1945年
展開がかなり強引ですね(自嘲
「♪せ〜いぎの い〜く〜さ ゆ〜くと〜こ〜ろ〜 だ〜れか阻まん その歩武を
いざ行け〜 つわもの〜 にっぽ〜んだんじ〜♪」
敬礼をしながら歩く、その背後からは、なにか軍歌が聞こえた。
「大丈夫じゃ。妾が付いとる。」
「別に心配しとらん」
「嘘じゃな。」
そう。嘘だった。写真を撮られたり、近所の人から泣きながら激励されたりと、葬式前の手続きみたいな物の先に待っているのは、何だろうか、想像するだけで背筋が寒くなる。
そもそも俺が兵隊に取られるなんていう事自体が信じられなかった。
「で、なぜ徴兵検査もしとらんのに、令状が来たんだ?」
「妾がドイツ政府発行の徴兵検査報告書を捏造しておいたのじゃよ。」
「迷惑な話だな。」
「これ!滅多な事を言うで無い。これでもう妾は疲れたのじゃ。」
紙を見るに、第32連隊と書いてある。
「サイパンに派遣されるじゃないか!」
「前線には送られぬと言ったであろう。妾を信じよ。」
前線には行かぬと言うのだけは安心だった。神様の保障付きだ。これ以上に信頼できるものはない。
…そう思う程度にはヤツを信頼していたのだろう。
俺に割り当てられた兵種は陸軍の例に漏れず歩兵だ。
そこからいく日も経たないうちに地獄の訓練が始まった。
「貴様っ!何を突っ立っておる!きちんと訓練せんかっ!」
今俺が立っているのは、2メートル位の高さのある板の上だ。
「下を見るな!前を見ろ!」
「顎を引かんか!顎を!」
動作一つ一つに苦情が来るのだ。
渡り終わったと思ったら、次は気をつけの訓練。
「腹に力を入れろ!」
続け様に行進の訓練。
「膕を前にしろ!南部!これで何回目だ!」
「す、すみません!」
「歯ァ食い縛れ!」
バチン!
そうだ。何か不備があればビンタが飛んでくる。
数ある地獄の中でも小走りの訓練が一番つらかった。
ある日の夜、俺は一人でこっそり出歩いた。
いや、正確には若年に連れ出されたのだ。脱走と間違われるから荷物は置いて、
暗い草の道をかき分けて、いつも行軍の訓練で使う道を横切り、見晴らしの良い野原に出た。
「今日も訓練で疲れたじゃろう?」
「あぁ、若年か。」
「…お主は下を向いてばかりじゃのう。たまには上を向いてみんか?」
心神喪失の中、言われた通りに上を見た。
「あぁ…」
雲が一変もない空に、星が浮いている。
「あの白い靄の様なものはなんだ?」
「天の川じゃ。お主は見たことが無いのか?」
あれが天の川か。少し見えづらい。見ようとすれば見ようとするほど、景色がぼんやりとしてくる。
「ほれ。」
若年がそっと俺の手を握った。その瞬間、目の前の景色一面に霞が掛かった。
「お主はよく頑張っておる。そのうち慣れる筈じゃ。」
「うぅ…」
赤い目を擦りながら、明日の訓練に備えて舎に戻った。
その日も、夢を見た。
うちの中で何も変わっていない日常が滞りなく続いている。そんな夢を毎日の様に見る。義男がいて、父さんがいて母さんもいて、そして何よりじいちゃんがそばにいる。そして枕の天の川の跡が消えないうちに起床時間になって、またさっきの訓練が続く。いつまでも、いつまでも。
そんなことの繰り返しが二、三ヶ月続いたある日、
俺の大隊がサイパンに送られることになった。
皮肉にも32連隊の一個大隊をサイパンに送る船はというと、
我がという実感は湧かないまでも我らが南部運輸の船だった。
「お前はいつも何をぶつぶつ言ってるんだ?」
河内幸夫上等兵が聞いた。河内は同じ時期に赤紙をもらった同期の桜だ。
衛兵も二人で組んだこともあるような友人である。
「なんでも無い。お前も無いか?写真に向かって話しかけたくなること。」
「…無いわけじゃ無い。私の庄内の家族が恙無いかとか、気になるからな。」
名前に似合わず山形の出身で、農業に関しては人一倍知識があった。
何より俺の第一の友人でる。
この更に四ヶ月後、我が32連隊は、沖縄に送られることとなった。
「どうして前線に行く事になるんだ!」
「途中で弊害が入るはずじゃ。妾を信じよ。」
その通りだった。
鹿児島県沖、
俺は唐突な爆発音で目を覚ました。
「敵襲ーッ!」
「おいっ、みんな起きろ。潜水艦が魚雷を発射してくるぞ!」
水の上でも炎は燃える様で甲板に出た俺の顔は真っ赤に照らされ、凄まじい熱気に包まれた。
「このままじゃ、沈むぞ!早くカッターを下ろせっ!」
「衛生兵ーッ!火だるまがおる!早く何とかせんかーっ!」
水面に浮かぶボートには人が満員だった。
