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第三章 生き人形 (3)

      八


 翌日の放課後、輝馬は家に帰らずに、そのまま月子の家のある西宮に足を向けた。

 梅田駅から塚口駅を経て、二駅先の西宮北口駅を降りて、そこからしばらくの歩いてから、勾配のある高級住宅街に入った。壱与野家は、想像以上に大きな家だった。白塗りの高い塀に、飾りのついた広い門。その向こうには、洋風の立派な屋根が見える。

(まるで、刑務所みたいでしょ?)

 輝馬はリュックを背負っていたが、中には月子を入れてある。頭がはみ出すため、道中は少し恥ずかしい思いをした。月子の声を無視し、輝馬はインターホンを押した。

「どなたですか?」と怪訝な声に、あらかじめ考えておいた理由を話した。

「娘さんの学校の中等部に所属している相沢と言います。月子さんに預かっていた物を返しに来ました」

 月子の通う学校は小中高一貫らしい。そこの生徒で、月子と知り合ったという嘘を何とか説明した。こういう時だけ、年相応の中学生として名乗る事にした。

 自動で開閉する門から玄関に通された輝馬に、月子の母親と思しき女性が応対した。

 月子の説明によると、母親の名前は静子という。白を基調にした服装で、一見上品そうな人だったが、メガネの奥の目は厳しそうで、こちらを値踏みするのが伝わる。

「月子に学校の知り合いがいたなんて、本当に意外ね」

 輝馬が挨拶すると、静子はそう言ってほほ笑んだが、どこかつくり笑いに見えた。これはかなり厄介かもしれない。

 広いリビングに通されると、輝馬はさっそく口火を切った。

「月子さんはまだ帰っていませんか?」

「テレビを見たのね。ええ、あの子から連絡はまだないわ」

「実は、僕は月子さんがどこにいるか知っています」

「あの子は行方不明のはずじゃないの?」

「いいえ。僕はつい最近、偶然、梅田で月子さんに会ったんです」

「あの子はどうしていました?」

「今は友達の家にお邪魔していると話してました。ただ、家に帰りたくないと言っています」輝馬は言葉を選びつつ、「彼女は家の事で悩んでいるみたいでした。今の学校に入った事で、御両親の期待に添えなかったと。でも、僕は彼女の思い込みの気がするんです」

「思い込み?」

「はい。もしよかったら、彼女を説得してくれませんか?」

「難しいわね。あなたの口から、その友達に伝えてもらえないかしら。早く帰りなさいって」

「お母さんやお父さんの口から説得してくれないんですか?」

「あの子はね、以前から私達の前に全然顔を合わせようとせずに、夜は外出ばかりしていたの。何日も外泊して帰らない時もあったくらい」

 輝馬は動揺を隠せなかった。自分の子供に、どうしてこうも無関心でいられるのか。これでは、まるで他人事のようだ。ふと部屋の周りを観察すると、まるでショールームみたいに整理整頓されているが、まったく生活感がない。白を基調とした壁や床、静かに回るエアコンの音がそう思わせているせいなのかもしれない。

 さらに大きな違和感は他にあった。八百万の声も全く聞こえないのだ。この家の静けさに彼らが合わしているのかもしれない。

「ところで、あなたの持ってる人形は、月子のでしょう?」

 静子は、ソファーに置かれたリュックからはみ出した月子人形を指した。まさか、目の前に自分の娘がいるとは夢にも思わないだろう。

「彼女から預かったんです」

「そう。薄気味悪い人形でしょ。月子が小さい時からそれを持っていてね。最近も肌に放さず持ち歩いていたわ。幼児退行というのかしらね」

「幼児退行?」

「あの子は現実から逃げているの。受験に失敗したというのに、再起を計る訳でもなく、学校にも行かずに外をうろついて。どこで養育を間違えたのかしらね」

「それは言い過ぎだと思います。月子さんだって、きっと――」

(私は家に帰りたくなかった)

