糸長の能力と物語の終幕
久しぶりの投稿です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
糸長は現在、困惑をしていた。
目の前で起こっている現実に対してだ。
彼の前には、さっきまで光を失い、虚ろな目をしていた仁美、レティシア、アーシャの三人が怒りの炎を瞳に宿し、手にはそれぞれ愛用の得物を握っていた。
「ば、バカなぁ!?俺の洗脳から、逃れているだと!?そんなはずはない!俺の洗脳できる人間の数は百人は越えているんだぞ!」
狼狽する糸長。
「百人。随分な数ですね」
仁美はピシャリと呟く。
「ですが、あなたがいくら百人単位で洗脳できてもムラはある。あなたが〝完璧〟に洗脳できはしない。その証拠に、あなたは意識のある人は洗脳できていない」
糸長はこれまでの中で意識のある人達を操ってはいなかった。
「ふ。そうかな」
しかし、ここで糸長が不敵に笑った。
眉を潜める三人。
「俺、いや。私は、確かに〝操っていた〟昼間に、日陰さんが、あなた達以外の彼女と街を散策していた時に」
そう。糸長は操った。操った人達を使って竜達二人を襲った。
しかし、そのどれもに共通点があった。
攻撃は、一回切り、全てが偶然という形で片付けられていたこと。
糸長に完全に操られた人達は気絶させることで遮断させることができる。しかし、本人が目を覚ますのに時間が掛かる。
仁美達ですら目が覚めるのに数分掛かり、救援に遅れてしまったほどだ。
「あなたは、確かに操られる。でも、意識のある者は完全に操ることはできないのでしょう」
「!」
糸長の反応に、少女達は、肯定と受け取った。
「で、ですがどうしてあなた達は目覚めているんですか!?」
「確かに、僕達は、君の操り人形になっていた。けど、君は、僕達に意識を集中しなくなった。だって、君は、チヅルさんに全てを集中させていたんだから」
「!?」
再び驚愕する糸長。
「竜は、私達と戦っている中でずっと周囲に気を配って、〝君〟を探していたんだよ」
そう。竜は戦っている時は、常に周囲に気を配っているのだ。理由としては能力を持たない竜が、この世界で手に入れ、培ってきた気配の察知、状況を把握する力は必須の力でそれを極限まで使用しないと生きていくことができないためだった。
これまで竜が不意討ちや背後からの攻撃、戦いの中での状況把握はこの能力によるものである。
「竜は、今回もそれであなたの居場所を特定させた。その後は、気絶させた私達に君の居場所に関するメッセージを残していったんだよ」
淡々と語るアーシャ。
「ば、バカな!?いくら何でも操られていた影響が切れたとしてももう一度、行えばいい。なのに何で!?」
「それは企業秘密って奴で」
アーシャはそう返す。
彼女の言葉に仁美とレティシアはアーシャの背中に隠す形で差してある小太刀に目がいく。
そう。彼女達が竜に倒された後に竜乃心に助けられていたのだ。
しかしそれを彼に教える必要はない。
「さ。話はおしまい
アーシャはゆっくりと手に持つ得物の切っ先を向け
次は、あなたの物語に終止符を打とうか」
アーシャはあまり見せない氷のように冷たい無表情を彼に向けた。
その表情に恐怖を覚える糸長。
(な、なら。日陰を、使って、)
能力を行使し、竜に意識を向ける。
だが、その意識は途切れた。
突然襲って来た衝撃と激痛によって。
「ギャァァァァァ!!!?」
糸長に右斜めの切り傷ができていた。
「主人公を操ろうなんて、百年早いよ」
血糊を払うアーシャ。
そして、ゆっくりと歩み寄る。
糸長は痛みと恐怖で混乱。
「ひ、ヒィ!?」
アーシャ達には関係ない。
「さあ。ツケを払いましょう。吟遊詩人さん」
美しき死神達はゆっくりと近づいていった。
この小さな街で断末魔がこだました。
糸長の末路は、奇妙な冒険の敵キャラの末路みたいなイメージを想像してくれるとわかりやすいです。
楽しんでいただけたら嬉しいです。




