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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第96話 『エルザヴェートの誤算』


 ――エルヴァスタ皇帝国では、エルヴァスタ皇帝国皇帝陛下であるエルザヴェート・エルヴァスタにより緊急招集された、六大国の王が集まっていた。

 ガガファスローレン国の国王女である、アスナ・グリュンデューテとサウディグラ帝国の国王である、マハード・ゲルマンドと一緒に居た、卓斗とユニも六大国協定会談に同席していた。


 その場には、シルヴァルト帝国の国王ムシルハ・ディバードや、マッドフッド国の国王女エティア・ヴァルミリア、そのお付きで同席した、ヴァリ・ルミナス、ティアラや、アスナの側近であるサム、マハードの側近であるフィトス、セシファや、ヘルフェス王国の国王であるウォルグ・エイブリーとその娘であり、卓斗とは友人でもあるエシリア・エイブリーの姿があった。


 ここで話された内容は、『大罪騎士団』についてだ。世界を終焉へと導こうとする組織を、六大国の王が共通認識する必要があった。

 かつては世界を巻き込んだ戦争を三度に渡って繰り広げてきた六大国だが、今ではこうして休戦協定を結び、手を取り合おうとしている。



「――黒のテラについては、ひと段落じゃな。じゃが、これからの『大罪騎士団』との戦闘を踏まえて、妾ら六大国の結びを強固たる物にしなくてはらなん。それを弁えてくれるかの? マハード」


 エルザヴェートは扇子で顔を仰ぎながら、サウディグラ帝国の国王、マハード・ゲルマンドに視線を向ける。

 マハードは唯一、休戦協定を結ぶ際に反対していて、エルザヴェートとは確執があった。


 休戦協定が結ばれたのは今より十六年前の事で、この場にいる殆どはその当時、王の座に就いていなかった。

 エルザヴェートとマハードの二人だけが、当時も王の座に就き、休戦協定を結ぶ会談に出席していた。


「正直、当時の王達の事は好いておらんかったからの。手を取り合うなど、話にならんと思っていた。それは、今でも同じだ。何事も若者化しつつある世界で、わしと上手くやれるとは思わん」


「卿の話を聞いていると、聊か笑えてくるな」


 マハードの言葉に棘を指したのは、ガガファスローレン国の国王女アスナ・グリュンデューテだ。


「若者化しつつあるのは、いい事だと余は思うが? 若い者が力を付ければ未来は安泰し、国の軍事力も上がる。老いぼれていく卿らは、力が衰えていく一方だろ」


「ふん、小娘が戯言を。わしが言うておるのは、国のトップに若者が就く事を言っておるのだ。現に、マッドフッド国の国王女を見てみろ。まだ十九歳の未熟者だろ」


 マハードに非難されたエティアは、苛立ちの表情を見せながらマハードに睨みを利かせ、


「私が未熟者? 確かに、私は争いを好みませんし、人を殺める事なんか絶対に出来ません。ですが、貴方に未熟者だと言われる筋合いはありません」


「平和主義者が国のトップに立てば、下の者も付いて来ないぞ。エティア殿だけでない、アスナ殿もムシルハ殿も、王の座に就くには若過ぎるのだ」


「マハードさん、俺からも言わせて貰ってもいいですか?」


 そう言って手を挙げたのは、ヘルフェス王国の国王ウォルグ・エイブリーだ。


「俺もアスナさんと考えは同じで、王の座に就くのに年齢は関係ないと思ってます。国を守れる程の実力、統率力、経済力、そして信頼度。それらを兼ね備えているのなら、若い者が王の座に就いても、問題は無いと思いますが?」


