思惑
色んな考えが交差しています。どれが正しいのでしょうか。
新しい勇者も登場です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
11/26。加筆をしました。
「此度の事。改めて、詫びを入れさせてくれ」
族長は家の中へ案内すると竜達の方へ向き、謝罪した。
「そちらにも言い分はあります。それに過ぎたことです。誰もきにしてはいませんですよ」
「ありがとうございます」
改めて、全員が椅子に座る。
「それで、このサンガの里はどういった立場なのでしょうか」
竜は一気に切り出した。
「一言で言えば、一触即発です。どっちが先制攻撃してもおかしくありません」
全員が息を飲む。
特にレティシアは血の気が引いた顔をしている。
「そんな事を私達に話してもいいのですか。私みたいな帝国の姫がいるのに」
「言おうが言わないが、あなた方には敵いません。ヒカゲ様がいるのですから。その気になれば今頃こうやって話してなどいません。とっくにわしらはあの世逝きでしょう」
どうやら、竜の実力を知っているようであった。
(まあ。遠くから自分達のことを監視してしていたからなあ)
「それでは、あなた方、一族は、帝国の」
「仕事上の関係ですが、実際には敵ですね」
成る程。
(どうするか。ここに長居するのは正直に言うと不味い)
しかし、自分を含めた少女達には疲労の色が浮かんでいた。
(今後を考えると、やっぱり)
「族長さん。すいませんが、一晩だけでいいのでここに泊めてはいただけないでしょうか」
「それは、構いませんが」
「そちらには迷惑はかけません。お礼はします。どうか」
「いやいや。ヒカゲ様。そこまでしなくとも、わしは構いませんよ。逆に、わしらを見逃してくれた恩がありますから。むしろ、礼を言わねばならぬのはこちらの方です」
族長は丁寧な口調で竜の申し出を受け入れてくれた。
その後、竜達は族長の家でお世話になる事になった。
「大丈夫でしょうか」
仁美は不安を交ぜた声で呟く。
「問題を起こさなければ今のところではありますが大丈夫です。後は・・」
「私がこの部屋から出ないようにする、ですね」
竜のその先をレティシアが引き継ぐ。
族長から、元とはいえ、レティシアの事を悪く思う里の者は多くいると言われ、彼女には外へはあまり出ないでほしいと願われたのだ。それは、帝国側を武力で倒そうとする強硬派を刺激しないためであった。
「すいません。監禁させるような事をしてしまって」
「いえ。むしろこれで交渉が進んだのなら安いものです。ですが、改めて痛感しました。私達、帝国の貴族や権力者達は外ではこう思われているのだと」
彼女の表情は悲しみと哀れみが交ざっていた。
短い沈黙が続く。
「でも、居るのは明日まで、1日の辛抱だよ!」
場を和ませようとアーシャが明るい口調で叫んだ。
それが功を称したのか全員の表情が少しではあるが明るくなった。
「そうですね。明日までの辛抱です。それまでは大人しくして体力を取り戻しましょう」
仁美の言葉に全員が頷く。
『よいのう。よいのう。その意気じゃぞ。若者よ』
そんな様子を竜之心を微笑ましそうに眺めた。
(絆が深まっていいことじゃ。じゃが、恋の方はまだまだ、先のようじゃな)
しかし、別の方面の進展がないことにはため息を吐くのだった。
そんな竜達が大人しく部屋でいた頃。サンガの民達の間でひと悶着が起きていた。
「なんであんな奴らを泊めたんだ!族長!」
大柄な男が族長にむかって叫んだ。
「待たないか。ダリム。これは族長が考えた末の結果だ」
「うるせぇ!」
ダリムは聞く耳を持たない。
「あの姫の女を人質にしてこっちの優位を主張すればいいだろうが」
「そんな事をすれば軍がくるぞ!」
「はっ!騎士が鎧着てこんな山に来れるかよ!軽装で来るに決まってる」
「バカな事を言うな!相手は勇者もいるんだぞ!見たことがあるがあいつらは鎧なんか着ていなくても十分恐ろしいんだぞ!」
「なんのための人質だ」
彼の言葉をダリムは一蹴した。
「あっちはあの姫と勇者の女を血眼になって探している。あいつらを突き出せば帝国は俺達を譲歩してくれる」
「そんな事ができるのか」
「できる」
断言した。その言葉には自信にあふれていた。
「帝国がそんな簡単に俺達を譲歩などしてくれるわけがないだろ」
「ちっ、族長の息子が随分と臆病者になっちまったもんだな」
「そんなことは今関係ないだろ」
聞く耳を持たない。
ダリムとその仲間はその場を離れていった。
「ダリム!頼むからばかな行動は起こさないでくれ!」
そんな彼らに大きな声で忠告するのだった。
族内の揉め事は、深い溝をつくって終わりをむかえた。
代わって竜達は族長が用意してくれた部屋で自分達が買っていた食料を夕飯にして食べてから寝るのだった。
(さて、どうなることか)
竜は彼女達が寝てしまった後もこの里と帝国の関係をずっと考えていた。
自分は、敵になったとはいえ、帝国が召喚した勇者。
自分達の出現がきっかけに今がある。
「自分達がのうのうと中央都市国に行って静かな生活を送っていいのかな」
竜は自分の考えを自問自答し続けるのだった。
山道中。
「タカダ様。明日になればサンガの一族の里に着きます」
「へ!さっさと澄ましちまおうぜ」
吐き捨てるように呟く。
腕組みをして偉そうにふんぞり返っている。
「高田。落ち着け。明日までの辛抱だ」
花田・安志が落ち着かせる。
彼は竜、仁美達と同じクラスメートであり、勇者だ。
高田とは対照的に腰には剣を差した剣士の格好をしている。
「全員。今夜はここで夜営だ。準備しろ!」
兵士達に指示を飛ばす。
それぞれの思惑と思いがサンガの里で交わろうとしている。
竜達は、この先どう巻き込まれていくのか。
それは誰にもわからない。
「おい!用意はいいな」
「本当にやるんですか」
その声には恐れがあった。
「お前は、こんなところで終わりたいのか。俺はごめんだ」
「ですが、」
「安心しろ。俺に任せろ」
自信に満ちた言葉。
「よし。お前達、準備はいいな」
その声に静かだが、雄叫びがあがる。
「行くぞ!」
そして合図が出されたのだった。