「南部!手を伸ばせ!」
その中の一つのボートから声が聞こえ、その通りに手を伸ばした時だった。
ガッコーンという金属音と共に、船がボート側に傾いた。
俺は意識を手放してしまった。
結果として俺は生きていたらしく、意識を取り戻した。
「やっと起きたのか!大丈夫か?気分はどうだ?痛いところは無いか?」
目を覚ますと、病院の一室だった。どうやら頭を打ち付けたらしい。包帯が手に触れた。
「おぉ、河内。お前は大丈夫そうだな。うわっ。」
俺の顔を覗き込む様に見る河内の目の前に、いきなり若年の顔が割り込んできた。
「どうした?」
「いや、何でも無い。」
「また、様子を見に来るからな。」
「有難う」
河内が行ったのを見計らって、若年に話しかけた。
「前線に行かずともひどい目にあったぞ。」
「妾は前線に行かぬと言っただけじゃ。それまでの経緯は保証できぬわ。」
いつ死んでもおかしく無いな…これは。
「もう沢山だ。帰してくれ。」
今思えば、どうしてこの言葉が今まで浮かばなかったのかが不思議だった。
「無理じゃ。」
「はぁ?」
「妾の記憶の中で、お主を遡らせたのじゃ。未来の事は妾の記憶の中には無いのでな。」
ぇ、つまり、帰れないって事?
頭の中で何回も彼女の言葉を反芻した。
そう言えば、若年の口調もタイムスリップ前とはかなり変わっていた。
「じゃあ、若年は2人いる??」
「厳密には2人でない。お主が未来で会ったであろう妾は、未来の妾じゃ。」
「どこが違う?」
「人以外の意思を持つ物体は、大抵は60年で記憶が一掃される。容量が保てなくなるのもそうじゃが、何より人間に正確な知識を与えてしまうからじゃ。」
「要約してくれ。」
「つまり、お主と会ったことの無い妾とお主が会ってから60年後、妾と会ったことのないお主が妾とまた出会うのじゃ。」
神の場合、記憶が一掃されるとき、膨大な量の記憶がばら撒かれるらしい。
「じゃあ、お前は、その記憶の中を行ったり来たりしているのか?」
若年は小さく頷いた。
「この怪異から逃れる方法は、お主が妾の記憶がばらまかれる前に、神社から離れることじゃ。」
これは怪異なのか?いよいよ解らなくなってきた。
「それを今言っても後の祭りだ!何故人を巻き込む!」
「それは…」と、若年は困った様に口ごもった。
俺にも理由は大体分かっている。 寂しいのだろう。彼女はほとんど永遠に迷子であり続けるのだから。
「すまん。言いすぎた。」
今の自分に彼女の苦痛をどれほど理解できているか知らないが、少なくとも今俺が味わっている孤独以上の、何か恐怖の様なものを彼女が恒久的に味わっているのだと思うと、同情の念が浮かんでくるのだった。
言い終えると、ふと今まで忘れていた痛みが徐々に戻ってきた。
足や、肋骨、左腕を折ったようだ。五ヶ月は動けない。死ぬほど痛いが、前線に行かないで済むのがまさに地獄に仏だった。
足の回復は東京の病院に引き返して待つこととなった。なにせ動けないのだ。
沖縄になんぞ行けるわけが無い。
そして1月2日のこと、
「聞いたか?」
「ああ。沖縄と台湾にに"超空の要塞"が爆撃したってよ。」
「オラは天理教だべ。オラの上には爆弾はおちんべ。」
みんな気がおかしくなっているのだ。それはそうだ日本が負けるのは殆ど目に見えている。
そんな事など露知らず俺の頭の傷は化膿し毎日、40度超えの熱を出し昏睡状態から覚めたりまた気を失ったりを繰り返していた。
退院が何時になるかわからないという事で、鹿児島から関東に戻る途中にすでに焼け野原になった東京と、自分の社を見て来ると言うのだ。
1945年 1月30日 東京
久しぶりに気付いた夜、俺は外の星を見ていた。誰が死んでも、俺がどうなっても、涙が出ない様になっていた。
そんな時に、突然、夜中の病院の窓の外から太いダミ声が聞こえた。
「お餅は伸ばせば伸ばすほど切れやすくなる。山本五十六大将は間違いを犯した。ミッドウェーで負けたのは、教訓にすべきことだった。ミッドウェーの大敗を気に、これ以上米国に近づくことなしに、サイパン辺りを要塞と化し、中国と国交を正常化させる事を目的とするべきだったんだ。」
「今更言っても遅いですよ中将。なってしまった事は仕方が有りません。」
「いいか!東條に降伏する様に伝えておけ!今なら、天皇制位なら残してもらえる。」
外には、教科書に載っていた様な人物が見えた。
「甘粕!返事をしろっ!これから日本がどうなっても良いのか!」
そうだ思い出した。甘粕元大尉だった。
