二話
ワンはブリーフィングルームにいた、無数に存在する大型モニターの光が、握ったマグカップの中に落ち、コーヒーに色をさしていた。
「前回の戦闘で、この支部の戦力の大半を失った」
そうシェイプが歩み寄り、ワンの目の前に書類を投げてよこした。
「もともとたいしていなかったように思うが?」
「そんなことはない。もともと北海道の支部に設立される前段階で、かなりの戦力はいたんだが。作戦の失敗の連続で戦力はここまで減ってしまった」
「もともとたいしていなかったんだから、大半が減ったところで、そこまで大量に犠牲が出ているわけではない、そんな風に考えるのはどうだ? ポジティブに考えていこう」
「そうも言ってられないんだよ、魔の大地北海道でUGNはこんなにも劣勢だ。これ以上被害が出れば、撤退もありうる」
そう頭を抱えて、シェイプはため息をつく。
「君は、どう思う、事件の裏に何があると思う?」
「紅一族が関係しているのは明白だろうな、だが、なぜ彼らはそこまでして一族を根絶やしにしたがる? 俺には一族に関する知識がないから何とも言えないが」
「そうだな……、私も同意見だ、そのあたりは紅姫に話を訊こう。次にエンペラーは何を考えていると思う?」
「それも現段階では何も読めない。後手に回らざるおえないだろうな。なにが起こっても叩き潰すとは……俺には言えないが、やるとなったらやるしかないだろう。このまま大人しくしているやつでもないだろうからな」
状況は最悪、情報は皆無。状況は完全にFHのリードを許していた。
「一族の大量虐殺、なにがあった、なにが起こる?」
二人は押し黙ってしまう、完全に手詰まり、そんなときだった、ブリーフィングルームの扉をノックする音が響く。
「入れ」
重苦しい空気を割って入ってきたのは零。
「よう」
そんな、緊張感のない挨拶が場の空気を和らげる。
「零か、もう来ないと思っていた」
「俺ももう来たくないと思ってた」
そう零は唇をかみしめ、次いで決意めいた表情でワンたちに告げる。
「黄泉彦が、きた」
「それは学校にきたということか」
ワンが反応を示す。
「そうだ、屋上で考え事をしていたら突然現れた」
「黄泉彦、また彼と戦うことになるのか」
ワンは苦々しげな表情を浮かべる。
「黄泉彦はなにかいっていたか?」
「あいつは、マスタータオが来ると言っていた」
ワンにはその名に心当たりがあった、昔とある人物からその名前を聞いたことがあったのだ。それを思いだしワンはシェイプに視線を送った。
「知っているのか」
「それはこいつの方が詳しいはずだ」
そうワンはシェイプに話を引き継ぐ。
「マスタータオ、あの男の実力はバカにできない、いまだ衰えてないとするなら、君たち三人が束になっても厳しいと思う」
「勝てないっていうのか」
零の声が大きくなる。
「……ええ」
たいしてシェイプの声は小さくなる。
「あんまり、そういうことばかり言ってると、俺はこの戦いから降ろさせてもらうぜ」
ワンがおちゃらけた調子でそう言った。
「…………私の右腕のくせに」
何か、ゴミでも見たような視線をワンに投げるとシェイプが、再度話を仕切りなおす。
「わかったわ、君たちが勝てるように私が出せる限りの情報を出す、その間にあなたは独自の経路から事件を探って、殺人姫とはどういう意味なのか。紅一族の秘密とはなんなのか調査をお願いするわ。零はその手伝いをお願い」
二人はそれにうなづいた。