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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第129話 『それぞれの戦い3』


「ねぇ……セラちゃん……!! セラちゃん!!!!」


 泣き崩れる三葉の側には、セラが息絶えて横たわっていた。エレボスの毒によりセラの体は蝕まれ、その体は紫色に変色していた。


「返事してよ……!! お願いだから……」


 三葉の声はセラに届く事は無く、ただただ三葉の震える声と泣き声だけが響いていた。


「仲間が死ぬのは初めてなのか? どんな気分だ? 逃げろと忠告され、それを無視してこの結果だ。お前は、どんな気分なんだ?」


「――うるさい!! 黙っててよ!!」


 三葉はエレボスの方を勢い良く見やると、強く睨んで激昂した。悲しみに囚われ、憎しみに囚われ、自分の惨めさを恨んだ。


「お前から感じる初めての殺気だな。仲間の死のお陰で、成長出来たんじゃないのか?」


「黙っててって、言ったよね……!!」


 すると、だんだんと三葉の全身に赤黒いテラが纏い始める。左目には炎の様なテラが纏い、眼帯の様になっていた。


「なんだ……この、嫌な感覚は……」


「セラちゃんは死んでなんかいない。死んだなんて信じない」


「それは、お前の思い込みでしかない。お前がどれだけ望もうとも、現実は現実だ。お前の仲間は死んだ」


 エレボスがそう告げた瞬間、三葉の姿が視界から消える。探そうとした瞬間、八岐大蛇の胴体の目の前まで一瞬にして移動すると、三葉は胴体に付いているエレボスの顔目掛けて赤黒いテラを纏わせた拳を振るう。


「――っ!!」


 三葉の拳がエレボスの顔を捉えると、八岐大蛇は物凄い勢いで吹き飛んでいく。地面を大きく揺らしながら転がっていくと、三葉はすぐさま高くジャンプし、八岐大蛇に向けて手を翳す。


「貴方は絶対に許さない……!!」


「俺を許さないという事は、仲間の死を肯定しているのと同じだ」


 三葉は翳した掌に赤黒いテラの槍を作ると、横たわる八岐大蛇に向けて投げ飛ばす。赤黒い槍は、徐々に大きくなり分裂して六本に増えていくと、八岐大蛇の六本の首に刺さって動きを封じる。


「この程度では、俺の蛇は死なん。首を吹き飛ばさない限りな。そして、俺の動きを封じた所で、お前に勝算は無い」


 槍が刺さって地面に貼り付け状態の八岐大蛇は、六本それぞれの蛇が口を大きく開けて、六個の紫色のテラの球体を作る。

 地面に着地した三葉は、赤黒い炎が纏う目で、八岐大蛇を強く睨んだ。


「すぐにお前も、仲間の元に送ってやる……!!」


 六個の紫色のテラの球体は、一つに纏まって大きな球体となると、三葉に向けて放った。すると、三葉の全身に赤黒いテラのバリアが球体状に纏う。三葉は自分だけでなく、後ろで横たわるセラの全身にもバリアを纏わせた。

