別れ
これで彼らは別れます。
文章が短いですが楽しんでいただけたら嬉しいです。
「本当にありがとうございました!」
「本当にありがとう」
公とマリナは竜達に深々と頭を下げた。
今の二人はフードを被って相手から自分達の正体が見えないようにする格好をしている。
「二人はこれからどちらへ」
「ダート帝国の影響がない国か、どこかの森の奥でひっそりと暮らします」
微笑みながらマリナがこれからの事を話した。
「羨ましいです」
「私もです」
仁美とレティシアは二人の事を本当に羨ましそうに見る。
「レティシア様。ヒトミ様」
「ですから様はいらないと」
レティシアと仁美は苦笑を浮かべる。
マリナはやはりかつての仕えていた姫の一人として変えないようである。そして、元勇者である仁美に対してもだ。
「勝手な事だと思いますが、お二人に言おうと思いまして」
「何でしょうか」
「ヒカゲ様の事が好きなのでしたらしっかりと御伝えした方がいいと思います」
「「!!」」
頬を紅く染める二人。
マリナは失礼ではあるがやはり、と思った。
だからこそ
「あの方は自分から進んで近づいては来ません。たぶんですが自分の気持ちを押し込んでいると思います。ですので御自分から伝えることが大切だと思います」
二人に伝えた。二人には幸せになって欲しいと思ったからだ。
マリナの言葉を二人は聞き込んでいた。
「はい。参考にさせていただきます」
「ありがとうございます。マリナさん」
「いえ。余計なお節介だと思ってください」
「それでも
マリナはやんわりと答える。
女性陣が話し込んでいる中。竜と公も話しをしていた。
「目崎さん」
「わかっています。約束は守ります」
そう言って手の甲を見せる。そこには魔方陣が描かれていた。
「本当に良かったですか。僕達を信じて」
「しつこいですよ。目崎さん」
竜から苦笑する。
「言ったでしょう。その時は、その時」
刀を掴み公の前に出す。
「容赦なくいきますから」
殺気のこもった言葉を発する。
「本当にすごい人です。あなたで良かった」
冷や汗を浮かべる。
竜の言ったことは本当なのだと思った。
(本当にとんでもない人だ)
公は竜に畏敬の念を抱いた。
「日蔭さん。帝国は僕の計画通りにいくとするならあなたは帝国の裏切り者として国民に伝わっているでしょう。そして、これから先、あなたの立場はどこに行っても辛いものになるでしょう。例え中央都市でも」
公の話の内容は竜も理解していた。
自分の立場は、いわば勇者の裏切り者。指名手配者だ。
「これからどうするんですか」
「僕はその時はその時です」
「神無月さん達はどうするんですか」
「中央都市までは一緒に同行します。ですが、向こうに着けば」
「消えるつもりですね」
公の言葉に頷く。
「それいいんですか。あの二人はあなたの事を好いています。僕には分かります」
自分自身も恋愛を経験した者として公の言葉には説得力があった。
「いいんですか。それであなたは」
「目崎さん。僕だってわかっていないわけではありませんよ。でも、僕のために彼女達が苦しむのようなことになるのなら僕は消える覚悟ですよ」
彼の瞳には覚悟の炎が灯っていた。
「すいません。僕達のために辛い目に合わせてばっかりに」
謝罪の気持ちでいっぱいだった。
「それは言わない約束です。もし、自分に罪悪感があるのなら彼女を幸せにしてください」
「日蔭さん。本当にありがとうございます」
彼の言葉に自分は救われるようだった。
そして二人はその後お互いに堅い握手をした。
「それでは、また」
「気を付けて下さい。皆様」
「良い旅を」
「お幸せに!!」
「ご武運を」
それぞれの言葉を贈り合い彼らは別れた。
「行ってしまいましたね」
「何だかあっという間な感じがします」
「そうですね。それでは、おじいちゃんやアーシャさんを待たせていますから僕達もまいりましょう」
三人は歩き出した。
こうしてそれぞれの道を歩み始めた彼ら。
彼らの道が再び交差するのはいつになるのか。それは、まだ誰にもわからない。その先に何があるのかも。
しかし
(今度は、幸せな再会になるといいな)
竜は公達の姿を思い浮かべてそのことを強く願うのだった。
そして、最後の難関。目の前に聳え立つ山脈を前に強く踏み染みていく。
ダート帝国王室。
「くそ。日蔭め」
椅子に腰掛け、イケメン顔を歪めて憎しみのこもった言葉を呟く。
茂木の計画はつまづいていた。
公の死によって竜達の行動はわからなくなってしまった。
(あいつを行かせるべきじゃなかった)
公という戦力を失ったため竜達のことを先回りすることが出来ない。
(だけどまだ日は経っていない。だったら)
「だったら、あの山脈をお前の墓標にしてやる!」
そう叫び、茂木は宰相を呼んだ。
そして、一つの指令を送った。
茂木の発した指令は竜達がいる山脈に何をもたらすのか今はわからない。
ただ、言えることはろくなことではないということだけである。そして、それが竜達に何をもたらすのかもわからない。




