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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第139話 『状況は悪くなる一方』


 ヴァルディアの古城付近では、魔装したアカサキと暴走しているナデュウの獣人化である『女神龍ティアマト』は、睨み合っていた。

 『女神龍』はアカサキに吹き飛ばされ、怒りを露わにしているのか、グルグルと唸りながらアカサキだけを見つめている。


「魔装して時間稼ぎは余裕と言っても、この状態にも制限時間があります……それまでにタクトさんが戻って来なければ……」


 両腕に炎を纏わせ、地面にもアカサキを囲う様に円形の炎が微かに燃えていて、その瞳は赤く染まっている。全属性が使えるアカサキだけの、属性魔装だ。

 すると、再び『女神龍』は低空飛行でアカサキの元へと一気に飛んで行く。


「またですか。何度も同じ……っ!!」


 その瞬間、『女神龍』の背中から無数の紫色のテラの腕が伸びてくる。


「腕!? それは一体……」


 アカサキを掴もうと伸びてくる無数の腕を、一本ずつ確実に避けて行くアカサキ。だが、その隙を突いて『女神龍』も突っ込んでくる。


「……っ!!」


 すぐさまアカサキも炎の壁を作って『女神龍』の突進を防ぐ。だが、爆炎が上がった瞬間、『女神龍』は翼を大きくバタつかせ、突風でアカサキを吹き飛ばす。


「ぐっ……!! あの腕は一体……」


 体勢を整えたアカサキは、燃え盛る炎の中に居る『女神龍』の姿に息を呑んだ。その強靭な皮膚は焼ける事も焦げる事も無く、まるで炎など熱くないと言っているかの様にも思える程に、悠々とアカサキに対して睨みを利かせていた。


「私のさっきの攻撃も、全くと言っていい程に効いていない様ですね……この状態でさえ、ダメージがありませんか」


 すると、『女神龍』の体から突然と煙が噴き出し始める。まるで何かが蒸発して水蒸気が出ているかの様だ。


「また何かをするつもりですね。そうはさせません!!」


 アカサキは地面を勢い良く蹴って、一気に『女神龍』の元へと詰め寄る。そして、右腕に纏う炎を更に大きくさせ、『女神龍』に向かって振りかざす。その瞬間、


「――っ!?」


 『女神龍』の全身から紫色のテラが一気に溢れ出し、その反動でアカサキは吹き飛ばされてしまう。まるで炎の様に『女神龍』の全身を覆って行くテラ。やがて、その姿は見えない程にまで、テラが包み込んでいた。


「一体なにが……」


 そして、包み込んでいくテラが弾ける様に爆発を起こす。凄まじい突風が吹き荒れ、アカサキは飛ばされまいと必死に耐える。


「ぐっ……!!」


 やがて突風が収まると、目の前に居た筈の『女神龍』は姿を変えていた。その姿は、元のナデュウの姿だった。


「元に……戻ったんですか……いや」


 だが、その姿は明らかに様子が変だった。金髪だった筈のナデュウの髪色は、半分が真っ赤に染まってツートンカラーになっていた。そして、背には先程の『女神龍』の翼とよく似た小さい翼が生えている。そして、真っ赤に光る瞳は龍の瞳をしていて、鋭く尖った八重歯が生え、その姿は異様なものだった。


「明らかに様子が変ですね。元に戻った訳ではない様で」


 ナデュウはゆっくりとアカサキの方へと手を伸ばして翳す。すると、凄まじい速さで紫色のテラの球体を放つ。それは、銃弾の様な小ささと、それを超える速さ。そして、その球体はアカサキの頬を掠めて後方で大爆発を起こした。


「――っ!! 今のは、速いですね……完全に油断していました」


「――――」


 ナデュウは無言のまま、まだ手を翳している。すると、今度は何発も何発も、同じ球体を放つ。


「――っ!!」


 アカサキは全ての球体を避けていくが、あまりの速さに完全には対応出来ず、体の至る所を球体は掠めていく。

 そして、地面が大きく揺れる程に大爆発は何度も起き、アカサキの立っていた地面は凸凹に抉れていた。

 だが、『鬼神』の肩書きで世に名を馳せているアカサキも、黙ったままやられている訳にもいかない。すかさず隙を見つけると、腕を横に振って炎の斬撃をナデュウに向かって放つ。だが、


