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ほしのごしそんさま。  作者: ひろつー。
刻のご子孫さま
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刻のご子孫さま

   第六章  (とき)のご子孫さま


「おうイオ! もう元気になったのかよ? って、寝てんのか?」

「お邪魔します……」


 制服姿の瑠琉奈と星崋が紫音に連れられてイオの部屋に入って来ると、イオは額に熱冷ましシートを貼った状態で、ベッドにぐったりと横になり眼を閉じていた。

「あれ? さっきまで元気そうにしてたのに……また熱が上がっちゃったかな? じゃあ仕方ない、このふたりからのお見舞いの品は、僕がいただこうかな?」

 紫音が手にしているのは、バスケットに入ったフルーツ盛り合わせ。イオは我慢出来ないのか、薄眼を開けてそれをチラチラと見ている。


「タ、食べたいヨ~紫音……」


「あはは。じゃあ果物ナイフとお皿を持って来るから、ちょっと待ってて。あ、ふたりとも遠慮せず座っててよ」

 紫音は客人ふたりの為に、部屋の隅にあった星型のクッションをベッドの脇に敷くと、キッチンのある階下へ下りて行った。素直に座り込むふたり。


「ふたりとも、お見舞いに来てくれてサンキューナ。……セイカ、紫音カラ聞いてたケド、ホントに髪切ったんだナ?」

「は、はい。暑かったので……」

「……なあイオ、シオンはただの風邪だって言うケド、ホントに大丈夫か?」

「……ウン、タダの風邪だケド、デモあたしは生まれつきカラダが弱いカラ、ゲホゲホ」

「そうなのか? いつもは健康そうに見えたケド……。じゃあ、あまり無理すんなよ。でもせっかく明日から夏休みなのにな」

「ソウ。ダカラ、ルルナがあたしの代わりにイッパイ紫音と遊んであげてヨ。ゲホッ」


 瑠琉奈は一瞬、星崋の方を向いてから、

「ああ、そうしたいのはヤマヤマなんだケドよ。オレは赤点三つも喰らっちまって、夏休みは補習漬けになっちまった。しかもバイトも頑張らねーといけねーし……」

「エ!? ソウナノカ?」

 この世の終わりの様な悲しそうな顔をするイオに対し、瑠琉奈は、

「でもまあ、ちょっとぐらいなら……。ところでイオ、なんでオマエは、オレとシオンを仲良くさせようとしてんだ? オレとシオンがくっつくと、何かいいコトあんのか?」


 ――ギクリ。


「ソレハ……紫音にはルルナが相性ピッタンコダカラだヨ! コノ間もお互い楽しかったダロ? 紫音の幸せは子ソ、イヤ双子の妹であるあたしの幸せだヨ! ゲホゲーホッ!」

「それは……そうかもしれねーケドよ……」

 そこで瑠琉奈はもう一度星崋の方を向き――



「じゃあ、星崋は? 星崋はシオンと相性ピッタンコじゃねーのかよ?」



「「――――――!?」」

 突然の瑠琉奈の指摘に対し、星崋とイオは同時に固まった。そして、

「る、瑠琉奈さん? どうしてそんなコトを……? わたくしと、刻任くんは――」

「ソ、ソウだヨルルナ! セイカは紫音の告白を断っテ、タダのトモダチニ――」

「ソンなワケ――――――」


 がちゃり。


「おまたせ。ふたりの分のお皿とフォークも持って来たから、みんなで食べようよ」

 紫音はそう告げると、テーブル上のフルーツバスケットから林檎を手に取り、果物ナイフでくるくると器用に皮を剥き始めた。


「あ、ごめん。何か話の途中だっだ?」

「い、いや別に! ただのガールズトーク……いや何でもねえッ!」

「そ、そうです! で、でも刻任くんっ、林檎の皮剥くの上手ですね?」

「あははは。ウチは両親が共働きでいつも帰りが遅いから、なんだか家事が得意になっちゃって。ハイ、みんなどうぞ」


 あっという間に仕事を終えた紫音は、次の標的――洋梨の皮を剥きにかかった。

 しゃりしゃりと林檎をかじりつつ、バスケット内のバナナをチラ見しながら瑠琉奈が、

「ああ、そういえば! またみんなで遊びに行こうって話をしてたんだよ」

「「?」」

