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ほしのごしそんさま。  作者: ひろつー。
祭りのご子孫さま
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祭りのご子孫さま

   第七章  祭りのご子孫さま

 

 ――夕刻。


 河川敷の近く、古い神社前の通りで催されている夏祭りの人ごみの中。

 それを掻き分けて進む一団に周囲の男どもの視線は集中していた。しかし誰ひとりとして、彼女たちに声をかける者はいない。


「ナンでオマエがいるんだヨ!? コノ唐変木!」


 その一団は、明らかにレベルの高い浴衣の美少女三人と、どうやら男であるらしいが女性っぽい顔つきをした少年、そして見るからにチャラい少年の五人で構成されている。

 その『唐変木』と呼ばれたチャラい少年は、

「ハハハハ~! キッビしーなイオちゃん。そんな可愛い浴衣姿でさ~」


 イオと呼ばれた星の様に輝く瞳を持つ少女は、どこから用意したのか、澄んだ水色にトレードマークである白い星柄の入った浴衣姿。


 その少女が生まれ持つ健康的な魅力をその浴衣は見事に引き立て、まるでそこだけスポットライトに照らされたかの様な明るい魅力を周囲に振りまいている。


「エ? カワイイ? ソウカ? エヘヘのへ……っテ、ソンなコトで騙されナイゾ!?」

「だってよ~、俺以外のこの面子(メンツ)で海に行っちまったら、ナンパされまくって大変だったろー? そりゃーこんな娘たちが水着でいたら、男なら誰だって声かけちまうよな?」

「そ、そうかな?」

「あーワリー紫音。お前は例外だ、そんなコトゼッテーできねーな。とにかく今日はこの俺がいるおかげで、そんなラヴリーな浴衣姿でも、野郎どもにしつこく声をかけられずに済むってワケだぜ~? ちょっとは感謝して欲し……」

「チョーシにのんなバカ白鳥! 今日のテメーはただのナンパ除けとして呼んでやってんだ、ソッチこそ感謝しやがれ! それに、星崋やイオに何かしよーとしやがったら即、公開フルボッコだからな?」

「うぐ……お前も相変わらずキッツいなー、瑠琉奈」


 瑠琉奈と呼ばれた明るくウェーブした髪を持つ少女は、近所のお姉さんにお下がりとして貰った、燃える様な赤地にピンクと薄紫の花柄の浴衣姿。


 元来派手な瑠琉奈の容姿をその浴衣は更に引き立て、まるでそこだけ周囲より温度が上昇しているかの様な熱い色香を発散している。

 ただしその浴衣の柄が“百合の花”だという事に、本人は全く気付いてはいない。


「まあ今日はオレもこんな姿で暴れたくねー……」

 そこで瑠琉奈は紫音の視線にはたと気付き、

「いや、えっと、わ、わたしは、おしとやかな女の子だから……だから今日は白鳥が番犬がわりだから、そう、コイツはタダの犬だから、怖がらなくってもいいぜ、星崋」

「ヒデえ!?」

「うふ。わたくし、ワンちゃんは大好きですから……なんとか大丈夫ですよ?」

「もっとヒデえ!?」


 星崋と呼ばれた黒絹の様なショートヘアーと神秘的な眼差しを持つ少女は、今日の為に新しく仕立てた、新雪の様な白地に薄いグリーンの若葉の柄が入った浴衣姿。


 清廉かつ高貴な星崋の魅力をその浴衣は倍増させ、まるでそこだけ周囲より温度が低下しているかの様な涼しげなオーラを放っている。


「あはは、犬だって、圭」

「お前が笑うな紫音!? ちぇッ、でもまー、ホントにみんな心配しないでいーぜー? 俺は今日、誰の何も邪魔するつもりはねーからな。だから例えば……途中で誰かと誰かがはぐれちまったとしても、無理に探したりしねーから」

