一触即発
ちょっと、展開に不安がありますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
仁美の勧めで、仮眠をとった竜が起きた時には全員が起き、すっかり身仕度を整えていた。
「すいません。任せてしまって」
「いいんです。大分お疲れのご様子でしたので」
「竜の寝顔を見れて逆においしかったよ。こっちは」
「おいしかったって」
アーシャの言葉に気恥ずかしくなった。
寝顔をじっくり見られるなんてことは初めてなことだ。少し恥ずかしかった。
「おお!おお!紅くして!」
「アーシャさん。日陰さんをからかわないで下さい」
「そんなこと言って、仁美は竜の寝顔じっくり見てたくせに」
「そ!そんなことありません!」
否定しているが顔を紅くして声も弱いので完全な否定はできないでいた。
『これ!これ!イチャイチャしておるのは結構じゃが、急ぐぞ』
竜之心が皆をまとめる。
その声に反応してテキパキと手を動かしていく。
ここにいる全員、彼には頭が上がらないのだ。
「さて、族長に挨拶をして行きますか」
荷物を持ち、族長がいるであろう居間にいく。
しかし、誰もいない。代わりに。
「皆さん」
「囲まれているね」
「はい」
「しかも入り口にかなり集中してます」
全員が気付いていた。
(痺れを切らしたか)
改めて周囲を探る。
彼女達の言った通り、この族長の家は囲まれている。
「どうしますか」
「こっそり出れば、相手は逃げたと思い仕掛けます。だからここは正面から行きます」
「大丈夫でしょうか」
「向こうは、僕達を生きたままにしたいはずです。現れて攻撃なんてことはないでしょう」
族長の家を出ると、武装したサンガの人達が集まっていた。
「よく寝れたか」
「はい。お陰様で、よく寝れました。それでは僕達はこれで失礼します」
「おい。ただで行けると思うか?」
「昨夜僕は族長に交渉したと思うのですが」
昨夜、竜は族長と話し合い、泊まらせて貰う代わりにここの人達が生活できるほどのお金を渡した。
「金が何になる」
「それでは、あなたは何を望んでいるのですか?」
「決まっているだろ!お前の背後にいる女共をこっちに渡せ!」
仁美達を指差ししてくる。
「断ります」
「何だとぉ!」
「あなたが何を思っているのか知りませんが、僕達は族長と交渉しました。今になってあれが無かったことになどされるなんて困ります」
「うるせぇ!帝国の手先が勝手なこと言いやがって!てめえはさっさと女共を差し出せばいいんだよ!」
(どうこう言ってもだめみたいだ)
「一つ、伺ってもいいでしょうか。これは、このサンガの里の総意なんですか」
「決まってるだろ!」
(あの人はああ言っているけど)
よく見ると家の窓といったところからこちらを怯えるように顔を半分覗かせている人達が何人かいる。
「とてもそうは見えませんが」
「てめえの目は節穴か」
「では、最後に、族長はどこにいるんですか。里の総意なら代表としているはずでしょう」
竜の言葉に笑みを浮かべる。
「生憎だが、族長は急遽、退位した。今は、俺が、族長だ!」
高らかに宣言してきた。
「俺が、新族長。ダリムだぁ!」
(クーデターって奴か)
弱った。自分達の登場が、きっかけになっていたようだ。
竜は状況を分析する。
周囲は包囲されている。それに相手の武器は弓。
至近距離からの弓は脅威だ。
(僕に避けることができるか)
仁美との修行で遠距離からの対応はできるが、至近距離はやったことがなかったため、自信はない。
(それに、皆が対応できない)
どうするか。
竜は自然と得物の柄に手を伸ばす。
「族長となったあなたが何故、彼女達を差し出せと言うのですか」
「頭が悪いのか。お前は、あの女共を使って帝国の奴らと取り引きすんだよ」
(成る程ね。理屈は理解できる)
「お言葉ですが、帝国が乗るんですか?その取り引きに」
「乗るさ。新しい帝国の王は、その女共がご所望だからな」
(茂木さん。あなたは)
まだ、諦めていなかったのか。いや、むしろ当然か。
彼はああ見えてプライドが高い方だ。
「例えそれで上手くいっても、僕は困ります」
「何だと」
「彼女達を守る。そう決めた。だったら、あなた達から彼女達を守ります。例えあなた方全員とやりあってでも」
竜はそう言ってダリム達を睨む。
一方のダリム達は言い返せず、むしろ圧倒されていた。
竜の言葉、表情が、本気なのだと伝わってきたからだ。
「へ、お前はばかか。こっちは弓だぞ。一歩進めば蜂の巣だ」
ダリムの左右に横一列に弓矢を構えた男達が四人ずついた。
動けば左右からくるだろう。
しかし
「この距離なら充分にあなた達の間合いに入れます」
竜は臆すことなく宣言した。
「ば、ばかか!?矢に当たって終わりだぞ!」
「でも、彼女達を逃がす時間は稼げますよ。充分に」
ダリムの言葉を切り捨てた。
竜の言葉にさすがにダリムも言葉を失う。
そして、こいつはばかだと思っていたが違った。
誰かのためなら手段を選らばねえ。
それも自分の命を簡単に差し出すほど。
自分達の脅しは通じない。逆に戦いになれば、予想で十人以上は道ずれにされる。
竜とダリム達の膠着状態は続く。
そして仁美達とダリムの仲間。二つの集団は背後で自分達の代表者の次のアクションを待ち続ける。
どちらかのアクションで次が決まる。
竜が腰を沈め、刀をとる。
ダリムは手を上げ、合図を伝える。矢が掛けられ、標的を定める。
一触即発。
まさに相応しい言葉であろう。
竜の刀が
ダリム側の矢が
放たれようとした。
「大変だぁ!?」
戦いを中断させる叫び声が聞こえてきた。
「何だぁ!?こんな時に!?」
見張りをしていた男は息をダェダェに成る程疲れていたが残りの体力を振り絞るように叫ぶ。
「ダート帝国の一団が来るぞ!!そして、勇者がいる!」
「何!?」
「何だって!?」
見張りの言葉はそれぞれで違う意味で衝撃となっていた。
「本当なんだろうな!?」
「ほ、本当だ!前に帝国の街路をでかい顔して歩いていた勇者達の一団の中にいるのを見たんだ!」
あいつは帝国の内情を知るためにおくりこまれた奴の一人だ。言っていることは本当なんだろう。
「つうわけだ。悪いが大人しくしててもらおうか」
(困ったことになったな)
予想以上に帝国の手が早い。
今、彼らを突破して逃げるか。
いや、下手に動けば立場が、それに族長の恩を仇にしてしまう。
でも、彼女達を危険に晒すわけにもいけない。
竜はダリム達を見据え、考える。
「帝国の使いが来たぞぉ!」
一人が知らせに来た。
竜はどう動くべきか、まだ、決めてはいなかった。
(どう動けば)
竜が、どのような判断をするのか。
見物ですね。ですが、案外にシンプルな結論に至る予定です。




