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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第17話 『実戦形式』

 卓斗達が副都へ入ってはや三ヶ月が経とうとしていた。この世界の知識もそれなりに豊富となり、四十期生達との交流も順調だった。そして、この日教室に集められた卓斗達にステファからある事が告げられた。


「お前達が副都に入ってもう三ヶ月だ。学業もそれなりに終わり、そろそろ実技へと入る」


「実技って、剣技とか覚えるって事?」


「その通りだ、オチ。初めは剣技を磨き、後には王都からの依頼を実践形式で行う。それで、一つ頼み事がある。この中からニ名王都へ向かい、依頼を貰ってきてくれ。副都の騎士服を着ていれば、副都の者だと分かって貰えるからランクの低い依頼を貰って来るように頼む。そうだな……じゃあ、オルフ、マクス、お前達が行って来てくれ」


 オルフ・スタンディードとマクス・ルードが選ばれた事に全員が不安な表情となった。何故なら、このニ人は学力で最下位を争うからだ。


「大丈夫かよこのニ人で……」


「ふむ、タクトよ、案ずるでない。依頼を承るくらい我には容易い事だ。マクスもそうだろ?」


「おうよ!! 俺とオルフに任せとけ!! ちゃちゃっと済ませてくるぜ!! ガハハハ」


 マクスの高らかな大笑いに、より一層不安が募る卓斗達だった。そして、オルフとマクスは意気揚々と王都へと向かった。


「ふむ、詰所とやらに行けばいいんだったな」


「そんな事言ってたっけか。簡単そうなの貰ってこうぜ」


 ニ人が王都へと到着し、詰所に入ると一階では聖騎士団の団員達がお酒を呑んでいた。依頼の紙があるのはニ階で、ニ人はそのままニ階へと向かう。


「ふむ、かなりの依頼があるのだな。一体どれを貰えばいいのか」


「何でもいいじゃん? これにしよ」


 マクスが目に付いた紙を一枚取り出し、内容を確認する。


「うーんと、宝石の探索って書いてあるな。これなら簡単そうだな。これにしようぜ!!」


 詰所の係りの人に承諾の印を押して貰い、ニ人は満足気に笑みを零す。


「ふむ、ミッション完了だな。では、副都へ戻るとするか」



 ――ニ人が副都へ戻り、依頼の紙をステファに渡す。ステファは内容を確認して少し戸惑った。


「これは、皇族からの依頼……何ともまぁ厄介な依頼を貰って来たものだな」


「皇族?」


 卓斗からの質問に、ステファは答えた。


「この世界には、戦争をしないと約束した五つの国が協定を結んでいて、それを纏めているのが皇族の住む最古の国エルヴァスタ皇帝国。エルヴァスタ皇帝国はある秘宝を探していると聞いている。それが、フィオラの秘宝だ。一体どういう物なのかは分からんが皇族はその秘宝を探しているらしいんだ。まさか、王都にまで依頼を出しているとは思ってもいなかったがな。受諾印も押されてるしやらない訳にはいかないしな、まぁ然程危険な依頼では無いからこの依頼で実技を行う。今回は、オチ、ミコシバ、セレスタ、セラ、レディカ、お前達が行って来てくれ」


 皇族からの依頼。それは、フィオラの秘宝を探す事だった。そして、今回この依頼を任されたのが、卓斗、悠利、セレスタ、セラ、そしてレディカ。

 この五人でこれから実技を行うのだが、幸先不安を感じていたのは卓斗だった。何故なら――。


「はぁ? 何で私があんたと一緒に実技を受けなきゃならないのよ」


 そう不満を零したのが、レディカ・ヴァージアスだ。レディカが睨みを効かしている人物、それが――。


「それはこっちのセリフ。貴方みたいな弱い人と一緒に実技を受けても、足手纏いなだけ」


 低い声で、冷静に言い返したのがセラ・ノエールだ。このニ人は副都に入団した初日から、馬が合わない。レディカはセラの傲慢な性格が嫌いで、セラはレディカのと言うより、自分より弱い者を嫌っている。