そう見ている内に、駆け出して行く人物がいた。暗くてよく見えない。
「おぉ、ピンの息子か。大きくなったな。」ダミ声が呼んだが、余計に分からない。
「はい!河内幸夫であります!」
やっと分かった。
「前に会った時は、まだこんなに小さかったんだぞ。どことなくハジメに似ているな。…とりあえず、甘粕!俺は俺のできる事をやる!お前はお前のできる事をしろ!いいな!」
なんと、河内だった。ダミ声の中将は、河内に会うと、そのままどこかへ行ってしまった。
甘粕さんは上官にどう伝えようか迷っているのだろうか。頭をかかえる仕草をしながら、これまたどこかへ行ってしまった。
河内が戻ってきたようだ。
「寒いのに開けとくやつがあるか!」
「いや、外の怒鳴り声が気になって、窓を開けたんだ。中将殿とは誰だ?」
「古い知り合いだ。今は寝ろ。明日話す。」
次の日、俺は河内に昨日の事を聞いた。
「あの人は、山形県に隠れるようにして住んでいる、陸軍の中将です。昔は良くお世話になった。」
「それで、名前は」
「ちょっと耳を貸してくれ」
石原莞爾、そう聞こえた。
「あの、二十二万の兵を一万で破ったっていう… 石原中佐か?」
「しっ!」
「あぁ、すまん。これでは耳を貸した意味が無いもんな。」
気まずい空気になったところで、自分の話に戻した。
「こうしていると、頭がおかしくなりそうだ。毎日40度の高熱が出る。サウジアラビアの平均気温並みじゃ無いか。」
「そうなのか?」
「幻覚を見ることもある。」
「もう一度医者に来てもらうか」
急いで医者の元に向かおうとする河内の裾を引っ張り、止めた。
「聞け。今、俺には未来が見える。」
「なんだって?」
「未来だ。これからどう世界が動いても、神意だと受け止めなければ、日本は廃れて行くだろう。」
これが、負けた日本を見ることになるであろう河内への最大の慰めだった。
「という事は、日本はま…負けるのか?」
「それは…分からん……。」
そう言って、俺はまた意識を失った。
どうやら、意識の無い間はずっと、若年が看病してくれているようだ。
よほど永遠が寂しいのだろうか。
夢を見た。じいちゃんと話している夢だ。
『俺は…俺はいつ帰れるんだ?』
『お前は自分が帰った姿を見ただろう?』
『なんのこと?』
そう訊いたところで、毎回祖父が遠ざかってゆく。
『日本の政治は腐ってゆく。それを、その余命を引き延ばすのが、お前の役目だ。』
毎回それが去り際の言葉だ。
「…ん…」
「どうした、南部?大丈夫か?」
「ひ…ろ…ま」
「広島?広島がどうかしたか?」
「げ…ば…く」
「げんばくってなんだ?」
高熱のせいで、色々口走っていた。
「原爆と云ったか?」
「あゝ、教授。登戸にいらっしゃるんでは?」
「途中で寄ったんだ。この男は物理学者か何かか?」
「いいえ?何でも昔は栄えていた輸送会社の後継みたいですが。」
「そうか。」
河内の話によれば、彼は汗を拭きながら俺の寝言を聞き入っていたようだ。
「これは大変だ!」
「あっ、仁科教授!どこへ行かれるのですか?」
「軍部に知らせなければ!機密情報が漏れた!」
その日の午後、兵隊が来て、取り調べを行った。
「どうした?南部は。」
「今、少し熱が下がってきました。夏が近いので、早めに下がると良いのですが。」
「南部!起きろ!」
「…はい?」
「今から、尋問を行う。この部屋で行うから感謝しろ。」
「何の尋問ですか?」
「貴様とぼける気か!輸送の仕事をする内に、軍の内部情報が貴様に漏れたと、仁科教授から通報があった。何でも、歴史を変え得る兵器の情報ということだ。どうだ?」
「私は…」
耳元で若年の囁いている声に従い、身の上話をした。
「ドイツでの留学中、同級生から原子を利用した爆弾の存在を知りました…それをうまく制御すれば、電力が生み出せることも…」
「それから?」
「それ…それから…、アメリカがもしそれを開発すれば必ず日本の軍事拠点に落とすと確信致しま…した。そこで、上がったのは…小倉…長崎…広島…新潟のどれか二つの都市。」
何とか言い終えると私は、電池が切れたかの如くガクッと、いきなり意識を失った。
確実に何かの力が働いて、俺の熱は長引いている。ある種の核心に至った。
「これは驚いた。上層部に確認に行ってくる。」
結局、原爆投下は防ぎようが無かったようだ。
次に目が覚めたのは、1945年8月15日だった。何がそうさせたのかわからないが、きっと前線に行かせまいとした若年の思惑だろう。
「若年…お前が…」
