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業を背負う

今回は、ヒロイン達の覚悟がメインです。


ご感想、ご意見を送ってくださった方々には少しずつ返信していこうと思っています。


今回の話も楽しんでいただけたら嬉しいです。

「負けたのか。高田の奴」

花田は戦いが見渡せる野営地から竜と高田の戦いの結末を見ていた。


使えない奴だ。


小さな声で高田に対する悪態を吐く。


そして、それ以上に舌打ちをしたい件があった。

(くそ!なんでたかだか山の部族風情に苦戦していやがるんだ!?)

そう。サンガの里には現在、多くの帝国兵士が里へと押しかけている。

しかし、そのほとんどが敗北し、命を散らしているのだ。


(くそ!?くそ!?なんで、あんな奴らなんかに手を貸してなんかいるんだ!?)

彼の目は、帝国の兵士を倒していく仁美、レティシア、そしてアーシャに目を向けられていた。

上から見ているからこそ、余計に目がいってしまう。彼女達の戦いぶりがしっかりと自分の目に。


それを見続けている花田には理解できなかった。

同じ世界から召喚され、勇者という立場を得て、チートというべき能力を手にした同じ人間。

そして、先月には帝国の王を蹴飛ばし、自分達が国のトップになった。

今は、茂木賢斗の下で世界の〝改変〟をしている。

そして、今は、その第一環として周辺で帝国に歯向かっている不穏因子の始末をしているところ。


このサンガの一族もその一つだった。


自分達に従えば、良かったのにな。


花田はそう思って躊躇することなく実行した。

茂木に言われた通りに。

しかし、結果はどうだ。同郷の者達によって兵士は敗残、もうほとんどが逃げ出している。


「なんであの女どもは、あんな奴らを助けるんだぁ!?」

叫ばずにはいられなかった。


どうしてだ!?どうしてなんだ!?


「ハナダ様!これ以上は無理です。撤退しましょう」

兵士が花田のもとへ来て撤退を進言する。

「撤退だとぉ!ふざけるなぁ!」

誰が撤退するか。なぜ、逃げなくちゃいけないんだ!?


考えろ!考えろ!・・・・うん!?


ハナダは倒れて意識を失い倒れている竜を見て


一瞬にして脳が冴え、フル回転する。


勝利の笑みを浮かべて


「おい!お前達!あそこに転がっている奴をここに連れてこい!」

傾斜で転がっている竜を指さす。


(これで、今度こそ、俺の勝利だぁ!!)


内心で花田は勝利の叫びをあげていた。



「は!まったく!次から次へと!」

アーシャは前線に立ち、門の入り口で兵士達を相手にしていた。

帝国の兵士達は、金属製のアーマーではなく、登山のことを考慮したのか薄いプレートアーマーを着ているだけだった。

しかし、数で勝負といった感じになだれ込んでくる。


「退いて下さい!」

レティシアは兵士の突きを寸前でかわし、首筋を斬る。

兵士は絶命し、倒れる。


「まったく人気ね。レティシアは!」

刀で同時に二人を斬るアーシャは言う。


「私は!迷惑極まりない!です!」

叫びながら相手をしていく。

レティシアには正直辛かった。


なぜなら自分にやってくる兵士達はこぞって


「帝国を裏切ったレティシアに鉄槌を!」

「神罰を!」

といった感じに叫びながら斬りかかってくるのだ。

いくら帝国が自分を殺そうとしていたとは改めて見るとレティシアとしては複雑であり、耐え難いことだった。


(ですが)


レティシアは兵士の剣をダガーで受け止め、力を抜き、受け流す。そして、バランスを崩した兵士の喉元を斬る。


「覚悟を決めたんです!」


覚悟をこの場で宣言するように叫ぶ。


(今の自分にはより、大事なものが、力になりたい人がいる)

だから


(自分がどう思われようと、業を背負うと決めたんです!)

