第四話 初めての闘い
次の日、俺は森へと向かった。
「あ、アルス君。こんにちは。」
誰もいないを前提にしていたため、そこに桜髪の少女がいたことに驚き、反応が遅れた。
「お、おうフィーユじゃないか。どうしたんだい?」
「昨日はごめんね。もしかしてアルス君、森にいた?」
「まあ、いたといえばいたけど、魔物が大量発生したから仕方ないじゃないか。今日偶然会えたことだし今日約束を実行しようよ。」
「そうだね。じゃあさっそくトレント狩りをしようか。」
「うん。そうだね。」
俺たちは森の奥へと進んだ。この後悪夢が起きることを予想もせずに。
俺が2発めのファイアーブレットを撃ち終えるとトレントは断末魔の声をあげ、光の粒子となる。
「ふう。これで何体倒したの?」
俺はドロップ品の怪樹の枝を拾いながら言った。
するとフィーユは、
「うーん。さっき15体めを倒したから16体めかな。」
「あれ?あそこに居るトレント少し形が変じゃない?あれが噂のエルダートレントかな。ちょっと戦ってみようか。」
エルダートレントとはトレントの上位種でトレントを大きくして攻撃力が高くなりそのかわりに敏捷性が落ちたモンスターである。
「でも少し危ないんじゃないかな。ここは逃げてやっぱり普通のトレントを狩ろうよ。」
ここまで調子よく倒しているのは本来ありえないことだが俺のすぐに調子に乗る悪癖が災いして、
「やっぱり戦ってみるよ。危なかったらすぐに逃げるからさ。」
こうして戦うことにして近づくと視界に出たモンスターネームはエルダートレントではなくキラートレントだった
俺はこの名前を見た瞬間悪寒がした。
「フィーユ。あれと戦うのはまずい。今すぐ逃げるべきだ。」
それを言った時には時すでに遅くモンスターのカラー表示が戦闘モードに入ったことを示す赤に変わって襲い掛かってきた時だった。
あのキラートレントはただのトレントを1000体倒した時1%の確率で湧出するトレントの最上位種でB級冒険者が10人がかりで倒せるかどうかという非常に危険なモンスターだった。
俺は戦うかどうかを激しく迷った。しかしすでに襲い掛かってきているキラートレントをみて遠距離からの攻撃をしながら後退することに決めた。
「アルス君!危ない!!」
その一言で俺は我に返った。どうやらすでにキラートレントは近くに来ていたらしい。
俺は何とか紙一重でキラートレントの攻撃をかわす。
俺はすかさずフィーユヘと忠告した。
「フィーユ。あいつに背中を見せて逃げるのはまずい。とりあえずここは僕の背中に隠れて逃げる隙を探すんだ。」
するとフィーユはここで俺に何かを言ってもかえって俺を危険に晒すことを悟ったのかすぐに俺の後ろに隠れて1言
「頑張ってね。」と言った。
そして俺は思考を戦闘モードへと切り替える。脳もそれに反応したようで徐々に思考回路が加速するのを感じる。
キラートレントは枝を伸ばして攻撃してきたがなんなくそれを躱す。フィーユには当たらない軌道と直感的に感じたからだ。
俺はお返しにといわんばかりに慣れた様子でトレント系の苦手属性である火魔法ファイアーブレットを放つ。
弱点属性とだけあって4段あるHPバーの1本めの5%を削る。
次に相手が繰り出してきたのは根による攻撃だった。この攻撃は一定確率で相手を麻痺させる技だ。
ちゃんと軌道を見ていれば避けれるのでするりと避けようとした。しかしフィーユに当たることを恐れて反応が1瞬遅れた。
その隙をキラートレントは見逃さない。的確に俺へと攻撃を当ててきた。
俺はHPバーの15%を削られさらに麻痺してしまってその場で倒れてしまった。
「アルス君!大丈夫!?」
俺が頼りだったフィーユはその場で立ち尽くした。
キラートレントは無慈悲にもフィーユを襲った。
その時、風音と共に黒づくめの男が現われる。
「風心大刀流...参の型・改...」
「音速の太刀!」
男がそう叫ぶと剣がわずかに揺れ...直後キラートレントの腕が吹き飛ぶ。
「ギィィィィ!!?」
男の一撃によりキラートレントのHPバーがごっそり減る。
「ふむ...やはり弱点でなければあまり効かんか...」
男が一人でそんなことを呟く、その間に怒り狂ったキラートレントが男に襲い掛かる俺は危ないと叫ぼうとするが麻痺で舌が回らず声がでない。無慈悲にも男にキラートレントの爪が当たりそうになったその時再び男の剣がわずかに揺れキラートレントのもう片方の腕が宙を舞う。
「なんだ、少しくらい待てんのか?木偶よ。」
