これからと少女達の願い
「朝…か」
日の光で目を覚ました竜は、今だにすやすやと寝息をたてている二人を見た後、立ち上がり歩いた。歩いたと言っても十歩ほど先の川辺までだ。
川の流れる音が竜の意識を落ち着かせる。
竜は空気を目一杯に吸い、呼吸を整える。
何の汚れのない空気が竜の肺を満たす。
「よし」
竜は、意気込みと同時に腰に差していた刀を抜刀。
抜刀された刀身が太陽の光に反射して煌めく。
上段から降り下ろし。下段から切り上げ。
右切り上げ。左切り上げ等。
石ころ等が沢山落ちている地面で動いているとは思えないほどの静かな足運び。無駄のない動き。どれも他人から見れば素晴らしいものであった。
それを竜は15分程繰り返した。
「フゥーーッ」
一通りやり終えて一息する。
「ん、」
ふと視線を感じる。
そこには、目が覚めて、こちらを目を丸くするように見ている仁美がいた。
「すいません。どう声を掛けていいのかわからなかったもので」
「いいですよ。集中していたこっちもこっちですので」
竜は、笑う。
仁美もつられて笑った。
今日は、いい朝だ。
竜は、心からそう思えた。
しばらくしてからレティシアも起きて三人は朝食をとった。
「では、これからどうしましょうか?」
パンを食べながら竜は二人に聞いた。
「ヒカゲ様はどうお考えなんですか」
レティシアが竜と同じようにパンを口にしながら聞いてくる。
レティシアは、お姫様であったが元々が庶民の出なのか気さくな感じに食事をしていた。
「僕は、この大陸中を見て回ろうと思っています」
「冒険者ですか?」
「いえ。剣客として」
「ケンキャク?」
「剣術を生業として剣術を極めようとする人の事です」
『言葉を間違えるでない』
「似たもんですよ」
二人の側に老人が現れた。
白い髭を伸ばし、シワもあるがその顔は、若者以上に生き生きとしている。
日陰 竜之心。竜の師匠であり、保護者であり、竜の小太刀でもある。
「お爺様。おはようございます」
レティシアは、律儀に挨拶する。
『律儀じゃのう。レティシアさんの良いところじゃな』
微笑む竜之心。その表情は、孫娘を可愛がるおじいちゃんのようだ。
最初の頃は、レティシア、仁美は、竜之心の存在に大変驚いていた。しかし、竜之心の気さくな物言いに緊張はほぐれ、今では普通に話すくらいにまでになっていた。
「お爺様も食べますか?」
仁美が残っていたパンを差し出す。
『ありがとうのう。では、頂こうかのう』
そう言うと受け取りパンを食べ始める。
小太刀に宿る存在ではあるが飲食は可能なのだ。
「それでこれからどうしましょうか」
「僕は、これから、街に行ってこれからの生活に必要な資金を調達しようと思います」
「それが一番無難だと思います」
「ただ、二人は、どうするんですか?僕と同じように稼ぎますか。でも、レティシア様はできれば街へ行っても行動を慎んでほしいのですが」
「どうしてでしょうか」
「いくら、帝国ではないとは言え、帝国側が何をしてくるのかわかりません。それに…」
「それに…何でしょうか」
「レティシア様に失礼な言い方ですが、レティシア様は世間をあまり理解していない。神無月さんも同じです。城から出れば、そこは、未知の領域。何が起きてもおかしくありません」
竜は、真剣な表情で話す。
二人は、竜の話を黙って聞いていた。竜の言うことが正しいからだ。
「正直。僕も帝国からそんなに離れたところまでしか行った事がありません。そのため、僕でもこれからの国は未知の領域です。なので、僕が絶対に守れる保証はありません」
酷だが、言うしかない。竜はそう思った。
「わかりました。私もあなたの言葉を理解しました」
「ありがとうございます」
「ただし…」
さらに、言う。
「一つ、私のお願いを、いえ、私〝達〟のお願いを聞いてはいただけないでしょうか」
竜を見るレティシアと仁美。
二人の表情に覚悟があるのを竜はしっかりと感じていた。
「わかりました」
「では…」
レティシアは、覚悟を決めて、竜に自分達の願いを伝えた。




