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竜の修行

四話目です。

楽しんでいただけたら嬉しいです

討伐以来、竜の周囲は酷くなった。いや、更に拍車を掛けたと言ってもいいだろう。

竜が訓練所に来れば騎士団、クラスメイト達は邪険に扱い、城の中を歩けば、通りすがりのメイド達からは避けられ、汚物を見るような視線を向けられる。さらに竜に対する待遇はもっと酷くなっていった。

食事は、簡素で質素な物に変わり、訓練と戦闘に使う剣は皆の使用している物よりも質が悪く、訓練すらまともにさせてくれない程になった。

例え訓練をさせてくれたとしてもクラスメイト達の的役と言う名のリンチだ。

おかげでそんな日を繰り返していった竜の体はボロボロになっていった。しかし、そんな状態になっても竜に対する対応は変わらない。その上で治療がまともにさせてもらえず仕舞いだ。

まさに理不尽な毎日が続いていた。


しかし、それでも体が傷ついても竜の心だけは折れなかった。これほどの目にあっているというのにだ。

その理由は竜の日々の行動にあった。


「今日も。いや、今夜も」

訓練を終え、ボロボロになった竜は静かに自分だけがいる部屋の中で呟いた。

竜の視線には部屋から見える山の向こうへと沈んでいく夕日があった。


(よし。夜になった)

誰もが寝静まった夜に竜は部屋を静に出る。部屋と言ってもベッドすらない。あるとすれば壊れたテーブルと椅子だけ。その部屋はこの城で使われなくなった家具などの置き部屋になっていた所だ。しかし、今はほとんどが何もない部屋になっていた。この部屋で生活するようになった竜によって整理されたおかげである。


竜は現在、城の者達が寝静まった頃になる時間帯に訓練場に来ていた。

訓練場には誰もいない。

代わりに月の光が訓練場を照らしていた。

灯りが全て消えた訓練場は月の光によって幻想的に輝いていた。

まるで一つの舞台だ。

観客は、闇夜を照らし、輝く無数の星々。

出演者は日陰 竜。

見せるは古流剣術の型。


竜は、訓練場の真ん中というべき位置に着くと自分が持つ事を許されたただの剣を正眼に構え、素振りを始めた。


「はっ!はぁ!」

剣を振る度に空気が唸る。

鋭く振るわれていくその剣には強い意思が宿る。

スキルがなくてもその一振りには迫力がある。

「ふっ。やぁ!!」


竜は、昼間に受ける仕打ちのためまともな練習ができない。なので、少しでも力をつけるために夜になると秘かに訓練場に来て秘かに練習をしているのだ。

何より竜自身が、自分の持つ〝剣術〟を忘れないようにするためでもあった。

素振りから始まり、足運びや突きに上段、下段、と袈裟懸け等、自分の両親達に教えられた技を復習するように出していく。

その様は一つの舞だ。


「やぁっーーー!」

気合いとともに振るわれた最後の一振りが空気を切り裂いた。


稽古を始めてから二時間くらい経過していた。


「ふぅーーっ」

今日の稽古を終えて大きく息を吐く。

竜の顔は達成感に満ちていた。


これがあるから自分は折れない。


自分でいつもそう思っている。

自分はこの剣術に誇りを持っているからだ。


(父さん。母さん。ありがとう)

会えない自分の師でもある父親と母親に感謝の念を送る。


そして、空を見上げると日が登り始めていた。


「急がないとな」


竜は、周囲を警戒しながら部屋へと走った。

この時間帯になると城を警備する人達が出てくるからだ。

こうして、竜の夜の稽古は終わった。しかし、それはこれからも続いていく竜の日課なのだ。


『』サイド

「あの動き、」

彼が、稽古を終え、早足で訓練場を立ち去るのを見た後を、私はおもわず呟いていた。

今日に限って早く起きてしまい、もう一度寝ようにも眠気が覚めてしまっていた。

仕方なく外の景色でも見ようと窓のカーテンを開いて暫くは、空に浮かぶ美しいこの世界の月を眺めていた。

それから数分後に偶然下を見て見ると訓練場の真ん中に人影を見つけた。

私は、一瞬驚いた。侵入者だと思った。だけど、月の光に照らされた人影を見て安堵した。

その人影は、元の世界とこっちの世界でも皆からいじめを受けていた人だったからだ。

私は、一度か二度、彼が可哀想で何度か助けた事があった。

その時、見た印象は、静かで優しそうな人だと思った。

しかし、それ以降は、あまり話さなくなった。それ以来私は自分のことで精一杯になっていった。

だが、この世界で一種の鮮烈なものを見てしまった。

この前の討伐を見ていたゴブリンを相手にした接戦。

しかし、後一歩の所で茂木さんに手を出され彼自身が倒す事はできなかった。そして、その後に起こった件に私は可哀想だなと思った。しかし、自分もあの場にいたのに何もしなかったため、申し訳ない気持ちになったのを覚えている。

そんな中でも彼は常に平常心を保っていた。

私は凄いと思った。

その時から私は彼にちょっとした興味を持った。


私は、そんな彼を見ていた。


こんな夜に一人で何をするんだろう、と。


しかし、何をするかなど、彼が持つ剣を見てわかっていた。私は、勇者達の中でも最大戦力の一人だと言われ、ほとんどを外で訓練をしているため城内の訓練の事は知らないが友達からは、聞かされていた。

彼は、訓練を受けていなくて、いつも一人で素振りなどをやっていて、ほとんどを一人でやっていたという、しかし、時々、対戦になるとまったく自分達の相手にならないらしい。

友達が言うには、避ける事は上手いがすぐに、バテて、簡単にやられてしまうらしい。


そんな彼が一人、こんな夜中に訓練をする。


私は、友達が言う彼がどんな事をするんだろう?と見た。


彼が、剣を握り、素振りを始めた瞬間。


「!」


私は、震えた。


そして、その震えは何なのかを知っていた。

それは、ゴブリンといったモンスターや騎士団の人達と初めて立ち合った時に起きた震えだった。

それは、恐怖による震えである。

今は、実戦経験の影響でそんな事に慣れていたために私は、驚いた。

友達から聞かされていたものとはまったくの逆で友達が話していた彼の事が嘘じゃないかと思ってしまう。

私は、縫い付けられたかのように彼を見ていた。

彼の動きは、魔法といったものはなかったが一つ、一つの動きが洗練されていた。

私と一緒に外で訓練している茂木さんの動きに比べると月とスッポンと思うほど彼の動きは洗練されたものだった。

その動きに私は魅せられた。

月の光が彼を照らし、まるで訓練場が、彼だけの舞台のようである。


それから暫くして彼は稽古を終え、まるで、逃げるように訓練場を後にした。

私は、誰もいなくなった訓練場を見て、さっきまでの出来事は幻だったんじゃないか、と思った。

そして、改めて空を見るともう太陽が顔を出し始めていた。


私は、カーテンを閉めると、今日も頑張ろうと思って

気合いを入れた。


しかし、いつまで経っても、夜に見た彼の剣と動きは頭から離れる事はなかった。



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