「もう治っとるじゃろ?早よ起きぬか。河内とやらも心配しておる。」
半年以上続いた高熱が嘘のように治っていた。
「お前が俺を高熱にしたのか。」
「そうじゃ。軍への復帰を長引かせるにはこれしか無かったのじゃ。」
「今回は感謝する…。」
「また寝るのか?」
「あゝ、そうだ。俺もこう高熱が続くと、流石に持たない。」
輸送船の燃料も尽きたようで、河内は沖縄へ行かずに済んだのだ。
「ジジ……耐え難…を耐え忍び難きを…忍び…以って万…の為に大…を開か…と欲す…ジ…ジジ…」
どこで聞いても、聞こえづらい。
外を見ると、ラジオを聞いて頭を下げている人や、訳も分からず立ちすくんでいる人、生き延びたことを噛み締めている人、自殺した人の4種類の人間が見つけられた。
しかしながら大多数の国民は自らの敗北を享受している。
再びそのダミ声が聞こえたのも、そんな時だった。
「みなさん!敗戦は神意なり!何も案ずることはありません!」
何てことを言うんだって云う人もいれば、聞き入っている人もいた。何より俺はその声で目を覚ました。
「石原か…石原莞爾か!」
布団から飛び降り、駆け出そうとしたが、半年も寝込んでいたのだ。その場に転んだ。
「大丈夫か?南部。肩を貸そう。この前耳を貸してもらったお礼だ。」
「ありがとう!」
涙目でバカ笑いをしながら俺たちは講習会を見に行った。
「病人だ!通せ通せ!」
何とか俺は椅子に座ることができた。
「みなさん!敗戦は神の意志です!何も案ずることはありませんよ!
これから日本は一定期間国防費が不要になる!それで浮いた予算を!内政に使いましょう!何も案ずることはありません!前向きになりましょう!」
少しかすれながらもダミ声を上げるその姿はまさに、権力に立ち向かう日蓮上人その物だった。
講義が終わり、石原はこう云った。
「この中に、英語の出来る方はいませんか?何も敵国言語だとかで、一般では教育は禁止されまして、GHQと話すための通訳が希少価値なんです。」
「はいっ!ここにいます。」
「おぉ、幸夫。お前も来ていたか。…そいつは誰だ?」
「ここにいる、南部衷君です!」
「南部か。麒次郎中将とは関係あるか?」
このように言ってはおかしいが、失笑が巻き起こった。
「関係ありません。彼は何でも、南部運送の御曹司みたいで。」
「運送会社の子供なら英語は最低限出来てなければならんからな。他のやつよりは通訳として使えるだろう。よし分かった。南部衷とやら、後で俺の元へ来い。雇ってやる。今は雇口が少ないから、文句はなかろう。」
ここで河内と一旦別れ、石原について行く事になった。
もう家も無い。久蔵たちも疎開。何より俺には居場所がなかった。
すると石原氏は何もかもわかっている風に、
「住所が無いなら、俺の家へ来い。ぼろ家だが5人は住めるだろう。」
と言った。
「ありがとうございます。」
「その前に寄る場所がある。一寸付き合って貰えんか?」
「はい。わかりました。何処まででしょう。」
「宇都宮だ。」
はて、宇都宮に何かあるのかと思案していた時、
「東久邇宮稔彦王じゃよ。」
囁くように若年が入ってきた。
「東久邇宮稔彦王のお宅ですか?」
「そうだ。次期首相には彼がならなければならない。」
宇都宮 東久邇宮稔彦王邸
「閣下、あなたしか居ないんだ。何としても、『一億総懺悔、特高の廃止、言論、出版や集会の自由』を打ち立てて、首相に就いてください!この通りだ。」
「頭を上げてください中将殿。少し考えさせてください。明日には鈴木さんの後に就任します。その後、これらの政策を打ち立てましょう。」
「分かりました。待っております。」
あの有名な一億総懺悔や言論の自由を石原が考え出したと言うのは驚きだった。
教科書には、さも東久邇宮稔彦王自身が考え出したように載っている。
山形行きの三等車。ひどい混み具合だった。
今後数年間はGHQの所為で一等が使えないことを考えると今の内に慣れなければならないのだが。
…今の所は当分無理だ。
「石原さん。」
「何だ?」
「俺が…未来から来た人間だと言ったら…信じますか?」
一拍置いて石原は笑った。
「ハッハッハッ!頼もしいな。これからの日本には、次の時代を見透せる人間が必要だ。」
「石原さんやH.Gウェルズが予言したように、街一つを消し去る力を持つ兵器で争い合えるような時代が、もうすぐ来ます。」
「俺が日本こそが世界の支配者になるべきだと言ったのは、自惚れの為だ。それが故に日本が、世界の平和を乱した事は大いなる反省を要する。」