帝国の兵士を次々と斬っていく。

その姿はどこか、美しさがあり、帝国の兵士からはその姿を見て畏敬の念を抱かせてしまうほどであった。


(すごいなぁ。レティシアは。一皮剥けた感じだね。でも私も負けない!)

彼女を間近で見ていたアーシャは彼女の抱いたその覚悟を感じていた。そしてアーシャ自身も思った。


自分も覚悟を決めようと。


そして、その覚悟を表すかのように怒涛の勢いで帝国の兵士達へと向かっていくのだった。




アーシャ達がそれぞれで戦う中。意識を失い倒れている竜に兵士達が忍び寄っていた。


だが、兵士達が竜に手を触れることはできなかった。


「ぐぁ!?」

「なんだぁ!?」

「突風!?」


兵士達は突如吹き荒れた風によって飛ばされた。


それを見ていた花田は驚いた。しかし、次に現れた彼女を見て怒りの表情を浮かべた。

「何で邪魔をするんだ!神無月!」


仁美は叫ぶ花田を見据える。

その表情は仁美がこれまで見せたことのない相手に敵意を向けるものだった。

彼女の全身から魔力が包んでいく。


「どうして邪魔をする!そうか。弱陰に操られているのか。安心しろ。すぐに解放してやる。待っ、ぐは!?」

「勝手に私を操られていると決めないで下さい」

仁美は花田に得意の水属性の魔法〝水球〟をぶつけながら叫んだ。

「な、、なんだと!?」

花田は驚愕する。

「日陰さんのところにいたのは私の意思です。私がそこにいたいからいるんです」

はっきりと告げる。

「う、嘘だ!」

「いいえ」

「嘘だ!そうか。弱みを握られているの、ぎゃ!?」

「それ以上は言わせません」

再び魔法をぶつけ黙らせる。

傾斜のような地形で仁美が花田を見上げる形になってはいるが立場は仁美にあった。

その立場は、外面だけのものだった。


「お、お前は、正気か!そいつは、高田を殺した!クラスメートを殺したんだぞ!」

花田は必死に叫んだ。

そしてこれを言えば仁美は止まると思った。ついでに自分達の方へ来てくれる。そう思った。


「それであなたは何が言いたいんですか」

仁美が聞いてくる。


チャンスだ!食いついた!


「そんなクラスメートを殺すような異常な奴なんかについていくよりも俺達のところに来い!俺達のところにくれば、こんなことをする必要なんてないんだ!こんな辛いことなんかないんだぞ!」


聞いていた仁美は黙り混む。


やったぞ!

花田は思った。

しかし、次の瞬間。花田は横一文字に斬られていた。

そして

「ふざけないで下さい」

最後に鋭利な刃物と思えるほどの冷たい仁美の言葉が耳に入り、意識を失った。

そして、それが花田の最後であった。



「ふざけないで下さい」

事切れた花田を一瞥する仁美。

その手には花田の血で染まる剣が握られていた。

仁美は日々の修行で鍛えてきた駿足で一気に間合いに入り、抜刀。

それで勝負は着いた。


「余所者の私達がこの世界で〝こんなこと〟をしておいて何を言っているんですか」

噛み締めるように花田のいた位置からサンガの里を見下ろす。


黒い煙を上げる家々。地面に深々と刺さる無数の矢。絶命する帝国、サンガの里の人と兵士。


それらを見て


「それに、最初にクラスメートを殺そうとした異常者は、私達ですよ」

呟いていて自分の心が抉られる感覚を感じる。

しかしあえて、それを受ける。


(これは業。私が背負うべき業。あの時、あの人を見捨ててしまった。私の)

あの時、全てを振り払っていけなかった自分への。


仁美は、戦場と化した里を一瞥してから、血糊の刃を払い、鞘に納めた。

そして、急いで竜のもとへと歩み寄っていった。


少女達は、それぞれの覚悟と業を背負い、成長する。

一人の少年とともに歩むために。


そして、そんな彼女達と竜の活躍によって、帝国の敗走によって幕をおろした。


後に歴史書では、「サンガの敗走」と書かれたか、書かれなかったとか。


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