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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第136話 『冥域』


 混乱の渦に巻き込まれるヴァルディア。ナデュウの暴走により古城は崩壊し、ヴァルキリアの乱入、セラの『堕天』と、戦場はごちゃごちゃになっていた。

 セラにダメージを負わされた事に、激昂しているヴァルキリアと、『堕天』したセラが激しい戦闘を繰り広げる中、アカサキは『女神龍ティアマト』と対峙していた。


「鳴き声だけで、これ程……先程の獣人種族とは、次元が違うようですね……」


 聖騎士団の中でもトップクラスの実力を誇り、天才と呼ばれ『鬼神』の肩書きを持つアカサキでさえ、『女神龍ティアマト』の殺気に、息を呑んでいた。

 すると、その場に三葉とユニとアラが駆け付ける。


「アカサキさん!!」


「ミツハさん。異様なテラを感じ取った瞬間に、タクトさんのテラを感じなくなったんですが、何かあったんですか?」


「卓斗くんは、ナデュウさんを助ける為に『冥域』に向かいました」


「『冥域』……ですか。ナデュウを救うとは?」


「ナデュウさんは、ユニちゃんの友達なんです。それに、私達の敵では、無いみたいですよ」


 アカサキは一度、ユニの方へと視線を移す。ユニの表情からも、嘘では無い事を確信し、先程まで戦っていたアラの姿を確認して、


「その方を見れば、本当の様ですね。先程までの殺気を感じません」


「それから卓斗くんが戻るまで、ナデュウさんを傷付けずに時間を稼いで欲しいんです」


「時間を稼ぐ……」


「卓斗くんは、必ず『冥域』から戻って来ます。そしたら、ナデュウさんの暴走も止まる筈です。そうですよね、アラさん」


 三葉に言われ、アラは頷いた。


「あぁ。生きて戻って来ればの話だがな……だが、お前達は少年を信じているんだろう?」


「もちろんです。卓斗くんは、いつだって約束を守ってくれます。私達を置いて、死ぬなんてありえないです。ですから、アカサキさん、お願いです!! 卓斗くんが戻って来るまで、時間稼ぎをお願いします!!」


 三葉はアカサキに向かって頭を深く下げた。続くようにユニも深く頭を下げると、


「ミツハさんのタクトさんへの信頼は厚いんですね。皆に慕われ、私も慕っています。私も、信じています。ですから、ミツハさんの頼みは、承ります」


「本当ですか!?」


「ですが、一つ気掛かりな事が……」


 そう言ってアカサキは、ある方向へと視線を向ける。三葉もその方向に視線を向けると、セラがヴァルキリアと激しい戦闘を繰り広げていた。


「セラちゃんの事ですか」


「セラさんは今、『堕天』という暗闇の中に居ます。どうにか救い出す事が出来れば……」


「分かりました。セラちゃんは私が救います!! ユニちゃん、手伝ってくれる?」


「はい!! セラ先輩は私達で救います!!」


 三葉とユニの言葉に、アカサキは真剣な表情で頷くと、すぐに『女神龍ティアマト』の方へと視線を向ける。


「では、タクトさんが戻るまで、皆さん踏ん張って下さい!!」



************************



 一方、崩れた古城から少し離れた場所では、ユニの母親であるシエル・レアコンティと、聖騎士団の総隊長であるグレコ・ダンドール、聖騎士団第二部隊の元隊長であり副都の教官を務めているステファ・オルニードは睨み合っていた。


「そこを退け、ジョン。奴が俺に刃向かうのなら、俺は粛清するまでだ」


 グレコの目の前に立って、剣を収めるように促していたのは聖騎士団第二部隊隊長のジョン・マルクスだ。その後ろでは、聖騎士団第二部隊副隊長のイルビナ・イリアーナが、ステファを促している。


