後始末と覚悟
戦いのその後を書いてみました。
今回の主役はちょっと違います。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
「ヒカゲ様」
ベッドで横たわる竜をレティシアは今にも泣き出しそうな表情で見ている。
「大丈夫よ。竜なら大丈夫」
アーシャはそんな彼女を安心させようとしている。
『傷は全部治りました。しかし、骨といった部分はいまだに完治は難しいです。我が主』
「ありがとう。じゃあ。このまま治癒を続けて』
仁美は水の精霊に命令する。
(本当に良かったです)
寝ている竜を眺めあの時のことを思い出す。
高田のそばで血まみれになり、倒れている竜。そしてすぐそばで彼に手を出そうとしていた帝国の兵士達。
仁美は無我夢中で魔法で撃退。
次に自分を勧誘してきた花田を倒した。
そして、自分がクラスメートを殺した罪悪感に浸るのを後回しに竜の治療を始めていた。
竜が回復してきたのを見て安堵したのだった。
「二人共、日陰さんは無事です。後はここで安静すれば完治します」
仁美の言葉に二人は今度こそ安堵した。
「でも、私達大丈夫なのここにいて」
「族長が言ったことだから大丈夫ですよ」
今、仁美達がいるのはサンガの里の族長の家の最も広い部屋にいる。
あの戦いが終わった後、クーデターで監禁されていた先代の族長が無事に保護され、その族長の命令によって竜達に詫びと礼を兼ねて再び居住区を提供してくれたのだ。
「でも、今大丈夫なのかな」
「何がですか?」
「族長のことよ」
それから三日後になって竜は目を覚ました。
仁美達は彼の目覚めに思わず泣いてしまった。
「す、すいません!心配をかけてしまったみたいで」
「本当ですよ!わ、私達がどんなに心配したと思っているんですか!?」
仁美は自分の気持ちを吐き出す勢いで喋った。
「で、でも!?良かったです!?目が覚めて!?」
レティシアは顔をクシャクシャにして泣きじゃくった。
「本当よ。熱は出ますわ。呼吸は荒くなりますわ。で、こっちの身がもたないと思ったわ」
アーシャも二人ほどではなかったが目に涙を溜めて見ていた。
(そっか。すごく心配させちゃったんだな僕)
彼女達の様子から自分がどれだけ心配させてしまったのかを痛感した。
「まったくじゃよ。竜よ。これ以上目が覚まさなかったらわしがお前さんの意識を無理やり引きずり出してやろうかと思ったわい」
竜之心の言葉に多少引き攣る。
彼が言うと実際に実行されそうで怖かったからだ。
「目覚めてよかったです」
「本当じゃよ」
小太刀からため息が聞こえてくる。
それを聞き竜は改めて心配させてしまったんだな、と思った。
竜の目覚めはサンガの里をいち早く知れ渡った。そしてその日に族長が竜の面会を求めてきた。
竜はこれを了承。すぐさま族長、そして、竜達と始めて遭遇した男が同伴してやってきた。
竜はまだ病み上がりのためベッドで横になった状態で族長と面会した。
「こんな状態ですいません」
「いえいえ。こちらが勝手に目覚めたばかりのあなた様に面会を申し込んできたんですじゃ。そのままで結構じゃよ」
族長はそう言って頭を下げた。男の方も同じだった。
「里を助けてくれた事。感謝する」
男は感謝の言葉を述べた。
「いえ。同じ勇者の立場として止めただけです」
「それでも、お前達に行った仕打ちをしておきながら助けてもらってばかりだ。本当に感謝する」
男も男で竜に頭を下げ続ける。
「すまんのう。こやつは律儀での」
族長が苦笑を浮かべ男を見ている。
「しかし。すまんのう。お前さん達には助けてもらってばかりじゃよ」
「こっちも見逃せなかったことでしたから」
高田達の行いは目に余るものだった。竜としてもあんな状況じゃなかったとしても駆けつけていただろう。
「それで今日は一体どういった理由で面会を」
「本来の目的は、あなた様への礼と謝罪です。そして、あなた様が寝ていた間に何があったのかをお伝えにきたのです」
「いいのですか。里の今後についても含まれているのでしょう。喋ってしまっても」
「恩人に隠し事などありません。信頼の証として受け取ってください」
族長の言葉に無下にはできないと思い聞くことにした。
話の内容は、里の今後が主だった。
そして、戦いが終わり、竜が床に寝て、仁美達が治療に専念していた頃に触れられた。
「あなた様が寝ている間に、里の中で大きな改革がありました。一つは、クーデターを起こしたダリム達に対する処罰です」
ダリム達クーデターを起こした連中は不運にも高田達が放った矢に当たり、ほとんどが死亡していた。
「肝心のダリムはどうしました」
「それはのう・・・・「俺が言います」
族長の先を男が止め語りだした。
「ここからは俺が言おう。あいつの処罰は俺がしたからな」
そう言って男は語りだした。
「くそ!?くそ!?」
ダリムは山道を掛け下りながらながら悪態をつく。
帝国との交渉は失敗、挙げ句に襲撃をされて里は壊滅的、おかげで自分の野望は脆く崩れた。
(俺は終わらねえぞ!)
しかし、ダリムの野望は消えてはいなかった。
このまま争いに乗じて逃げ、再起すると。
ダリムは里での処罰を免れるために自分を閉じ込めていた牢の番人を殺害して、家に火を放ち、それに乗じて逃げてきたのだ。
ドスッ!
「ガッ!」
左肩に衝撃と激痛が走った。
坂道を崩れるように転がっていく。
「ぐ、グゾォ!?一体、誰が!?」
「俺だ」
坂道の上から男が弓を持ち立っていた。
「臆病者の族長候補か」
「ダリム。里の者を殺し、逃げるとは見上げた奴だ」
「うるせぇ!俺はこんなところで終わらねえ!ぜってぇーに!」
「悪いがこれ以上同族の恥を晒すわけにはいかない」
男は矢をつがえ、弓の弦を引く。
「て、てめえに殺せるのか!俺を!?てめえみてぇな臆病者に!」
「そうだな。戦う前の〝俺〟だったら」
ゆっくりと呟かれる。
「だが、今は違う」
力強く言う。
「俺は、これからの、未来のサンガの里を導く者として覚悟を決めた」
そして、宣言する。
「そのために、お前を打つ!!」
言葉とともに矢は放たれた。
矢は吸い込まれるようにダリムの眉間へといき
「ギャッ!?」
貫いた。
ダリムの死体を見つめながら男は自分の覚悟をもう一度噛み締める。
そんな男を月の光が照らし、月が彼を祝福しているようだった。