「――――」


 アカサキの放った斬撃は、ナデュウの目の前まで来ると、突然として弾ける様に消えていってしまう。


「なっ……!?」


 無表情でアカサキを見つめるナデュウは、体勢を低くすると一気に走り出す。


「龍の時の姿とは、まるで強さが違いますね……ですが」


 アカサキは両手をナデュウの方へとかざす。すると、炎が地面から吹き荒れ、ナデュウを包む様に燃え広がっていく。だが、その直前でナデュウの姿が突然と消える。


「消えた……!?」


 その瞬間、ナデュウの蹴りの脚が目の前に見えるのが分かった。一瞬にしてアカサキの隣まで移動したのだ。その速さは尋常では無く、アカサキはなす術が無く蹴り飛ばされる。


「ぐっ……!?」


 凄まじい勢いで地面を抉りながら転がるアカサキは、体勢を整える事も出来ない。数十メートル程転がると、ようやく勢いが収まる。その威力に、アカサキは立ち上がる事もなく、そのまま倒れ込んでいる。


「ゴホッ……ゲホッ……ハァ……ハァ……なんて威力ですか……たったの蹴り一つで……」


 すると、アカサキの耳に呼び掛ける声が聞こえた。


「どうした、アカサキ?」


 アカサキが上体を起こすと、そこにはグレコやステファ、シエル達が居た。どうやら、グレコ達の居た所まで飛ばされて来た様だ。


「何があった、アカサキ!? お前がここまで……」


 アカサキのやられように、ステファは驚きが隠せない。アカサキは副都に居た頃から天才と呼ばれ、その実力を誰よりも側で見て来たから尚更だ。

 すると、ナデュウがゆっくりとアカサキの方へと歩み寄って来るのが、全員の視界に映る。


「ナデュウ……?」


 シエルもナデュウの変貌ぶりに目を丸くして驚いた。異様な姿は、見る者を恐怖に陥れる程の威圧感と存在感。そして何より、暴走状態だからこその只ならぬ殺気。この場に居る全員がそれを体感し、背筋を凍らせる。それは、『最強』の肩書きを持つ、グレコ・ダンドールでさえ。


「こいつがナデュウ……いいだろう、俺が相手してやる。アカサキは下がれ。こいつを殺す為の俺の神器だ」


「待って……下さい……」


 グレコが神器の柄に手を掛けた瞬間、アカサキは虚ろな声でそう言葉にした。


「なんだ?」


「ナデュウは……殺しては駄目です……」


「お前までそれを……アカサキ、この俺に敵とみなされたいのか? 聖騎士団の第一部隊の隊長が、ふざけた事を吐かすな」


 アカサキは力を振り絞ってゆっくりと立ち上がると、グレコの方へと体を向ける。


「ナデュウを殺すと言うのであれば……私が相手をしますよ、グレコさん……」


「チッ……この分からず屋が……!!」


 睨み合う二人。アカサキはこの世界に飛ばされた四歳の頃からグレコと知り合っている。最早、この世界での親とも呼べる存在だった。だが、アカサキにも信じるものがあり、グレコと意見が違ったとしても、己の信念を曲げる訳にはいかない。卓斗が戻って来るまで時間稼ぎをすると約束した以上、アカサキはグレコからナデュウを守らなければならない。

 とは言え、そのナデュウの想像を絶する力を前に、時間稼ぎどころか自身の身が保たない。アカサキがそう悟るのも無理は無かった。先程の一撃がその答えだ。


「グレコさんこそ、ここは理解して下さい……タクトさんが戻るまで、ナデュウを傷付けずに抑えるんです……」


「オチ・タクトと何が関係ある? 奴は、王都と敵対し世界と敵対した。生まれ変わろうが奴は奴だ。獣人種族は今日をもって滅亡だ」


「グレコさん……!!」


 その時、


「――っ!?」


 突然としてグレコの目の前に、ナデュウが手を伸ばして一気に詰め寄っていた。その速さに、その場に居る誰もが反応を遅らせていた。ナデュウの拳はグレコの頬を捉えると、凄まじい勢いで殴り飛ばす。


「総隊長!! チッ、イルビナ!! 下がれ!!」


 聖騎士団第二部隊隊長のジョンは、この一連の流れでナデュウには敵わないと瞬時に判断した。自分が知る『最強』グレコ・ダンドールが、敵の攻撃に反応を遅らせ殴り飛ばされる。その一連の流れがそう思わさせた。


