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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第102話 『マッドフッド国攻防戦3』


 ヴァリ、ティアラとケプリ、サムとセルケトが激戦を繰り広げる一方でも、マッドフッド国国王女であるエティアは『大罪騎士団』のメンバーである、『傲慢』を司る、ヴァルキリア・シンフェルドと睨み合っていた。


「この衝撃音……他でも戦闘が始まったみたいだね。お姉さんは、この国の国王女だよね? どうなの? 自分の大切な国が、こんなに滅茶苦茶にされた事」


「私は貴方達を絶対に許さない。人を殺める事はしたく無いから、貴方を拘束させて貰う」


「この場に及んでもその言葉を口にするんだ。言っとくけど、私より雑魚なお姉さんでは、殺すどころか拘束も出来ないよ? この世界で私より強いのは、ハル兄を除いて居ないから」


 ヴァルキリアは神器グラーシーザを構えると、悪戯な笑みを浮かべる。エティアは先程の、目視出来ない程の速さで放たれる斬撃を経験している為か、意識を研ぎ澄ませていた。


「貴方のその武器は神器グラーシーザ。目に見えない程の速さの斬撃に加え、射程距離は無限……厄介と言えばそうだけど、貴方の腕の動きをよく見れば対処出来ない事は無い。ケンキ、準備はいい?」


 エティアが合体して自身の体の中に居る、人型魔獣ケンキに呼び掛けた。


《あぁ、いいぜ。いつでも準備は出来てる。お嬢のタイミングでやってくれ》


「分かった」


 自分にしか聞こえないケンキと会話を済ませると、エティアはヴァルキリアに向けて手を翳す。

 すると、桃色の炎の球を数発放つ。ヴァルキリアは、神器グラーシーザをその場で振るうと、風圧で炎を掻き消す。


「ここよ!!」


 エティアは一気にヴァルキリアに近づき、手に桃色の炎を纏わせると、腹部に手を当てがう。

 その瞬間、ヴァルキリアは一瞬にして吹き飛んでいく。エティアはすかさず、両手に桃色の炎を纏わせると、照準を合わせるかの様にヴァルキリアの方へと両手を向ける。

 すると、両手から桃色の炎の波動砲を放つ。そして、その波動砲はヴァルキリアを呑み込んでいく。


「この感じ……」


 だが、エティアは何かの違和感を感じていた。それは、これだけ確実に魔法を与えた筈なのに手応えを感じなかった事だ。

 桃色の炎の波動砲が徐々に消えていくと、案の定ヴァルキリアは目を閉じながら平然と立ち尽くしていた。


「無傷……確かに確実に魔法を当てたのに……」


「驚いた? これが私とお姉さんの実力の差だよ? お姉さんの攻撃で私が無傷なのが証明だよ」


 ヴァルキリアがゆっくりと目を開けると、その瞳は桃色に光っていた。


「貴方の魔法か何かなの? 防御魔法って感じでもないけど」


「防御魔法って言えば防御魔法かな。でも、結果がこれって事は、お姉さんが私に勝てる事はないよ」


「貴方は人を見縊るのが得意のようね。全てが自分基準で物事を捉えてる。その考えは貴方の人生において必要のないものだよ」


 エティアからの言葉に、ヴァルキリアは眉を寄せて苛立ちを募らせる。


「見縊る? もし私が見縊っていたとしても、その結果はちゃんと出てるんだよ? 結果が全てだから、見縊るも何もないんだよね。お姉さんがその結果を変えられるって言うなら話は別だけど、私より弱いお姉さんには、この結果を変えられる事は出来ない」


