四話
紅一族は本来、S市の住宅街の一角を丸々貸し切って住む予定だった、しかし一族は惨殺され、残されたのは紅姫と鉄男のみ、そして前回の一件で明確に紅姫が明確にターゲットだとわかった、ならば紅姫を目の届かないところに住まわせるのはまずい。
そう判断され、結局紅姫はS市支部に住むことになった。
そして缶詰。紅姫の外出は認められていない。
「てつおーアイスココアがのみたい」
「はいはいはいはい」
紅姫の鬱憤はたまる一方、昔は紅姫の村の中でなら出回れたので、加護の大きさが全然違った。なので鬱憤がたまる速度もはやい。
現在紅姫はお気に入りの着物が乱れるのもかまわず、絨毯の上でごろごろしていた。
「はい、は一回でいいといっておるのに」
その時、紅姫の部屋の扉がピピピッと認証音を鳴らして開いた。
そこにはシェイプが立っていた。
「おお、シェイプか、入るときは一言声をかけてたもれ」
「いや、すまない、少し考え事をしていた。」
扉は指紋、網膜、カードの三種類でロックされていて、破壊以外には侵入方法がないと断言できるほど強固な守りを強いていた。
「シェイプ、少し様子がおかしいぞ。体調が悪いのか?」
「いや、私はべつに問題ない、それより何点かききたいことがある」
鉄男は棒立ちになっていた、右手にココアの缶、左手にはグラスを持って。
「なんだか……自分の扱いとは全然違う気がする」
「……それはそうじゃろ」
紅姫は鉄男をせせら笑って、言葉を続ける。
「妾が従者を気遣うようでは、従者は従者として失格じゃ。そして鉄男を気遣うだけ無駄じゃ」
ショックで鉄男はココア缶をおとした。
「いや、鉄男ショックを受けている場合ではない、私が頼んだことは覚えているのか?」
「頼んだこと?」
「おお、そういえば鉄男が妾の部屋に入ってきたときに、何か叫んでおったじゃろう、それの話をしに来たのではないか?」
「なにを叫んでたっけ?」
「……知らん、そもそも声が大きすぎて何を言っているのか聞き取れんかったし」
「作戦会議での話でだ、覚えていないのか鉄男」
「あ、あばどん!」
鉄男が高らかにそう宣言する。
「え? なんじゃ?」
そんな鉄男に、紅姫は心底鬱陶しそうに答えた。
「アバドンという人物は知っているか、紅姫」
かわりとばかりにシェイプが言葉を継ぐ。
「さぁ何者かしらんの~。…………どうしたシェイプ、そんな神妙な顔をして」
「ずっと気になっていた、紅一族はなぜこれほどまでに徹底的に攻撃されたのか、なぜ君たちは根絶やしにされなければならなかったのか……」
「そこは、俺も詳しくはしらないな」
そう鉄男はココアをコップに注ぎ、紅姫に手渡した。
「それはな……一族というより、妾の力が悪いんじゃ。…………こんなことなら、あんなもの渡して大人しく、のんびり暮らせばよかったのじゃ。それがどのような結末をもたらしたとしても、妾は一族を守ることを優先すべきじゃった、守り神失格じゃの」
「あんなもの?」
シェイプが紅姫の手を握る、その手は冷たくか細く、そして震えていた。
「ああ、あれはまだ村にある」
「妾たち、紅一族、いや鬼の一族は遺産を守る一族でもあった。じゃがもう遺産を守っていく必要もなく、力もない、大人しくUGNに渡してしまおうと思っておった、それをお前たちに回収してきてもらいたい」
「わかりました、まだ村にあるのですね」
「おそらく……。鍵は紅一族の遺伝子じゃ、鉄男が行けば何も問題はないじゃろう」
紅姫はココアの入ったコップをわきに置く。
そして紅姫は疲れたように笑った。
「全てを終わらせよう、投げ出す形になってしまうのが情けないがのう」