 意外そうな顔をする星崋とイオ。そして瑠琉奈は、紫音を含む全員の顔を見渡し――


「オレの夏休みは補習とバイト漬けになっちまうケド……。で、でも来月初めに隣町である夏祭りの花火大会くらいは、ちょっと、い、行ってみてえなあ!」




「少し歩こうぜ、星崋。ちょっと暑いケドな」

「えっ? あ、はい瑠琉奈さん」


 イオのお見舞いを終え、見送る紫音の姿が見えなくなった途端に迎えのリムジンを呼ぼうとする星崋を、結局バナナを二本平らげてご満悦の瑠琉奈は制す。

 数分後、ふたりの姿は川沿いの遊歩道にあった。ゆっくりと立ち木の陰に沿って歩く瑠琉奈に、半歩下がって星崋は付き添う。

 そして、けたたましく鳴く蝉の音に掻き消されそうな小声で、


「あの、瑠琉奈さん……。わたくし、やっぱりお祭りはご一緒出来ません。瑠琉奈さんは刻任くんとおふたりで」

「ナニ言ってんだよ星崋?」

 立ち止まる瑠琉奈。


「オマエ、ソレはオレに対して気を遣ってるつもりなのかもしんねえケド、オレはそんなコトしてもらっても嬉しくもなんともねえ」


「…………?」

 星崋の明晰な頭脳は、テストの問題ならどんな難題でも解いてみせるのに……。こと恋愛に関しては経験値ゼロの為か、どうして瑠琉奈が怒っているのか理解する事が出来ない。

(こんな例題、どの参考書にも載っていません)

「それでは瑠琉奈さんは……いったい?」

 瑠琉奈は、戸惑う星崋の眼を見据え、大きく息を吸った。そして――



「――――オレはシオンが好きだ。夏祭りの日に、オレはシオンに告白する――――」



「―――――――――――――――!!」

 ちくり、と。

(………………どうして。それは、わたくしが彼女の親友として、待ち望んでいた答えの筈なのに。どうして? どうしてはわたくしの胸は、こんなに――)

「そ、そうですか。が、ががが頑張って下さいね? き、きっと上手くいくと思います。で、でしたら尚のこと、わたくしなど居ない方が……?」



「ナニ言ってんだ? オマエも一緒に告白するんだよ、星崋」



「……………………ぇっ?」

 あまりの予想外な回答に、星崋のリアクションはまともな声にならなかった。

「な、ななな何故です? る、瑠琉奈さんは紫音くんのコトが好きで、わたくしと紫音くんはただのお、お友達で」


「オレにウソをつくんじゃねえ、星崋」


「っ!? わ、わたくしは、ウソなど、ついて……」

(そう。わたくしは、決してウソなどついていません。だって……幼い頃からずっと伸ばしていた髪を切った時に、その気持ちにはきっぱり整理をつけた筈ですから)

 そもそも。

 告白を断った相手に対して、想いを抱き続けるなんておかしい。変。間違っている。叩いてしまった事については、あの時どさくさに紛れて謝る事は出来たのだけれど。

(……あの、時?)


「自分にもウソをつくんじゃねえ、星崋」


「! う、ウソなど、ついて……っ!」

(あの時のわたくしは、どうかしていました。男性恐怖症の筈のわたくしが、あんな行動をとってしまうなんて。今でも信じられません。思い出す度に、顔から火が出そうです)

 でも――その気の迷いを断ち切る為に、髪を切ったのだから。

 そう。だから。

(紫音くんは、ただのお友達。そう、ただのお友達。紫音くんは……ただの。紫音くん……紫音くん紫音くん紫音くん紫音くん紫音くん紫音くん紫音くん紫音……くん?)


「じゃあナンで、髪を切った後は呼び方が苗字の“刻任くん”に変わって、今また下の名前の“紫音くん”に戻ってんだよ?」


「っ、それは……っ!」

「それは“友達以上”に想っていたシオンのコトを、無理矢理“お友達”にしようとして……でも今、オレの気持ちをハッキリと聞いたら、オマエの想いも甦っちまったんじゃねーのか?」

「う………………っ」


 俯いた星崋の表情が歪み……その華奢な肩が、小刻みに震え出す。

「なあ星崋。オレはな? オマエを出し抜いてオレだけシオンに告白して――たとえそれが上手くいっちまったとしても、全っ然嬉しくねえ。納得いかねえ。そんなのはアンフェアだ! 不公平だ!」

