えた。



「――黒のテラじゃ」



 卓斗は、目を見開いて驚いた。フィオラが自らの魂を代償に封印したエルザヴェートの能力。それが、自分の能力と同じだったからだ。


「黒のテラ!?」


「何よあんた、そんなに驚いて。いきなり大きな声出さないでくれる?」


 思わず大きな声を上げた卓斗に驚くレディカは耳を塞ぎながら卓斗を睨んだ。


「いや、悪りぃ」


「卓斗、黒のテラの事なんか知ってるのか?」


 悠利からの問いに、卓斗は頬を掻きながら恐る恐る答えた。


「いや、その……俺も黒のテラなんだよな……」


「お前が!?」


 この場にいた誰もが驚いた。というのも卓斗も魔法の授業では成績はいい方では無く、皆の前で披露した事も無ければ、自分が黒のテラだと言った事も無かった。

 知っていたのは、共に性質を調べた三葉、ジャパシスタ騎士団の面々くらいだろう。


「まぁ、全然使いこなせて無いんだけどな……」


「ほう、其方それをどこで?」


 エルザヴェートは、目を細めて卓斗を見つめる。


「どこっていうか、最初から持ってた……みたいな」


「なるほどの、して使いこなせてないとな?」


 卓斗は思わず苦笑いをしてしまう。自分の能力を使いこなせてないなど恥ずかしくて堪らない。


「ならば、妾が稽古をつけてやるぞ。その間に他の者は依頼をこなしてくればよい」


「いやいや、俺は悪者になりたくないから」


 かつて世界を支配しようとした諸悪の根源に教えてもらうなど卓斗にとっては断りたい所だ。自分の能力を使いこなせる様にはなりたいと思うが、悪者にはなりたくない。


「悪者じゃったのは昔の話じゃと言ったじゃろ。要は使い方じゃ。黒のテラは使い方によって能力が変わるからのぅ。難しい魔法じゃ、其方の性格とかで変わってくる」


「性格……」


「左様、其方の心が真っ白に綺麗ならば、黒のテラは人を守れる力になるじゃろう。じゃが、その真っ白な心が少しでも黒のテラに侵食され、黒く染まれば人を傷つける力になる。全ては其方次第じゃ。妾は稽古をつけてやるぞ、後は其方が決める事じゃよ」


 卓斗は悩んだ。強くなり、三葉達と無事日本に戻る事が今の卓斗の目標であり、絶対の条件。ならば、エルザヴェートに黒のテラを教えて貰い、強くなる必要がある。

 だが、失敗すれば三葉達を傷つけてしまうのではないかと卓斗は葛藤していた。そんな卓斗の背中を悠利が押した。


「いいじゃん、教えて貰えよ。お前が強くなったら俺らが無事日本に帰れる確率も上がるんだしさ、お前だけじゃない、俺らも強くなるからよ。卓斗、お前なら皆を守れる力を手に出来る筈だ」


「悠利……分かった、俺やってみる。エルザヴェートさん稽古頼みます」


 卓斗は決意した。三葉達を皆を守れる力を手に入れる為に強くなると。


「良かろう。では、妾に付いて参れ。クライス、依頼の事は其方に任せる」


「分かりました」


 そう言って、エルザヴェートは王室から出て行く。卓斗もその後を追い、悠利達は王室に残された。


「では、依頼の説明をする」


 クライスは、机に地図を広げ話し出した。


「我らエルヴァスタ皇帝国は、世界中に拠点を置きフィオラの秘宝を探している。分かってはいると思うが、結果は難航している。そこで、各国に依頼を出し協力を得ている。今回はお前達が来てくれた事感謝する」


「一つ思ったんだけどさ……」


 クライスの言葉を遮る様に、悠利が口を開いた。


「何でフィオラの秘宝を探してるんですか? さっきの話聞いた感じによると、皇帝陛下が封印された能力を取り戻したいって事になるんだけど、それでまた世界を支配しようとしてるんじゃないんですか?」