「あなたは、そのことを大きな声で言わないから、東亜連盟が解散させられるんです!」
「何⁉︎」
石原がその細い目を見開き、驚いた様にこちらを見た。
「いえ、何でもありません。」
「…戦時中、同じ様な事をした団体があった。然し、その大政翼賛会でさえも東亜連盟を解散にまで追い込めなかった。そのGHQとは、そこまで独裁的な政をしていたのか?」
「………はい。」
「ならば、東久邇宮稔彦王内閣も堅く保護する必要があるな。」
暫くして、ガタガタ揺れる電車の中で石原はこう言った。
「その、俺って言うやつはなんとかしろ。目上の人間に向かって失礼だ。」
「あ、すみません。」
「これ、是。あまり未来の事を話すで無い。」
若年も、さすがに忠告したのだった。
8月30日、マッカーサーが日本の厚木飛行場に降り立った。
山形県 酒田市
「石原さん!見てください!朝日新聞ですよ!」
「とうとうやったか。稔彦さん。」
その一面には大きく、東久邇宮稔彦王の『将来言論を盛んに』と『一億総懺悔』が書かれていた。
「という事は東久邇宮稔彦王は、石原さんの意思を継ぐんですか?」
「そういうことだ。」
石原の顔にはどこか不安げな表情が見え隠れしていた。
「東京に…戻る。」
また三等車だ。嫌になる。
…今後数年を考えると更に嫌になった。
俺と石原が東京、国会議事堂に着いた時、焼け野原の至る所にアメリカ軍のMPというヘルメットに書かれた兵隊がいた。
何より噂に聞いて、以前にも"映画"でも見ていたような闇市を通り過ぎた時、
人混みに溢れんばかりにたむろする人の臭いときたら、耐えられないものがあった。
それだけでは無い。驚いた事によくニュースで映っていた国会議事堂の前の広場には、"教科書と同じく"畑が広がっていた。
「皆食べ物がなくて困っているのだ。」
歩きながら、異様な風景を眺めて、石原は口を開いた。
食糧難には石原も、かなり頭を抱えていた。
今の住まいのある山形県ですら、コメや野菜が足りず、餓死する人々も増えている。
「戦前でも、こんなに酷くは無かった…。」
「石原さん!」
誰かが駆けつけてきた。
「これから、日本はアメリカの統治下におかれるのでしょうか?」
「しばらくはそうだろうな。」
「だったら!憲法も法律も、アメリカが作るんですか?」
「憲法をアメリカが作ったんなら、不満か?」
「はい?そ、それは…日本の憲法ですよ!日本人が考えなきゃ意味が無いじゃないですか!」
「いいか、憲法とは、国家の理念だ。人類の理念となるべきものだ。アメリカ人と日本人の理念に何ら違いがあろうか?」
「いヽえ。」
「今や戦争は大義だ。アメリカの統治は、国際世論を気にして永遠には続かないだろう。日清戦争や日露戦争の頃と時代は変わった。君は俺よりも若いだろ。もうちょっと前向きになりなさい。」
「はい。わかりました。」
その男は、夢から覚めた様に景色の色に消えた。
俺は何も言わず、石原について行った。
「石原さん。これから議事堂に行かれるんですか?」
「そうだ。何より田中さんに会わなければならない。」
「出来れば、児玉誉士夫さんと会えませんか?」
「何の理由で、現地人から資源を搾取する様な奴に会う必要がある?」
「船が足りないと思うんです。俺を送る途中でも、会社の輸送船が沈められていましたから。」
すると石原は冗談めかしたように言ったのだ。
「船か。船ならいい船があるぞ。雷撃を受けてもすぐには沈まない船、戦艦長門だ。まだ残ってたと思うが。」
「そこまでの装甲は必要無いと思いますが…」
石原はニヤリと笑い、こう言った。
「日本軍が撤退してからは朝鮮の様子がもう一度揺れそうだ。お前は何か知らんか?」
ドキッとした。そうだ。よく考えれば、あの半島はソ連と、アメリカの統治下にある日本との狭間に置かれた重要な場所だった。
「と、とにかく、俺は、南部運送跡を見てきます。」
「わかった。俺は議事堂にいる。待ってるぞ、あと一人称を直せ。そんなんじゃ児玉に会えんぞ。」
「わっ、ごめんなさーい!」
笑いながら石原も議事堂も遠ざかっていった。
南部運送はここから少し遠い所にある。
歩いて行ける距離であるし、歩いて行くしかなかった。
「あれっ?」
驚くべきことに、南部運送は残っていたのだ。
よく考えたら明治に煉瓦で作られたビルヂングなのだ。内部はともかく、ガワだけなら燃えるわけがない。他にも耐震性を能重視したであろう頑丈な建物も幾つか残っていた。
中に入ると、見覚えのある人影がある。
「ダァ様でねか?ダァ様?
