出発
久し振りの投稿です。
しかし、内容は短めです。
それでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
これから加筆、修正をしていく予定です。
新な勇者は次話から登場する予定です。
「本当に行くのか」
刀鐵はそういって竜を見つめる。
その瞳には、竜の覚悟を問う、という思いが映っていた。
「はい。行きます」
竜はそれに気づいて答える。
刀鐵は、あの後一命を取り留めて竜と同じように治療と療養をしていた。
「トウテツ様。お怪我の方は」
「お嬢ちゃん。心配するな。俺は、依頼者から襲撃されるなんてことを日課にしてきたような男だ。これくらいの傷なんてどうってことないさ。それより、気に入ってくれたか。それ」
それ。と言って彼が指さす先には彼女、レティシアの腰に差されている二本の得物があった。
「はい。ありがとうございます。とても気に入りました」
レティシアだけでなく、仁美、アーシャも腰にこれまでの旅では差していなかった得物が差されていた。
刀鐵は、自分が言ったように彼女達の武器も製作していたのだ。
「だが、何度も言うが、「わかっています」
彼の次に口にする言葉を彼女は遮った。
「あの人は望んでいない。ですよね」
「ああ。だが、自分が無力だからこそ、そいつらをお前達に渡した」
「はい。ですが」
「そうだ。これからの旅には必要だ」
自然にレティシアは腰に手が動く。
これからの旅。
それには様々な思いが込められていた。
この旅は場合によっては自分達が死ぬ可能性すらあるのだから。
そしてその死から逃れるためには
命を奪う
他人の命を奪って回避する。
道中では命を狙うものは幾人も現れるのは必須。
竜達は勇者に狙われている。
「お前達を守るためにあいつは躊躇なく行うだろうな」
「それでも、私達はあの人を支えていきます」
決意のこもった瞳で見つめ返すレティシア。
「あいつは果報者だな」
刀鐵はポツリと呟いた。
「本当にいくんだな」
「はい。兄上」
ヤススケの問いにはっきりと答えるチヅル。
彼女の服装はきらびやかなものではなく、質素な色合いの装束を着こんでいる。
時代劇で見られる旅をする時の服装だと思い浮かべやすい。
「しっかりと支えていくんだぞ」
「はい」
チヅルも竜達と旅に同行することになった。
ヤススケとしては世間を知るいい機会だろうと思って了承した。
父親は猛反対したが、チヅルに実力行使で納得させられた。
それを聞いた竜は、「女性は恐ろしい」と抱いたのはまた別の話になる。
「リン」
「はい」
「どうやら。認めてもらえたようだな」
刀鐵の視線が腰に差された一振りに注がれる。
「ええ。なんとか」
「認められたからといって過信するなよ」
刀鐵は知っている能力にかまけ、身を滅ぼす者達のことを。
だからこそ、彼は竜に伝えた。
竜をそんなことで終わってほしくない。
「まあ。お前なら大丈夫だろう」
「ありがとうございます」
「それから・・」
一拍置いて刀鐵は、口を開く。
「そいつの銘」
「え」
「そいつの名。聞いたか」
「いえ」
「生まれたものには意味がある。それは心臓を持たない物でもそうだ。武器にも意味があり、名もある。だから覚えておけよリン。そいつの銘は聖涙。何者をも清め、涙の如く洗い流す一振りの刃。決して、その名を持つ主人として相応しい剣士になれ」
(聖涙)
それが僕が振るうこの刀の名。
「はい」
刻み付ける様に刀鐵の言葉に答えた。
それぞれの思いが固められた中で竜達はタタラ国を出国した。
竜達がタタラ国を出発した頃。
「殿下。あの者が動き出しました」
「そうか」
茂木はそう答えるだけだった。
茂木にしては勝ち誇る表情とは別に不安が浮かび上がっていた。
(あいつを動かしちまうとは)
「日陰。お前は絶望って奴を改めて知るだろうな。自分の無力さにな」
彼の言葉がむなしく部屋の中に消えてゆくのだった。
「チヅルさん。驚きました」
道中を進む竜達。
そこで仁美はチヅルの様子を見て疑問を浮かべた。
チヅルは国の姫とは思えないほどの軽快な足取りで竜達について来ていた。
「私は、剣を学ぶ者として身体を鍛えました。その結果。足腰は家族で随一の強さを得ました。ですが、レティシア様も私に勝るとも劣らない足取りですね」
「私も同じです。鍛えましたから」
レティシアもこれまでの旅で成長していたのだ。
「まあ。皆鍛えているってことですね」
「すごいよね。女性としての身体能力を超えているもんねえ」
アーシャの言葉に女性陣は苦笑を浮かべる。
良かった。皆話が弾んで。
竜は彼女達の様子に安心した。
道中は楽しく、和気あいあいとした旅路が続く。
竜の腰で竜之心は「これが続くといいのがのう」と思うのだった。