 クライスは黙ったまま、悠利を睨む。セレスタやレディカ達も疑いの目でクライスを見つめる。


「言われてみればそうよね。私ら悪の加担なんかしたくないんだけど」


 レディカがそう話すと、クライスは静かに口を開いた。


「お前達は勘違いしている。今の陛下を何も知らない。かつての能力を取り戻したいか、違うな。その逆だ」


「逆?」


「皇帝陛下は、救いたいんだ。フィオラ様を」


 エルザヴェートは、封印された自分の能力を取り戻したいのでは無く、かつての旧友フィオラを封印から解放したいのだ。


「でもフィオラって人はもう……」


「それも勘違いだ。フィオラ様は魂を封印されたのだ。意味が分かるか? つまり、死んでいないという事だ。封印を解き、フィオラ様を解放したい。旧友だからこその考えだ」


 悠利達は返す言葉が出てこなかった。旧友を助けたい、その思いを聞かされ、疑った自分を責めた。


「で、どうする。依頼を受けてくれるのか?」


「クライスさん、すみません。俺達、依頼受けます」


「まぁ、悪者だったのは昔の話って言ってたしね。さっさと依頼済ませよ」


 レディカの言葉に、クライスが即座に返答した。


「それは無理だ。この依頼は少なくとも1週間は掛かるだろうな」


「一週間!? 何で!?」


「約千年もの間、陛下が探し続けても見つからない代物だ。そんな直ぐに見つかるとも思えない。だから、一週間程お前達に手伝って貰いたい」


「まぁ、ステファさんも分かってくれるだろ。いいですよ」


「ちょっと、ユウリ!? あんた意味分かってるの!?」


 レディカは急に慌てふためき出した。そんなレディカを悠利とセレスタは不思議な目で見ている。セラに関しては目を瞑りジッと黙っているだけだ。


「意味って、そのままの意味だろ」


「いい? 一週間もあいつと過ごせって事になるのよ!!」


 レディカは、セラを指差して大きな声を出した。


「何だよ、そんな事かよ。いいじゃん、副都でも寮同じ部屋何だろ? 変わんねぇよ」


「変わるわよ!! 馬鹿!! いい? 副都だったら、あいつが無視しようが突っかかって来ようが部屋を出るなりエレナか誰かの部屋に泊めて貰うなり出来るけど、ここじゃ四六時中一緒って事よ!? そんなの耐えられない!!」


 ギャーギャーと騒ぐレディカに対しセラが冷静に口を開いた。


「別に、四六時中って訳でも無いと思うけれど。私は一人でも大丈夫だから」


「それは駄目だ。今回は、副都の実技で依頼に来ている。つまり、集団行動が必須だ。単独行動は許されない」


 そう話したのはセレスタだ。


「なら、女々男はどうなの? あれは、列記とした単独行動だと思うけれど?」


「あいつは……」


 セレスタが、言葉に詰まると悠利がセレスタの肩に手を置き優しく微笑んでセラを見つめた。


「まぁまぁ、落ち着いて。セラちゃん、あいつは強くなろうとしてんだ。稽古させてやってよ。それから、別に仲良くなってくれなくてもいいからさ、行動だけは共にお願いするよ。今は同じ副都のメンバーなんだからさ」


「私は、別に……」


 セラは視線を逸らした。悠利は了承したと受け取り、優しく微笑んだ。レディカは未だにギャーギャーと騒いでいる。


「絶対無理!! ストレス!!」


「レディカちゃんもレディカちゃんだ。何でそこまでセラちゃんを毛嫌いすんだよ。セラちゃんの全てを知ってる訳じゃないだろ? 見かけやファーストコンタクトだけで判断するのは良くない」


「それは……そうだけど……」


「折角来たんだ、依頼受けよ」


「分かった……」


 レディカは、口を尖らせて拗ねた様に静かになった。


「では、今からある場所に行って貰いたい。兼ねてよりフィオラの秘宝がありそうな場所は複数リサーチしている。お前達に行って貰いたいのは、グラファス峠だ」



 エルザヴェートと稽古をする事になった卓斗。悠利、セレスタ、セラ、レディカはフィオラの秘宝を探すべく、グラファス峠へと向かう事となる。




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