表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/95

旅立ち

明けましておめでとうございます。

新年最初の投稿です。

これからもこの作品、その他の作品も楽しんでいただけたら嬉しいです。

ご意見、ご感想をお待ちしています。

「今までお世話になりました」

「いやいや。わしらにとっての恩人達に大した礼ができなかったわしとしては心苦しいのじゃが」

「もう十分に礼を受けましたよ」

竜は族長やサイカ、その他の人達から、薬や食べ物を送ってくれるなど様々なことをしてくれたのだ。そのかいがあってか竜達の生活は初めてこの里に訪れた時に比べてより良いものになっていた。


「そうです。竜さんの言うとおりですよ。族長さん。本来私達があなたがたにお礼をする立場なんですから」

仁美は竜の言葉を引き継ぐ。

「そうかのう」

それでも納得がいかなそうな表情をする族長。

その姿に竜は申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが入り交じった。

自分達の同郷でもあるクラスメート達に里をやられてしまい、ついには何百年も代を重ねてきた里を出なければならなくなったのだ。

彼らからしてみたら憎悪の対象になってもしょうがなかったはずだが、竜達にかいがいしくしてくれた。

そこから竜はそういった気持ちになっていた。


「心配するな。こっちも状況と感情はわきまえている」

竜の考えが表情に出ていたのかサイカが助言する。

「でも」

「お前は本当にいい奴だな」

「同郷の者としての当然だと思いますよ」

「その〝当然〟ができないんだよ」

「当然ですか」

当然。勇者としての力を猛威として振るうクラスメート。その人達に代わって自分達に謝罪する。

(本当にいい奴だよ。お前は)

こんな奴が勇者として来てほしい。

サイカは今までの交流を通して常々に思った。


「リン様」

「大丈夫だよ。レティシア」

レティシアが竜を慰める。


その様子を見ていたサイカは

(何かあったな。二人に。いや、全員か)

竜達の取り巻く空気にサイカは察する。

竜達の空気はサイカが初めて会った時には甘いという言葉が似合う空気が漂っていた。

(これは。関係が向上したんだな。きっと)

サイカから見ていた竜達の関係は護衛と主君といった一線を引いたものだった。

しかしその一線は一切無くなっているようだ。

(竜もわかったんだな。彼女達のことを)

しかしどうも、やっとか、と思うのは気のせいだろうか。


「どうしました?」

サイカを訪ねる竜に対して。

「お前。彼女達を泣かせるなよ」

一言言った。

「わかっていますよ」

竜はその言葉に一瞬面食らったようだったが直ぐに笑顔で答えたのだった。

「ヒカゲ様」

その時族長が竜に声を掛け

「これを」

「これは?」

一枚の紙を手渡した。

「中央都市に行く前にここへ寄って下さい。きっとあなたがたの力になるじゃろう」

「ありがとうございます」

そうして竜達とサイカ達サンガの民とは別れた。


「大丈夫かな?あの人達」

アーシャはサンガの民達を心配するように言ってきた。

「大丈夫だよ。サイカさん達は強い。新しい土地を見つけて頑張って生きていくよ」

そうだ。大丈夫だ。サイカさんが、新しく族長になったあの人が率いている民なら。

「ですが。帝国はどうでしょうか」

帝国の動向の方がレティシアとしては心配だった。

『いや。あやつらはこの戦いで勇者を二人も失うという損害を被った。それにサンガの民はすでに移動し始めた。そしてあやつらが再び軍備を整え向かった頃には元のサンガの里はもぬけの殻じゃよ』

茂木率いる帝国は新たに損害を被ったのだ。

しかし、竜は辛かった。

竜の心境は正にそうだった。

未だに心に応える。

帝国の戦力低下はクラスメートの死に直結するのだ。


「大丈夫です。竜さん。私達も背負います」

いつの間にか仁美が竜に近より手を握っていた。

その握る力は柔らかく、優しさが伝わってくる。


神無月・仁美。昨夜お互いの気持ちが一つになった。両思いになったのにずっと前からそんな関係であった気がする。もしかしたらずっと前から自分は彼女のことを意識していたのかもしれない。

いつの間にか互いに手を握りあっていた。


「こらぁ!二人だけの空間に浸るなぁ!」

「そうですよ!リン様もヒトミさんも何やっているんですか!」


そんな様子に待ったをかけてくる二人の少女、同郷の赤髪の少女暁・アーシャ。こっちの世界に住み、自分達を召還した帝国の元王女レティシア・ダート。

二人も自分とともに歩みたいと言ってきた。

(僕は二人のことも考えないとな)

一夫多妻には正直引くところがある。それは自分が地球出身であり、一夫一妻というのがすりこまれているためだろう。

だが、ここは異世界。自分はこっちに乗っ取って彼女達と結ばれる。


(僕は一層強くならないと)

彼女達を見て竜は決意するのだった。

(でも、まずは〝ここ〟に行かないと)

そして、袖の下から一枚の紙を取り出して眺めた。


竜達は新たな関係のもとで再出発するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