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お互いの気持ち

9/6。付け足しをしました。

「そうだったんですか」

仁美の話に竜はそう言うしかなかった。


「そして、今はここで治療を受けているのです」

仁美は締めくくった。

「そうだったんですか。すいません。僕みたいのなんかを」

「いいえ。本当に謝らないといけないのは私や私達の方です」

仁美は深々と頭を下げた。

「神無月さん!」

慌てる竜。止めさせようとした。

「謝らせてください。日陰さん。私は、地球でもあなたを庇ったり、助けたりすることができませんでした。そして、こっちに召喚された後もそうでした。私はあなたが受けていた仕打ちに気づいておきながら助けることもしませんでした」

頭を下げた状態で仁美は声を絞り出すように話し出す。

竜は手を止め、それを何も言わずに聞いていた。

「そんな時です。私は昨夜、あなたが秘かに剣の稽古を見ていました」

「見ていたんですか」

竜は彼女が頭を下げたこと以上に驚いた。


まさか、見られていたなんて。


「私は、あなたがその時に振るっていた剣を見て、感動しました。そして、胸が締め付けられました…」

一拍置かれ

「私達よりも、いえ、それ以上に低いステータスでありながら必死になって剣を振るう姿、そして、必死になってゴブリンと戦うその姿。そんなあなたを私達は、無能といった烙印を押して理不尽な行いをしてきました。私は、その事を考え続けていました。正直、昨夜の事は単なる興味でした。でも、見ていて、私は自分が情けなくなりました」

自分自身を懺悔していくかのように言う仁美。

「神無月さん」

竜は何も言えなかった。

「クラスの憧れ、勇者、などと言われても私自身はみんなと同じです。勇者なんて言われる資格なんてない人だったんです」

「それは違います」

竜はなぜか仁美の肩を優しく掴んでいた。

「そういう考えを抱いているなら神無月さんは酷い人間じゃあありませんよ」

「日陰さん」

「僕が弱いのは当たり前。期待していた勇者がこれでは意味がない。国がそう対応するのは自分でも理解しています」

「ですが」

「だからって怒りを覚えていない言えば嘘になります。そして、それをしてくるクラスのみんなに対しても」

拳を強く握る。その握る強さに自分がいかに怒りを抱いていたのか実感した。

「でも、神無月さんのおかげで少し軽くなりました」

「別に私は…」

「ううん。僕のために死の淵から救ってくれて模擬戦の反則を看破してくれた。普通ならできない事だよ。だから、僕はすごく嬉しいんだ。今」

竜は、自分が〝素〟の言動をしていることに気づいた。

しかし、自分がなぜ、そうなった。わからないでいた。だが、それ以上に。


仁美は顔が上げた。そして、彼女は見た。

竜の両目に涙がたまっているのを。

仁美はその表情を見て改めて彼が押し込んでいたものの大きさを知った。


「日陰さん…」

見ていた仁美にも目から涙が流れた。

そんな竜を仁美は優しく抱きしめた。

竜はその瞬間。温かみを感じた。そして、気持ちに限界が訪れたのか。

涙を流し始めた。そして、静かに泣き出した。

仁美もそれを見て泣き出した。竜の気持ちが流れてくるようだった。

竜はその後も泣き続けた。

まるで、これまで受けてきた痛みや苦しみを出しきるように涙を流した。


仁美はそんな竜を優しく何も言わずに抱きしめるのだった。


彼女のその姿は哀れな者を労る聖女の様であった。


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