 月子人形が、母親には聞こえない声で言った。

(親には失敗作のレッテルを貼られて、家の中では、いない者の扱いを受ける。親戚には重い病気にかかってる事にされてる。みじめなだけだよ。家に戻っても)

「月子さんが辛いのは分かる。でも――」

「何か言った?」

 静子が怪訝な目を向ける。つい、月子に話しかけてしまった。

「いえ、なんでもありません」

「いずれにせよ、月子の件は私達で解決します」

 そう言っていても、まるで説得力を感じない。義務でそう答えているように見受けられる。人形にされた娘を、この人はどう助けるつもりなのだろうか?

 その時、玄関から「ただいま」とけだるい声が響き、少年が一人入って来た。中学生ぐらいの制服を着ている。歳は輝馬と同じぐらい。

(弟の貴史)と、月子がささやいた。

「ママ、この子は誰?」

「月子の知り合いだって」

「ふうん」と漏らしただけで、貴史は興味なさげに二階へ消えた。

「警察に頼んで、あの子を探してもらっているから、あなたは気にしなくてもいいのよ」

「心配じゃないんですか?」

「さっきも言ったように、あの子は家出の常習犯なの。今に始まった事じゃないわ。あの子はもう十六歳なのに、中身は子供のままなの。家出をすれば、周りが心配してくれると思ってる」

 階段から貴史が降りてきた。私服に着替えており、手には有名な進学塾のカバンを携えている。

「行ってきます、ママ」

「今日も早くに出るのね」

「図書館で勉強するの」

「偉いわね。勉強がんばってね」

 母親はさっきまでなかった笑顔で、貴史の頭を撫でた。月子の時とは雲泥の差だ。きっと、弟の方がいなくなれば、この母親は気が狂ったように探し回るに違いない。

 もっとも、それはそれで月子の方は肩身の狭い思いをするだろうが。

「ごめんなさいね。今から私も用事があるの。月子に会ったら、早く帰るように言っておいてね。余計な心配をさせてごめんなさい」


       九


「月子さんの親って、いつもああなの?」

(言ったでしょ? 行くだけ無駄だって)

 輝馬は西宮北口付近の通路をトボトボ歩いていた。もうすぐ六時になる。今から急いで帰ったら、難なく門限には間に合う。だが、月子の親が彼女に関心がない事実だけが収穫では割に合わない気がした。

「あの人はなんで、あんなに無関心でいられるの?」

(私が失敗したから)

「高校受験? それぐらいで?」

(それぐらいよ)

 輝馬はため息を吐いた。壱与野家の問題は大変根深い。やはり、月子の体を奪った奴を探そう。あの母親と月子の件は後回しにする方がいいかもしれない。このまま説得を続けても仕様がない。

 そう思いながら、目の前の本屋を通り過ぎた時だった。新刊本が飾られたショーウィンドーの向こうに、見覚えのある顔が視界に入った。

「あれは、月子さんの弟さんじゃない?」

 確か、貴史だったか。しかし、この時間には彼は塾に行っているはずだ。どうしてこんな場所にいるのだろう。

 貴史の様子が何やらおかしかった。ブラブラ店内を歩く訳でもなく、何か本を探す訳でもなく、その場に立ち止りながら何度も周りをキョロキョロしているのだ。

(どろぼうがきた!)

