夜明け前
夜明け前に目が覚めると、空調の整えられた無機質な空間の中で、エアコンの吐き出す機械音に耳を澄ます。
まるで喉が詰まってからからに乾いているような、か細くて乾燥した呼吸みたい。
静謐な空間。
死の感覚。
冷え切った四肢を、布団の中で胎児のように丸め、冷気から逃れ、しばし目を閉じる。
朝だよ、朝だよ、朝だよ。
産まれる前みたい。
身体に温もりを取り戻したら、窓を開け自然風を室内へ。部屋から部屋へと新鮮な空気が自由に流れ抜ける。
そうすると、どこかで寝ていた猫たちが、静かに足下へやってきて、まだ日の登り切らない空を、放った窓からじっと眺める。
高めの気温で熱を取り戻した身体を、くたびれたソファに預けて、また少しの間目を閉じる。
鳥の鳴き声がする。
車のエンジン音。
子どもの声。
1日が産まれた。
セミが鳴く。
私は少し残念に思う。
私は少し淋しく思う。
静かで切り取られたような世界は終わりを告げ、全ての命が今日に目覚めるとき、私はその関係の中で、繋がりの中で、堪らなく孤独を感じる。
自分だけの守られ世界、その中で感じていた、ひとりぼっちの安寧を、無情に奪われた気になる。
あらゆるものは、光と音と色の中に。
立ち上がり、コーヒーを飲んだら化粧をし、服を選び髪を束ね、そして出掛ける。
私は私でなくてもよいもののために、自分を着替え、自分を消費し、自分を置いていく。
夜明け前の鋭利な感覚はもうない。
世界との繋がりの確信も、もうない。
鮮やかに全てが色づく頃には、もうすっかり孤独だ。