「そんな事、やってみなきゃ分からないでしょ」


 すると、エティアの首元の首飾りがまたも白く光り出し、そこからもう一人の人型魔獣が現れる。


「――あら、お嬢が私を呼ぶなんて珍しいわね」


「ごめんね、ミディア。力を貸して欲しいの」


 ミディアと呼ばれた人型魔獣。赤色の髪色にロングストレートヘア。チャイナドレスの様な服を着ていて、スリットからは綺麗な脚が見えている。

 釣り目で赤色の瞳をしていて、クールビューティな雰囲気だ。


「二体目の人型魔獣……お姉さんって本当に珍しい存在だね」


「確かに人型魔獣を扱うのはこの世界では珍しいかも知れない。でも、私が読んだ本の別の世界では普通な事」


「フフフ、別の世界って笑っちゃうね。そんな物信じてるの? 世界はたった一つしか無いんだよ? 別の世界だなんて存在しない。それは架空な話だよ」


 ヴァルキリアの言葉は、正しくその通りだ。本来ならば異世界などの存在はあり得ない。

 それはこの世界に住む者も、日本に住む者にとってもだ。だが、卓斗達はこうして、異世界に存在している。

 だが、それを知らないヴァルキリアにとって、異世界の存在など夢の話に過ぎない。


「私が読んだ本に登場する、ウィルトローレン国の王女様、ヤム=ナハルが人型魔獣を扱うの。主人公の友達であるカンナって子も優れた人型魔獣使いなの。私はその本を読んで、この人達に憧れたの。本来敵である魔獣でも手を取り合う事が出来る。ケンキもミディアも私を信頼してくれてる……ヤムやカンナみたいに、私も人型魔獣を家族の様に思ってるの。例え、私が読んだ本の世界が架空だとしても、今こうして私はケンキやミディア達と戦ってる。特別でも珍しくても構わない。これが私の誇りだから」


「所詮、それは本の中の話。この世界の誰かが創った話だよ。でも、人型魔獣と仲良く出来てる事は褒めてあげるよ。人間を毛嫌いする魔獣と手を取り合うのは、私にも出来ないと思うからね。まぁ、魔獣と手を取り合うなんて気持ち悪い事したくもないけどね」


 ヴァルキリアとエティアの会話を聞いていたミディアが、ヴァルキリアを強く睨みながら口を開いた。


「お嬢はそこらの人間とは違う。差別や軽蔑をしないお嬢は、お前らクズな人間よりも、ちゃんとした人間よ」


 ミディアはヴァルキリアにそう言うと、エティアの肩に手を置く。すると、二人の全身が白く光り出す。


「また合体?」


 光が消えていくと、エティアはまた姿を変えていた。黒髪は毛先にいくにつれて赤色に染まり、赤色のマフラーの様な物を付けている。

 手には赤色ベースに黒色のラインが歪に入った大きな大剣を持っていた。峰の部分には、黒色の鶏冠の様なトゲトゲが付いている。


「トレンタミーラ……これで、貴方は私を見縊る事は出来ない」


「それはどうだろうね!!」


 ヴァルキリアは突然、神器グラーシーザを振りかざし、光速の斬撃を放つ。だが、斬撃が目にも止まらぬ速さでエティアに近付いた瞬間、まるで時が止まっているかの様にゆっくりになる。


「時が止まってる……いや、ゆっくりと動いてはいるみたいだね。どういう魔法?」


「私の半径五メートル以内は、時がゆっくりと流れているの」


 エティアはゆっくりと近付く斬撃を大剣で弾く。斬撃がエティアの半径五メートルを抜けると、光速な速さで地面にぶつかる。


「時がゆっくりと……ね。貴方の能力も十分に特異なんだね」


「余所見してる場合じゃないよ?」


 すると、ヴァルキリアの足元に突然として赤色の魔法陣が浮かび上がる。その瞬間、ヴァルキリアは全身に重りが付いてるかの様に体が重く感じた。

 否、赤色の魔法陣の上では、時がゆっくりと動いているのだ。今この世界でヴァルキリアだけが時間の流れが遅く、見る物、聞こえる物全てが遅れてヴァルキリアに届く。

 すると、ゆっくりだがヴァルキリアの全身に桃色のテラが纏い始めようとする。


「何かしようとしても無駄だよ。今貴方がいる場所は時間の流れが遅いから、それよりも速く対処が出来るの。まぁ、私のこの声も貴方に届くのに時間が掛かるんだけどね」


 そう言葉にすると、エティアはヴァルキリアの元に走り出す。そして、ヴァルキリアに向けて大剣を振りかざす。だが、その瞬間――、


「――っ!!」


 突然ヴァルキリアの腕が元の速さに戻り、大剣を神器グラーシーザで防ぐ。そしてすぐさまエティアの腹部に蹴りを入れて蹴り飛ばす。


「ぐっ!! そんな……時間はゆっくりと動いてる筈なのに……」


 ヴァルキリアは赤色の魔法陣から出ると、大量の桃色のテラが全身から溢れ出す。


「簡単な事だよ。時間が遅く流れてゆっくりとしか動けないなら、自身の速力を飛躍的に上げて、遅れてる分を元に戻せばいいだけだよ。まぁ、時間が普通に流れてる場所だと、今の私は通常の何百倍も速く動ける事になるけどね」


