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勇者の死

短めの文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

そろそろアイデアが切れてしまいました。

ご意見、ご感想、ご指摘があったら嬉しいです。


「うっ…く、…なんで殺さなかった…」

左肩の痛みに耐えながら立ち上がった公。

「君が刃を反さなかったら僕は死んでいた。何故だ」

「その言葉。そっくりそのまま返します。目崎さん」

「どういう意味ですか」

「目崎さんは千里眼の能力で僕の動きを先に読めた。それは、いつでも僕を倒すことができたはず、なのに、目崎さんが使っていて僕が知っている中で最も威力のある火炎放射の一撃。それが全く放たれることがありませんでした。使ってきたのは威力の小さい火球だった」

「何が言いたいんですか」

「目崎さんは、元々、僕に勝つ気がなかった、と言いたいんですよ」

「黙れ!」

突然、公が叫んだ。

そして、動かせる右手を自分の背後に向けた。

「〝焼き尽くせ〟ファイヤーバーナー」

詠唱して背後に火炎放射を放った。

竜はその瞬間、目を見張った。

その理由は公が自分の火属性魔法を推進力にして自分に接近してきたからだ。

立場が逆転。今度は公が弾丸、いや、ミサイルの如く竜に接近してきた。

公は火炎放射を止め、腰の剣を抜き、竜に突っ込んだ。

ガギィン!

鍔迫り合いが始まった。


「もう勝負は着きました!」

「静かに」

「え!?」

鍔迫り合いの真っ最中だと言う中で公の言葉に竜は驚く。

「僕を殺してほしい」

小さい声で公が竜に頼み込んだ。

「何を!?」

「訳がわからないと言う気持ちはわかる。だが、頼む」

「・・・・・」

数秒鍔迫り合いをしていた二人。

「わかった」

竜は呟くと同時に公の剣を上へと弾き上げた。

剣が頭上で回転しながら上がっていく。

上へと弾き上げられたために公の持ち手も上に上がって胴に大きな隙ができていた。

竜は右足を前に出し、公の懐へ踏み込んだ。

「はッ!」

右手に持つ刀を抜刀術と同じように横一文字に振った。

公はついに力尽き、地面に倒れ、今度こそ動かなくなった。


「勇者トオルが殺られた!?」

「お、俺達は、終わりだぁ!?」

「に、逃げろぉ!?」

戦いを見ていた帝国の兵士達は公の敗北と死に戦意が消失。皆、一目散に逃げていった。

「大丈夫かな。あんな兵士がいても」

その逃げっぷりに竜は場違いにも帝国が少し心配した。


「ヒカゲ様!お怪我は!」

「日陰さん。大丈夫ですか!」

仁美とレティシアが駆け寄る。

二人は多少、服に切り傷があったがたいした怪我は無く竜は安心した。


「僕よりも目崎さんです」

竜はそう言うと公をおぶった。

その行動に二人は驚く。

「どうしてですか!?」

「そうです。そ、それにそのお方はヒカゲ様が」

「訳は後で今は急いでこの場から離れましょう」


有無も言わせず竜は先を急がせるように言い三人はその場から急いで立ち去った。



「なんだとぉ!?勇者トオル様が反逆者リンに返り討ちにあい殺されただと!?」

報告を受けた賢斗、そして妻第二王女、その他の重鎮達は驚愕した。

「バカな!?あの男は勇者ですらない無能だぞ!?」

「それが彼の護衛、監視を目的としていた兵士達全員が彼が殺されたところを見ていたと証言しているんです!」

報告をしに来た兵士の必死の様子から事実だと賢斗達は判断した。

「しかしどうしましょう。勇者の死は、国中に、いや、他国に伝わるのは時間の問題です。王よ」

「他の勇者達にも動揺が大きいとみます」

考える賢斗。

相手の動きが察知できる公を失ったのは大きい。

だが、

「魔王だ」

「え、今なんと」

「反逆者リンは、魔王と手を組んだ。そして、拐われた勇者仁美とレティシア姫は、洗脳され、捕らわれの身になってしまった」

何を言っているんだ。

その場にいる者達は思った。


「そういうことにしておけ」

「しかし王よ」

「魔王は嘘になってしまうが、目崎があの男に殺されたのは事実。士気を高めるために利用しよう。だが、仇はとる。勇者の名にかけて」

賢斗の言葉に皆が同意した。

理由は様々だが、今は落ち着くという流れに決まった。


次の日。ガトー帝国で勇者目崎・公の葬儀が行われた。

そして、賢斗の演説によって、日陰・竜は、魔王と手を組んだ裏切り者だとされ、竜の名は大陸中に悪名として知れ渡ることになるのだった。


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