「落ち着いて下さいって、総隊長!! 仲間同士で争ってる場合ですか!?」


「そいつが敵であるナデュウを庇うと言うのなら、俺の敵となる。そして、その敵を庇うと言うのなら、ステファも俺の敵だ」


 グレコの言葉に苛立ちを募らせたのか、ステファが徐々にテラを全身に溜め始める。


「はひぃ!? ステファさん、落ち着いて下さい!!」


「イルビナ、そこを退いていろ。お前達を怪我させたくはない」


 殺気を放ち始める二人を見て、シエルも桃色に光る剣を構えて、


「私の味方になってくれる、そう捉えていいんですよね、ステファさん」


「フン、だが、理由は後で聞かせて貰うぞ」


「ステファさんなら、説明しても理解して貰えると思います。本当、グレコさんは頭が固いから……」


 かつての仲間だった三人は、過去の事など無かったかの様に殺気を放ち、睨み合った。間に挟まれているジョンとイルビナは、ただただ息を呑む事しか出来なかった。

 その様子を離れた所から見ている者達が居た。楠本繭歌と、エレナ・カジュスティン、守屋七星だ。


「え、何でステファさんと総隊長が睨み合ってんのよ。マユカ、何か知らないの?」


「いや、僕も全く分からないよ。けど、あの桃髪のお姉さんが関係してるっぽいよね。どうする? 僕らも止めに入る?」


 その時、その場の全員が異様な雰囲気を感じ取った。冷たく、重たい空気を。


「なに……この感じ……」


「崩れた城の方から感じるね。越智くん達に何かあったのかもね」


「マユカ、行くわよ!! こっちはあの人達に任せとけば大丈夫そうだし」


「本当に大丈夫? まぁ、僕も三葉が心配だからそっちに行くけどさ」


 二人は異様な雰囲気の感じる方向へ向き、走り出そうとするが、一人だけグレコ達を見つめる者が居た。


「あんたは、行かないの?」


「俺はこっちのが興味ある。お前らは好きにしてろ」


「あっそ。マユカ、行くわよ」


 エレナは七星を強く睨むと、走り出した。繭歌も後に続く様に走り出す。七星はエレナ達の方を見向きもせず、グレコ達の居る方へと歩き出し、その手に黒刀の太刀を作る。


「俺も混ぜてくれよ、総隊長とやら」


 突然として割り込んだ七星に、グレコは目を細めて睨み付ける。


「貴様、入団したばかりの若造か。怪我をしたくなかったら、そこで見ていろ」


「怪我? 笑わせんじゃねぇよ。あんたらこそ、呑気なことしていると、俺に斬られるぞ」


 七星の大きな態度に、ステファも苛立ちを募らせる。それは、シエルも同じだった。


「モリヤとやら、聖騎士団に入団したばかりの新人が、総隊長や私を相手に出来ると思っているのか?」


「試してみてぇんだよ、俺の力がどんだけ通用するのかをな。いいから、さっさと始めるぞ」


 すると、突然として大きな斬撃が七星を襲う。それは、グレコの仕業だった。だが、ただ剣を振っただけであって、斬撃を放った訳ではない。そのスイングスピードと、力が相まって風圧が斬撃へと変わったのだ。


「総隊長!!」


 ジョンが叫んだのも束の間、斬撃は突然として姿を消し、七星は悠々と立ち尽くしてグレコを睨んでいた。


「総隊長ってのは、こんなもんなのか?」


「貴様、それは……」


 七星の持つ武器、真っ黒の太刀を見つめるグレコ。その武器をグレコは知っている。黒のテラを所有する者だけが扱える武器、黒刀だ。


「黒のテラの所有者なのか。フン、面白い」


 グレコの攻撃を悠々と消した七星に対して、ジョンもイルビナも、シエルとステファでさえも、驚きが隠せないでいた。

 グレコの先程の一撃は、少なからずの殺気が込められていた。本気では無いと言えど、『最強』の肩書きを持つグレコなら、多少の殺気を込めるだけで、相手は即死する程の威力を放てる。

 聖騎士団のメンバーや元仲間だからこそ、それらを知った上での七星の実力に、息を呑んだのだ。


「さぁ、始めようぜ」


 真っ黒の太刀を肩に預けるようにして持ち、不敵な笑みを浮かべる七星。その存在は、ますます謎を深めるだけだった。



************************



 一方、『冥域』へと向かった卓斗は、真っ暗な空間に居た。冷たい空気と、重たい空気が入り混じり、ずっとこの場に居れば気分が悪くなるのは目に見えている程に、不気味な場所だった。