「はひぃ!? 何が起きたんですか!?」


 ナデュウは次の標的を探さんとばかりに、たじろぐイルビナの方へと視線を向けた。そして、体勢を低くして一気に跳躍する。


「しまっ……!!」


 ナデュウの拳がイルビナを捉えようとした瞬間、


「――え……」


 イルビナとナデュウの間に割って入った七星が、真っ黒の太刀でナデュウの攻撃を防いでいた。


「おい、ナデュウって言ったか? お前の相手は俺だ」


「――――」


 真紅の龍の瞳でナデュウは七星を見つめると、太刀と交わっている拳に紫色のテラを纏わせる。その瞬間、


「――っ!!」


 七星はイルビナと共に弾き飛ばされ、勢いよく転がる二人。七星はすぐに体勢を整えたが、イルビナは倒れ込んだままだ。


「チッ、流石は総隊長を一撃でやっただけはあるな。見た目以上に重いな……」


 そう言葉にした七星の口元からは血が垂れていた。今の攻撃をまともに受けていればやばかったと、瞬時に悟ってしまっていた。すると、


「――誰が一撃でやられただと? 勝手に決めつけるな、モリヤ・ナナセ」


 瓦礫を押し退けて立ち上がったグレコは、口元から血を流しているが傷は治っている。これは、神器クラウ・ソラスの権能だ。腰に携えているだけで自然治癒していくというものだ。


「フン、あの程度でやられてるなら、聖騎士団の総隊長失格だな」


「完全に俺を怒らせたようだな、ナデュウ。いいだろう、俺がお前を斬ってやる」


 グレコはそう言うと、神器クラウ・ソラスを抜いて構えた。敵と認識する対象を殺すまで鞘に戻らない神器。その圧倒的な存在感の武器に、ナデュウも視線を移す。


「お前を殺す為の神器だ。覚悟しろ」




************************



 一方、グレコ達の戦闘の場から少し離れた所では、ヴァルキリアと三葉が居た。セラはヴァルキリアに弾き飛ばされ、遠くから睨み付けている。


「――ようこそ『大罪騎士団』へ。『欺瞞』を司る、お姉さん」


「え……? ようこそ? どういう意味……なの?」


「そのままの意味だよ。ハル兄が用意していた最後の席『欺瞞』が、まさかお姉さんだったとはね。新たに仲間が増えて、私としても嬉しいし、大歓迎だよ?」


 ヴァルキリアの言葉に、三葉はただただ混乱していた。理解出来るはずもなかった。敵である筈のヴァルキリアに歓迎され、仲間だと言われても信じれる筈が無かった。


「ちょっと待ってよ、私は貴方の仲間じゃない!!」


「お姉さんがどう言おうと、『欺瞞』の異能はお姉さんに宿ってる。それが、証拠だよ」


「私に宿ってる? 『欺瞞』の異能だなんて、私は知らないよ……」


 ヴァルキリアはセラの動きを気にしながら三葉に続けて語りかける。


「ハル兄が作った新たな大罪だよ。どんな能力かは私も知らないんだけど、お姉さんの中にある事はこの目でちゃんと見たよ。だからお姉さんは、私達の仲間」


 そう言ってヴァルキリアは三葉の方へと手を伸ばす。敵対する組織に勧誘され、三葉は動揺が隠せない。


「違う……私は……卓斗くん達の……」


「ううん、お姉さんは私達の仲間」


 絶対にあり得ないと思っているのに、三葉の中にある何かがヴァルキリアの手を取ろうとしていた。必死に耐える三葉だが、その何かの力を抑える事が出来ない。三葉が手を出そうとしたその時、


