七話
ディメンションゲートがつながる先はUGN、S支部の正面玄関だ。零は何も考えず漠然とそこに繋いだのだが、その判断は功をそうした。
UGNの異変をいち早く察知することができたからだ。
まず外観が変わっていた、建物のいたるところに傷があり、コンクリートが砕け骨組みが見えていた。
「これは……」
ワンが驚愕に眉根をひそめる。
そして、何かが倒れ込む音に気が付き四人が振り返ると、そこには血を吐き疼くまるシェイプがいた。
「シェイプ」
駆け寄ろうとするワンを鉄男が制する。
鉄男の視線がむこうに立つ男に注がれ、離れない。
背は低く、年を取り、白色のひげを蓄えた男。
されど眼光は鋭く、魅入られただけでも冷や汗があふれるほどのオーラを纏う老人、彼が只者ではないことを三人は一目で感じ取る。
「貴様、まさかタオ!」
ワンがそう叫び、三人が皆身構える。
「アバドンからの伝言だ、清算してもらうぞと、ああ、あの姫様に言っておけ、ついてこなかった代償を今払ってもらうと」
そうタオは身をかがめ、拳を前に突き出す。
「逃げろ、紅姫を連れて逃げろ」
シェイプがそううめく、濡れた指でタイルに赤く線を引いた。
「紅姫はどこに?」
「零……。八階だ」
零がシェイプを抱き起す。
「最上階だ、何重にもロックがかかっていてやすやすとは侵入できない」
「零! お前が行け! お前なら紅姫を連れてどこへでも行ける」
「逃げろっていうのか!」
「何をごちゃごちゃ言っている」
その時、タオが動いた、地を揺らし、空気を裂いて歩みを進める、そこ存在するというだけで、圧倒感が三人を貫く。
「ここで紅姫を渡してもらう」
その恐怖の体現ともいうべき存在に、ワンと鉄男は真っ向から立ち向かう。
鉄男が一歩前に進み、タオを阻む。
「紅姫には指一本触れさせない。ココアを買って帰る約束をしている、早く終わらせよう」
「こいつと戦って勝てなければ、我々は未来を掴むことができない。ここで倒すぞ!」
ワンがそう叫び、鉄男が動いた。
「ウエポンマウント!」
鉄男の右手が変形し、アサルトライフルが解放される。
[鉄男:ブラックドック:アームズリンク]
「アームズリンク!」
差し出す右手に雷神が宿る、紫電と化した高密度な電気エネルギーは、土をはぎ小石を吹き飛ばし、その強大さを示す。
「甘い!」
その懐へ、タオは一瞬で、やすやすと入り込む。
そしてうち出されたこぶし鉄男は間一髪のところで回避、空気を叩いた衝撃が伝わり遥か後方の建物にひびが入る。
「ほう……」
「仕留めるんだったら今だったよ」
そう言い放ち、鉄男は空中に銃弾を放つ。空中に放たれた銃弾は固定され、それが瞬く天の星々のように紫電の輝きを帯びる。
「ハッ」
その光景を全く無視しタオの拳が鉄男の頭蓋に迫る、その拳を鉄男は首だけひねって回避する。
そして煙が立ち上るほど熱せられた銃口をタオへ叩きつけた。
タオはその動きをやすやすと見切りわずかに後退。しかし間髪入れず、鉄男へと飛ぶ。
しかし準備は整った。鉄男が無数に空に並べた銃弾がタオの動きを阻むように降り注ぐ
紫電を纏った銃弾が、雷鳴をとどろかせ、タオに殺到する。
紫電の流星は当たらなければ軌道を変えタオへと迫る、タオを確実に穿つために鉄男によって統制されているのだ。
通常の敵なら回避不可能の鉄男のとっておきの包囲網、それをタオは、常識はずれの方法で打ち破った銃弾をタオは、拳圧で弾き飛ばしたのだ。
「ハッ」
[ワン:オルクス:妖精の手]
「鉄男! 追撃しろ」
ワンは驚きで硬直している鉄男へ活を入れる、確かに奴は常識外の防御手段で銃弾をはじいた、しかし今までと違いアクションを起こしているのだ。今なら彼は第二波の攻撃に反応できない可能性が高い。
「クッ!」
タオの攻撃圧に気おされながらも鉄男は駆けだす。
肉薄し、銃身を叩きつけ、左手で掌底を叩き込む。
タオはそれを柔道のような動きでからめ捕り、鉄男を地面に叩きつけた。
息をすえない鉄男へと肘でとどめを刺しに入る。
その肘を銃弾が貫いた。
タオは驚きに目を見開く。
「銃弾なら、まだある」
鉄男は左手に銃弾を握っていた。素手で銃弾を弾きタオにうちこんだのだ。
「おおおおおおっ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
鉄男はタオを蹴り上げ、タオは鉄男の袖をつかむ。それから逃れようと鉄男は左ストレートを打ち込んだ、それに合わせる形でタオは拳をふるう。
お互いがお互い、まるで殺戮を専門とする機械のようになぐり合う。
痛みもなく、ただ目の前の敵を倒すために全力を尽くしていた。
「はぁぁぁぁぁ!」
「おおおおおおお!」
錯綜する二つの拳、先に届いたのはタオの拳鉄男の装甲がはじけ飛ぶ。
「あまいわ小僧、その程度戦場にはごまんといた」
「じゃあ、こういうことしてくる奴はいたかな?」
地面に転がる銃弾に、新たな光が灯った、わずかな光、だが鉄男が操作するには十分な電気量。
銃弾がはじけ飛んだ、射出された弾丸はタオの胸、左側に突き刺さった。
その瞬間、タオの動きが止まる。
「これが鋼一族の力か」
タオは鉄男から離れ、数歩後ずさる、そして右手で穿たれた穴にてを突っ込んで、銃弾を取り出した。
「あなどったわ」
「FHは手加減するのが趣味なのか?」
鉄男が挑発する。
「ぼろぼろな身でよく言える」
そうタオは不敵に笑い、跳躍で真上に飛んだそして、そのまま落ちてこなかった。
「なめられているとしか思えない」
空を見上げてワンがそうつぶやいた。