「ど、どうして……?」

 『鋼鉄の瑠琉奈』は『氷の星崋』の細い肩をそっと抱き、にっこりと微笑んだ。



「どうしてって? そんなの決まってんじゃねえか! ――オレたち、『親友』だろ?」



 もう『氷の星崋』は。固く氷に閉じ込められていた感情を押さえる事が出来なかった。


「瑠琉奈さんっ……ごめんなさい、ごめんなさいっ! わ、わたくしも、紫音くんのことが、紫音くんのことが…………っ!」


 それ以上は声にならない。

 そんな星崋を、ちょっとドキドキしながらも優しく抱き締める瑠琉奈。

「オマエが謝る必要はねえよ星崋。ヒトを好きになるのに、いいも悪いもねえだろ? そもそもアイツに出逢ったのはオマエが先だしな。それでな、シオンがイオの胸を触っていた件は、ありゃ完全な誤解だ。たまたまシオンが躓いた時に、イオがそこにいただけらしい。だから誤解して一度告白を断っちまったコトなんて、気に病む必要はゼンゼンねえよ」


「…………はい」


「そしてな。オレたちは似た者同士だ。どんなにたくさんの男たちに告白されても、誰ひとり好きにはなれず……はは、考えてみればカンタンなお噺だったな! 氷の牢獄からオマエを助け出してくれる騎士(ナイト)と、鋼鉄の鎖による呪縛からオレを解き放ってくれる勇者(ヒーロー)は、同一人物だったんだよ! そう、オマエとオレの『運命のヒト』は……一緒だったんだな」


「……はい」


「ごめんな、泣かしちまって。でもやっと本音を教えてくれて、オレは嬉しいぜ? 一緒にアイツに告白しよう、星崋! よ、よく分かんねえケドこういうのって、相手の気持ちが大事なんだろ? シオン本人に、オマエとオレのどっちが好きか、選んでもらおう。どっちも選ばれねえ……なんてコトはねーよな? それでどっちが選ばれても、恨みっこナシだ! オレたちは……そう、ずっとずっと、永遠に『親友』だからな!」


「はい」




「やったネ紫音! 遂に『究極(アルティメット)豊乳遺伝子(ブリースト)☆捕獲作戦』は最終段階(ファイナルステージ)に突入だヨ! っていうかもうリーチかかってるヨ! むこうカラお祭りに誘ってくるなんテ……これはモウ、バシッと告っテ! ボンッてあたしの胸がチョモランマになっテ……!」


 ベッドに座ったイオはひととおり大騒ぎした後、またしても両手の平を胸の前に置き、遠い眼をしてうっとりしている。

「また今回もオマケ付きだケド……デモあたしがセイカを惹き付けテ、ルルナとふたりきりにしてあげるカラ! ビシッと男らしくキメちゃいなヨ紫音!」

 鉄砲の形で紫音を指差し、ばちんとウインクするイオ。

「うん、頑張るよ……。今回はもう、《マキナ》の助けはいらないから」

「おオ!? 頼もしイ! さすがはあたしのご先祖さまだネ!」

「ていうか、いつも逆効果な気がするから」

「ナンダヨソレッ!? ご子孫さまにケンカ売ってんのカヨ!」

「でも…………」

「ン? ナンダ?」



「もし上手くいったら――目的を達成したら、イオは未来へ……還っちゃうのかな?」



「――――――――――――――――――――――――あ」

 最初はモチロン、そのつもりだった。当然、スグに未来へ戻るつもりだった。

 でも……紫音と一緒に過ごすうちに、だんだんとソレが楽しくなって。

 本音を言えば――もう少し一緒に、いたい。紫音と一緒に、いたい。

 でもそれは――叶わぬ、夢。

 この時代に長くいればいるほど、ソノ危険は高まる。高まってしまう。


(ただモウあたしにハ、未来に還る場所ナド――――――)


「……ハハハのハ! ナンダ紫音! 寂しいのかヨ?」

「う、うん。少し……」

「マ、マア、可愛いご子孫さまがいなくなっちゃうのは寂しいっていうキモチは分かるヨ! デモ残念ナガラ……ずっと一緒にハ、いられないヨ」

「そっか……。そうだよね。イオは未来の人間――『僕のご子孫さま』、だもんね」

 自らに言い聞かせる様にそう呟いた紫音を見て……イオの小さな胸がちくりと痛む。


「アハ! デモマダ少しは一緒にいるんだカラ……モットコノ時代であたしを色々楽しませてヨ紫音!」

「……そうだね! 明日から夏休みだし、完全に風邪が治ったら、えっと、どこに遊びに行こうか?」


「えっト、えっトナ! コノ時代のレトロな服とかアクセサリーとかもっと買い物したいシ原始3Dの映画とか観たいシ古式平面サッカーの試合もナマで観たいシいろんな国籍の失われた伝統料理を食べにレストランめぐりしたいシ旧式アトラクション満載のアミューズメントパークも行きたいシ絶滅前の動物や植物がたくさんいる動物園や水族館や植物園にも行きたいシ世界的文化の中心地って歴史の授業で習ったアキハバラにも行ってみたいシ日本の伝統芸能メイドカフェにも行きたいシ焼失前の寺院がたくさんある京都にも行きたいシ山頂が崩れる前のフジヤマにも登りたいシやっパリモウ一度海にも行きた~イ!!」