「わしからすれば、ウォルグ殿もまだまだ若い。王族エイブリー家の王と言えど、経験はまだまだ足りん」


「年齢で物事を話すのであれば、妾から見たマハードも小僧に見えるがのぅ?」


 マハードに対して、嫌味の様にエルザヴェートがそう言葉にした。エルザヴェートは禁忌の魔法、不老年珠を自らに掛け、当時の十歳のまま歳を取っていない。

 その当時から計算すれば、エルザヴェートの年齢は千三百歳になる。自身の十分の一にも達していない年齢であるマハードなど、赤ん坊に見えるのも仕方がないであろう。


「陛下にそれを言われるのは、侵害ですな。そもそも、本来なら既に存在しない筈の人だからの」


「昔からマハードは、妾に対して敬意というものがないのぅ」


「ふん、陛下は元々、世界の敵だった人物。考えを改めたとは言え、またいつ世界を滅ぼそうとするか分からん」


 エルザヴェートがかつて、世界を終焉へと導こうとしていた事を、この場に居る者は殆どが知っていた。

 何せ、マハード達から見れば、今のこの時代や世界を創った先人が目の前に居るなど、不思議な話でしか無かった。


「ま、確かに千三百歳っていうのは、ずば抜けて不思議ですけどね。大体、何故禁忌の魔法をお創りに?」


 ウォルグからの質問にエルザヴェートは、


「妾が禁忌の魔法を創った理由、かの。なんにせよ、妾が生まれた時代は魔法が少なかったからのぅ。テラを宿す者が徐々に増え始め、この世界が魔法の世界へと創られていくと確信した妾は、生きる術を持つ為に、フィオラと共にあらゆる魔法を創った。その一つが禁忌の魔法であり、その一つが黒のテラという事じゃ」


「陛下様のお話を聞いて、一つ疑問に思ったのですが、何故黒のテラをお創りになったのですか? 不老の禁忌魔法は、何となく理解出来ます。陛下様の当時の年齢からしても、十歳くらいの子供が考えそうな事ですから。ですが、黒のテラを創った理由が分かりません」


 エルザヴェートにそう質問したのは、マッドフッド国国王女エティア・ヴァルミリアだ。


「黒のテラを創った理由は、不老の禁忌魔法と概念は同じじゃ。増えつつある魔法に勝る魔法を創ろうとした時、自ずと答えはそうなっていった。他の魔法を無効にし、普通のテラでは創り出す事の出来ない能力を持ち、世界を統べる。当時、国というものが存在せず、領地争いは激化していた。その上、テラを宿す者が増え、その領地争いは更に規模を大きくした。そこで妾とフィオラは、友を集めて国と呼ぶ領地を創った。それが、エルヴァスタ皇帝国じゃ。最初は国と言っても、人数はたったの六人。妾とフィオラを含め、そこに居るティアラとセシファ、そしてシャルとイオの二人だけじゃ。簡単に大勢の人間を殺める事が可能になった世界を、平和な世界へと戻す為に、黒のテラを創った。誰にも負けず、世界を統べる力を創り、妾らはエルヴァスタ皇帝国を中心として世界を平和へと導いた。そこから、世界は徐々に国を創り始めた。じゃが、黒のテラを創った上で一つ誤算があった」


「誤算?」


 エルザヴェートの話に、全員が真剣な表情で聞いていた。特に卓斗は、何か少しでも情報を聞き出そうと、誰よりも真剣だった。


「黒のテラは、フィオラの『創造』のテラの能力で創り、それを周りの者に与えた。じゃが、その黒のテラの強過ぎる力に、対抗出来ん者が出て来た。それが、妾じゃ。黒のテラの本来の力を抑える事が出来ず、妾はその力に堕ちた。そして、その力は『堕天』(ファーレン)と呼ばれていた」


「『堕天』(ファーレン)……」


「左様。テラそのものの力の事じゃ。どういう原理かは知らんが、テラが人へと宿る段階で、テラの力は制限される。黒のテラには、そのリミッターが無い。そこに居るタクトも経験はあると思うが、リミッターの無いテラを使用すれば、直ぐに力に呑み込まれる。今では時代も進み、リミッター解除の方法が見つかり、テラの段階を踏める様にはなっておるがのぅ」


 卓斗が黒のテラを使い、時々自我を奪われる事があった。周りの声が聞こえず、自分自身の意識すら無い。

 エルザヴェート曰く、それは『堕天』(ファーレン)だという事だった。


「テラの段階……『覚醒』(リスベーリオ)の事ですか?」


「その通りじゃ、ウォルグ。『覚醒』(リスベーリオ)は、本来のテラの力の近くまで引き上げる事が出来る。じゃが、それは危険な事じゃ。制限してあるリミッターを解除し、本来のテラへと近付けば、人間は簡単に死ぬ。本来のテラ量など、人間の体では保つ事など出来んからのぅ。妾が知る限り、本来のテラ量を保てるのはフィオラだけじゃ。だから、フィオラは黒のテラを持ってしても、その力に呑み込まれる事は無かった。じゃが、妾とイオはそれに耐える事が出来ず、暴走した。妾はフィオラによって、力が封印された為、今もこうして生きておるが、イオはその力に完全に呑み込まれ、命を落としたのじゃ……」