ダァ様、ご無事で何よりです。」
「おぉ、久蔵。疎開は成功したようだな。」
「へい。お陰様で。」
「他の社員は?」
「まだ、帰ってきておりません。」
「残ってる船は?」
「…ひとつもありません。けんど、すぐオラが手配しますんで、心配なされないでくんろ。」
「わかった。俺は元中将閣下に通訳を頼まれてな、すぐに議事堂に行かなければならん。」
「へぃ。お気をつけて。」
船が1隻も無いのでは、南部運送が成り立たん。どうしようか。
今思えばどうしようもないのにどうするか考える辺りに、未来を知っているからこその楽天的思考が垣間見える。
良くも悪くも俺は未来人なのだ。
「石原さん。使用人は無事でした。」
「それはよかった。こっちもこっちで、収穫があった。紹介しよう。この人は児玉誉士夫だ。」
「児玉誉士夫だ。大戦中は、石原さんと入れ替わりで上海におった。」
「初めまして、南部衷です。」
「あいにく、俺には優秀な通訳がいるんでな。悪いが、雇ってくれと云うのは無しだぞ。」
「そういうことじゃ無いんだ、児玉。」
「ならどういう訳だ。」
「今、こいつの会社には、船が無い。」
「ほう。つまりなんだ、この俺に船の手配をしろと。そういう事か。」
口をカチッと鳴らしながら、こっちを向いた。
「手配ではありません。」
「じゃあ何だ?」
「このままでは、マッカーサーに、今ある日本の保有艦は全て接収され、予定調和の如く標的艦として使われます。」
「石原さん、何を言っとるんだこいつは。」
「こいつには未来が見えるんだと。」
石原は窓を見ながら答えた。
すると児玉氏は試す様にじっと俺の目を見た。
「ほう、面白い。聞いてやろう。」
それでも俺は話を続けた。
「その前に民間に払い下げないと…日本の誇りとまで呼ばれた軍艦…そ、そう、長門、戦艦長門がアメリカの手によって沈められることになるんです。」
「ほう、長門か。あいにくだが、今長門は、大洋漁業が借りている。」
「食糧難なんでな、少なくとも漁から帰って来るまでしばらくは手が出せない。」
「民間の会社に、長門を動かすだけの石炭がありますか?」
「それは分からん。」
「不透明でしょう。リスクがあるんです!児玉さんの協力で長門を買いましょう。」
「だが、石炭が無いだろう。」
「戦時中、中国人から脅し取ってたものがあるでしょう!」
ふと石原がにやけ顏でこちらに口を開いた。
「この坊ちゃんには全部見えとる。一本取られたな。証人として裁判に出廷すれば、お前は戦犯確定だ。そうなれば20年はくだらんぞ?」
石原の援護射撃が届いたのか、児玉はほんの一瞬、豆鉄砲を食らったような表情をした。ここまでくると援護砲撃だ。
「痛いところを突かれたもんだ。石原さん。俺はこいつに協力するしか無いようだな。」
「とりあえず南部、お前は帰れ。俺は片倉の家に泊まる。明日は用は無いから存分に海洋漁業と話せ。」
石原の帰った後で、児玉は振り返り
「俺を負かすとは、貴様大物になるぞ。明日海軍省に掛け合う。お前も付いて来い。海軍省前で待ち合わせだ。」
そう小声で言うと、大声で笑いながら児玉は帰って行った。
戦後日本の黒幕のこんな表情を見ることができるのも、未来人の特権であろう。
焼け跡の混乱を知らずに、"高度経済成長期"を知っているからこそ出てくる"余裕"というヤツを俺は享受した。
…この時代の客人である俺は何も分かっちゃいないのだ。
南部運送に帰る途中、若年が話しかけた。
「お主?もしかして、自分が特権を持っておると思っておらぬか?」
「どういう事だ?」
「妾は、詳しい事は知らぬが、お主が妾の記憶の中で事実を改変するとスルじゃろ?」
「そうすると?」
「妾はこう見えて、時を司る神じゃ。時の神の記憶が変わるという事は、世界中にも影響を与える事になるんじゃ。」
「お前って、そんなにすごい奴だったっけ?あれ?って事は、俺は今お前の記憶の中でドタバタやってるのか?」
「信仰を集めるとはこういう事じゃ。これでも神の端くれじゃ。」
こうなると少し話は変わってくる。なぜなら、俺の判断次第で場合によっては高度経済成長期がなかった事になる可能性があるかもしれないのだ。
翌日の事、児玉の直々のお願いとあってか、予想以上の大物が現れた。
当初俺は、海軍省の役人が現れると思っていたからだ。
この人物が予想以上なのは俺が未来人でオチというヤツを知っていたからだろう。