「そそそそんなに!? お、お小遣いが……っ」

「ウン! ソレニ…………“貸し”も返してもらわないとナ!」

「? “貸し”って?」

 イオは少しだけ頬を膨らませ、


「護ってくれるっテ、言ったでショ!? あたしがまたヘンなヤツらに声をかけられたりナンパされたり付きまとわれたりイタズラされたり誘拐されたり拉致されたりシナイ様ニ! プレゼントしたリングで行使出来ル、カンタンな《マキナ》を幾つか教えてアゲルヨ!」




「……星崋お嬢様」  


 ――夏祭りの前日。晩餐を終えた星崋が自室のひとつに戻ってすぐ。


「お入りなさい、長月」

「……はい。失礼いたします」

 凝った装飾の施された真鍮のドアノブを回して、黒い執事姿にいつもの白いバンダナを頭に巻いた長月が、小脇に最新型の携帯型情報端末機を抱えて現れる。

「調査結果が出た様ですね? お座りなさい、長月」

「……いえ。このままで結構です」

「そうですか。しかしその表情では、どうやら素直な結果が出た訳ではなさそうですね」

「……おっしゃる通りです。とても……不可解な結論になってしまいました」


 長月永津は迷っていた。


 実は調査結果自体は、もう二日ほど前に出ていた。

 しかし。この事実を、本当に伝えてしまって良いものか? 

(ただ明日はお嬢様にとって、大切な日。“この事実”を知らないままでは、お嬢様は――)


「構いません。包み隠さず話して下さい。イオさんの言動には、不審な点が多過ぎます。最初に出会った時も、会話の内容も、海での出来事も……。まともな結果でないことは、最初から解っていました。だからこそ、あなたたちに調査をお願いしたのです」

「……! さすがはお嬢様ですね。それではまず、こちらをご覧下さい」

 意を決した長月は、携帯型情報端末機のスクリーンにタッチし、資料を表示させる。


「これは……?」

「……これは、イオ殿が転入されて来た先の海外のハイスクール、及び卒業したとされるジュニア・ハイなどの記録ですが……、全て情報が不自然に書き加えられた形跡があります。クラスメイトとされる方々の話では、イオ殿に関する記憶は無いとの事。同様に、この学校への転入手続き、出入国記録、ひいては住民票の移管等も、各関係機関のデータベースへのハッキングにより情報を精査した結果――イオ殿に関する情報の全ては不自然に改変され、付け加えられております」


「それでは……!? イオさんは本来、情報的に存在しないということですか……? それよりもっと以前の記録はどうなのでしょう?」

「……そこが、不可解な所です。お嬢様」

「続けて下さい」

 長月の言い回しから、星崋は並々ならぬものを感じとり、ごくりと生唾を呑む。そして、


「……こちらは、紫音殿の双子の妹とされる女子の出生届、及び産婦人科医院の記録ですが――一度抹消された後、再び最近になって、付け加えられた痕跡があります」


「!? どういうことです!? 何故一度抹消される必要性があるのですか?」

「……解りません。ただ、数年前にその女子に関する記録は、一度きれいさっぱり消去された模様です。そして丁度イオ殿が転入された頃に、紫音殿の双子の妹として情報が復活しております」

「そういえば、紫音くんのお家の間取りは……」

「……そうです。こちらが刻任邸を建てた建築業者のデータですが――子供の兄妹がいる家庭にポピュラーな手法として、幼少の頃は一つの大きな子供部屋を一緒に使用し、思春期前に部屋を二つに仕切ってそれぞれの部屋とするプランニングがされております」

「確かに、紫音くんとイオさんの部屋は、そうなっておりました。それでは――どうして一度情報が消されたのかは謎ですが、紫音くんに双子の妹が存在するのは確かで、それがイオさんであるのは間違いないと……」


「……そうとは言えません、お嬢様」


「!? 何故です? ……まさか」

「……はい。念の為、密かにDNA鑑定を行いました。丁度イオ殿が風邪で病院へ来られましたので……。その結果を聞く覚悟は、おありですか? お嬢様」


 ――覚悟? 