 急な耳鳴りと共に、八百万の声が聞こえた。

(こそどうのこぞうだ)

 ――どろぼう……泥棒。

 耳をすませると、どうやら、本屋の本が喋っているのが分かった。

(私にも聞こえる。泥棒って言ってる)

 輝馬は物陰から貴史の様子を覗き見た。彼は目を泳がせつつ、新刊のコミック本に手を伸ばし、そのまま鞄に入れようとした。

 輝馬は静かに駆けると、その腕が掴んだ。コミックが棚の上に落ちる。まさに咄嗟の行動だった。

「お前……!」

 困惑する貴史を捕まえたまま、あまり人気のない広場まで連れて行った。

「放せ、馬鹿!」

「自分が何をしようとしたのか、分かってるの?」

「知ってるさ。万引き、パクリ、泥棒、窃盗、盗み。でも、これが初めてじゃない。今日が成功してたら十連勝だったんだ」

 貴史は鞄を床に叩きつけた。こちらに向かって歪んだ笑いを向ける。

「なんでこんな事するかって言いたいの? ストレス解消だよ。私立の中学ってさ、結構過密スケジュールで大変なんだよね。ほぼ毎日テストもあって、結果を求められる」

 そして鞄を拾って、埃を払った。

「あの本屋も悪いよ。アルバイトの店員はずっと友達は仕事をそっちのけで友達と話してばかりいる。あれじゃあ、万引きにあっても文句は言えない。今まで勉強も怠けてきてそうだから、責任のあるような仕事をさせてもらえないのさ」

 輝馬は、貴史の詭弁に呆れ果てた。

「君は、自分は捕まる事は想像もしてないんだね?」

「僕は優秀なんだよ。学校でも文武両道の優等生で通ってる」

「君の学校は、成績がよかったら万引きも許されるのか?」

 輝馬の言葉に、貴史が腹を抱えて笑った。

「面白い奴だね。ところでさ、姉貴とはどういう関係なの?」

「関係ない。学校が近くて知り合っただけだ」

「ふうん。でも、あんたは中学生じゃないだろ?」

「なんでそんな事が分かるの?」

「中学受験を控えた小学生って感じだから。姉貴もさ、今のあんたと同じ顔をいつもしていたよ」

 貴史は覗きこむように話す。

「受験って何だろ、どうして自分は勉強しないといけないの、将来役に立つの、そもそも自分って何、ずっとそんなつまらない事ばかり考えていそうな顔さ。そんな奴に限って、必ず受験に落ちる」

「君は考えた事もないのか?」

「ないね。迷う暇は持たないようにした。変な疑問も打ち消した。だからこそ、競争に勝った今の僕がいる」

「勝っているなら、万引きなんかせずに自分のお金で買ったらどうなんだよ?」

「あれは遊びの延長に過ぎない。数百円ごときのマンガ本が欲しいからしたわけじゃない。スリルが肝心なんだ。君も試しにやってみれば分かる」

「分かりたくもない」

「そうか。まあ、その前に受験勉強でもしないいけないね」

 話は終わりだと言わんばかりに、貴史は踵を返した。

「またやるのか?」

「今夜は中止。興が削がれた。これから塾に行かないといけないし」

「ちょっと待って」輝馬は彼の横を追いすがった。「君のお姉さんは心配じゃないのか?」

 呆れた顔を浮かべる貴史。そうやって他人を馬鹿したまま、彼は男名になるつもりなのかと思った。

「姉貴は脱線したんだ。あの家のレールから外れて、どこかへ消えちゃった。疑問をもっちゃダメだったんだ」

「違う。あの家がおかしいんだ」

 壱与野家には、大理石の床に敷かれた分厚い絨毯から、豪華そうな食器の皿に至るまで、まったく“声”が聞こえなかった。沈黙がすべてを物語る。あそこには活気がないのだ。家族という温かみがなく、ただ空しく冷え冷えとしている。あそこは、心というものの存在を一切許さない氷の家だ。

「そうかもね。でも、環境は恵まれてる。僕の父は関西で有名な弁護士だ。つまり、僕の頭の良さは遺伝だ。人間の価値は環境と遺伝だ。姉貴はそれに気づかなかったから、今では、三流高校の落第生さ」

 貴史の後姿を、輝馬は黙って見つめるしかなかった。

(輝馬くん……)背中の月子人形の声がささやいた。(門限は大丈夫?)