「まだ子供なのに、こんなにも戦闘に慣れてるなんて……」


「お姉さんだってまだ十代でしょ? こんなんじゃがっかりだよ。もっと私を楽しませてよね」




 ――一方、ガガファスローレン国の国王女であるアスナ・グリュンデューテは、『大罪騎士団』のメンバーの一人、『怠惰』を司る、ファルフィール・オルルカスと睨み合っていた。


「チッ、『戦女神』が相手とか、くそ面倒臭ぇんだけど」


「卿等とは戦いたいと思っていた。拍子抜けにならない事を願っているぞ」


「それはこっちの台詞だわ。『戦女神』が雑魚とか逆に面倒臭ぇって」


 ファルフィールは気怠そうに手を翳す。すると、アスナが突然太刀を横に振りかざし、何かを弾く。その瞬間、アスナの横の地面が大きく抉れる。


「あ? まさかとは思うけどさ、見えてんのか?」


「目に見えないとは聊か不思議だが、感じる事は出来た。不可視程度の攻撃では、余を楽しませる事は出来んぞ」


「くそ怠いな、お前」


 ファルフィールはそう言うと、翳していた掌を握る。だが、アスナはまたしても何かを感じ取り、全身に紫色の雷を纏わせて防ぐ。


「是非にも及ばず……余が本気を出すまでもないか。『大罪騎士団』とやらは、どうやら拍子抜けの様だな」


 アスナは太刀に紫色の雷を纏わせると、一気に縦に振りかざす。その瞬間、大きな紫色の雷がファルフィールに向かって落ちてくる。

 目が眩む程の眩い光を放ち、世界の音を遮断する程の雷鳴を轟かせ、紫色の雷はファルフィールに直撃する。

 だが、その瞬間に紫色の雷は徐々に凝縮し始め、小さな球体となってファルフィールの足元に転がる。


「『戦女神』ってのは、どうやら拍子抜けの様だな」


 怠そうに頭を掻きながら、アスナの言葉をおうむ返しするファルフィールに、アスナは目を細めて見つめる。


「余の魔法を球体にした?」


「あんたの魔法は俺には効かねぇ。さ、どうやって戦う?」


「挑発のつもりか? 反吐が出る」


 アスナは地面を勢い良く蹴り、ファルフィールの目の前まで一気に詰め寄る。太刀を横に振りかざし、斬りかかる。


「答えは肉弾戦ってか。悪いけど、肉弾戦は面倒臭ぇから無しで」


 アスナの太刀がファルフィールに触れる寸前で何かに防がれると、ファルフィールは先程のアスナの魔法を球体にした物を拾って、親指で弾く様にアスナの方へと投げる。


「自分の魔法を喰らって死ねや」


 その瞬間、球体から突然として紫色の雷が放電し始める。そして、その場で大爆発して白紫色の爆炎が球体状に広がっていく。

 地面を抉りながら広がり、やがて爆炎が消えていくと、そこら一帯は更地と化していた。

 これ程の爆発をアスナ諸共ファルフィールも受けている筈なのに、無傷で平然とファルフィールは立っていた。


「こんな規模で本気じゃねぇって化け物かよ。つっても、それが効かねぇ俺はもっと化け物か」


「――余を化け物扱いとは、大した者だな」


 突然アスナがファルフィールの背後から現れ、太刀を背中に向けて突き刺す。だが、ファルフィールに触れる寸前に太刀は何かに防がれる。


「背後を取ったつもりなら甘ぇな」


「この感触……まさか、空気で防いでいるのか? それなら、これはどうする?」


 すると、アスナの持つ太刀から紫色の雷が放出し始める。すると、ファルフィールは素早くその場から離れてアスナから距離を取る。


「成る程、背後からの魔法は小さな球に変える事は出来んのだな。それから、卿の能力は空気系という事か」


「チッ、勘がいいな。あんたの言う通り、俺の能力は空気を操る事だ。それから、前方向百八十度は魔法そのものを凝縮出来る範囲だ。でもよ、俺の能力が分かった所で、あんたの勝率は上がんねぇ」