(確かに、紫音くんとイオさんの関係はたいへん気になります。そもそも、その為の調査。でも、肉親でもないただの知人であるふたりのDNA鑑定結果に、わたくしの覚悟は必要なのでしょうか? 他人のプライバシーを知ってしまうことの覚悟でしょうか?)

「包み隠さずと、申し上げました。覚悟は、出来ております」

 少しの間眼を閉じていた長月は、そっと瞳を開けると――衝撃の事実を語り始めた。



「……それでは、お伝え致します。まず、ご覧の様にイオ殿のDNAは紫音殿とは――完全には、一致しません。わずか数パーセントを共有するのみです。従っておふたりは、遺伝子的には“双子”ではありません」



「――!! そ、それでは…………!? イオさんは、紫音くんの“双子”ではなく“遠い親戚”なのでしょうか?」

「……我々も、そう判断しかけました。しかし」

「し、しかし?」

「……実は、ここからが本題です、お嬢様。さらに念の為に、イオ殿の残りのDNAを解析すると――何故か我々のよく知るある人物のDNAと、同じく全体の数パーセント、一致してしまいました。…………その、人物とは―――――――――――――――」


 並々ならぬ異様な予感に、再びごくりと生唾を呑む星崋。そして長月が操作するタッチスクリーンに、星崋自身もよく知る、とある人物の顔が解析データと共に表示された。

 それは――



「―――――――――星崋お嬢様。あなたです――――――――――――――」



「―――――――――――――――――――――なっっっ!?」


 唖然。

 意味が、分からない。

(何故、自分と同じ遺伝子が、イオさんに……?)

 しかし彼女の秀逸な頭脳は、心の動揺をよそに瞬時に解を導き出していた。


「……仮説はふたつです、お嬢様。まず、刻任家と双芭家に、共通の祖先が存在したとする場合。しかしそういった事実は、我々の調査では全く確認出来ませんでした。しかもこのケースでは、同じ遺伝子が刻任家と双芭家に分配されていなければなりません。全く異なる星崋お嬢様と紫音殿の遺伝子を、イオ殿が継いでいる説明にはならないのです。そしてもうひとつの可能性は……」

「わ、わわわわたくしと、し、ししし紫音くんの……その、し、しししし……」

 顔が、熱い。舌が、上手く回らない。星崋は椅子に腰掛けたまま一度深く深呼吸する。

 そして――



「し………………『子孫』、ということでしょうか?」



「……そういう事です。しかし、残念ながらそれもありえませんね。子孫が同い歳などというファンタジーな状況は……」

「いえ。それは可能なことですよ? 長月」

 星崋は長月の眼を見据えて、今度はしっかりとそう言った。

「……どういう意味でしょうか? 星崋お嬢様」

 長月は、自分の主人が何の根拠も無しに少女らしい幻想に囚われてしまったのではと心配になった。だがそれは、全くの杞憂――



「イオさんは、未来からタイムスリップして来たというだけでしょう? 時間を超越する手法については、わたくしはいくつかの仮説を持っています。ただそれは、現代のテクノロジーでは困難であるというだけ。そしていつの日か、人体に影響が無く超高効率なクリーンエネルギー源さえ発見されれば――それは決して、未来永劫ファンタジーな絵空事という訳ではありませんよ。……これで、謎はひとつ、解けました」



 星崋は、ここ最近見せなかった清々しい笑顔を作った。そんな主人の姿を、長月はしばらく眺めていたかったが、

「……しかしお嬢様。本当にイオ殿がおふたりのご子孫であるのなら、どうして紫音殿と瑠琉奈殿を引き合わせようとするのでしょう? 先祖であるお嬢様ではなくて……」

 若干、その表情を曇らせた星崋。だが、


「その理由については、きっと明日結論が出るでしょう。イオさんも何らかのアクションを起こす筈です。そして、それに関連して“もうひとつの謎”も解けるかもしれません。いずれにせよ、この事実はわたくしに勇気を与えてくださり、そのおかげでわたくしの心は決まりました。本当にご苦労様でした、長月。明日の着付けもよろしくお願いしますよ?」


「……喜んでお手伝いをさせて頂きます、お嬢様」




 ここまで読んで頂いた皆さん、誠にありがとうですっ! このお話は、この辺りで折り返し地点となります。ここからエンディングへ向けて怒濤のように盛り上がってイっちゃいますので、いましばらくのお付き合いのほど、よろしくお願いいたしますっ! 

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