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宿屋 菊屋

久しぶりの投稿です。

楽しんでいただけたら嬉しいです。


加筆をしました。

「ここが私達の宿屋〝菊屋〟です」

そこには立派な日本式の門がそびえていた。

「立派ですね」

「ありがとうございます」

女性はそう言ってお辞儀する。その動作は客を迎え入れる女将だ。

「さすがですね。まさに女将さんですね。シノさん」

仁美はその動きに感心した。

シノ。竜が助けた襲われていた彼女の名だ。そして案内された宿、菊屋の女将でもあった。

「それにしてもすごいですね。この宿は」


それは竜も同感だった。

その宿は門を見るだけでもその立派さを物語る。

門をくぐるとその先にあったのは

「日本庭園だ」

竜はおもわず口にしていた。

整えられた松の木。鯉が池の中を優雅に泳ぐ姿が目に入る。

「日本の庭園だねーー。懐かしいな」

アーシャは庭を見てそんな感想を口にした。

「綺麗ですね。城で見た庭園と違ってこちらは落ち着きますね」

レティシアも感想を述べる。


「気に入っていただけて私は、女将として嬉しいです」

女性は嬉しそうに言う。

「女将様ー!」

そこへ廊下をドタドタと音をたててやってくる者がいた。

「黙りなさい!お客さまの前ですよ!」

やってきた彼を女将は叱責する。

「す、すいません!女将様が襲われたと聞いたものでしたから。あ!これは、お見苦しいところを、申し訳ございません。お客さま」

男は慌てて頭を下げる。

「いえいえ。慌てて当然ですよ」

「では、ここで立っているのはなんです。お部屋にご案内したいと思いますが」

「はい。お願いします」

女将のシノに連れられて部屋案内される。


「こちらがお部屋になります」

「「「「わぉ!!」」」」

部屋は、和室で畳十畳ほどの広さがあり、床は畳だ。所狭しと木材を使用している。


「こんなお部屋を。いいんですか!」

「はい。助けていただいたお礼です」

女将シノは、大丈夫です、と答える。

「それでは、ごゆるりとお過ごし下さい。浴衣はそこにテーブルの上に置いてありますので、では、、ごゆっくりとどうぞ」

正座からの挨拶を終えて女将のシノは部屋を出て行った。


「さて。じゃあどうする?」

「どうする、と言いますけど」

「仁美。旅館といったら温泉でしょ。気になるじゃない」

おおはしゃぎのアーシャ。

ここにくるまでの道中でシノから温泉の話は聞かされていたのだ。

「そうですね。私も温泉、というのは話には聞いていました。とても興味があります」

レティシアも温泉を楽しみにしていた。

「竜は、どうする?」

「僕は残るよ。一応したいことがあるし」

「えー!一緒に入りたかったんだけど」

「「!」」

アーシャの言葉に仁美、レティシアが驚き、次に顔を紅潮させてしまっていた。

「そ、それは、む、無理があると思うけど」

さすがの竜も返答に困る。

いつも礼儀正しく、優しい態度でいる竜でも、れっきとした男だ。

女性と一緒に入る。なんてことに興味がないわけではない。

それも自分の彼女だったらなおさらだ。


「それでも今回は遠慮するよ」

しかし平常心を保った状態を貫き、断った。


竜の返答にアーシャは、残念!といかにも残念そうに呟き、残る二人もホッとした感じではあったが多少の期待をしていたようで複雑な表情をしている。

そんな彼女達を見て苦笑を浮かべるしかなかった。


『行けばよかったではないか』

彼女達がいなくなった後に竜之心が竜に聞いてきた。

「無理ですよ」

竜は迷いなく即答した。

『そんな仲でもあるまい』

竜と彼女達は今では相思相愛の仲だ。誰も変なふうに捉える者はいまい、と竜之心は思っていた。

「この旅が終わるまでは」

『本当に真面目じゃのう』

竜に呆れた、と竜之心はため息を吐いた。

竜としても彼女達との仲を進展させたいと思っている。けど、自分達は追われている身。

平穏が訪れるまではおさえる。

そう竜は考えている。


「話はここまでにして本題に入りましょう」

無理矢理な感じではあったが話題を変えようとした。

『例の傍観者のことじゃな』

竜之心も気にせず、その話題に乗った。

「はい」

今日、ここタタラ国に来て、シノさんを助けた時からずっと自分達を監視していた者達。

「何者だったのでしょうか?」

『帝国の者でもなさそうじゃ。敵意というものを感じんかった』

「それは僕も同じ意見です」

『まあ。今のところは問題ないじゃろう。それだったら早めに目的を果たさねばならん』

「そうですね」

一枚の用紙を取り出す。

ここに来た目的。自分達の剣を手にする。

用紙に書かれた名前を見る。


タタラ国の刀鍛冶、刀鐵(トウテツ)


一体どんな人物なんだろう。

不安と期待を胸に明日に思いをはせるのであった。


「それで、あの男はどうした」

男は使いの者の言葉を待った。

「そ、それが・・・」

男の使いの者はまことに言いにくそうにしている。

「どうなんだ。あいつは、何と言った」

「は。それが、刀は打たないと申しておりまして」

「何だと!」

男は怒鳴り声を上げた。

「あれ程の大金を出してか」

「は、はい。そんな金などいらん!の一点張りで突き返されてしまいました」

「おのれ!」

男の声に怒りが交じる。

「しかし。それ以外の者達は、承諾しましてでございます」

「まことか」

男の声から怒りが薄らぐ。

「それに伴い、これを・・」

そう言って使いの男が男に長い包を差し出した。

「どれ・・。おお。これは、これは」

包を受け取り、取り出す。

男の手には一振りの刀があった。


「それで、今夜は・・」

「ああ。いくぞ」

男は獰猛な笑みを浮かべ、刀の刀身を眺めるのだった。


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