 八岐大蛇が放ったテラの球体が三葉のバリアに触れた瞬間、その場に大爆発が起きる。

 爆炎が空高く伸び、キノコ雲が発生する。その爆発の規模は大きなものだった。八岐大蛇も爆風に巻き込まれるが、その強靭な皮膚のお陰で無傷だ。


「チッ、少し力を込め過ぎたか……だが、これで確実に死んだだろう」


 八岐大蛇の六本の首に刺さっていた槍が徐々に薄れ始めて消えていく。解放された八岐大蛇は起き上がって、爆煙の立ち込める場所を眺める。


「――なに……?」


 そこには、八岐大蛇の魔法を受けても尚、平然と立ち尽くす三葉の姿があった。そして、その姿は異様なものだった。


「何者だ、お前……」


 全身を纏っていた赤黒いテラは、羽の様に背中に集まり、眼帯の様な赤黒い炎は大きさを増していた。


「仲間の元に送る……? だから……セラちゃんは……『死んでない』って言ってるじゃん!!!!」


「――っ!!」


 その凄まじい殺気にエレボスは思わず怖気付いてしまう。先程と比べると、まるで別人の三葉に対し、逆に恐怖に支配されてしまっていた。


「この俺が……怖気付いてる……だと? そんな、まさか……」


 そして、三葉はゆっくりとエレボスの方へと歩み寄っていく。三葉が近付く度に、恐怖心が増していき、吐き気がしてくる。


「く、来るな……!!」


 エレボスは、六匹の蛇の口から紫色のテラの球体を何発も放つが、三葉の背に生える赤黒いテラの羽が、まるで生きているかの様に自動で紫色のテラの球体を弾いていく。


「何なんだ……お前は……来るな……!! 来るなって、言ってるだろ……!!」


 ジリジリと三葉が近付いて来たその時、三葉を突然として頭痛が襲う。あまりの痛さに頭を抑えて、その場に膝を付いてしまう。


「――っ!? ハァ……ハァ……」


 すると、背に生えていた赤黒いテラの羽と、目に覆っていた炎の眼帯は薄れ始め、消えていく。


「どうやら、お前の特別な力にはリミットがある様だな……お陰で、助かったが……」


「ハァ……ハァ……私、どうして……」


 赤黒いテラが三葉に纏わり始めた頃から、三葉の記憶は無くなっていた。エレボスを殴り飛ばした事も、エレボスとの会話も、自分自身に赤黒いテラの羽が生えていた事も、何も覚えていなかった。

 セラの死に悲しみに暮れ、泣きじゃくっていた頃から突然、今の場面に変わった事に、三葉はただただ驚いていた。それと同時に、かなりのテラ量を消費したのか、体が重く感じ、疲れ切っていた。


「少しヒヤッとしたが、所詮その程度だったという事だな。今度こそ、お前を仲間の元へ送ってやる」


 エレボスはそう言うと、一匹の蛇の口を大きく開けて、紫色のテラの球体を作る。そして、跪いて息を切らす三葉に向けて放つ。


「――っ!!」


 その瞬間――、



「――誰の元に送るの?」


 エレボスの放った紫色のテラの球体は、何者かによって弾かれる。そして、三葉の前に立つその人物を見たエレボスは、目を見開いて息を呑んだ。


「な……!? 何故、お前が……」


 三葉も視線を上に上げると、茶髪のサイドテールを揺らす、見覚えのある後ろ姿が見えた。そして、その人物が誰なのかを一瞬で理解すると、


「――セラちゃん!!」


 先程、エレボスによって死んだ筈のセラが、全身無傷で立ち尽くしていた。


「何故、生きている!! 俺の毒をまともに受けて、生きていられる筈がない!!」


「私も、確実に死んだと思った。けれど、見た通り何ともない」


 エレボスには理解のし難い事だった。セラが無傷で立ち尽くす姿に疑問符しか浮かんで来ない。

 セラが不死身ではない事も、三葉が治癒魔法を掛けても意味がなかった事も、その目で確認した筈。ならば、何故セラは生きているのか。それが、分からなかった。


「セラちゃん!! 良かった……!! 生きてて良かった!!」


「ちょっと……ミツハ!?」


 三葉は泣きながらセラを後ろから抱き締めた。何より生きていた事が嬉しくて安堵し、涙が止まらなかった。


「良かったよ……!! 本当に良かったよ……!!」


「分かったから、あまりくっ付かないでくれる? 安心するのもいいけれど、まだ戦闘中だから」


「うん……!!」


 三葉はセラから離れると、涙を拭ってエレボスの方を見やる。そんなエレボスは、未だに現状を信じれない様子だった。


「何故だ……!! 何故だ……」


「それから、貴方にはとっておきを見せてあげる」


「とっておきだと……?」


 セラは不敵な笑みを浮かべて、槍の形をした神器シューラ・ヴァラを構えると、


「神器を扱う者にだけ許された、特別な力」


「神器……一体、何を……」


「あまり使いたく無かったけれど、私の友達を泣かせた貴方は許せないから、特別に見せてあげる……――『武装アルマメント』」


 その瞬間、セラの持っていた神器シューラ・ヴァラが青白いテラを放出しながら溶ける様に消えていくと、瞬く間に全身に纏っていく。そのテラ量は凄まじく、セラの立つ地面の砂が吹き荒れ、円形に砂が掘れていく。