当時の一般人にしたら雲の上の上である。
「海軍大臣の米内光政だ。」
「おぉ、米内さん。いらしたか。こちらは運送会社の次期社長の南部衷君です。」
児玉のヤツのワザとらしい挨拶から話は始まった。
「よろしくお願いします。」
「話は聞いている。戦艦長門を買い取りたいんだろう。今は大洋漁業が借りている。返ってきたらでいいか?」
「いいえ、事は一刻を争います。」
米内はかなり驚いた様な顔をした。当然だろう。天下の海軍相手でこんなにも偉そうな購入側は前代未聞だ。
「すると、大洋漁業の借りている船を、南部運送が買い取るという事になる。そうすると、我々海軍省が約束を破る事になるんだぞ。」
「私が見ているのは、もう少し先の話です。日本は連合国に負けました。ご存知の様に連合国は、一国ではありません。各国が日本から戦利品を勝ち取りたい訳です。すると、どうです?日本軍の持っている数少ない戦利品というのは、戦艦やその他の船、陸軍ですと731部隊の持っている数少ない資料だけです。」
「すると、こういう事か。連合国に長門を接収される前に南部運送が買い取りたいと。」
「そうです。」
「難しい事を言ってくれるな。」
少しの間沈黙が続いた。
「そう…ですね。思いつきました。」
「なんだ?」
「南部運送が長門を買い取って、南部運送が大洋漁業に再貸し出しするというのはどうでしょうか。」
「そうか。そうすると、海洋漁業にも迷惑がかからないな。児玉さんの頼みでもあるから、早速大洋漁業に連絡を入れよう。」
幾ばくも経たぬ内に連絡を聞きつけ、海洋漁業の社員が急ぎ足で駆けつけた。
「大洋漁業の山崎務です。長門を返して欲しいという事ですね?」
「そうだ。もし貸し出しを長引かせたいのなら南部運送からの貸し出しを希望しろ。」
「我々の方は、あなた方と考は根本的に違うと思います。」
「どこがだ?」
「我々はご存知の通り先の大戦で資源を失いました。石炭もない。そんな我々が戦艦なんて大きなものを、使うどころか動かす事も出来ないでしょう。」
「わからん。」
「我々は、南部運送とは違い、長門保存のために借りているんです。」
これを聞くや否やいきなり米内が立ち上がり、こう言ったのだ。
「燃料も持たない会社に、長門が持てるか!このままだと長門は、満足に管理も出来ない君達から、簡単に米国軍に接収されてしまうではないか。早く南部運送に預けないと、長門は日本の物ではなくなるんだっ!わかっているのか!」
戦前の教育だからだろうか、それとも軍人だからだろうか。愛国心に訴えれば不気味なくらいに楽に事を進められるものだ。
愛国心と長門を餌に、当初の予定通り我々は海軍大臣の了承も得られ、晴れて"本命の"輸送船第一号型が調達出来たのだった。
「久蔵ー!船が、船が手に入ったぞ!」
「あらぁ!そらぁ、ダァ様、オラの仕事だんべ!こらぁ申し訳ねえ事しただなぁ。」
「そう言うな。俺も会社の一員だ。」
その後一週間で久蔵は、社員を集めるのに必死で、300人くらい、元社員から復員兵まで根こそぎ取り込んできた。
「久蔵。お前も良くやった。これなら大型の船が一隻動かせる。」
「いいゃ、オラは何もしてねぇ。今雇ってくれる人がいねぇがら、自然と人が集まってくるんだ。」
集まった社員が、一斉にこちらを見た。
「これから、君たちを雇う南部運送の南部衷だ!よろしく頼む。ところで、この中に海軍にいた人はいるか?」
すると驚くほど手が挙がったのが見える。
「そらぁあたりメェだ。オラ達の会社は、船さ扱っとったから海軍に取られた奴が多かんべ。」
だそうだ。何より長門を扱える人手があって良かった。
仕事は翌日から始めたのだが。社長の業務も楽じゃ無い。
今は混乱期、椅子で踏ん反り返る暇の少しも無い。
手始めに、戦争のイメージを払拭す為長門を長門丸と改名し、
児玉から燃料の調達をこぎ着けたりと色々走り回った。
引き上げ兵達を輸送する船が"元"戦艦長門という事で、かなり兵隊達も盛り上がっていた様だが、
コチとら盛り上がる暇も無い。
燃料は児玉から調達し、余裕が出来たら返すという事になっている。
黒幕も大博打に出たものだ。
児玉によると、「坊っちゃんの先行き見通しは絶対だ。これ以上しっかりした投資は無いな!」
と笑い飛ばす始末。
「こんな大きな船、使った事ねぇ!」
