セエル観光
観光の内容と言うよりも買い物といった感じなっています。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
次の日。竜達はセエルの街を歩いていた。
「今日は楽しみです!」
「はい!」
二人の少女がフードの下で静かではあるが明るくテンションのある声で呟いていた。
『良かったのう』
竜乃心は二人の様子に少し安心した。
「そうですね。良かったです本当に」
竜も同感だった。
あの夜。二人は泣きつかれて寝てしまった。目覚めたのは次の日の朝だった。二人は竜に昨夜のことに礼を言った。その後は楽しく朝食を食べた。
そんな時、竜は提案した。
みんなでこの国の観光しないか?と
その提案に二人と一刀は賛成。
素顔を伏せてではあるがセエルを観光することになった。
「色々な物が沢山です」
「レティシアさん。これなんてどうですか?」
「わあ!綺麗です!」
はしゃぐ二人。
竜はそれを微笑ましく見る。
しかし
地面に落ちている石を拾い投擲。
ビシッ!
二人の背後にいた男の手の甲に命中。
竜は速やかに二人と男の間に入る。
男はあきらめたのかその場を後にする。
『手癖の悪い奴じゃのう』
「そうですね」
竜が防いだのはスリ。
人混みの中では格好の狩り場。実際、この国でもっとも多い犯罪でもあった。
「やはり、さっきの人は」
仁美は理解していた。
「そうですね。スリです」
「怖いですね。こんな賑やかなところなのに」
「こんなところだからですよ」
「本当に怖いです」
レティシアも仁美と同様であった。
「二人は」
「完全に気づいた、というわけではありません。ただ背後に変な気配を感じた程度でした」
「同じです」
日々の修行で二人も〝そこまで〟に至っていた。
「すいません。自分達で対処できずに」
「言いますですよ。今日は二人のための買い物。気にせず楽しんでください」
しかし竜乃心からは厳しく、自分達でも警戒しろという鞭がとんだ。
その後は何事もなく楽しい時間を過ごした。
「てめぇ!今ぶつかりやがったな!」
「うるせぇ!余所見してるお前が悪いんだよ!」
市場の真ん中で男が二人言い争いを始めた。
話を聞く限りどちらかがぶつかりそれが気に食わないのが喧嘩の原因ようだ。
二人とも身なりは悪いが冒険者なのか腰に差した剣と鍛えらた体格がよく存在感はある。
「喧嘩ですね」
「はい。そのようです」
「ですが、喧嘩の原因が…」
レティシアが喧嘩の原因に何とも言えない表情を浮かべる。
人々が沢山すれ違う市場。そこはどんなに気をつけても人とぶつかってしまうのが当たり前の場所だ。
「まあ。短気なんですよ。二人とも」
三人の会話は喧嘩を見物している他の野次馬達の声に消えていった。
三人をよそに喧嘩はどんどんエスカレートしていき、ついには剣での決闘にまで発展しようとした。
二人が自分の得物を出そう出そうとする中
「そこの二人!一体何をしている!」
この国の紋章が付いた鎧、剣や槍を持った男達がやって来た。
「この国の兵士のようです」
「良かったです。決闘にならなくて」
「そうですね。さあ、次のところへ行きましょう」
竜達は再び買い物へと行くのだった。
それからは何事もなく楽しい買い物の時間が続いていくのだった。
『竜』
「わかってます」
楽しい時間を過ごしてた中で感じていた不穏な気配。
「ヒカゲ様」
レティシアが心配する表情を向けてくる。
「大丈夫です。僕に任せてください」
「大丈夫なんですか。複数のようですが」
仁美も状況を知って心配してくる。
「大丈夫です」
優しく諭す。
「では、これ書かれた少し走ります。それで…」
竜達は市場を歩いていく。
(ついて来ている)
背後から一定の距離をとって自分達についてくる気配を感じていた。
暫くして竜達は走り出した。
気配も同じように走り出した。
(やはり)
これで確信した。
狙いは自分達だと。
市場を離れ街路樹を走っていく。
そして、行き止まりの場所にたどり着く。
「お、追い詰めたぞ!」
そこに五人の男達が来た。
「すいません。道に迷ってしまったのですが、道を教えていただけないでしょうか?」
「おう、いいぜ。ただし、そこにいる女どもを報酬としてくれるんならな」
これで決まった。
「困ります。僕の旅の仲間で友人です。それよりもどうしてフードを被って顔が見えないのに私の友人が女性だと言えるのですか?」
「お前達のことは見ていたのさ。市場で一瞬であったがその女どもの顔を見たのさ」
なるほど。つまり、帝国とは無関係。
「彼女達をどうするつもりですか?」
「へ、決まってるだろ。売るのさ。奴隷としてな」
この世界では奴隷は存在する。基本的に奴隷は犯罪者が罪を償うための無償の労働をすることになっている。しかし、闇は存在し、裏で拐われ、取引される非合法に奴隷にされる場合がある。それら、貴族の玩具と言っても過言ではない酷いものであった。
こいつらは。
裏で売るための人達を拐う人達だった。
「それは困ります。なので、道は他の人に聞こうと思います」
「おっと。ここでみすみす逃すと思うか」
立ち塞がる男達。
仕方ない。
竜はゆっくりと剣を抜く。
レティシアもダガー。
仁美は竜と同じく剣を。
「っ」
男達は後ずさる。竜達の放つ気迫に呑まれたためだ。
「や、やっちまえぇぇぇ!!」
「「「「おおおおおぉぉおぉぉ!!!!」
「はっ!」
「やぁっ!」
「はぁ!」
竜達はすれ違い様に男達を斬った。
レティシアと仁美で一人。
竜は残りを。
竜達にとってとるに足らない存在だった。
数秒後にはリーダーと言える男だけが残っていた。
男は信じられない光景に呆けていたが直ぐに正気に戻った。
「なっ!い、一体、何がっ!」
「普通に倒しただけじゃないですか」
ゆっくりと歩み寄る竜。
男から見て今の竜は自分の命を狩りに来た死神に見えていた。
「お、お前っ!?一体!?冒険者か!?」
「違います」
否定する。
「僕は冒険者ではありません。もし、言うのでしたら…」
一拍置いて
「剣客ですよ」
宣言するように言うのであった。
それから竜達は男達を兵士に突き出し、残り時間を買い物に費やしたのだった。
「す、凄い!!」
陰で見ていた人物はさっきまで起きていた光景に目を疑う。
一瞬の内に倒した彼ら。
圧倒的とも言うべき戦い。
その人はその後も竜達を見ているのだった。
「彼」
特にその人は竜に注目していた。
その目は、好奇であり、獲物を見つめる猛禽類のように鋭くもなっていた。




