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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第108話 『謎の入団者』


 聖騎士団第四部隊に新たなメンバーである守屋七星が入団したが、いきなり卓斗とは喧嘩で始まり、第四部隊隊長のディオスも先が思いやられていた。


「んだよ、あいつ……いきなり喧嘩売って来やがって……!! それに、日本人って……」


 守屋七星もその名前からして、卓斗達と同様に日本から異世界へと飛ばされた日本人だった。

 この世界で、同じ日本人が近くに居る事は卓斗としても有難い事ではあった。もし、帰る方法が分かった時に一緒に帰れるからだ。だが、ここまで腹が立つとは思ってもいなかった。

 まるで、自分に興味も微塵もない様な目に、見下した様な傲慢な態度。敵ならば、日本人でなければ間違いなく、一発殴っていたであろう。


「あー、ムカつく!! 考えただけでもムカついてきた!! 俺は絶対に認めねぇからな」


「タクトくん、あんまりムキになって、俺が居ない所で彼と喧嘩になっては駄目だよ? まだ会ったばかりで、彼の事を何も知らないんだから」


「でもよ……!!」


 ディオスに何を言われようとも、卓斗の怒りは収まる気配は無く、思い出す度に怒りが込み上げてくる。こういう時に限って、思い出したくなくても、無意識のうちに勝手に思い出してしまうものだ。


「あれ、そういや……エレナは?」


 卓斗がふと、我に返って辺りを見渡すと、先程まで一緒に居た筈のエレナの姿が消えていた。


 隊舎を出た前にある通りで、エレナは七星に向かって声を掛けていた。


「――ちょっと、あんた」


 七星はエレナに呼ばれると、足を止めてゆっくりと振り向き、卓斗と同様にエレナに対しても、興味の無い目で見つめる。


「何だよ」


「あんた、いきなり現れて敵意剥き出しにして、聖騎士団に入った目的は何? 何か企んでるなら、やるだけ無駄よ」


「お前、女のくせに気が強いんだな。逆に聞くが、お前が聖騎士団に入った理由は何だ?」


「は?」


 七星の質問に、エレナは思わず喉を詰まらせた。なにせ、エレナが聖騎士団に入った理由は、卓斗と離れたくない為だ。

 王都に居れる、王都を守るは表向きで実際は離れたくなくて同じ隊にも志願した。だが、そんな事を会って間もない男に言える筈も無く、


「そんなの、決まってるでしょ。王都を守る為よ」


「だったら、俺もお前と同じだ。もういいか? 俺は聖騎士団には入ったが、お前らと馴れ合うつもりは無い」


「別に、馴れ合わなくても結構よ。あんたみたいな男、どうせ一人じゃ何も出来ないタイプだから。それから、あんたの都合で私達を巻き込む様な事はしないでよね。タクトに喧嘩を売る事も」


 すると、エレナの言葉が気に障ったのか、七星は苛立った表情を見せると、ゆっくりとエレナの方に歩み寄る。


「お前みたいな女、大嫌いなんだよ。女は黙ってめそめそ女々しくしてりゃいいんだよ」


「はぁ? あんた、私に喧嘩でも売るつもり?」


「喧嘩を売るまでもねぇよ、お前なんか。だが、その強気な性格、辞めた方がいい。その内、敵を多く作って自分を苦しめるだけだぞ」


 そう吐き捨てると、七星は再び何処かへと歩き始めた。エレナは何も言い返さず、ただジッと七星の背中を見つめていた。

 新たに入団した守屋七星は、入団して早々に一匹狼となり、孤立を極めた。何故、聖騎士団に入団したのか、その真意は謎のままに。



 ――シルヴァルト帝国近郊。獣人種族のリーダー、ナデュウを捜索すべく、神谷蓮は聖騎士団第二部隊を護衛にシルヴァルト帝国を後にした。


「あれ、結局何処に向かってるんだっけ?」


「はぁ? もう忘れたのかよ、サーラ。わしらは獣人種族の手掛かりとなる獣人に会いに行くんだろうが。場所は、副都だ」


 サーラは目的を忘れてしまっていたが、蓮達は副都に在籍するユニに会うべく、副都へと向かっていた。蓮はオッジとサーラを後ろから眺めながら、副都に居た頃を思い浮かべていた。