この男凄すぎるぞ、間違いなくさっきから使っているあの技は音速の太刀、刃を音速で振ることで爆発的な破壊力を生む技だ。しかしあの技はかなりレベルを上げないと使えないはず声を聞く限り男の年齢はまだ10代ほどだそれだけこの男は戦闘を積んで来たという事か?なんて考えているうちにも男はキラートレントに猛攻をしかける。
「風心大刀流壱の型・改...」
「焔の太刀!」
男の声と共に爆発的熱風が男の剣から発せられる。男は先ほどの攻撃で仰け反っているキラートレントにその剣を振るう斬り付けられた箇所からキラートレントの体が発火する。
「ギィィィィィ!!」
キラートレントが叫ぶ、しかしそこで攻撃の手を男は休めない再びキラートレントに斬りかかろうとするしかし、キラートレントもあきらめない体から触手のように枝を伸ばすと男に枝が襲い掛かる、男はその攻撃を難なくかわすしかし、キラートレントの狙いは男では無かったキラートレントの触手が呆然と立ち尽くすフィーユと麻痺で動けない俺に振るわれる。
「汝の求める所に疾風を彼の風よ我を襲わんとする敵対者を退ける矛となれ彼の風よ我を襲う厄災を払う盾となれ起源は風、意味は大槍、貫け...」
「旋風」
男の声と共にわずかに空間が揺れキラートレントが伸ばした枝が吹き飛ぶ。
「おい...誰が小僧どもに手を出して良いと言った、木偶!!」
男の殺気が空間を包む、しかしその殺気もすぐに消える、いや違う殺気どころか闘気などのあらゆる気配が男から消える。
「月心...流水流...」
男が剣を縦に構える。
「無音無心の剣舞!!」
そう叫ぶと同時に男がキラートレントを斬りつけるそうするだけでキラートレントのHPバーが残り少しとなる。
「今ので死なんか頑丈な体だ、だがこれで終わりだ。」
男の殺気に押されたキラートレントが逃走しようとする、しかし見逃してくれる程男は優しくない。
「風心大刀流参の型・改...音速の太刀!」
今度は剣だけでなく男の体も消える、いつの間にかにキラートレントの前に移動すると音速を超える勢いでキラートレントを切り裂く。
「ギィィギィィィィィィィィ!!!」
哀れな断末魔と共に大量のアイテムをぶちまけながらキラートレントは光の粒子となって消える。
麻痺から回復した俺は、お礼を言った。
「危ないところを助けて頂きありがとうございます。僕はディセントラ家の次男、アルストロメリアです。あなたは?そしてなにをしにここへ?」
相手が誰かを聞くのは当然だ。このディセントラ家の私有地の森に勝手に入っているのだから不法侵入になるからな。
その男は答えた。
「俺はスパーダ・ジェネラーレだ。基本的には軍に所属しているが戦闘訓練をしに近衛兵騎士団団長のディセントラ様に頼んでこの森に入る許可をもらってここにいる。お前たちはまだ子供だろう。なんでこんな森の奥にいるんだ?」
何?スパーダ・ジェネラーレだと...?顔が見えなくて分からなかったがどうやらこの男はゲームで何度も主人公達を助けてくれるスパーダ・ジェネラーレだったらしい、若い時からこんな強いなんて思わなかった、待てよ...俺が今4才でゲームでスパーダと会う時にスパーダが26才だから...こいつ今14才?マジで?
「おい...どうした?こちらの質問に答えて欲しいのだが?」
そうスパーダに言われ我に返る。
「あ、すいません。僕とフィーユはここで知り合ってお父様から魔法の練習することを命じられまして杖を持っていない魔法使いはどうなのかと思いまして鍛冶師見習いのフィーユが杖を作ってくれるのでその素材集めをしていました。」
スパーダは少し笑ってこう言った。
「そうか。さっきの魔法や反応を見るからに君はいい戦士になる。これからも頑張りたまえ。素材ならさっき倒したキラートレントの素材、殺戮怪樹の狂枝を使うと、いいワンドができるはずだ。おっとわたしはもう行かなければならない。さらばだ。」
そう言い残すと風のように去っていった。
おれはフィーユに言った。
「今日は疲れたしいい素材も手に入ったから帰ろうか。」
フィーユもおなじ気持ちだったようで、
「そうだね。帰って早く杖を作ろうか。」
こうして俺たちの最初の戦いは幕を閉じた。
途中何体かのモンスターに遭遇したが、簡単に屠って家に辿り着いたときにはすっかり暗くなっていた。
俺は言った。
「今日はもう暗くなってきたから1度帰って、明日杖を作ろう。」
「うん、分かった。じゃあ明日は町の広場に来て。待ってるから。」
俺らは簡単に約束を済ませやっと帰宅したのだった。