「不可視というのは、空気だからか。今まで余が相手してきた中では、卿が一番強いだろうな」


 紫色の雷を全身に纏い、雷鳴を轟かせながら立ち尽くすアスナを見やるファルフィールは、怠そうに頭を掻いていた。


「本気じゃねぇのに、この威力を放つあんたも十分に俺が相手してきた中では強いわ、面倒臭ぇけど」


「卿としては、相手の魔法を凝縮して球体にし、自らもその魔法を使える所は驚いたな。だが、余が自分自身の魔法でダメージを受けないのは誤算だったか?」


「フン、成る程な。あんたのその雷は防御魔法としても使える。魔法や武器を防げる上に、素手だと逆にこっちがダメージを負う。女のくせに考えたな。これが、『戦女神』の所以か」


 ある意味無敵とも言えるアスナに、ファルフィールは苛立ちを募らせていた。

 全ての事が面倒臭いファルフィールにとっては、アスナとの戦闘は面倒この上ない。


「卿の特徴が分かったのなら、それに合わせた戦い方をすればいいだけだ」


 そう言うと、アスナはその場で太刀の剣先をファルフィールに向けて構える。

 そして、そのまま太刀を一気に突き出す。その瞬間、雷鳴を轟かせながら、紫色の雷の細長い糸の様な斬撃がファルフィールに向かっていく。


「だから、魔法は効かねぇって言ってんだろうが――っ!!」


 斬撃がファルフィールに近付き、球体状に変化させようとした瞬間、眩い光を放ちファルフィールの視界を眩ませる。

 すると、アスナは一瞬にしてファルフィールの目の前へと移動すると、紫色の雷を纏わせた太刀をファルフィールに突き刺す。


「ぐっ……!!」


「ほう、刺さる寸前に手で軌道をずらしたか。急所は間逃れた様だな」


 左胸にある心臓を目掛けて突き刺した太刀は、ファルフィールの右胸を貫通していた。


「がは……考え……たな、クソ女が……!!」


「気付いたか? 今の余の一撃は雷で斬れ味を上げ、空気をも切り裂く。卿の空気の防御は意味を成さなかったな」


 アスナはゆっくりと太刀を抜き、ファルフィールを蹴り飛ばす。地面を転がり、そのまま倒れ込むファルフィールを嘲笑うかの様に見つめる。


「やはり、拍子抜けだったか」


 すると、ファルフィールは徐に立ち上がる。太刀が突き刺した部分の傷穴からは血が流れ、『大罪騎士団』の騎士服である白色の部分が血で滲んでいた。


「あんたは……やっぱり『戦女神』だな……クソが……痛ぇことしてくれんじゃねぇかよ……」


 その瞬間、突然としてアスナの視界からファルフィールの姿が消える。アスナがそれを理解するコンマ何秒かの差で、ファルフィールがアスナの目の前に現れ、アスナを殴り飛ばす。


「ぐっ!?」


 アスナを纏う紫色の雷で、殴ったファルフィールの拳から血が溢れ出す。だが、痛い素ぶりなど一切見せず、不敵な笑みを浮かべていた。

 アスナは体勢を整えて立ち上がると、今起きた事を不思議に思っていた。


「まだそんなに動けたのか? 余の雷で卿もダメージを負うと知っている筈だが……」


「フン……『怠惰』の異能にとっちゃよ、あんたのそれは俺からすりゃ好都合なんだよ」


「『怠惰』の異能だと?」


 すると、ファルフィールの全身に赤色のテラが纏い始める。そして、アスナを強く睨む。


「ダメージを負えば負う程、俺は強くなる。殺さねぇ限り、あんたに勝ち目はねぇぞ」


 『怠惰』を司る、ファルフィール・オルルカスの特異な能力を前に、百戦錬磨の『戦女神』アスナ・グリュンデューテは、初めて恐怖を感じた。





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