今年の穢れ、祓います 2
SSの後編です。次回からは本編に戻ります。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
男の手首を掴んだ竜は、そのまま捻った。
「イテテテッッ」
捻られた痛みに苦悶の声を上げる男。
「離れていてください」
竜は、顔を男の方へ向けたまま女性を離れさせる。
仁美は呆然としていたがすぐに二人から離れる。
女性が十分な距離に達したのを見送ると竜は掴んでいた手首を押した。
男はそのまま前のめりになって地面に倒れた。
「テメェ!?何しやがる!?」
男は怒りの形相を浮かべて竜を睨む。
「何と言われましても参拝客に危害を加えるあなたからこの人を遠ざけただけですが」
睨みに気づかない素振りで受け答える。
しかし、男の表情が変わった。
怒りの表情から品定めをするような表情へと変わっていた。
「へぇ。いい顔しているじゃねぇか。おい!さっきのは不問にしてやるから俺達と来い!」
男はさっきの女性から自分に標的を変更したようだ。
(どれだけ女性に見えるんだ)
竜は内心で自身の顔立ちに対してあきれた。
「生憎ですが、私は、あなたのような迷惑者とは付き合いたくないので」
きっぱりと断らせていただく。それに自分は男だ。それを忘れてはいけない。だが、ここは顔ばれを防ぐために女でいこう。
「それに、あなたと私とでは、つり合いにならないので、とっととお引き取り願います」
そう言って切り捨てた。
「なんだと!」
男はその言葉に癇に障ったのか切れた。
「他の参拝客の迷惑です。すぐにお引き取りください。さもなくば警察を呼びます」
最後通告の如く伝えた。
「へ、そんなこと言っていいのか!俺はその警察と仲がいいんだぜ!」
(あなたの親がでしょう)
内心呟く。
「それが、どうしたのですか」
「なんだと。・・おまッ「警察と仲がいい=何をしても許されるなんてのはありません。あなたの思考は幼稚ですか?呆れてものも言えませんね」
竜は、男の言動を遮る。
竜は相手の男に哀れさを感じた。
「うるせぇ!!」
突然男が竜に向かって拳をふるった。
言葉や権力で駄目なら実力行使か。本当に呆れる。
竜は慌てることなく拳を避ける。
男の殴り方から見て慣れていると感じた。
(こいつ。これまでもこんなことしているな)
ふつふつと怒りが込みあがった。
竜は拳を避けるのと同時に足を引っかけて転ばした。
「うわぁッ!?」
男は再び地面に顔から倒れた。
「いい加減に止めてください。これ以上は、こちらもそれなりの措置をしますよ」
竜は、倒れている男を睨みつける形で告げた。
男は、「覚えてやがれ!!」と叫んでその場から逃げるように立ち去った。
男が立ち去った後には竜に対して賞賛の拍手が贈られた。
竜は「これからもごゆっくりと参拝を続けてください」と言い残しその場を後にした。
控室に戻った竜は
「お騒がせしました」
千葉さんに頭を下げた。
「いいのよ。気にしないで、こっちにとってはありがたかったわ。あいつらはよく悪さをしていて誰も手を出さなかったんだからいい気味よ」
と千葉さんは笑顔でそう答えた。
その後は、竜自身の定時刻となったために竜はそのまま帰宅。
それからそのお寺には、チンピラを手玉にとり、撃退する最強の巫女がいるという噂が流れたのであった。
家に帰宅した竜は、家族に事の顛末を伝えた。
竜が帰ってきた時にはバイト先のお寺から連絡があったらしい。
夕食時にその説明をした。
「なんだ。竜。お前、金的かもっと派手なことをしなかったのか。一本背負いや指を折るとかよ。まったく消極的だな」
「父さん。過剰防衛になっちゃうよ。それだと」
「父さんの頃は、よくやったけどなぁ。思いっきりやって病院送りにしてな」
「時代が違うんだよ。父さん達とは」
「竜。父さんからいい言葉を教えてやる。『ばれなきゃいいんだよ』」
「それ、息子に教える言葉じゃないよね!?」
「あら。竜。お父さんの言うことも一理あるわよ。お母さんだってそれくらいの事はするわよ。その場にいたら」
「母さん!?」
そんな雑談をしながら家族との夕食は過ぎていった。
しかし、その夜。なんの予定もなかった父親が飲み会に行くと言い出した。そして、なぜか母親も参加しようとして父親が止めるという一部始終を竜は目撃した。
竜は、母に聞くと
「ちょっと。ご友人のところに行くって。昔、お世話になった人らしいわよ」
そして、「どんな人?」聞くと
母は苦笑を浮かべてこう答えた。
「警察の関係者らしいわよ。お父さんが若かった頃に大変お世話になったらしいわ」
その言葉にどこか引っかかるのを感じたが気のせいかと竜は考えるのを止めたのだった。
次の日。自分達の警察署に捜査のメスが入ったという見出しで紹介する新聞の記事とニュースを見た。
竜は、一瞬。親に追及しようとしたが止めた。
世の中には、自分が知る必要のない事柄もあるんだと
自身を納得させた。
ただ、一つ言える事があった。
今年、最初の穢れは祓われたのだ。
設定では、主人公の両親はかなりやんちゃしていたという過去を持っています。
これからも書けていけたらいいなと考えています。