「オッジさんもサーラさんも、副都に居た頃と変わってなくて安心した。楠本さんも」


「まぁ、卒団してから一ヶ月経ったか経ってないかくらいだし、一気に変わった人なんて居ないと思うけど。越智くん達も、これといって変わった様子は無いよ。『大罪騎士団』っていう組織と結構揉めてるみたいだけどね」


「『大罪騎士団』……越智達も頑張ってるんだ。それで、日本に帰れる方法は見つかった?」


 蓮からの質問に、繭歌は無言で首を横に振った。実際、卓斗達が目の当たりにしている困難は、『大罪騎士団』との争いであり、日本へ帰る方法には一歩も進んでいなかった。


「そう簡単には帰れなさそうだよね。越智達が頑張ってるって信じてたから、僕もそれなりに色々と調べてはみたんだけど……」


「神谷くんも、手掛かりは一切掴めていない感じかな?」


「いや、一切という訳でも無いよ。でも、僕が見つけたのは帰れる方法じゃないんだ」


 繭歌は首を傾げながら、蓮の言葉に真剣に耳を傾けていた。


「帰れる方法じゃ無く、帰れる方法が聞けるかも知れない情報……という事。つまり、自分達で帰れる方法が分からないなら、他の誰かに帰れる方法を教えて貰えばいい」


「いやいや……僕達は日本人で、ここは異世界だよ? 僕達日本人以外に、この異世界の人達は日本の存在だなんて知らないし、帰れる方法どころじゃないよ」


 繭歌の言う通り、ここは異世界。日本など存在のしない世界で、日本を知る者など居る筈も無い。蓮の言っている事の理解が繭歌には出来なかった。


「それが、居るんだよ……いや、断定は出来ないかな」


「居るかも知れないって事? 僕達と同じ日本人で、日本と異世界を行き来してる人物とか?」


「うん、それも考えれる。でも、僕が導き出した答えはそれじゃない。実は、ついこの間、シルヴァルト帝国に御子柴が来てて」


「御子柴くんが?」




*************************



 ――数日前。シルヴァルト帝国に、ジャパシスタ騎士団に入団した悠利が一人で赴いていた。


「僕に用が出来たって、どうかした?」


「まぁ、たまには蓮の顔も見に来ようかなってさ。卓斗達も聖騎士団の仕事で忙しそうだし、李衣ちゃんも若菜さんとか沙羽さんとかと行動してばっかだし、恵ちゃんはそんなに絡んだ事ねぇし、暇だからさ」


「僕も忙しいんだけどね」


「連れねぇ事言うなよ。暇潰しってのもあるけど、一応仕事もしに来たんだ」


 悠利はそう言うと、本棚に囲まれた蓮の部屋を見渡す。数え切れない程の本がびっしりと並べられ、興味が湧いてくる。


「仕事?」


「それにしても凄ぇ数の本だよなぁ、ここ。どんな本があんだ?」


「まぁ、科学の本とか実験の本とか薬の本とか。この世界の歴史書も何冊かあるけど」


 「ふーん」と相槌を打ちながら悠利は並べられている本を一冊手にする。その本には、この世界の文字で試薬品と書かれていた。


「歴史書ってのどこにある?」


 悠利に言われ、蓮は歴史書を本棚から取り出す。五百ページ程の分厚い本で、その歴史書にはこの世界での歴史が刻まれている。


「おーこれこれ。かなり昔からの歴史が書いてんな」


「でも、そこに書かれてるのが全て事実って訳でも無さそうだよ。日本の歴史と一緒で、逸話とか神話とかも混じってそうだし」


「逸話ねぇ……」


 パラパラと歴史書をめくりながら、あるページでその手を止める。そこのページには、『神域』と、その詳細が書かれていた。


「『『神域』……今、我々が暮らしている惑星を創り、人間を創造し繁栄させ、人間に言語と知識を与えたとされる神々が眠る場所』か……蓮、これはどう捉える?」


「僕としては、神とかそういった類の話しは逸話としか捉える事が出来ないかな。戦国武将だとかなら、僕らの時代にまで証拠品などが残ってるから信じれるけど、神とかは何の証拠も無いからね。惑星が出来たのも、偶然の産物とも言えるし」


「まぁ、そこは俺も同感かなぁ。けど、ここは異世界だ。逸話や神話が存在してても不思議では無さそうじゃん? 日本に帰れる方法を色々と探ってく上でさ、やっぱりそういった類のものにも手を出さねぇと分からねぇと思ってさ」


