騎士団長の真意
ちょっと長めかと思います。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
「ぐ…ぐは…ぇ」
腹を押さえながら倒れこむ騎士団長。
それを軽く支える竜。
「僕の勝ちですね」
「…ああ」
「なぜ、このようなことを」
「どういう意味だ」
「あなたは、最初から僕達を捕らえる、殺す気なんてありませんでしたね」
騎士団長は、竜の言葉に何も言わずに沈黙する。
「一体、どういうことですか。ヒカゲ様」
闘いを見守っていたレティシアと仁美が近寄ってきてレティシアが代表として聞いてきた。
「おかしいとは思いませんでしたか。騎士団長の行動を。僕達がここに来た時、騎士団長は、真っ先に、国の反逆者と言われているレティシア様に最初に斬りかかることはなく、騎士団長のとった行動は、僕との決闘だった」
「確かに」
「そうですね」
「つまり、騎士団長は、最初から僕達をどうこうする気はなかったんですよ」
「でも、なぜそんな事を」
「それは、僕の予想だけど、多分、二人を守るためだと思う」
二人は、驚いたのか目を見開いた。
「話していただけませんか。騎士団長の真意を」
「この国を守るためだ」
騎士団長からそんな言葉が出てきた。
「今の帝国は、権力者達の欲望が渦巻いている」
「どういう意味ですか」
「お前なら解っているのだろう。ヒカゲ。この帝国のおかしさを」
竜は、これまでの事、そして、修行での頃に見てきた光景がフラッシュバックするように鮮明に浮かんだ。
「そうだ。この国は、帝国は、腐ってきた。そして、帝国は、妄想にも等しい目的を持った」
「い、一体、何なんですか」
レティシアは、問う。
「大陸の征服です」
「馬鹿げてます」
レティシアが珍しく怒気を帯びて言う。
「そうです。馬鹿げているのです」
「でも、帝国は、他の国と比べても中の中ほどの大きさだと聞いているのですが」
仁美が、正論を口にする。
「そのための〝勇者召喚〟ですよ」
竜が答える。
「ヒカゲの言うとおり、帝国は、圧倒的な戦力を短期かつ簡単に手に入れるために勇者召喚を行った」
「僕達が初めて帝国の人達と謁見させられた時に召喚した理由。あれは、嘘だったんですよね」
「まさか、そこまで解っていたのか」
「あまりにも、上手くいき過ぎていました。しかし、自分達は、こっちの世界では、素人。世界の情勢は全く理解できなかったために判断がつきませんでした」
もし、あの時や城にいた頃にみんなに言っても誰も耳を傾けてくれないだろう。
「しかし、そんな中で問題がおき始めている」
「どういうことですか」
「勇者の何人かと第二位の姫が手を組んでこの帝国を掌握しようとしているのだ」
それは竜ですら予想外な情報であった。
「いずれ、この帝国が支配されるのは時間の問題だ。私は、帝国を守る騎士団長としてどうするべきなのか考えた。そんな時にお前の情報を城で聞いた。そして、お前と闘って確信した」
竜を見て騎士団長は言う。
「お前になら任せられる。レティシア様を」
「騎士団長」
「今まで散々な扱いをしてきた私が言うのは、任せるのは、身勝手かもしれないが、頼む。レティシア様を守ってほしい」
最後には涙ぐんで竜に頼む騎士団長。
「騎士団長。あなたは、僕が閉じ込められた時に僕の名前を叫んでくれました。僕は、嬉しかったです。それに訓練の時も僕に被害がいかないように配慮してくれました。」
「ヒカゲ」
「だから、僕に任せていただけるなら僕は、彼女を守りましょう」
「ありがとう。ヒカゲ」
「騎士団長は、これからどうするんですか」
「私は、」
そう言った瞬間に腰から短剣を抜き自分の脇腹を刺した。
「何を!?」
「安心しろ。傷は浅い。こうすれば、お前達を逃がしてしまった時の理由になる」
服を赤く滲ませて荒い息を吐く。
「さあ、早く行け。奴らが戻って来ない内に」
騎士団長の言葉に三人は、騎士団長に礼を言うと脱出用の通路へと走っていった。
それからしばらくして騎士団が騎士団長を発見。そして、急いで、竜達の後を追おうとした。しかし、その頃には三人は帝国を脱出して追いつくことができないほどの距離まで逃げていたのだった。
騎士団長が次に目を覚ましたのは、城の中にある病室だった。




