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竜の覚悟 城での出来事

予定よりも延びてしまっています。しかし、これからも楽しんでいただけたら嬉しいです。

ご意見ご感想をお待ちしています。

一人取り残されたダンジョン内で


グオォォォォォォォォ!!


ミノタウロスの雄叫びが響き渡る。

竜は、頭の中がグワングワンになっていた。

(雄叫び、でかいよ!耳がおかしくなりそうだ)

鼓膜が破れてしまうんじゃないかと思った。

しかし、そんな考えを抱いている場合ではない。

ミノタウロスが自分に気づいたからだ。

大地を揺らしながら地を走るミノタウロス。そして、右手に持つこん棒を横凪ぎに振るった。

竜は地面に伏せ、回避した。

空気を殴ったように後から風が吹いた。

「なんて腕力と武器の威力!?」

ゾッとした。

回避に成功した竜はすぐさま立ち上がり距離をとる。そして、腰に差している剣と刀を抜く。

「やるしかないの…か」

ミノタウロスを見据え構えた。

竜は覚悟を決めた。

これから先を生きるため、そして、自分を心配して最後まで自分のために叫んでくれた彼女のために。

帰って、会うために。

竜はミノタウロスを見据えると地を蹴った。


「やってやろうじゃないか!」

巨大な存在へと真っ直ぐに。


「本当にあなたは、なんて事をしたんですか!」


竜が覚悟を決めてミノタウロスと戦いはじめた頃。

仁美は、茂木にむかって叫んだ。

「なんて事って、俺は、何も」

「日陰さんを犠牲にしてなんて事は、ないじゃないですか!」

ダンジョンを脱出した仁美達はこれからの続行は不可能と判断して国に帰還していた。しかし、仁美は、あの後、助けに行こうと入り口の瓦礫を退かしていこうとした。しかし、茂木や騎士団に止められて無理矢理帰還させられた。そして、現在、皆と話し合いをする広い場に集まっていた。

今の空気はどうかと言うと重かった。それは、今まで一緒とまではいかなかったが同じ世界で同じクラスの人が死んだ事に対する悲しみか。それとも、自分達が助かるために仲間を犠牲にした事に対する罪悪感によるものか。それとも、まったく別の感情か。

誰が今、どう感じ、どう思っているのかは、わからない。


そして、今。そんな空気の中で少女の叫びが響き渡った。

なぜ仁美が叫んだか。それは数分前に戻る。


広い場。城では集会の間と言われる部屋だ。そこでは、会議といった事に使われる部屋でもある。

今、その場では全員が集まって騎士団長が現状とこれからについて手短に話をした。それが終わった後にそれは起こった。

仁美は、あの後から元気がなかった。いや、顔には涙が流れた後がくっきりと残っていた。そして、目は真っ赤に充血していた。

そんな彼女に。

「神無月さん」

茂木が声を掛けてきた。こんな時でも笑顔で。

しかし、仁美にとってはその笑顔が不気味に見えた。


「こんな時に笑顔ができるなんてすごいですね」

「こんな時だからだよ。大丈夫かい」

「いいえ。まだ、です」

正直、大丈夫ではなかった。

これまで一緒に修行をしてお互いに話し合ったりしていた存在を失ってしまったのだから。仁美にとって竜は知らない内にとても大きな存在になっていたのだ。

「彼の事かい?」

その言葉にビクッと反応した。

その様子を見て茂木は勘づいた。

「残念だったよ。俺もそう思う」

言葉を掛ける。しかし、その言い方はどこか棒読みで気持ちを仁美は感じられなかった。

「彼は、〝俺達を助けるために犠牲になったんだから〟」

茂木の言葉に仁美は耳を疑った。そして、彼の顔を正面から見た。

その表情は、笑っていた。

そんな言葉を言った後だというのに。

「茂木さん。あなたは今、なんて言いましたか。いえ、あなたはあの時、なんて事をしたんですか」

「なんて事?」

首を傾げる茂木。その反応に仁美は怒りを覚えた。

「本当にあなたは、なんて事をしたんですか!」

「なんて事って、俺は、何も」

動じることなんてなく、女子達を虜にする笑顔のままでいる。

「日陰さんを犠牲にしてなんて事は、ないじゃないですか!」


そして、現在に至った。

「そんな事を言ったって、彼がいたら俺達は皆、死んでいたんだ!」

「それで日陰さんを犠牲にさせるような事を言ったんですか」

仁美は茂木を見据える。今の茂木は怒りの表情を浮かべていた。

「いいじゃないですか!結局は力がなかった人だったんですよ!皆を助けになったんだからいいじゃないですか!」

その言葉を聞いて仁美は何かを悟った。

そして、

「大丈夫ですよ!仁美さんは俺が守りますから」

茂木からは最後にそんな事を言われた。

「最後に言う事は、それですか。日陰さんに対して何も思わないんですか!」

「何を思えって言うんですか!」

「わかりました。茂木さんがこの件をどう思っているのか、理解できました」


そう言うと仁美は茂木に背を向けて部屋を出ていった。

彼女の心の中は、怒りと哀しみでいっぱいになっていた。

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