糸長・操志 2
加筆と多少の修正をしました。
楽しんでいただけたら嬉しいと常々思っています。
否応なしに仁美との剣劇を演じることになった竜。
「仁美さん!目を、目を覚まして下さい!」
必死に呼び掛ける竜。
「っ」
竜の言葉は残酷にも無に消していく。
彼女の刃が竜を襲うのだ。
暗い部屋の中で金属音が響き渡る。
「さあ!さあ!どうします!主人公 日陰 竜!ケケケ!あなたはこの物語をどう完結させますかぁ!ケケケ!」
糸長が挑発的に背後から竜に言葉を投げ掛けてくる。
そんな言葉が耳に入る度に堪忍袋の尾が切れそうだ。いや、もう切れている。こんなにも人に対して怒りを、憎しみをぶつけたくなったのは初めてだ。
「ごめんなさい。仁美さん!」
謝罪の言葉を口にするのと同時に鍔迫り合いをする聖涙に力を込めて仁美を押した。
彼女は大きく後ろへと倒れた。しかしベッドが背後にあったために仁美自身にダメージはなかった。
「糸長!」
素早く竜は声のしていた方、気配の方へと。
終わらせる!
渾身の一撃を糸長に振り掛けた。
だが、甲高い金属音が鳴った。
「!」
再び竜は驚愕で目を見開く。
「アーシャさん。レティシアさん」
心がへし折れそうだ。
竜の一撃をレティシアの短剣が、アーシャの日本刀が無情にも受け止めていた。
「残念でしたねぇ!ケケケ!」
二人の向こう側で煽る糸長がいる。
「っ」
竜は足に力を込めて床を蹴る。アーシャ達を飛び越え
「!」
「らぁ!」
「グヘェ!?」
空中で右足を横に振った。
空中での蹴りだ。
相手の顔面に足が当たったのを竜は感じた。
蹴られた糸長が壁を突き破って外へと投げ出される。
「逃がすか!」
竜も空かさず外へ出る。
だが既に糸長は消えていた。
「ケケケ!さあ!楽しもう!この夜の宴を!」
街に轟く糸長の言葉。
(ふざけやがって!)
舌打ちする竜。
「そうだ!日陰!お前は、彼女達とダンスを踊ったことはあるかなぁ!ケケケ!」
竜の背後に複数の気配が着地したのを感じた。
「皆とやるのは、稽古以来かな」
振り返り様に聖涙を構える。
それぞれの得物を手に構える仁美達。
最初に仕掛けたのは竜。
俊足を使用した高速移動で一気に彼女達との距離を詰める。
刃を反し、峰打ちを狙った左切り上げを仕掛けた。
バシャッ!
竜の刃は地面から吹き出した水の壁を斬った。
(仁美さんの魔法!?)
あまり彼女が属性の魔法を使用しないために忘れがちになるが仁美のスキルは聖属性を除く魔法を使用することができることだ。
「!」
感心する間もなく背後に気配を察知して聖涙を背中に回す。
背後から重い衝撃を受ける。更には、熱い。
「ア、チチチチッ!アーシャさんか」
すぐに誰の一撃かはわかった。
女性陣の中で火に特化したスキルを持っているのはアーシャだけだ。
その場から逃れるようにして跳躍。仁美の頭上を越え、背後に降り立つ。
「やれやれ、本当に大変だな」
バックステップをして彼女達から距離をとる。
空かさず仁美達は命令に動かされる様に竜へと距離を詰めてくる。
仁美の右薙ぎを受ける。
レティシアの唐竹を繰り出される前に手首を掴んで防ぐ。
掴んだままレティシアを仁美の前へ倒す。
二人はバランスを崩して重なる様に倒れる。
「!」
次はアーシャ。彼女は二人とは違って竜の剣術とは別の剣術を使うために対応が異なる。
だが、日々彼女との稽古をしてきたために彼女の剣術を学んだ。
それもあって彼女の攻撃にも対応ができる。
アーシャの場合、刀身に炎を纏わせて一撃を繰り出してくる。
竜は切っ先が届く前に聖涙に水を纏わせて受け止める。
そして横にずらして受け流す。
前にバランスを崩したのと同時に首筋に一撃を加える。
苦悶の声をあげて力が抜けた彼女を抱き抱える。
「ふぅー。すいません。アーシャさん」
一安心する竜。
「おわっ!?」
しかし殺気に反応してアーシャを横たわらせると同時に跳躍。
だが、それを追い、追撃してくる。
そして繰り出してくるのは突き。
目といった急所を的確に狙ってくる。
距離をとり相手を確かめる。
だが、確かめる必要はなかった。こんな実戦的な攻撃を中心にしてきた攻撃をしてくる相手は一人しかない。
「やっぱりチヅルさんでしたか」
そこには刀を水平に構えるチヅルの姿があった。
彼女とやり合うのは初めてだな。
少し冷や汗をかく。
竜は彼女をゆっくりと見て、聖涙を構え直した。