 再びパラパラとページをめくり、日本へ帰れる方法に繋がる為の手掛かりとなりそうな情報を探す悠利。

 蓮も、そんな悠利の姿を見ていると、本当に悠利なのか疑ってしまっていた。なにせ、日本に居た頃では考えられない程にしっかりとしていたからだ。


「御子柴はこの世界に来て、変わったね。悪い意味でなく、いい意味で」


「ん? そうか? まぁ、日本よりは住みにくいしなぁ。しっかりしねぇと生きて帰れねぇじゃん。早く日本に帰りてぇよ、俺も……この世界の女の人にはさ、びっくりするくらいモテねぇし」


「帰りたい理由はそこ? まぁでも、御子柴の言う通りかも。この世界には、逸話や神話も存在するかも知れない」


「だろ? まぁ、そこだけに集中するって訳にもいかねぇけど、一つの手掛かりとしてな。神に聞きゃ、別の世界への行き方とか分かりそうだし」




*************************



「つまり、御子柴くんはこの世界を創った神に情報を聞こうとしているんだね。そして、その可能性を神谷くんも信じている」


「そう。でも、それはあくまでも可能性の話だから」


 日本に帰れる為なら、どんな可能性であっても手掛かりの一つとして捉える。それが、悠利の考えだった。

 自分の持つ情報のみを探っても、知れる情報は限られ、情報は重複してしまう。

 それでは、いつまで経っても日本には帰れない。


「例えこの世界を創った神に会えたとしても、絶対的にその道程は安全では無いし、危険が及んでる。それに、僕達の居た世界の事を知っているとも限らない。僕達の世界がこの世界に無いのならの話だけどね。普通に考えたら、一つの惑星に世界は一つ……そう捉えるなら、僕達の世界は地球……別の惑星にあるって事。宇宙を飛び越えてこの惑星に飛ばされた僕達に、この世界の神が話を聞いてくれるとも思えないし、下手すれば殺される事だって考えられるからね。だから、僕は信じれないというよりも、賛成出来ないかな」


「楠本さんの言っている事も、僕は理解出来る。でも、この世界に来て不思議に思った事ない?」


「不思議……うーん、魔法とか魔獣とかの存在の事?」


「それもそうだけど、僕が一番不思議に思っている事は、少なからずこの世界は日本に似ているって事だよ」


 蓮の言葉に、繭歌は疑問符を浮かべながら首を傾げた。日本に無いものが沢山存在するこの世界で、日本とこの世界が似ている所が他にあるのかが、繭歌には直ぐには思いつかなかった。


「よく考えてみれば気付かない? この世界の時間軸、春夏秋冬があり、文字は違うけど言葉が分かる事」


 それは盲点だった。文字が読めなかった事に対しては、違和感を感じていたが、言葉が通じ、理解出来ていた事は然程違和感を感じていなかった。

 気が付けば当たり前になり、その様な事を考える事すら無かった。蓮にそう言われ、繭歌も納得してしまっていた。


「確かに……この世界には言葉の壁が無いね。全ての国の言語が統一されている。しかも、僕達日本人にもそれが理解出来ている……盲点だったよ」


「つまり、ここからは僕と御子柴の仮説に過ぎないけど、三つのパターンがあると考えているんだ。一つ目は、日本がある世界とこの世界は同じ惑星、地球にあるって事。誰も辿り着けていないだけで、地球のどこかにこの世界がある。この場合、言語が理解出来る理由は全く分からないけどね。僕の仮説では、日本が誕生し、日本語が生まれた頃から、この世界も日本と関わりがあるって事。でも、これは御子柴に否定されたけどね」


「御子柴くんが否定するのも分かるかな。僕もその仮説には否定的だよ。こんな大きな世界が日本と関わり持っていたとしたら、何故この世界の存在が今まで明らかになっていないのか……それに、魔法や魔獣の存在も、日本と関わりがあるとは思えないからね」


「御子柴と同じ事を言ってるよ。まぁ、これも一つの仮説に過ぎないから。そして二つ目は、遥か昔に日本とこの世界が関わりを持っていたって事。簡単に言えば、卑弥呼やヤマトタケル、源氏や平氏、戦国武将、日本の歴史上の人物もこの世界に飛ばされたか、あるいは飛べたか、それで交流を深め、いつしか言語が理解出来る様になった。これが二つ目の仮説だよ」