「あ、しまった!」

 すっかり忘れていた。構内の柱時計は七時を回っている。今から急いでも帰っても、父の帰宅には到底間に合わないだろう。とにかく、輝馬は改札へ急いだ。


      十


 部屋には電気が点いているのに、ドアには鍵が掛かっている。時間切れである。父が当に帰宅しているのだ。輝馬はため息を漏らすと、意を決して呼び鈴を鳴らした。

 ドアが開いて、父が堅い表情で出迎えると背中が震えた。

「どうして帰りが遅くなった?」

「ごめんなさい。門限を破りました」

「謝るのは後だ。まず、理由を話すんだ」

「図書館で勉強してました。閉館寸前まで」

「どこの図書館だ?」

「名前は忘れました。古い館みたいな図書館です」

「中之島の図書館だな。じゃあ、教科書やノートもあるはずだな。見せてくれないか?」

 輝馬はリュックを開ける事ができなかった。中には人形の月子しか入っていない。結局、父が無理やり開けて確認した。

「何だ、この人形は? 教科書も参考書も、ノートや筆箱すらない」

 輝馬の目は床まで下がっていた。

「嘘をつくのもいい加減にしろ。お前は、本当は中学一年生なんだぞ。物の分別や善し悪しが分かっていて当たり前の年齢だ」

「ごめんなさい。反省しています」

「反省している。口に出せばいいって訳じゃない。どこにいて、どうして遅れたのか聞いているんだ」

「友達の家に行ってました」

「どこの子だ? 瀬川とかいう、いじめられっ子か?」 

「違います」

 幸弥をいじめられっ子でくくる父の言葉に、輝馬は嫌なものを感じた。

「じゃあ、どこにいた?」

 輝馬は答えられなかった。月子の事を話しても、到底信じてもらえないだろう。貴史の万引きを目撃して、それを止めたがために遅れたと言っても同様だ。父の和郎からすれば、無駄な行為になる。

 父は鞄から一枚のチラシを出した。梅田駅前の進学塾で、偶然にも貴史が西宮で通っているのと同じ塾だった。

「明日、この塾に行って見学して来い。申し込みは済ませておいた」

「一言も言わずに……」

「この数ヶ月間、お前は何も言わなかったし、何もしてこなかった。はぐらかして、ごまかしてばかりだ。自主性のない子供に、親が指図して何が悪い?」

「塾には行きたくない」

「受験まで半年を切ってる。寝る間も惜しんで勉強しないといけない時期にきている」

「間に合う訳ない。やっと、今の勉強に追いついたところなのに」

「まだ間に合う。お前は頭が良いんだ。たった七カ月ぐらいで、小学二年から六年に追いついたんだ。絶対にいけるさ」

「だったら、父さんが受験したらいいだろ!」

 輝馬は我慢できずに感情を吐き出した。

 父の平手が伸びた途端、頬が痛みで熱くなった。自分は叩かれたのだと分かった時、体が思うように支えきれずに、そばのテーブルに体がぶつかる。父は苦い表情を打ち消すと、「ごめん」と漏らしながら手を差し伸べた。

 輝馬は強く振り払うと、床に散らばったリュックと月子人形を乱暴に拾い上げ、父に自分の顔が見えないように自分の部屋へ走った。

「輝馬!」

 部屋の内側から鍵をかけ、ドアの向こうからの声を無視すると、ベッドの上でさめざめと泣きだした。その間、月子は無言だった。

 机の上に置いている十円玉がささやくのが聞こえる。

(私は十円玉だ。一円の十枚分の価値を持っている。昔は公衆電話御用達だった。肌は銅色。裏面にはシンボルである、華麗な平等院鳳凰堂が精巧に掘られ――)