「「「!?」」」

 事前に白鳥と打ち合わせてあった瑠琉奈を除き、驚く残りの三人。


「ムウ、ホントは紫音に番犬役ヲ……ア! ネエ紫音、ナニアノちっちゃいプール?」

 不思議そうに、イオがお祭りの出店の一角を指差す。

「あれは“ヨーヨー釣り”だよイオ。紙の糸と針金で釣った水風船のヨーヨーがもらえるんだよ」

「じゃア、アレハ? 旧式のサバイバルゲーム?」

「あれは“射的”だよイオ。撃ち落とした景品がもらえるんだよ」

「ソレナラ、アレハ? ナンか雲みたいなの食べてるヨ?」

「あれは“綿菓子”だよイオ。綿状になった飴のお菓子だよ」

「ギャーッ! ナニアレ? ブキミな顔がイッパイ! マサカ、《顔面転換機(フェイスチェンジャー)》……?」

「あは、あれはただの“お面”だよイオ。アニメキャラとかの顔で、眼に穴が開いてるよ」


 まだ興味をそそる物があるらしく、イオはキョロキョロと周囲を見渡して眼を輝かせ、

「スゴイ! 面白ソウ! 全部ヤル! 全部食ベル! 全部買い占めル! 突撃ーッ!!」

「ちょ!? ちょっと待ってよイオ! 浴衣で走ると危ないってば! コケちゃうよ!」

「あ……シオン。オレ、チョコバナナ喰いたい」

「あの、わたくしは、その……“綿菓子”とやらが……」

 ぽつんと独りとり残される、哀れな白鳥。


「ぅおいッ!? 俺を置いていっちまったら、来た意味がまるでねーだろーがーッ!」




 ――数十分後。


「しかし、見事なお祭り仕様になったな、イオ」


 チョコバナナをぺろりとたいらげた瑠琉奈は、その残り棒でイオの方を差す。

「アハハハ! コノ時代……イヤ、日本のお祭りっテ、楽しいナ! 気に入ったヨ!」

 無邪気に笑うイオの左手には、水色の水風船のヨーヨー。右手には、食べかけの綿菓子。背中には、帯に挟んだうちわ。そしてその頭には、謎の美少女アニメキャラのお面。


「イオ……。もうお小遣いの限界に近いから、この辺にしとこうか……」

「ヤダ!」

「そういやイオちゃんって、帰国子女だったっけ~? じゃあ今度は俺がオゴって……」

「ソレもヤダ」

「うふふふっ」

 子供の様に駄々をこねるイオを眺めて、慣れない仕草で綿菓子を食べていた星崋が笑う。


「ん? 星崋も、今日は人混み大丈夫そうだな? 怖くないか?」

「はい瑠琉奈さん。なんとか平気です。……皆さんと、一緒なので」

 それは、紫音くんがいるから――と本当は伝えたかった星崋だが、まだその時ではない。

「あ! もしかしてオマエも、こういうお祭りとかに来るのって初めてか?」

「はい。……うふふっ、イオさんと、一緒ですね?」

「……? アア、ソウだナ」

 何故か星崋の言い回しに、かすかな違和感を覚えたイオだったが、


 ――ドンッ! ドンッ!


「ナ!? ナンダ!? 侵略宇宙人の攻撃カ?」

「違うよイオ、この後の花火大会を予告する花火みたいだよ?」

「ソウいえばソウだったナ! 早く観たいナ~!」

「よーしみんな、そろそろ花火が観やすい河川敷の方へ移動すっか~?」

「よーし白鳥、オマエひとりで先に行って場所取りしてこいよ」

「何でだよ瑠琉奈!? 俺はもうお前のパシリじゃねーぞー!?」

「あん? 違ったか? じゃあやっぱ犬だオマエ」

「あはは、ホントに圭とルルナさんは仲良しだね」

「な!? ち、違……! 誰がこんなチャラいバカと!」

「フ……ッ。照れるなよ瑠琉奈」

「白鳥オマエ後で口がきけなくなるまでボコってやる」

「ちょっと待てーッ! 今日俺はお前らの為に……」


 そんな他愛ないやり取りをしながら、出店が並ぶ神社前の通りから、花火大会の会場であるすぐ近くの河川敷へと移動を始めた一行。



 それを。上空から見つめる黒い人影。


「ニャッフッフ、モウスグカニャ…………。ウニャッ!? コノ雲ミタイナオ菓子、口ノ周リガベットベトニナルニャーッ!?」




「ワア……スゴかったナ! でもモウ終わりカ?」


 河川敷の芝生にレジャーシートを敷いて座った一行は、揃って夜空を見上げていた。


「いや、ただのインターバルだよ。残り時間はまだ三十分もあるから、すぐに再開するよ」

「ソウカ、じゃア……」

 そろそろ最終(ファイナル)作戦開始(ミッションスタート)と、イオは紫音にアイコンタクトを送った。しかし、


「オ、オレなんだかノド乾いちまった。何か飲みモン買って来る。……シ、シシシオン! つ、付いて来てくれねーか、な……?」


「紫音、付いてってやれよ~! いくら瑠琉奈でも女の子ひとりだとアブネーしー」

 イオが紫音に言わせようとしていた台詞は、瑠琉奈本人の口から先に発せられた。

(!? 瑠琉奈の方カラ紫音とふたりきりになろうとするなんテ! これはモウ、作戦成功は時間の問題カ? カモン、オリンポス山!!)