「くそ……こんな視界でどうやって探すんだよ……」


 真っ暗な空間と言えど、何も見えない訳ではない。自分の立つ足元の地面は微かに見えていた。だが、周りから十メートルもすれば何も見えなくなる。

 不気味な場所ではあるが、魔獣や人間などの気配は全くとして感じなかった。


「ナデュウの魂を探すには、冥王に会わねぇといけねぇか。けど、ここがどれだけ広くて、どこになにがあるのか何も分からねぇ……」


 卓斗は、ただただ不気味な世界『冥域』を彷徨うだけだった。すると、突然として後方から青白い光が薄っすらと卓斗の背中を照らした。


「何だ、これ……?」


 卓斗が振り返ると、青白い火の玉のような物が、卓斗を追い抜いて飛んでいく。


「まさか、道しるべか?」


 この暗闇の世界では、青白い火の玉はかなり目立つ。卓斗は、取り敢えず青白い火の玉を追い掛ける事にし、後を追う。

 辺りに何か見える訳でも無く、ただ遠くの方に青白い火の玉が飛んでいるのが見えるだけで、それを追って正解なのかは分からないが、卓斗にはそれをする事しか考えつかなかった。


「まじで気持ち悪くなってきそう……早いこと、ナデュウの魂を持って帰らねぇと」


 だが、進んでいるのかも分からない程に何も見えず、だんだんと気持ちが悪くなってくる。前に進んでいるのか、後ろに進んでいるのか、三半規管を抉られた感覚で吐き気と目眩がしてくる。

 その時、


「――っ!?」


 突然と眩い光が辺りを照らし、卓斗の視界を遮断した。思わず、腕を覆って周りを確認するが、激しい光は暗闇の『冥域』を真っ白に染め、何も確認が出来ない状況だった。


「なんだよ、突然……!!」


 すると、遮断されていた視界に、無数の蝙蝠こうもりが飛び交うのが見えた。そして、女性の声が卓斗の耳元で囁かれる。


「――何で、こんな所に生者が居るのかなー?」


 声のする方へ振り向くが、そこに人の姿は無い。ただ、無数の蝙蝠が飛び交うだけだった。


「誰だ、お前!! お前が『冥王』なのか!?」


「アハハッ!! 私が『冥王』? 笑わせないでよね、君」


 すると、卓斗の目の前に無数の蝙蝠が集まりだす。そしてそれは、だんだんと人の形へと形成して行き、


「私は、ハフフェル・ゴーファイル。『冥域』の『死神』だよ」


 桃色の髪色のアップツインテールの髪型で、真っ赤な瞳で卓斗を見つめて微笑む。肩を露出した黒のゴスロリの様な服装、頭には黒色の薔薇の髪留めを付けていた。

 そして、ハフフェルの手には真っ黒な大きな鎌があり、刃の峰に黒色の天使の羽根の様なものが付いていた。


「『死神』……」


「ここは、生者が来ては駄目な場所だよ? ま、それを狩るのが私の役目だから、こうして出向いたんだけどね。先ずは、『冥域』に来た理由を聞かせて貰おうかな。誰かを生き返らせる為? それとも、『冥王』の首?」


「どっちにしろ、お前は邪魔をするんだろ」


「邪魔だなんて酷いなー。これが私の仕事なのに」


 ハフフェルはぷくっと頬を膨らませる。この異様な空気に似合わない彼女の存在に、卓斗は嫌気がさしていた。


「俺は、ナデュウの魂を探してる。邪魔するんだったら、容赦しねぇぞ」


「へぇ、ナデュウちゃんの魂をね。君がヴァルディアに来たから、ナデュウちゃんに死相が出たのに、その君がナデュウちゃんを救いたいとは、どうも変な話だよねー」


「俺が来たから? どういう意味だ」


 ハフフェルは不敵な笑みを浮かべて卓斗を見つめると、


「ユニって女の子、『一角獣』と呼ばれる獣人の力を持ってるの。その力は、ナデュウちゃんの生命維持の力もあり、側を離れると死に至る。ここ最近、『一角獣』の力が側に居なかった為か、どのナデュウちゃんも寿命は短いものだったよ」