「――っ!! なんというテラ量だ……!? 真性種が出せるテラ量では、ない……!!」


武装アルマメントのテラ量は、テラグーラをも凌駕する。元々特異な能力を持つ神器との融合……今の私は、誰よりも強い。アカサキさんよりも……」


 セラを纏う青白いテラは、徐々に形を形成していく。その姿は、セラの背には四本の青白い長剣が宙に浮き、左手には剣、右手には槍を持ち、体全体には青白いテラがまるで鎧の様に形を留めて纏っている。目元には青白いテラのスコープの様なモノが付き、頭の上には銃が二丁浮いていた。


「セラちゃん……?」


「大丈夫、ミツハ。この状態の私は、絶対に負けない」


「う、うん……!!」


 セラはそう言うと、目元にある青白いテラのスコープで八岐大蛇の一匹の顔を捉える。その瞬間、頭上に浮かぶ銃から突然として青白い弾丸が放たれる。その速さは異常なもので、エレボスが反応するよりも速く、弾丸は蛇の顔を貫き、辺りに血が飛び散る。


「――っ!? 速い……!!」


「まるで反応が出来てない。そろそろ終わりにする?」


「終わりだと……? 笑わせるな……!! 真性種の分際で俺に勝てるとでも思うなよ……!! ククク……見ろ、タイムリミットだ」


 すると、最初の頃に殺した二匹の蛇が、八岐大蛇の胴体から顔を出し、どんどんと首が伸びていく。一匹は、弾丸に頭を貫かれ首だけが地面に倒れ込んでいるが、二匹の蛇が復活した事により、八岐大蛇の顔は七つとなった。


「俺の獣人化は、蛇の頭数に比例して強くなる。七匹の蛇となった以上、今までの俺と同じだと思うな」


「そう、なら私の攻撃が一撃で終わらない事を祈る――」


 そう言ってセラは、左手に持っていた剣を、その場で八岐大蛇に向けて振りかぶった。


「一撃とは、余裕な態度……がっ……!?」


 それは一瞬の出来事だった。セラが剣を振りかぶって、少しの間が空いた瞬間、八岐大蛇の全ての首が吹っ飛び、大量の血が雨の様にその場に降り注いだ。

 首だけとなった七匹の蛇は、何が起きたのか分からないのか、ウネウネと動き回りながら、地面に倒れ込んでいく。


「なん……だと……!?」


「大した事ないのね、獣人種族も――」


 そして、八岐大蛇の胴体に付いているエレボスの視界から、セラの姿が忽然と消えたかと思うと、いきなり目の前に現れ、今度は右手に持っていた槍で、エレボスの顔を突き刺す。その瞬間、八岐大蛇の胴体から後方に雷が放出し、エリオ砂漠の地を抉る。