「ああ、じゃあちょっと行ってくるからね。イオ、大人しく待っててね」

「ウン! イッテラッシャ~イ! ごゆっくりナ!」


 イオはにこにこしながら手を振って、自らのご先祖様と、ご先祖さま有力候補の背中を見送った。しかし――去り際に瑠琉奈が星崋に送ったアイコンタクトには気付けなかった。




「ナア、セイカ! アレは何ていう花火ダ?」


 様々な形態の光の粒子に彩られた火薬臭い夜空を見上げながら、さっきまでは紫音にしていた質問を今度は星崋にしてみたイオ。しかし、返事はない。

「アレ? セイカハ?」

「ああ、星崋ちゃんなら……えっと、今さっきトイレに行ったぜ~!」

「……?」

 その軽薄そうな白鳥の台詞に、イオは強烈な違和感を覚えた。


「オマエ、さっきはルルナに『女の子ひとりじゃアブネー』って言ってたクセニ……」

 そして、星崋を追う為に立ち上がろうとする。ところが、

「イオちゃんよー、星崋ちゃんならダイジョーブだってー! トイレはそんなに遠くねーし。それより、もったいねーから俺とふたりで花火観て待ってよーぜー?」

 白鳥はイオを引き留めようとして――その腕を、掴んだ。掴んで、しまった。


「…………残念ダヨ」


「え? 何がだよー、イオちゃん」

「用心棒、ご苦労だったナ唐変木。コレであたしとはお別れダ。……永遠ニ」

「んッ? 『お別れ』って~? 俺たちまだ付き合って……」


「――《紫電(ライトニンガ)(ボルタ)》!」


「ぐぎゃッ!?」

 まるでスタンガンを突き付けられたかの如く。一瞬で気絶してレジャーマット上に崩れ落ちる白鳥。周りの大勢の花火客は夜空を見上げて花火に夢中、誰ひとり気付かない。


 そしてイオは、紫音たちが買い物に向かった筈の出店のある通り――ではなく、さらにその奥の奥。事前に紫音と告白ポイントとして打ち合わせておいた古い神社の本殿裏へ向かって、慣れない草履で人混みの中を走り始めた。

「おットット!?」

 危うくコケそうになり、なんとか踏み止まるイオ。そして、


「ええーイ、メンドクサイッ! 使っちゃエーッ! 《不可視(インヴィジブル)障壁(スクリーン)》&《空乃(エアリアル)(ウインガ)》!」




「はあ、はあ、はあ」


 一方星崋の方も、何度も転びそうになりながら急ぎ足で紫音と瑠琉奈の後を追っていた。


 行き先は、分かっている。

 それは事前に瑠琉奈と打ち合わせた、神社の裏手。そこは頭上を大きな木々に覆われていて、花火は全く観る事が出来ない為に、この時間帯は人がほとんどいない筈。


(其処に行って、瑠琉奈さんと同時に“告白”をします。わたくしの凍った心を融かし、そしてこの浴衣の柄と同様に、新しいわたくしを芽吹かせてくれるヒトに対して)


 その為には、何故か自分の邪魔をする、おそらくは自分の子孫――イオよりも先に其処へ辿り着かなくてはならない。

 直接イオに訊いても、そうする本当の理由は教えてもらえないだろう。ならば、先に告白してその返事を貰ってしまえば――真実は、明らかにされる筈。

(でも、もしわたくしが選ばれたのなら。瑠琉奈さんは、いったいどうなるのでしょう?)

 こうする事を提案してくれた、本当に優しい親友は? 


(それでも、本当にわたくしに子孫が存在するのならば――そうなる『運命』だというコト。そう、わたくしは、わたくしの『運命のヒト』と――)




「長月お姉さまっ! カンナは嬉しいですっ!」


 星崋から少し離れて付き従う、先程とは違うふたつの黒い人影。


「あの男性恐怖症の星崋お嬢さまが、こんな積極的な行動をおとりになるなんてっ! カンナ、カンゲキっ!」

「……私も嬉しいですよ? しかし、もしイオ殿が追って来たならば、しばし足止めをしなくてはなりませんね」

「承知しましたっ! そうしたら、そうしたらやっと、身寄りの無いカンナたちを拾ってくれた星崋お嬢さまへの恩返しが出来るのですねっ!?」

「……そういう結末になると、良いですね。しかし」

「? しかし何ですかっ?」


「……また不穏な気配を感じます。警戒を怠らない様に」


「! 承知しましたっ! しかし」

「……? しかし何ですか?」

「林檎飴の食べ過ぎで、お口の周りがベットベトですよお姉さまっ!」

「…………………………」




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