「うるさい!」

 輝馬は両手で耳を固く塞いだ。

 もう何も聞きたくない。父の声も、訳の分からない八百万の声も……。全部、消えてなくなればいい。もしくは何もない世界に、自分は消えてしまいたかった。

 リュックから頭を出しながら、月子はガラス玉の瞳で天井を見上げる。

 彼女の足元に転がるスマホは、電車に乗った時からマナーモードになっていた。そのせかいで、幸弥の着信で何度も振動している事に気がつかなかった。


       十一


 塾から帰宅した貴史を、沈黙の玄関が出迎えた。最初は別段気にはしなかった。いつもの事だ。我が家では挨拶は、互いが聞こえる時にしかしない。

 だが、今夜に限ってなぜか胸騒ぎがした。変な客のせいかもしれない。せっかくのゲームを邪魔された不快感がしこりのように残っている。あのお節介な奴が、月子とどういう関係なのかは知らない。どうでもいい事だったし、姉がいなくなったのも問題外だった。

 元々、成績のよかった月子だが、脱線したきっかけがあるとすれば、高校受験というより、中学三年生の頃に受けたいじめだろうと、彼は思っている。部屋で一人で泣いている姉から事情を知ると、貴史はそれとなく両親に伝えた。あとは親が解決してくれると信じていた。事実、二人は学校に抗議した。これで姉の苦痛が消えたと思っていた。まだ、純粋で幼かったせいだった。

 だが、月子へのいじめが続いていたのを知ったのは、彼女が受験に失敗した頃だった。自分が告げ口した事で姉をさらに苦しめてしまった。折しも、自分も中学受験で追い込まれていた。彼は脱線したくなかった。だがら、レールから落ちた月子を負け犬と定義するしかなかった。そうしないと心が持たなかったのである。

 貴史は、普段しない挨拶を広い玄関に響かせた。

「パパ、ママ、ただいま!」

 返事はない。

 リビングに入った貴史の目に、ソファーに座る両親の後頭部があった。部屋は真っ暗なのに、壁にかかった大きなテレビは点けっぱなしだった。

「いるなら返事ぐらいしてよ」

 返答はないままだった。貴史は苛立たしげに母の肩を掴んだ。両親はこちらを振り返らず、代わりにソファーから転げ落ちた。

「どうしたの?」

 二人の目は半分開いて、壁を見つめている。口は半開きだ。まさか、死んでる?

「どうしたの? しっかりしてよ!」

 予想もしていなかった出来事に対して、貴史は右往左往した。両親が死んだように動かない。まるで人形みたいにダラリとしている。こういう時はどうすればいい。貴史は突然の出来事に混乱した。

「ねえ、起きてよ、パパ。ママも変な冗談やめてよ」

 そうだ。病院に電話しないと。救急車だ。何番だったか……そう思って振り向くと、目の前に一人の少女がいた。貴史は「うわ!」と叫んで後ろに倒れた。

 暗がりに浮かぶ輪郭に、貴史は最初こそ目を疑った。

「お姉ちゃん……?」

 姉の月子だった。家では部屋に閉じこもっていたかと思うと、二週間前ぐらいからいなくなったままだった。今さっき帰って来たのか、ずっとリビングにいたのか分からない。

「救急車を呼んでよ、お姉ちゃん。パパとママが変なんだ!」

「どうしたの?」

 月子の声は妙に弾んでいた。青白い顔は無表情のままだが、慌てふためいている自分を、まるで馬鹿にしているみたいに見下げていた。

「二人が全然動かないんだよ。死んだみたいに。早く病院に電話しないと」

「造作もない」

「え?」

「あの者達の魂を、わらわが抜き取ってやった。そして、次はそなたの番」

 変な言い回しをしながら、月子が貴史の肩を掴んだ。予想外の握力で、肩を掴んで肌が食い込んだ。今にも骨に穴が開きそうなほど強い。

「痛い! 何すんだよ、放せよ!」

「わらわに魂をおくれ、壱与野貴史」

 パックリと開いた口の隙間から黒い歯をのぞかせ、姉の瞳が妖しく光った時、貴史の意識はそこで途切れた。 

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