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九話


*  *


 UGNの一室で、四人は途方に暮れていた。

「紅姫を探さないと、FHに連れ去られてしまう」

 ワンが大量の包帯、消毒液、瞬間傷口接着剤をテーブルに並べ、各々傷を治療していく。

 オーヴァードとはいえ、紅姫から受けた傷は深く、さらに再生を阻害する毒まで入っているようで、四人は大量の増血剤を摂取しなければいけなかった。

「輸血もするか、ふらふらする」

 ワンはシェイプの手当をしていたUGN職員を一人捕まえ、保存していた血液を持ってくるように伝えた。

「調査は進んでる、結果を待つしかないな」

「見つけたら……どうする?」

「…………」

「…………」

 鉄男は黙ったまま、ただ包帯を巻く。迷っている証拠だった。

「紅姫本気で殺そうとしてきたんだぞ、どうするんだ?」

 零が死んだ目で鉄男をにらむ。

「紅姫にあの日記を見せたのは完全に失敗だったな」

 ワンが頭を抱えた。

「とりあえず話してみるしかない」

「話? 何を話すんだ」

「全部だ……」

 とげとげしい会話を繰り広げるワンと零を鉄男が遮る。

「紅姫に何があったかは、俺も知らない。だから聞くしかない」

 鉄男はその巨大な拳を振り上げ、決意めいた視線を二人に向ける。

「紅姫が何を考えているのか、紅姫に何があったのか全部を聞く必要がある」

 そこで大量の輸血パックを抱えたUGN職員が入ってくる、その顔には汗が浮かび、急いできたのがうかがい知れた。

 そして職員は息も整わないうちに言った。

「街中を疾走する、謎の十二単美少女が話題となっているそうです」

 その発言を聞いて鉄男が動いた。

「おらぁ、紅姫待ってろこらぁ」


*  *


 紅姫を追う情報捜査班は紅姫の姿がとある住宅街で消えたと報告した。

 そしてその住宅街はワンの記憶に新しく、先日訪れたことがあったことに気が付くまで、それほど時間を要しなかった。

「ここは、紅一族を受け入れるはずだった住宅街だ、ここ四キロ四方の敷地や家を、UGNが買い取ったんだ」

 そうワンは歩みを止める、他の三人も同じだった。

「今あいつは何を思っているんだろうな」

 住宅地を散策すること十五分、唯一扉が開け放たれた家を発見した。玄関には紅姫の下駄が脱ぎ捨てられていた。

「声をかけるしかないな」

 鉄男は靴を脱がずに突入した。

「俺たちもいこう」

 そう零が言うが、ワンはそれを止める。

「それはあいつにまかせよう」

 そうワンは壁に背を預ける。

「なぜこんなところを選んだんだ」

 零が問いかけた。

「ここはいわば、紅姫の潰えた未来の一つだからさ」

 そうワンは空を見上げた。




 鉄男が家の中に入ると、まず目に入ったのは真新しい家具に、真新しいフローリング。いつでも住めるようにと家具を運び込まれた一室は、まだ見ぬ主を待ち焦がれるような、そんなさみしい輝きに満ちていた。

 そしてその中心に、十二単を着た少女。紅姫が、脱力したようにぽつりと座っていた。

「紅姫、やっと見つけたぞ」

「て……つお?」

 虚ろな目で紅姫は振り返る。

 まるで泣き疲れたような、乾いた笑みを浮かべた。

「お前、いつもとぜんぜん様子がちがったな」

 鉄男が紅姫の横に腰を下ろした。

「あれはよほどのものだったのか?」

 そんな鉄男を一瞥すると紅姫はポツリポツリと話し始める。

「妾は作られておった、全部、力も、全て一族のためになると思って磨いてきた。じゃが違ったのじゃ」

「紅姫様……」

「全ては一族が殺される原因になってしまった」

「それは違うお前が悪いんじゃない、殺したやろうがわるいんだ全てはエンペラーが悪いんだ。あのエンペラーどもが」

「それは、いや、違うそうではない、わらわは一歩間違えば奴らと同じ立ち位置にいたはずじゃ妾は殺人姫なのじゃから」

「殺人姫?ワッツ、ファック?」

「UGNは日常を守るために人を殺す、FHは己の欲望のために人を殺す、何かのために命を犠牲にする。二つの組織は一緒ではないか、そして。あやつも、妾のために」

「それは、活人剣という!」

 鉄男が間髪入れず叫び声をあげた。

 そして、きょとんと眼を見開く紅姫をよそに。鉄男は咳払いを一つついて、口を開く。

「……人をいかす剣という概念がある、力は時に人を殺すが、生かすこともあるということだ。時に刃は人を生かす、自分はそうだと思って、そうやって生きていってもいいのではないか?」

「……全く、鉄男は能天気だのう」

 そう言って紅姫はささやかに笑った。

「じゃがのう、わらわは、わらわは……。妾はお前たちに対しても許されざることをしたかもしれないのじゃ」

 二人の安どの表情は凍りつき、そして耳に痛い静寂が再び訪れた。


*  *


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