「じゃあ、テラを宿している人なら、誰でも『世界を終焉へと導く力』である、『堕天』(ファーレン)に行き着くって事か?」


 卓斗の質問に、エルザヴェートは静かに頷いた。そして、扇いでいた扇子を畳むと、


「簡単に言うと、そういう事じゃ。じゃが、本来の人間ならば、『堕天』(ファーレン)する事は殆ど無い。むしろ、リミッターを完全に解除する事など、普通の人間では不可能じゃ。テラ量が足りん上に、解除した瞬間に体は一瞬にして破裂するじゃろうな。まるで、空気を入れ過ぎた風船の様にのぅ。まぁ、極稀に『堕天』(ファーレン)の力に耐えた者も居ったがのぅ。自我は失っていたが、見た目は人間とは呼べる様なものでは無かった。正しく、堕天の名に相応しい悪魔じゃった」


「聊か信じ難い話だな。テラの力に人間が負けるとはな」


 エルザヴェートの話に、信憑性を感じ取れないアスナが、そう言葉にした。


「アスナ、其方は勘違いしておる。テラはこの地球上の源じゃ。地球規模の源を、たかが人間が扱えると思えるかの?」


「地球上の源だという証拠は何も無い。現時点では、卿の話は信じれん。だが、黒のテラの話は信じる。現に、証拠となる者が居るからな」


 アスナはそう言うと、卓斗とフィトスに視線を向ける。卓斗の隣に居たユニは、話を聞いてより一層不安な表情を浮かべていた。


「黒のテラには、そのリミッターが無いんですよね?」


 ユニからの質問にエルザヴェートは頷き、


「じゃから、『堕天』(ファーレン)し易いという事じゃな」


「先輩……大丈夫ですよね……? 今日の朝に会ったばっかですけど、今日一日の内容が濃くて、不思議な感覚なんですけど、もう何年もずっと一緒に居る様な感覚で、もし先輩がそんな事になったら私……」


 すると、卓斗は優しい笑顔で微笑みながら、ユニの頭を撫でて、


「心配すんな、ユニ。俺はそんなダサい事で、自分の物語を終わらせるつもりはねぇし、この世界も終わらせねぇ。俺はさ、守りたいもんが増えたんだよ。だから、自分の手でそれを傷付けるなんて、絶対にしたくねぇからよ。必ず、救ってみせる」