「ゴフッ……」


「私達の勝ち……っ……!!」


 セラを纏っていた青白いテラの鎧や、周りに浮いていた武器などが消え始め、セラはその場に跪く。


「ハァ……ハァ……まだ、継続時間が短い……けれど、何とか乗り切った……ハァ……ハァ……」


「セラちゃん!!」


 セラの元に三葉が走り寄り、背中に手を当てがって治癒魔法を掛ける。


「勝ったの……?」


「エレボスは、もう死んでる……私達の勝ち……」


 三葉がエレボスの方へと視線を送ると、獣人化が解け元の姿へと戻ったエレボスが、倒れ込んでいた。ピクリとも動かず、三葉も死んだのだと直ぐに悟った。


「勝てたのは、ミツハのお陰。死んだ筈なのに、ミツハの声が聞こえた瞬間に、目が覚めた。不思議な感覚……何かした?」


「ううん……私、何も覚えてなくて……ただ、すごく悲しかったのだけは、覚えてる……」


「そう……でも、ありがとう、ミツハ。私達も早く、女々男達と合流しないと」


 エレボスが死んだ事により、三葉の覚醒は誰の記憶にも残っていなかった。ともあれ、無事に勝利した二人は卓斗達と合流すべく、ヴァルディアを目指す。



************************



「何よ、これ……勝てないよ……」


 左肩と背中に大きな切り傷を負ったスカアハは、跪きながらそう言葉にした。その視線の先には、赤黒いテラを纏うアカサキが、妖艶さ漂う笑みを浮かべて、スカアハを見つめていた。

 そして、スカアハはそのアカサキの殺気に、勝算が垣間見えないと絶望していた。


「――諦めるのですか?」


 アカサキを見る度、声が聞こえる度に恐怖心が増し、吐き気に襲われる。そして、完全に戦意喪失したスカアハは、獣人化を解く。


「何なのよ、貴方……本当に人間? 『鬼神』の名の通り、化け物じゃない……」


「化け物とは、失礼ですね。見ての通り、私はれっきとした人間ですよ? ただ単に、貴方より私の方が強いだけです。ですが、私は貴方を殺したくはありません」


「殺したくない……? 何よ今更……情は禁物の戦闘なのよ? 『鬼神』なら『鬼神』らしく、さっさと殺しなさいよ」


 スカアハは恐怖に耐えながらも、アカサキを強く睨んだ。勝てないのであれば、さっさと殺して欲しいのがスカアハの願いだった。今のこの状況は、スカアハにとって生き地獄でしか無い。ならばいっそ、死んだ方がマシだ。


「勘違いしないで下さい。貴方に同情して殺したくないのでは無く、ヴァルディアへ案内して欲しいだけの事です。基本、人を殺める事は極力したくはありませんが、罪人となれば話は別です。聖騎士団を敵に回し、王都を敵に回した貴方達は、我々によって粛清されるのは当然です。ですが、今回の任務はユニさんの救出がメインです。それを成すまでは、貴方には生きていて貰います」


「誰が、貴方になんか教えるもんか」


「そうですか……」


 すると、アカサキはゆっくりとスカアハの元に歩み寄っていく。目の前まで行くと、アカサキはしゃがみ込んでスカアハを見つめる。


「――っ!!」


 その瞬間、スカアハは先程よりも大きな殺気に思わず息を呑んだ。ただ近くで見つめられているだけの筈なのに、比べ物にならない程の殺気に、跪く事さえ出来ずに尻餅を付いてしまう。


「い、嫌……」


 生き地獄に死んだ方がマシだと思っていたのにも関わらず、その殺気による死への恐怖がスカアハを襲っていた。

 あれ程殺して欲しいと願っていたのに、今は死にたくないと願っている。死の恐怖とは何とも残酷なものだった。どれだけ願おうとも、いざ直面すると怖くなる。

 汗が止まらず、肩や足が震え、涙が溢れ、嗚咽が出る。まるで、大きな鬼の手の平に乗せられている気分だった。


「では、少々強引ですが、無理矢理にでも吐かせて貰いますね。――ヴァルディアへ案内して下さい」


 少し声色が変わったアカサキの声に、スカアハは完全に呑まれた。言う事を聞かないと殺される。死にたくない。生きたい。そう思わされてしまっていた。まるで、幻術にでも掛けられたかの様に、スカアハはアカサキの操り人形となっていく。


「分かった……ヴァルディアへ、案内する……」


 アカサキとスカアハの勝負は、アカサキの勝利に終わった。だが、戦闘での勝利では無く、支配という名の勝利に過ぎなかった。





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