今年もよろしく
「今年も……もう終わりか」
静まりかえった住宅街。
バイト終わりの俺は、空を見上げ呟く。
「思ったより1年って短いよね」
俺の呟きに返してくれるのは、昔から付き合いのある幼馴染。
「1年が始まる頃は365日っていう日数が長く感じるのにな」
異性の幼馴染と2人で静かな住宅街を歩く。
駅前でたまたま会い、そして現在。大学に入ってからは、特に連絡も互いにせず、自然と距離があいた関係。
「大学は楽しい?」
「まぁ、それなり……だな」
「答えになってないよ、それ」
2人の間に恋なる物があったのか。それは分からない。
ただ、一緒にいるのが当たり前だった関係。
「お前こそどうなんだよ」
「私もそれなり、かな」
「同じじゃねーか」
2人で小さく笑う。
幼馴染という関係が彼氏彼女になるのか。おそらく、それはないと思う。
ただ、一緒にいるだけで居心地が良い関係。ただ、それだけ。
「あ、私こっちだから」
「ん、あぁ、そうだな」
気付けば、いつも2人で別れるT字路に。
携帯で時間を確認しながら、目の前の奴とは反対側の道へと進む。
「じゃーな」
「うん!じゃーね!」
夜だと忘れているんじゃないかと思うほど、大きな声で別れの挨拶をして、反対側の道を掛けていく後ろ姿を見詰めながら、俺を踵を返す。
そして、後ろから聞こえるそいつの声。
「来年も宜しくねっ!」
その声に反応して振り向けば、そこにはもうそいつの姿はなかった。
俺はその、俺以外誰もいなくなった住宅街の道を見詰めながら1人呟く。
「もう、年明けしてるから『今年もよろしく』だろ」
除夜の鐘を聞き、1人小さく笑い、そして今年も楽しい1年が来そうだと星瞬く空を見上げながら、1人帰路についた──。
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