三話
二章
モニタールーム、ここでは町すべての監視カメラが傍受できる、その映像が中央の大モニター、そして、周辺に並べられている小モニターに代わる代わる映り、大モニターには大通りを上空から映した映像が移されている。
そのモニターの光を背にしてシェイプが立っていた。
その前に並ぶのは、零。そして、そこから少し離れたデスクにふんぞり返って書類を読むワンがいた。
鉄男は床に正座して本を読んでいた。
「今日集まってもらったのは、ミーティングのためだ、前回の事件で起きた被害をまとめ、報告し今後の行動の方針を決めるために集まってもらった」
そうシェイプがそこに集まったものを一人一人見つめ言った。
それを合図に、ワンが指を鳴らしモニターの映像が切り替わる、そこに映し出されてたのは、昨日起こった、一族惨殺事件に関する資料。
「主犯格はこの2人」
レーザーポインターでモニターをさす。黄泉彦やエンペラーに関するUGN内のデータ。そして事件現場の様子、血液中のDNAから割り出された被害者の人数、情報、町への影響。
その他もろもろが、画像、グラフなどの詳細なデータを伴ってディスプレイ上に表示されていた。
「まず、紅一族について情報が欲しい。鉄男は何か知らないか?」
「…………」
鉄男は答えない。
「わからないという意志表示か? なら紅姫から関係がありそうなことを聞き出してほしい、頼めるか、鉄男」
「……………………」
「……………………てつお?」
「…………。はは」
バチリと音がして、鉄男が手にしていた本が燃え始める。
「鉄男! 本を読むんじゃない」
鉄男の両手の中で、小さな文庫本が灰になっていく。
「え? まぁいいや。はい、いいだろう」
燃え尽きた本のカスを綺麗に一か所に集めてから鉄男はズボンの汚れを払い立ち上がる。
「緊張感のない奴だな」
「鉄男がまじめになるのは、本当の非常事態だけだからな」
そう零が告げる。
「まぁいい鉄男、そして零とワンはエンペラーの動向をさぐれ」
「マスタータオはいいのか」
そうワンがマスタータオの資料をひけらかす。
「いい、奴のことはもう知りたくないくらい知っている」
「俺らはやつについて何も教えられていないぞ」
レイがワンの書類を奪い取った。
「マスタータオは、その身を磨くことでレネゲイドを開花させた、武術の達人だ」
零の手にした書類にはもう少し詳しいことが書かれていた。
国籍は日本にあり、琉球空手、合気道、剣道、全てで高段位を取得すると中国に渡り、そこでさまざま武術に触れ、片っ端から習得していったそうだ。
そしてロシアにわたり、傭兵となり、戦地でオヴァードとして覚醒した狼を殺し、継承し、その力を得た。そのようなことが書かれていた。
「もともとはUGNなんだろ、ならシンドロームとかわかるだろ、教えてくれよ」
零が抗議の声を上げる、一部しか資料がないから見られないのだ。
「キュマイラ、ピュアだ。キュマイラだが彼は獣に変化したりはしない。ただ力はすさまじい」
「エンペラーについてもっと情報はないのか?」
ワンが一際薄いエンペラーの資料を叩く。
「UGNはエンペラーについて全く情報をもっていない。暗躍することが主なマスターだからだ、実力は未知数」
「手がかりもなしかよ」
ワンが零に資料を渡す、それは黄泉彦が関わっていると思われる事件の一覧だった。
「黄泉彦はエンペラーの右腕だったのだろう、だったらあいつから話を聞くのが手っ取り早いと思うが」
そうワンが零にいった。
「黄泉彦はどこにいるんだ?学校に来ているのではないのか」
「黄泉彦は、学校に来たけど、またどっかいった」
「ということはまた来て、またどこかに行くはずだ」
「俺の姿をみて、忠告して、どこかにいったんだ、戻ってくるかな?」
会議室にいる全員の視線が、零に注がれる。
「そんな期待されてもわからない、何も知らないんだ」
「友達なのに?」
ワンがすかさず突っ込みを入れる。
「…………、俺、本当に黄泉彦の友達だったのかな」
「やめろ、悪かった、そんなに複雑な顔をするな」
暗い空気のまま作戦会議はお開きになった