近づいた距離
久しぶりの投稿です。
文章に不安がありますが楽しんでいただけたら嬉しいです。
「・・・・・」
「・・・・・」
空気が重い。
この言葉は〝今〟こそ相応しいだろう。
竜と仁美はお互いに沈黙したまま数分は経過していた。
「僕。高田さんを斬り、殺しました」
沈黙を破り、口から出た言葉はいい言葉ではなかった。
(何言っているんだ!僕は!)
女の子に言う言葉じゃない。
「はい。知っています」
しかし。仁美はその言葉に答えた。
再びの沈黙。
「私も、花田さんを殺しました」
仁美も沈黙を破り口を開いた。
内容は竜と一緒だった。
「そうでしたか」
竜は静かな口調で喋った。
(やっぱり仁美さんが)
高田以外にクラスメートがいたのは知っていた。しかし、それが花田さんだったとは。
花田のことはあまり関わっていなかったから知らないが自分がいじめを受けていた時にそれを楽しそうに見ていたのが印象にあった。
さらに、彼女が彼を殺した。
自分が倒れていたのは帝国の兵士達のキャンプ場近く。そして自分が倒れていた時に駆けつけて来たのは彼女。
推測するのは簡単だ。
「僕は、皆を守れませんでした」
「日陰さん」
「僕がもっと強ければ神無月さんにクラスメートを殺させたりはさせませんでした」
喋るだけで苦しい。
言葉を口にするだけでこんなに苦しんだのは、こっちの世界で初めて盗賊を殺した時以来だ。あの時もその後に何もできず、夕飯のご飯も喉を通らなかった。
「僕はあなたを守り切ることができなかった!」
叫んでいた。
知らないうちに自分は彼女に当たり散らすように喋ってしまっていた。
情けない。
女の子にむかって何をやっているんだ!
竜は自分を恥じた。
「日陰さん」
そんな竜を最後まで聞いて、そして静かに口を開いた。
「日陰さん。あなたが今思っていることは私もあなたに対して思う気持ちと一緒です」
竜は彼女を見た。彼女の表情は微笑んでいた。しかし目に涙を溜めて。
「私は日陰さんとここまで一緒に旅をしてきました。でも、私は、日陰さん、あなたの苦しさを理解していなかった」
仁美も言葉を吐き出していく。
「私は、あなたの戦いを見ていて、とても頼りな存在であり、私の憧れでした。でも、あなたの内側を理解してあげることができませんでした。そして、あなたの受ける痛みを」
「神無月さん」
「今回の戦いを見て、やっと理解しました。あなたの痛みを、苦しさを」
そう。やっとわかった。彼の辛さを。
だからこそ
「だから、日陰さん。私にも背負わせて下さい。私にもその痛みと苦しみを分けさせて下さい」
言い切る。ここで言う。
「どうして。こんな僕にそこまで」
ここまで聞いていた竜は半ば困惑していた。
なぜ、彼女はここまで自分を。
解らなかった。
困惑している竜を見ていた仁美は。
決意した。ここで言わないと後悔する。
「私は、あなたのことが好きだからです」
再び部屋に沈黙が訪れる。
え!?い、今彼女はなんて言った!?
「か、神無月、さん」
歯切れの悪い口調で呟く。
何かの間違いだ。と思いたい。
だが
「私は、あなたのことが好きなんです。側で支えたいほどに」
はっきりと告げられた。
聞き間違いではなかった。
彼女が言ったのは自分に対する告白。
この年になって一度も告白されたことのない自分はどうしていいかわからない。
「これは私の一方的な気持ちです。ですが、この気持ちは決して揺らぎません!」
はっきりと告げられた意思表示。
『いい加減に自分の気持ちに気づかんかい。竜よ』
今まで沈黙を貫いていた竜之心がここにきて口を開いた。
「師匠!」
「竜之心様!」
『やっとここまでに至ったのか』
やれやれやっとかい、と独り愚痴る。
『竜よ。お前さんだって自分の中にあるじゃろう。本当の気持ちが』
見透かすように言う竜之心。
本当の気持ち。
自分の気持ち。それは。
『竜よ。お前さん。こんな小太刀を代弁して言いたいのか』
駄目だ。それは言ってはいけないことだ。この気持ちは。
活を入れるかのように強い言い方をする。
『彼女は勇気を出したぞ。お前さんも一歩進む時じゃ』
その言葉が止めをさした。
今までの葛藤が嘘のように消えた。
「神無月さん。僕もあなたに告げたいことがあります」
言おう。自分も。彼女に。
「あなたのことが好きです」
仁美はここにきて彼の告白に驚いた。
「ですが、いいんですか」
「?」
「僕はこれからも剣を持ってこの世界を歩んでいきますよ」
「はい」
「これからも人の命を奪っていきますよ。かつてクラスメートだった皆の命を」
「はい」
「手を血で染める僕を」
「私はあなたを側で支えます。あなたが受ける、痛みを、あなたが苦しみを、私は、側で支え、癒し、和らげます」
彼女は彼に言う。そんな彼をこれからも支えていくと言った。
今部屋を包んでいる空気はさっきまでの張りつめたものとは違う、温かく、甘いものになっていた。
二人の気持ちは今一致した。
二人の間には二人だけの空気が広がっていた。
そして、それはそれ以上に発展するんじゃないかというほどだ。
「はーーーい!そこまで!」
「「!?」」
そんな空間を打ち破るような声が響く。
ドアには竜達を見て立つアーシャとドアの端から顔を覗かしているレティシアがいた。
「仁美が帰ってくるのが遅かったから気になってみたら。先越されちゃったわね」
悔しそうに呟くアーシャ。
「ヒトミ様。ずるいですよ!」
叫ぶレティシア。その言葉には悔しさが滲み出ていた。
「こうなった私達も便乗しよう!」
アーシャは言う。
「竜。私もレティシアもあなたに言いたいことがあるの」
アーシャの言葉に竜はこの状況で彼女達が自分に何を伝えたいのかが察した。
「私達も仁美と同じように、あなたのことが好きよ。結婚したいほどにね」
「私も同じ気持ちです!私もあなたのことが好きです!」
レティシアも告白した。
竜は、仁美から続いてアーシャ、レティシアからも告白を受けた。
『竜よ。女の子の一人や二人は受け入れる度量は持つもんじゃ』
竜之心は再び竜を後押しする。
竜は仁美に続いてアーシャ、レティシアの気持ちを受け入れた。
今日、この日。竜達の気持ちは一つになった。
決して揺らぐことのない確固たる絆がこの日に出来上がった。
ようやく、竜達の気持ちが一つになりました。
ここまでが長かったなと思いました。