引き取る為に横須賀へ来た時、九蔵たちは興奮気味に騒いでいた。
しかし復員兵が盛り上がる一方で、燃料の値段が膨れ上がる一方だ。
そんな中、GHQから直々に仕事の依頼がきた。
若年曰く、
「後々潰す予定の財閥より、斜陽の中堅の方が脅威とならないからじゃろうな」
「長門の購入から目をつけられたのじゃろう」
と考察していた。
…理由がどうであれ、終戦後の混乱の中で安全な仕事が得られる事は幸運以外何者でも無い。
それは硫黄島基地への定期輸送で、
まあ平たく言えば硫黄島に食べ物を輸送すると、大きな小遣いが貰えるというものだ。
「あぁ、船では、時間の面で米軍の仕事に答えられない!」
そう思って頭を抱えていると、ふとじいちゃんの言葉が頭をよぎった。
「久蔵!ちょっと外へ行ってくる!」
久蔵の呼び止める声も聞かずに児玉の元へ行った。
「ほう、飛行機か。」
「そうです!何か良い飛行機はありませんか?」
「そういう事は石原さんに言いなさい。ちょっとばかし古いながらも陸軍が良い輸送機を持ってる。」
そうだ。
身近なコネを忘れてた。思い立って石原に聞いたところ、
石原は懐疑的な目をしながらも、
「占領下のご時世、GHQの許可でもない限り飛行機なんぞ飛ばせないんじゃないか?」
「まぁ物は試しだ。陸軍省に掛け合ってみよう。」
そういうと、電話をかけ始めた。
「片倉か?聞こえるか?ああ、石原だ。輸送屋の社長が、輸送機をほしがっとる様だ。何とか出来んか?俺の通訳なんだ。 ああ、そうか。今は九七式輸送機が貸し出せるか。わかった。会って話そうか。」
「運用許可?、そんだったらお前んとこでやらされてる緑十字の一環って事で頼む。何せコッチはGHQの依頼だ。説明さえすれば許可は出るだろうさ。」
「機数は、まぁ6機あれば十分だ。」
「整備に関してはそっちの人材で頼む。」
今は輸送機ですら終戦の陸軍には使い道が無いらしいのだ。
一週間ほど後にGHQ、陸軍、南部運送の協議が始まった。
『緑十字に於ける陸軍輸送機の運用を南部運送に委託したいという事で間違いは無いですか?』
『その通りだ。』
『ええ、間違いは無いです。』
『わざわざ南部に委託する意図が解りかねるのですが』
『我々南部は緑十字飛行の名義であなた方GHQから依頼された硫黄島定期便を請け負いたいのです』
『荷物に合う大きさの船は殆どが沈められてるもので、今ある船は復員兵輸送に手一杯なもので、航空機のピストン輸送しか丁度いい物が無いのです』
『我々の定期便に"あの鈍物"は大き過ぎますからね』
『まあ当方が依頼した仕事ですから、緑十字飛行の運用機増備と委託飛行については許可しましょう』
『但し、航空機の使用許可は硫黄島便の契約が切れる年末までです。』
『46年以降は日本国籍の飛行機が飛ばせなくなる事をお忘れなく』
こうして、米軍の仕事を航空機で受ける事ができた。
おかげで南部運送の売り上げは上々である。
ある程度余裕が出来たら、郵便等の軽貨物の輸送とかにも手を出してみたい。
この余裕もあと数ヶ月、つかの間の余裕でも最大限利用したいのだ。
実際に、緑十字飛行の航路のうち第一、第二航路の一部座席を民間に開放した。
東京-名古屋-大和-大阪-高松-岩国-大分-福岡-大阪-福知山-富山-新潟-東京
両航路を連結させた環状路線は、戦災復興院の人事移動や郵便輸送等で、思いの外需要があった。
そうして、肝心の石原からの仕事が無いうちに、もうすぐで1946年に入る。
「久蔵!今年も一年お疲れ様だったな。」
早いものだ。
「へいっ!さすがは戦艦ダ。オラの使っとった船でも、こんな広い船はねぇだ。」
砲芯にはセメントを流し込んで、兵器として使えなくした長門は、当初鈍物だと考えていたが
広い甲板や、バルジの空洞に燃料を詰める事が出来るなど、
思いのほか重宝した。
「来年には我が社の燃料輸入ルートと米軍以外からの仕事を始めるぞ。」
その夜、若年が話しかけてきた。
「お主が来てから2年が経った。どうじゃ?もう慣れたか?」
そう言われると、俺は考え始めた。
「どうじゃ?あぁ、……もう寝たか。」
本当に俺は、家に帰りたいのか?そうだ。今では信頼できる社員もいる。
駆け回っても何しても恐れがあまり無いのは、ある程度未来が保障されているからだろう。
よく考えれば恵まれているのかもしれない。