「どのナデュウも? ナデュウは一人だろ」


「チッチッチッ~。君は、ナデュウちゃんが不死身だって言われてる由縁を知らないんだね?」


 人差し指を振って話すハフフェルを、卓斗は好戦的な目で睨み返す。少しでも気を緩めれば、自分がやられてしまう様な空気が漂っていたからだ。


「不死身の由縁?」


「『代替わり』それが、ナデュウちゃんの不死身の由縁だよ。死んでもまた、「ナデュウ」は生まれる。記憶も、何もかもを残してね。ただ、性格だけが毎回違う」


「死んでも、生まれる……」


 その言葉に卓斗は引っかかった。死んでも生まれるのならば『冥域』に来た意味はあったのだろうか。記憶が残っているなら、新たにナデュウが生まれても、ユニと友達だという記憶は残る。それでも、


「だから、ナデュウちゃんの魂を戻した所で意味ないよ。むしろ、この『冥域』この私から逃げれる訳もないし」


「たとえ代替わりしようとも、ユニの友達は今のナデュウだ。記憶が残っていようが関係ねぇ。それと、俺はお前なんかに負けねぇ」


 その言葉に、ハフフェルは再び不敵な笑みを浮かべる。


「何が可笑しいんだよ。悪いけど、お前の相手をしてる暇はねぇんだ……!!」


 卓斗は、右手に黒刀を作って走り出す。ハフフェルは、鎌を構える事なく、ただ卓斗を見つめていた。

 そして、卓斗が斬りかかった瞬間に滑らかな動きでそれを躱すと、卓斗の肩に手を置く。


「まだ話の途中でしょ? たまには、私も生者と話をさせてよね?」


「お前と話すことなんかねぇよ!!」


 卓斗は『斥力』の力でハフフェルを吹き飛ばす。真っ白に染まった地面を転がり、体勢を整えると、


「痛いなーもう。悪い子には、お仕置きしなきゃだね」


 ハフフェルは立ち上がって、卓斗の方へと向かって手を伸ばす。


「――『斬』」


 そう言葉にした瞬間、突然として卓斗の左肩から血が噴き出した。


「――っ!?」


 何も触れられていないはずなのに、斬られた感覚と痛み、そして騎士服は血で真っ赤に染まり、卓斗は混乱していた。


「なにもしてねぇのに……斬られた……!?」


「ふふーん、驚いているね。君がどれだけ強いかは知らないけど、私の前ではそんな理屈は通らないからね。『死神』を舐めて貰っちゃ困るよ」


 ハフフェルが斬る動作をしていないのは確かに見ていた。それなのに、肩にはしっかりと切り傷もある。それがまた、卓斗を混乱させていた。


「ねぇ、知ってる? 傷のある所に、もう一度傷を与えると、痛みは倍になるんだよ? 試してみる?」


「は……は? なに言って……」


「――『刺』」


 ハフフェルの言葉を聞いた瞬間、斬られた場所と同じ所に、突然とまた血が噴き出した。既に斬られた痛みと、更には何かに突き刺された様な痛みが、卓斗を襲った。


「ぐっ……!? がっ……!!」


 あまりの痛みに、卓斗は肩を抑えてその場に跪いてしまう。激しい痛みと、まるで熱の帯びた鉄で抑えられているかの様な熱さを感じ、意識が遠のいていきそうになるのを、必死に堪える。


「あーあ、痛そうだね。敢えて、ここで言おうかな――ようこそ、『冥域』へ」


 死界に繋がる場所『冥域』。死んだ者の魂が集まり、それを死界へと送る場所。そこの番人である『死神』ハフフェル・ゴーファイルは、不敵な笑みを浮かべて卓斗を歓迎した。





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