素材調達.03
歩き始めて初日、早速野宿の時間が来た。
丁度目的地の真ん中辺りだ。
もう町からだいぶ離れた。義眼を外し、いつも通りの布を巻く。
服装もいつもの格好に巨大なハンマーを携えただけだ。
じゃあ夕飯にするか。
と、その時。
ガサガサと近くの茂みが揺れた。
「誰?」
「やはりキキョウ・マスハナじゃないか‼︎ここで捕らえさせてもらうぞ‼︎」
「…誰?」
誰こいつ?格好的に憲兵だと思うけど。
「は⁉︎俺だ!お前にこのランスを作ってもらった!」
「…いや、知らん」
「ほら!キスされた‼︎」
「武器作る際は全員老若男女関係なしにしてるから尚更知らん」
本当に誰?
「さっき街で絡んだ!」
「………あ、ストーカー」
「違う!」
「…追っかけ?」
「違う‼︎」
「変態」
「何故⁉︎」
一々煩いな。何なんだよ。そして誰だよ。お前なんぞ知らん。と言うか何要?
「だーかーら!お前を捕縛しに来たんだっつってんだろ‼︎」
「何故?」
「お前がリディア様を殺したからだ‼︎」
?
リディア?…あーあーあー。
「あの時の…ウザい奴」
「覚え方‼︎」
「え?間違ってないだろ?お前=ウザい奴ってのは物理法則よりも確実なこと?」
「ちょっと⁉︎」
適当にからかいながら夕飯の支度を続ける。今日はステーキとスープ。後は飯だ。
飯を飯盒で炊きながらステーキを焼き始める。同時に肉についていた骨で出汁を取り、スープも作る。
ステーキの脂でソースも作る。うんうん、良い出来だ。
「…何してる?」
「…やらんよ?」
「いやそうじゃなくて‼︎何をしている‼︎」
「見ての通り飯作りだ」
見て分からんのか?馬鹿なのか?阿呆なのか?死ぬのか?
「いや死なないけど⁉︎」
「死なないのかよ…寧ろ死ねよ」
「何か今すごい不吉なこと言わなかったか⁉︎」
煩いな…あ、ステーキ旨。
スープもなかなかの出来だな。
「…」
グゥ〜キュルルルル…
憲兵の腹から子気味良い音がする。
「おい…」
「ち、違う!これは…あれだ!そう!…腹を壊したんだよ‼︎」
「…ほれ、食え」
「…は?」
面倒臭くなりステーキを一切れ差し出す。早よ食え。
「いやだから腹が減っ…むぐぅ⁉︎」
少し口を開けたので捩じ込む。全く黙って食え、煩い奴め。
「…モグモグモグ………旨⁉︎」
「へいへい」
目を丸くする憲兵を放置しながら口を動かす。
と、再びガサガサと茂みが揺れた。
そこから出て来たのはゴブリン。
「ま、魔物⁉︎くそッ!仕留め…」
「おいで」
「…へ?」
ゴブリンが出て来た瞬間、憲兵はランスを構えるが私はもう一枚のステーキをフォークに刺して差し出す。
「ぐぎゃ?」
「な、何を⁉︎」
「スープもあるぞ?」
「ぐぎゃ♪」
ゴブリンはニコニコしながら寄って来て…飛び掛かってきた。
が、それを唯一生身の右手で首を掴んで受け止める。
「…燃え盛れ焔百足」
途端に右手を赤い火炎が纏わりつく。百足のような形のその炎は腕を覆い終わると赤い装甲になった。
その温度、実に二万度越える。
ジュウゥゥゥ!
ゴブリンの喉が焼ける。
「ぐぎゃあぐえげがぁぁあ⁉︎」
「燃え尽きろ」
ボン!
熱に耐え切れなかったのか、頭がまるで温まった水風船のように弾けた。
腕に付着した血や肉がジュウジュウと音を立てながら焼け焦げる。
「…な、何だよそれ」
「魔法」
「そうじゃ無くぐぇ⁉︎」
振り向きざまに鳩尾に肘鉄を叩き込む。身体をくの字に曲げ倒れ込む憲兵。
「ストーキングは程々にしておけよ」
おそらく聞こえてないだろうが一言そう言ってその場を後にし、野営地を移動した。