「信じますよ? 約束して下さいね?」


「あぁ!!」


 卓斗の言葉や表情を見て、ユニも少し安堵した。会ったばかりだというのに、こうも親しみやすいのは不思議な感覚で、これが異世界の醍醐味なのかと、卓斗も思っていた。

 共に困難に立ち向かおうとすれば、自ずと関係は深くなる。争いの無い日本では、あまり経験の出来ない感覚だった。


「にしても、卿がこうも運命の中心に居るのは、聊か不思議だな。世界に愛されているのか、または世界が卿を求めているのか……不思議な男だ」


「確かに、そうですね。タクトくん? は、不思議な感覚があります。まるで、この世界の人間じゃ無い様な不思議な感覚が」


 エティアの言葉に、全員が納得の表情をしていた。卓斗から感じ取れる不思議な感覚は、この場に居る全員が感じていた。


「俺は元々、この世界の人間じゃ無いですからね。日本って国から来た、只の高校生だったんですけど……」


「ニホン……聞いた事の無い国だな。それはそれは、研究のしがいがある」


 日本に興味を持ったのは、シルヴァルト帝国の国王ムシルハ・ディバードだ。


「あ、そうだ。エシリアの親父さん、聞きたい事があるんですけど」


「あー、さっき言っていたな」


「トワ・カジュスティンって人と、ヨウジって人と、アッくんって人の事を聞きたいんですけど……何か知ってますか?」


 その名を聞いて、ウォルグの表情が少し強張ったのが分かった。


「そうか……そういう事か……成る程、君が……けど、その話は俺に聞く話じゃない。タクトくんが聞くべき人に聞く話だ」


「俺が聞くべき人……それは……」


「んー、それくらいは教えてもいいか。――龍精霊シャルだ」


 ウォルグの口から出た名前に、卓斗の中で確信が付いた。フィオラとの邂逅の際も、フィオラはウォルグと同じくシャルに聞けばいいと言っていた。

 つまり、龍精霊シャルと会えば、卓斗の知りたい事が全て分かるという事だ。


「龍精霊シャル……でも、何で俺が聞くべき人ってのが、そのシャルって人何ですか?」


「それも、龍精霊シャルに聞けば分かる。タクトくんが知りたい事全てを教えてくれる筈だ」


 すると、話を聞いていたティアラが割って入って来る。


「僕ちゃん、シャルと話をしたいなら、僕ちゃんがシャルの契約者になるしかないよ?」


「契約者……」


「そうっスよ、タク兄。ヴァリやフィトスと同じ、龍精霊騎士になるっス!!」


 龍精霊騎士ヴァリ・ルミナスと龍精霊魔導師フィトス・クレヴァスの二人を見ていて、龍精霊シャルと契約を交わす事は悪い事では無いとは思える。

 だが、龍精霊シャルと契約を交わすという事は、あの悪辣なる龍と対峙しなければならない。

 セラと三葉を瀕死まで追いやり、エレナと自分自身を苦戦させた龍を相手に出来るかが、何より心配だった。


「ティアラ、契約の仕方って……」


 卓斗がティアラに契約の仕方を聞こうとした瞬間、会談室に突然エルヴァスタ皇帝国の騎士が、血相を変えて飛び込んで来る。



「――大変です!! マッドフッド国が!!」


「マッドフッド国がどうしたのじゃ」


「『大罪騎士団』の者が襲撃し、国の半分が壊滅との事!!」


 騎士からの一報を受けて、エティアが驚きながら立ち上がる。


「壊滅!?」


「くそ……!! あいつら……!!」


 卓斗が苛立ちの表情を見せ、会談室を出ようとすると、エティアが呼び止める。


「タクトくん!! 貴方が行く事ないわ。国王女である、私が行くべきだから!!」


「いや、俺も行く!! あいつらを見過ごす訳にはいかねぇから!!」


「なら私も行きます、先輩!!」


 ユニも卓斗の元に駆け寄り、そう言葉にした。


「は!? 危ねぇから、お前はここで待ってろ!!」


「嫌です!! だって、今日は先輩との課外授業なんですよね? だったら、私も行きます!! てか絶対行きます!!」


「あーもう、分かった。その代わり、俺から絶対に離れんなよ。『大罪騎士団』の連中は、本気でヤバイ奴らだからな」


 そう言って、卓斗とユニは会談室を走って出て行く。その後を追う様に、エティアとヴァリ、ティアラも会談室を後にする。


「余等も行った方がいいか?」


「そんなに助けたいのなら、アスナ殿一人で行けばよい。悪いが、わしは他国の援護をする暇があるなら、自国の守備の強化をする必要があるからな」


 友好的な態度を取るアスナを他所に、マハードはあくまでも独立した考えを持っていた。


「まぁ、俺もマハードさんに賛成だな。対『大罪騎士団』に向けて、研究をする必要があるんでね」


「最初から卿等には期待はしておらん。ウォルグ、卿はどうする?」


「んー、俺が直々に行く事は難しいが、うちの騎士団の者が行っちゃったからな。援軍を送る手続きはする」


「そうか。なら、直ぐにそうしてくれ。余は今からマッドフッド国へ向かう。『大罪騎士団』とやらを、見てみたいのもあるしな。行くぞ、サム」


 そう言うと、アスナは立ち上がり会談室を後にする。その後をサムも付いて行く。六大国協定会談は、マッドフッド国壊滅の一報をもって閉幕した。



 ――マッドフッド国では、グランディア騎士団と『怠惰』を司る、ファルフィール・オルルカスが対峙していた。

 グランディア騎士団第三部隊隊長ラシャナ・ユニファースの能力により、『憤怒』を司る、セルケト・ランイースが砂に閉じ込められ、ファルフィールは一人になり不利かと思われたが、状況は違っていた。


「ハァ……ハァ……何なの……こいつ……」


 グランディア騎士団の隊長格である、リューズベルト、クザン、ラシャナ、シュリ、ガイエンは、全身傷だらけで意識朦朧としていた。

 それに比べ、ファルフィールは無傷で悠々と立ち尽くしていた。


「おいおい、隊長格が五人も揃っといてさ、俺に勝てないって、逆にめんどくせぇんだけど」


 『怠惰』を司る、ファルフィール・オルルカス一人に、グランディア騎士団は苦戦を強いられていた。

 その圧倒的なまでの強さに、ヒナも思わず息を呑んでいた。そして、心の中で願ってもいない、思ってもいない言葉が浮かび、言葉として口から溢れる。



「――この人には……勝てない……」



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