 そんなニ人と一緒に実技を受けるのが、卓斗にとっては不安でしか無かった。


「ちょいちょい、仲良く行こうよ、な?」


「女々男は黙ってて」


 仲裁に入った卓斗を一蹴したのはセラだった。副都に来て一ヶ月が経つがセラが他の同期と話している所を卓斗は見た事が無かった。

 あるとすれば、レディカと言い合いしているくらいだ。卓斗とセラもセラから話しかけてくる事は無く、卓斗から話しかけても女女男と言われ遇らわれてしまうだけだった。


「だから、女々男って言うなよ。大体今から実技を一緒にやるってのに仲間同志で喧嘩してる場合かよ」


「仲間? いつから私が貴方達の仲間になったのか気になるけれど、勘違いしてる様なら教えといてあげる。私は誰の仲間でも無いから」


「あんたのそういう所が嫌いだって言ってんのよ。傲慢にも程があるわね。私、周りを見下す事しか出来ない能無し傲慢女が1番嫌いなのよね」


 教室に気まずい空気が漂う。誰もどうしたらいいのかわからず、とういうよりはどうも出来ない状況に沈黙が流れた。


「はいはい、喧嘩は実技が終わった後にしてくれるか。とりあえず、皇族の住む最古の国、エルヴァスタ皇帝国へ向かってくれ」



 ステファに言われ、卓斗達は渋々副都を出て最古の国エルヴァスタ皇帝国へと向かった。


 ――道中、先頭を歩くのはセラとセレスタ。会話は無く黙々と歩いている。その後ろには未だに不満気な表情をしているレディカが歩いている。その後ろを卓斗と悠利が歩いていた。


「最古の国って、一番古い国って事だよな」


「あー、そういう事になるな。古い国ってどういう事かイマイチよく分かんねぇよな」


 会話をしているのは卓斗と悠利だけ、セラ達にも会話の声は聞こえてる筈だが誰も会話に混ざってこない。卓斗も重たい空気をビシビシと肌に感じている。


「この世界で最初に出来た国。それが最古の国」


 会話に混ざって来たのは、先頭を歩いていたセレスタだった。エレナとエシリアとは未だに蟠りは解けておらずセレスタは副都でも孤立している。


「最初に出来た国? て事はかなり昔からある国って事か」


「そう。それくらい知っておいて欲しいな。五大国同盟を纏める国だからな」


「お前から話してくるって、何か珍しいな。お前もあまり周りと関わらないタイプだからな」


「私は王族だから。王族の人間に友達なんか必要ない。王としての仕事を全うするだけだから」


 卓斗は、エシリアからエレナ達の過去の事を聞いているだけに、セレスタの言葉は胸に刺さった。今でこそセレスタは王族としての人生を歩んでいるが、幼い頃はエレナ達と仲良く遊んでいた事もある。少なくとも、セレスタ自身もその事を少し気に掛けてはいるのかも知れない。


「エレナやエシリアと仲直りしてもいいと俺は思うけどな。王族だからって友達作ったら駄目って決まりは無いからさ」


「それは無理。今更……仲直りなんか……」


 小さな声でそう呟いたセレスタ。


「王族って、色々と面倒臭いのね」


 話を聞いていたレディカが、そう言葉にした。


「親父さんとかが言ってる事は、俺は気にしなくていいと思う。自分の人生なんだからさ、自分の事は自分で決めなきゃ楽しくないだろ?」


 悠利もそう話すが、セレスタの表情は変わらぬままだった。


「お前達には、分からない事だ。王族に生まれた運命など」


「なら、俺が今からお前の友達になる」


 卓斗が突然そう言葉にし、セレスタは思わず足を止めた。



「――は?」


「だから、俺が友達になるって。エレナやエシリアが王族だからって気にしてんだろ? 王族同士は仲良く出来ねぇって。俺は王族でも何でもねぇし、俺となら友達になれんだろ?」


 卓斗からの言葉に、セレスタは驚きが隠せない。エレナやエシリア以外の友達は出来た事が無く、王族の人間ってだけで誰も近づかなかった。


「お前が……私と? でも、私は王族の人間で……」


「関係ねぇよ。王族だとか、俺とお前の関係には、そんなもん関係ねぇし」


「俺も卓斗に賛成だな。俺も友達になりたいし」


 悠利も卓斗に賛同し、セレスタに笑顔を見せる。セレスタはニ人を見つめて固まったまま動かない。


「セレスタ?」


「え、いや……何でそこまで」


「だって、折角同じ副都で同期なんだしさ、こうして出会えた事は奇跡に近いんだし、俺の居た国では世界の人と一秒話すだけでも二百年以上は掛かるって言うし、こうして長い期間一緒に居れるのは奇跡だろ? 同じ奇跡を共有してるんだったらそれはもう友達だろ? レディカもそう思うだろ?」


