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葛藤

今回は主人公の和解と葛藤を書いてみました。


上手く表現が書けているのか不安ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。


「そうですか・・・あの人は」

「はい。ダリムは俺が殺りました」

男ははっきりと告げた。

竜としてもダリムの結末は死なのだと直感していた。しかし、彼が殺ったということに関しては驚いた。


「意外です。あなたは身内にはあまい人だと思っていました」

「そう思いましたか」

「それよりもさっきから喋っている敬語はなんとかなりませんでしょうか。ちょっと人が変わったみたいで、違和感が」

「恩人には礼儀を重んじろと言うたのはわしなんじゃ。すまんのう」

族長が苦笑交じりに言ってきた。


「普通でいいですよ」

「じゃあ。言葉にあまえて。確かに俺は身内を殺るのに抵抗があった。正直、怖かった。身内を殺ることに・・・けど」

「けど、何ですか?」

「お前の戦いを見て思ったんだ」

男の話で言うとあの戦いの中で自分は竜の戦いを見ていたのだと言う。

「同郷の者を殺す。それは、想像できない程のことだ。ましてや、殺すのが知り合いだって言うのが」

男の言葉に竜は、あの時のことを思い出していた。


怒りに任せ剣を振るい高田の命を奪う。


今になってからあの時に感じるはずの激しい罪悪感と嫌悪感が沸き上がってきた。

身体の中の血が無くなってしまうような感覚に襲われる。

しかし、必死に耐えようとする。だが、まるで貧血にでもなったかのように視界がくらくらする。


「・・・さん!日・・・陰・・さん!日陰さん!」

「は!!すいません!」

視界が一気にもとに戻る。

目の前に顔色が青くなった仁美の表情がある。


(僕は、・・そう・・か)


「大丈夫か!?」

男も血の気が引いたような顔をしてこちらを見ている。

当然か、竜は思った。突然、相手が容態が悪化したような状態になったんだ。彼みたいになって当然だ。


「大丈夫ですよ。ちょっとあの時のことを思い出しまして、でも、見てください。僕は、彼を殺したことでこのようになる程取り乱し、状態が急変しました。僕はあなたが言うような人ではありませんよ」

「いや。そうしているだけでも凄いことだ。その前に、謝らせてほしい。俺の勝手な話でお前に辛いことを思い出させてしまった」

男は関心する。

(本当にすげえよ。普通なら胃の中のもんを吐いちまってもおかしくねえのに)

男はさっきの竜の状態から見て吐くだろうと思ってはいたが逆に竜は耐えた。


「そ、それより、も一つ、いいですか?」

「なんだ?」

「名前です」

「?」

「あなたの名前は一度も聞いていなかったもので、どうか教えてくれないでしょうか」

男は竜の問に一瞬呆けてしまった。しかし、すぐに戻り


「俺は、サイカだ。次期族長、サイカだ」

「では、改めまして、リン、ヒカゲ・リンです」


二人は互いに固い握手を結んだ。


そんな二人をその場にいる者達は微笑んで見ていた。


(熱いねえ。男の仲って)

アーシャは二人を見てそう思った。


『一件落着・・・か』

壁に立て掛けられた状態にある小太刀。竜乃心はその光景を眺め、思った。


『じゃが。そうとも言えんかのう』

そう言って竜の方を見た。

サイカと握手を交わし、笑顔でいる竜。

しかし、竜乃心から見て竜の表情は目を覚ました頃に比べると顔色が悪くなったと思った。



その日の夜。竜は寝れずにいた。


(僕は高田さんを殺した)

さっきからずっと内心で呟き続ける。

繰り返されるように頭の中に広がる光景。

そして高田の身体に突き刺した感触。

それはこれまでに戦ってきて、殺してきた盗賊、モンスターの時とは違う、生々しく、数分前に殺してきたばっかのような感じだった。


(こんな状態なのは、僕が弱いからか。違う、高田さんが同郷だったからだ)


これまでクラスメートとは気絶、または分かり合いで、殺したことは一度もなかった。つまり、竜の深層心理の中にはクラスメートを殺したくない、という気持ちがあったのだ。例えそれが自分をいじめていた高田達であったとしても。


「僕。こんなに弱かったんだ」

おもわず口からそんな言葉が出てきていた。


自分の意志が揺らぐ。


こんなにも脆く、簡単に崩れてしまう。

砂の壁のように。


(だめだ!弱気になるな!僕が弱気になったら誰が皆を守るんだ!)


そうだ。弱気になるな。意志を強く持て。決して揺らがない。


ドン!ドン!

「!」

ドアを叩く音が鳴った。


(気配に気づかなかった!?)

普段ならそんなことがない。これは高田を殺したという罪悪感に意識がいってしまったことによるものだ。

それ程に竜の思考を埋め尽くしていた。


「誰ですか」

緊張感の漂う部屋。


「私です!仁美です!」


しかし、ドアのむこう側の声の主は竜が知る少女だった。



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