「うーん、その仮説も納得は出来ないかな。まぁ、小説やアニメとかでありそうな話だし、もしそうだとしたら、興味は湧くけどね」


「ま、僕もこの仮説が一番無いかなって思ってる。無理矢理に考えるとすれば、神隠しなどが関係しているかなって。最後に三つ目、ここは本来存在しない場所であり、夢の世界。あるいは、死後の世界という事。今の僕は、この仮説が最有力だと思ってる」


 最後の仮説に、繭歌もあまり驚いた表情などを見せなかった。むしろ、繭歌自身もその仮説が最有力だと思っていた。


「この仮説が一番合理的で説得力がある。まぁ、夢の世界にしろ、死後の世界にしろ、僕達への直接的な現実は辛いものだけどね」


「それは同感だね。僕も神谷くんの言う仮説の中じゃ、三番目の仮説が一番納得出来るかな。バスが落下したあの日、僕達は死んでこの世界に来たのか、あるいは意識不明の重体になってこの世界を見ているのか……どちらにせよ、その現実は辛い。でも、納得出来ない事も沢山あるよ。僕達全員がここまで共通意識を持てている事が不思議だよ。仮に死後の世界なんだとしたら、まだ納得は出来る。死後の世界なんて誰も見た事無いんだから、どんな場所なのか否定も肯定も出来ないからね。僕達全員が死んだとしたら、今居る世界が死後の世界。すなわち、本当の意味での第二の人生って所かな。でも、夢の世界なんだとしたら納得は出来ない。全員が全員同じ夢を見て、そこに意識もしっかりとある。こんなの偶然でも何でもないよ。夢だとしたらあり得ない事」


「楠本さんの言う事も一理あるね。でも、ここが夢の世界だとしての仮説で、妙に納得出来てしまう事もある。それは、僕らの居た世界に、この世界の人間が来たという事」


「成る程……そして、日本で僕らは何かしらの能力を掛けられたって事だね?」


 蓮の仮説に、繭歌も妙に納得してしまっていた。自分達がこの世界に飛ばされて来たのでは無く、この世界の人間が日本に飛び、何かしらの能力を掛けられたという事だ。

 例えば、日本で能力を掛けた者に、この世界での意識や認識を脳に直接見せている、といった能力を掛けられている、とも言える。


「つまり、僕達がこの世界で見ている光景は、その者の幻術か何かで共通の意識を持たされているという事だね。確かに、これは納得出来てしまうね」


「でも、あまり仮説を多くしてしまうと真実が遠退いてしまうから、仮説仮説って言わない方がいいんだと思うけど、これも一つの可能性だと思って心に留めておいて。御子柴が帰る方法を模索してるなら、僕も僕からの視点で模索していくから」


 そうこう話している内に、蓮と聖騎士団第二部隊一行は、副都へと到着した。


「随分と久しく感じるね、ここも」


 副都の建物へと入ると、繭歌は母校を訪れている気分になり、懐かしむ様に辺りを見渡していた。


「――来たか、お前ら」


 すると、そこに副都の教官であるステファが姿を見せた。聖騎士団の騎士服を見に纏う繭歌やオッジ、サーラの姿を見て、感慨深く感じていた。


「ステファさん、久しぶりだな!!」


「あぁ、ジョンにイルビナか。お前らと会うのも久しぶりだな」


 そう言ってステファは、イルビナの頭を撫でると、イルビナは嬉しそうな表情をして、まるで犬の様に甘えていた。


「隊長と副隊長も副都出身なんだね」


「おぉ、そうだ。マユカらが四十期生だろ? 俺が九期生で、イルビナが三十七期生だからな」


 副都は四月と十月が入団月となっていて、一年毎に二期生ずつ上がっていく。


「ステファさんは、副都の一期生だもんな。噂には聞いてるが、一期生は特に優秀だったって聞いたぜ」


「よせ、ジョン。全員が全員優秀だった訳ではない。一期生で特に優秀だったのは、トワとグレコくらいだ」


「そうか、総隊長も一期生だったな」


「それより、お前らが来てくれたのは良かったが、丁度あいつらは実技に出ていてな。帰ってくるのを待つ形となる」


 蓮達の一番の目的は、副都に在籍するユニに会うというもの。だが、タイミングが悪く不在となっていた。


「そうか、なら戻ってくるまでここで待つ」



 ――『大罪騎士団』とのマッドフッド国での攻防戦が終わり、漸く落ち着きが見られたが、徐々に近付く脅威を誰も知る由は無かった。






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