食卓
ったく…何だったんだあの憲兵は?
「姐さん…そろそろ飯の時間でありやす」
「ん。キッチンに手伝い五人ほど寄越しといて」
私が金床で別の冒険者の依頼の剣を作っているとチンピラの一人が…まぁ今は従業員だが…飯の用意の時間を教えてくれた。
ふむ…ま、いい感じのかとこだから一回ここで切り上げるか。
私は立ち上がると腰巻きと作業ズボンをぬぎ、パンツとシャツだけとなる。
別にセクシーでもなんでもない。何せもう体のほとんどは機械で補っているのだから。何でこうなったかは今は伏せさせてもらおう。
カシャン、カシャンと義足の足音だけが廊下に響く。
キッチンに着くと既に五人きっかり待機していた。勿論、私謹製の厨房服と包丁を携えて。
「姐さん!今日も上で経営しているレストランは大繁盛でした!今日の飯は何にしやしょう⁉︎」
「今日は…油そば」
「あ、アブラソバ?アブラソバとは…?」
「新しいメニューでしょうか⁉︎」
新入りのチンピラコックが食いつく様に私に聞いて来る。確かに新メニューだな。
「ああ」
「作りましょう!姐さん!何を用意すれば⁉︎」
「このメモに書いてあ…」
「分かりやした!取ってきやす‼︎」
…元気なのは良いけど、話は聞こうね?
ほら、先輩チンピラコックも呆れているぞ?若いのは良いが若さ故の失敗もあるからな?
「姐さん…あっしらには何をさせるのでしょうか?」
「ラードはここにあるから出汁取りだ」
「ら、ラードで出汁取り?」
「ああ、あの新人コックが帰ってきたらニンニク、長ネギ、ショウガなどの香味野菜を加えて低温で加熱する。そうすれば良い出汁が取れる」
「ほぉぉ…その時間は?」
時間は凄いぞ?
「本来なら半日かかる」
「え⁉︎」
「だから昨日の夜作って置いた」
「…はい?」
私が馬鹿でかい寸胴鍋を四十個程出すと、チンピラコック達は目を点にしていた。うん、やった甲斐があったな。珍しいものを見た。
「…いやいやいやいや!姐さん⁉︎声かけてくだせぇよ⁉︎手伝いやしたのに!」
「お前達の驚いた顔が見たかった」
私が少し微笑みながら言うと全員顔を真っ赤にして目を逸らす。どうした?チンピラだから別に女の笑顔なんざ見飽きてるだろ?
「姐さんはデレるタイミングが分からない上に破壊力が凄まじんスよ」
「デレてない」
「いーえ!デレておりましたぜ!…頼みますから外ではその顔しないでくだせぇよ?」
「?」
「攫われちまいますよ?」
「そしたらお前達が助けてくれるか私がそいつを殺しているかだ…安心しろ」
私がそう言うと何故か全員呆れた顔をしてきた。何故だ?解せぬ。
だってそれで万事解決だろ?何が違う?
「姐さんは…どんな思考回路してるンスか?」
「残念鈍感もそこまでいくと呪いっすよ」
「美人なのに…」
「姐さん…早く婿とか取ってくだせぇよ」
「若とか呼びてえっすよ」
「面倒だし、私は結婚はする気なぞない」
どうせ婚約した所でまた裏切られる。なら婚約なんてしなければ良い。
「ま、今は姐さんの結婚事情より飯っすね!」
「新人はしゃしゃるな‼︎」
「あでっ⁉︎」
新人コックは戻って来るやいなや凄まじい一言を言って先輩チンピラコックに拳で沈められていた。
…面白い奴が入ったな。
私は少し口元を綻ばせながらチンピラコックと共にその日の食事作りに勤しんだ。