「まぁ、セレスタは傲慢では無いし嫌いなタイプじゃないから、どっかの誰かさんとは違って」


 そう言うとレディカは、チラッとセラの背中を見る。セラは未だに会話には混ざってこない。


「さ、俺らも早く行こうぜ、セラの奴先々歩いてってるし」


 セラは、後ろを見向きもせずに一人歩いていた。レディカはそんなセラを見て深く溜息を吐いた。


「はぁ、本当ムカつくわね」


「まぁまぁ、セラもセラで悩んでると思うぞ」


「あいつに限ってそれだけはあり得ないわね」


 卓斗達も歩き出し、セラの後を追う。すると、セレスタが徐に口を開いた。


「その、皆ありがとう……こんな私を気に掛けてくれて」


「いいんだよ。セレスタは俺らよりエレナ達を何とかしなきゃな」


「きっと、それは無理だろうな。私はエレナを見捨ててしまったし、エシリアにも失望されているからな」


 少なくともセレスタ自身も、カジュスティン家滅亡の日の事を気にしていた。しかし、卓斗はいつの日かエレナ達とセレスタが分かり合える日が来る事を何となくだが感じていた。



 ――副都を出て、ニ時間程が経ち、そろそろ歩き疲れてきた頃レディカが不満を零し始めた。


「ねぇ、まだ歩く気? 一体どれだけ歩くのよ。てか最古の国? 遠すぎなんだけど」


「確かに……かれこれニ時間くらい歩いてるぞ……」


 卓斗とレディカはぐったりとしていた。


「お、見えてきた。あれじゃねぇか」


 悠利が指差した方向を見ると、大きな城の様な物が見えてきた。真っ赤に染まったまるで首里城の様な風貌に三国志を彷彿とさせる街並みが広がっていた。


「やっと着いた……」


 卓斗とレディカはあまりの疲労に座り込んでしまう。


「へぇ、すげぇ街並みだな。三国志の世界に来たみたいだ」


「私もエルヴァスタ皇帝国に来るのは初めてだな」


 悠利とセレスタもエルヴァスタ皇帝国の街を見て感激していた。すると、初めてセラが会話に混ざってくる。


「着いたんだから、さっさと依頼の話を済ませる。これくらいでへこたれてる様じゃ騎士は務まらないと思うけど」


 レディカは、何か言いたげな表情をしているが、実際セラには疲労感は見えず負けた気がして悔しさが滲み出る。


「あんたに言われると、本当ムカつく……」


 卓斗達は、そのまま最奥に聳え立つ大きな城へと向かった。城の入り口には、門兵が立っている。


「用件わ?」


「私達は副都の者です。エルヴァスタ皇帝国からの依頼を承り来さして頂きました」


 セラがそう話すと、門兵達は中へと通した。城の中に入り長い廊下を渡って奥の王室へと案内された。


「失礼します」


 中に入ると、そこには一人の男性が立っていた。


「陛下にお客様がお見えです」


「陛下に?」


 その男性は、黒い髪色で無造作な髪型。クールな表情でスタイリッシュな体型だ。腰には長刀を携えている。


「貴方がここの皇帝陛下ですか?」


 セラからの質問に、その男性は首を横に振った。


「いや、俺は陛下に仕える側近だ。名前はクライス・エルヴァスタ」


「では、クライスさん、皇帝陛下は今どこに?」


「もうすぐここへ来るはずだ」


 クライスがそう言うと、奥の扉から一人の女性が、というより一人の少女が入って来た。


「妾に用があるのは其方らじゃな?」


「この人ってか、この子が皇帝陛下!?」


 その少女の見た目は完全に十歳位の幼女。薄紫色の髪色で胸下までの長さで毛先が緩くふわっと癖毛になっている。少女がニコッとハニカムと八重歯が見える。


「いやいや、まだ子供だろ!?」


 卓斗達は驚愕していた。一国の王にしては余りにも幼過ぎたからだ。


「妾を子供扱いするとは其方命知らずじゃな。こう見えても妾はかなり強いんじゃぞ?」


 最古の国エルヴァスタ皇帝国の皇帝陛下はわずか十歳という若さの少女だった。



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