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合宿のあとで

夏休みの後半に栞と一緒に藤倉高校に来ていた。窓の外から運動部の掛け声と蝉の鳴き声が聞こえてくる。

何をしに来たかというと撮り貯めた写真の整理のためだ。

本来なら家ですれば良いのだけど私はパソコンを持っていない。

家にはノート型のパソコンが有るのだけど父の仕事用で使うことが出来ないので学校に来ている。

フォトグラフ学科が使用している視聴覚室と図書館には生徒が自由に使えるパソコンが有り、長期の休みの時に限り開放されていた。


私と栞は迷わず視聴覚室に向かうと既に先客がいた。

背はそんなに高くないけど体つきががっしりしていて黒い髪の毛がメガネまで隠している。

燕ヶ岳の山小屋で早朝に中高年の登山客に注意していた徳丸君だった。

「おはよう」

「あっ、うん。おはよう」

私が挨拶をすると驚いたように徳丸君が挨拶してくれた。栞が横で驚いた顔をして私を見ている。

「汐音、早く始めよう」

「栞の悪い癖だよ。徳丸君、山小屋で早起きして何の写真を撮っていたの?」

「えっ、何で知っているの?」

「だって早朝から煩かったおじさんやおばさんに注意していたでしょ」

徳丸君の顔がほんのり赤くなり俯いてしまう。

誰かに見られていたなんて思っても見なかったのだろう。

「星の写真を撮っていたんだよ」

「本当に? 見せて貰えるかな」

「良いけど、まだ下手くそだからそれでもいいのなら」

ノートパソコンの液晶を私の方に向けもらうとそこには数えきれないほどの瞬く星々が。

「うわぁ、凄く綺麗だね。他にもあるんでしょ」

「うん」

何処までも澄んだ星空に栞も釘付けになっている。

徳丸君は自慢するでもなく私達が綺麗だと言う言葉に素直に喜んでいるようだった。

栞を徳丸君のパソコンから引き剥がして写真の整理を始める。


「もう、作業をするの?」

「へぇ、私が徳丸君に話しかけた時に早く始めようって言ったのは何処の誰ですか?」

「だって、徳丸君は影が薄いしヲタクぽいし」

「ちゃんと挨拶ができて相手の年齢に関係なく駄目なものは駄目だといえる人は素敵だと思うよ。それにあんなに綺麗な写真が撮れる人に悪い人なんていないと思うし」

誰にも少なからずあると思うけれど栞は特に見た目で人を判断する癖がある。

確かに第一印象は大切かもしれないけれど先入観に囚われるのはいけないことだと思う。

子どもの頃に嫌というほど体験してきた。

上辺だけで子どもを可愛がり人目が無くなると子どもを邪険にする人。

いつも無愛想で怒ってばかりいるけれど子どもにはとても優しい人。

両者ともきちんと挨拶をするけれど上辺の人は人との関わりが嫌なのか、いけない事でも見て見ぬ振りをして。

怒ってばかりいるのは駄目なものは駄目だと言っているだけで大人でも子どもでもきちんと向き合ってくれた。

「ふ~ん、それで森山先生なんだ」

「そんな事ないでしょ。作業、作業」

2人でパソコンと睨めっこを始める。

殆どの写真が移動している途中で撮った写真なので余裕がなく。

構図は良くても暗かったり良い感じに撮れても構図がいまいちだったり。それに高山植物の名前が良く分からず似た花もあり区別がつかない。

諦めかけた時に不意に良い匂いがした。

「へぇ、クモマスミレにホソバツメクサ・シナノキンバイだね」

「も、森山先生?」

「驚かせてしまったかな? ごめん、ごめん」

振り返ると私服姿の森山先生がパソコンのモニターを覗きこんでいて驚いてしまう。

濃紺のカットソーにジーパン姿でストライプのシャツをラフに着ている。

「やった~ 救世主現るだよ。汐音」

「おいおい、自分達でやらないと身につかないぞ」

「そんな事は分かっているけれど貴重な夏休みが終わっちゃう」

栞が森山先生に泣きを入れ渋々先生がアドバイスをしてくれる事になった。私としては色々な意味でラッキーかもしれない。

お喋りしながら高山植物の名前を教えてもらう。

「そうだ、徳丸君って綺麗な写真を撮るんですね」

「ああ、あいつはもうセミプロだからね。コンテストに何回も応募しているし」

「そうなんですか、やっぱり凄い」

そんな事を話していると森山先生が何かに気付いた様に徳丸君に声をかけた。

「徳丸、頼まれていた物を持ってきたぞ。危うく渡し忘れるところだったよ」

「先生、それは酷すぎますよ。いくら僕の影が薄いからって」

森山先生が苦笑いを浮かべ徳丸君にハードカバーの本を渡している。

「何の本ですか?」

「僕が憧れている林先生の星の本。森山先生に無理を言ってサインを貰ってきて貰ったんだ」

「やっぱり、目指すものがある人は違うね」

栞に言われて徳丸君が真っ赤になった。

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