「――何の勧誘なんだい?」


 そこに、繭歌が駆け付けヴァルキリアと三葉の間に割って入った。その瞬間、三葉は我を取り戻したかの様に上げかけた手を下ろした。


「繭歌……!!」


「ごめん三葉、遅くなった。それより、僕に内緒で勧誘は辞めてくれるかな」


 繭歌はそう言葉にすると、剣を構えてヴァルキリアを強く睨み付ける。


「そんなボロボロの状態で、援護に駆け付けたつもりなの、黒髪のお姉さん?」


 かく言う繭歌は、先の獣人種族との戦闘でマントコートや騎士服はボロボロになっていた。


「君こそ、状況をちゃんと見た方がいいと思うけどな。四対一でどう戦うつもりなのかな」


「繭歌、違うの……セラちゃんは暴走してて……」


「暴走?」


 そう言われ、繭歌はセラの方へと視線を移す。全身を覆う禍々しい紫色のテラと、脚に浮かび上がる謎の呪印、紫色に輝く瞳と、一目見て様子が違うと理解出来た。


「確かに、理性が無いと見れるね。じゃあ、セラは僕達も敵だと認識しているって事だね?」


「うん……どうやって暴走を止めたらいいのかも分からなくて……」


「お姉さん達さ、この茶髪のお姉さんの事は諦めた方がいいよ」


 ヴァルキリアの言葉に、繭歌と三葉は強く睨み返した。


「『堕天』って死んだ者が最後の抵抗として発動出来るんだよ? つまり、この茶髪のお姉さんは死んでるって事なんだよ。例え、暴走を止められたとしても、茶髪のお姉さんは死んだまま」


「違う……セラちゃんは死んでなんかいない……ちゃんと生きてるよ……!!」


「往生際が悪いね、お姉さんも。この茶髪のお姉さんが死んでる事も、お姉さんが私達の仲間だって事も、素直に認めなよ」


「――三葉が君達の仲間な訳が無いよね。寝言は寝てから言ってくれるかな。それと、セラも死んでなんかいない。僕もそんな気がしてるよ」


 ヴァルキリアは深く溜め息を吐くと、神器グラーシーザを肩に預ける様にして持ち、


「黒髪のお姉さん、うざいよ? 私が言ってる事に間違いは無いんだよね。だからさ、死んで黙ってくれる?」


「生憎だけど、僕は君の様な子供に殺される筋合いは無いかな。それと、よく喋る子供って嫌いなんだよね」


 二人は暫く睨み合うと、一気に走り出して武器を振りかざした。激しい金属音が鳴り響き、繭歌の青白い剣とヴァルキリアの神器グラーシーザが交わる。


「私も、言う事聞かない人とか、大っ嫌いなんだよね。だから、黒髪のお姉さんはここで殺してあげるよ!!」


「二度も言わせないで欲しいな、君には殺されないって……!!」


 繭歌が勢いよく剣を振り抜くと、氷の斬撃と共にヴァルキリアを弾き飛ばす。


「油断は禁物だよ? 黒髪のお姉さん」


 ヴァルキリアがそう言葉にした瞬間、突然として繭歌が吹き飛んで行く。そして、その体には切り傷が付いていた。


「繭歌!!」


「ぐっ……!! 何かが僕に当たった……」


 ヴァルキリアは氷の斬撃を神器グラーシーザで弾き消すと、悪戯な笑顔を見せて、


「ニヒヒ、困惑してるね。私の認知不可能の斬撃に」


「認知不可能……?」


「私がいつ神器を振りかざして、いつ斬撃を放ったか認知出来ないんだよ。あたかも何も無かったかの様な光景でしか黒髪のお姉さんには見えていない。斬撃が目の前まで迫っていても、それに気付けないんだよ。目視不可能との違いはそこだね」


 そう言ってヴァルキリアは、悪戯な笑顔から不敵な笑みへと変える。その時、


「――っ!?」


 突然、繭歌の目の前で光のバリアが斬撃を防いだ。いきなりの事で繭歌は目を丸くして驚いた。だが、驚いていたのは繭歌だけでは無い。否、ヴァルキリアもだ。


「認知不可能の斬撃を防いだ……? まさか……」


 ヴァルキリアはそう言うと、三葉の方へと視線を移した。三葉は、繭歌の隣に立ち、


「これ以上、私の大事な仲間はやらせないよ。私が守りたい仲間は……私が大好きな仲間は……貴方じゃない!!」


「へぇ、いつの間に防御魔法を仕掛けてたの? まぁいいや。お姉さんには悪いけど、強制的に組織に来て貰うからね」


「私は……『大罪騎士団』なんかに行かない!! 卓斗くんや繭歌、李衣達と日本に帰るの!!」


 三葉は勇敢とした表情でヴァルキリアに強く言葉にした。誰が何と言おうと、三葉の仲間は卓斗達だ。そう心に誓って。




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