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ほしのごしそんさま。  作者: ひろつー。
あたしのご先祖さま
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あたしのご先祖さま

    第十四章  あたしのご先祖さま 


 ――良くない。


(――わたしには、まだふたつほど、使命が残っている)

 ひとつめは――この件に関する関係者の『記憶の消去』

 ふたつめは――刻任イオとリオの『即時裁判』及び『刑の執行』


 いくら『平行宇宙(パラレルスペース)』の問題が解決したとはいえ、時空法に背いた罪は罪。

 しかも、統合された宇宙がいったいどうなるのかは、全く未知数だ。彼女たちがこの宇宙に与えてしまった影響は計り知れない。

 いくら彼女たちの動機にも、情状酌量の余地はあるとはいえ。


(――ここは、記憶を奪った上に全ての《マキナ》を封印し、冥王星の『氷の牢獄』で、『鋼鉄の鎖』に繋がれて一生を過ごしてもらうしか――)


 非情な決断を下した委音は、まず関係者の記憶を消そうと、《強制(マインド)精神操作(オペレータ)》のコードサインを密かに形成し始めた、刹那。


「ねえ、委音」


 呼ばれた委音の胸が、びくんと高鳴る。

「伝えるのが遅れちゃったけど……久しぶりに逢えて、君に再会出来て、ホントに嬉しいよ」

 コードサインを紡いでいたその指が、ぴたりと止まる。



「しばらく見ないうちに、大きくなったね……って、それはお互い様か。あははは、え、と………………………………………………………………“綺麗”になったね、委音」



 顔面が、紅潮する。

「その星形の髪留め……僕が誕生日にあげたモノだよね? 使ってくれて、ありがとう」

 そう。それは。

 全てを捨てたつもりでも、何故か捨てきれなかったモノ。

 正確には、これはもう《マキナイト・コア》に改造されている。でもその原型は、双子の兄が生まれて初めて自ら選んでくれた、最初で最後のプレゼント。


(――それに対し。わたしから同じ誕生日である兄への最後のプレゼントは――“わたしが消えるコト”だった)


 にも拘らず。

 優しすぎる双子の兄は、硬直する妹へ向けてその左手を伸ばし――


「ねえ、帰っておいでよ! また僕と一緒に、楽しく暮らそうよ! ねえ、委音――」


 ――どうして。


 あんなモノを、わたしに見せつけておいて。

 どうして、そんなコト言うの? どうして、そんな風に屈託なく笑えるの?

 この、あなたを一方的に捨てていなくなった、身勝手なわたしに対して。 

 ねえ、どうして?


 ――それでも。


 もう、一生、二度と、絶対に、永遠に、わたしは、あなたの、コトを、その、笑顔を、忘れ―――――――――



「――じゃあね、お兄ちゃん。ボクは、時空の彼方に戻るよ」



「っ、――委音!?」

 驚いた紫音が、差し出していた手を引っ込める。すると委音の両手の指が、長い長い複雑な別の《マキナ》のコードサインを紡ぎ始めた。


「――そう、まずは、『究極(アルティメット)頭脳遺伝子(ブレイン)』双芭星崋と、『究極(アルティメット)豊乳遺伝子(ブリースト)』萌木瑠琉奈」


「え? は、はい! 何でしょうか?」

「うあ!? な、ナンだ?」

 急にその名を呼ばれ、慌てて返答する浴衣の少女ふたり。


「――ボクのお兄ちゃんを泣かせたら、承知しないからね?」


「……はい! 精進します!」

「うぐ……、分かったよ!」

 くすりと、委音は少しだけ含み笑いをし、


「――次に、時空トレジャーハンター『月乃(ムーン)簒奪者(テイカー)』刻任リオ」


「ナ、ナン……ヤ?」

 石の階段に座ったまま瑠琉奈に支えられ、まだ朦朧としながら、リオは答える。


「――君と君の一族が、これまで得た時空的財宝により密かに行ってきた、孤児や難民に対する無名での養護や寄付に免じて、特別に今回の件に関しては、“不問”ってコトにしておいてあげるよ?」


「チ……。ソンなコトまで知っとったんカ。ナッニが“不問”ヤ、えっらそーニ……」

「――不服だったら、冥王星の『氷の牢獄』に送ってあげてもいいけど?」

「ソ!? ソレだけはカンベンヤ…………!」

 強気な態度から一転、泣きそうになったリオを見て、委音はまたくすりと笑い、


「――そして、『究極(アルティメット)科学者(サイエンティスト)』の正統後継者――『星乃(スター)継承者(サクセサー)』刻任イオ」


「…………」

 石の階段に座ったまま星崋に支えられ、まだ朦朧としながら、イオは答えない。

 まるで気に入らない、といった感じで、親の仇でも見る様に委音を睨んでいる。

「――君の偉大なおじい様と御両親に免じて、君も例外的に今回の件に関しては、“不問”ってコトにしてあげるよ?」

 それでもイオは、答えない。


「――それにしても、君のご両親とご友人の件は残念だったね?」

「―――ッ!?」

 イオの表情が、驚きに変わった。

 他の一同も、話の急展開に思わず息を呑む。



「――まさか、火星――海王星間新航路の記念すべき初航海で、艦長と副艦長であったご両親と、初回限定記念ナビゲーターであったご友人が船ごと遭難、行方不明になってしまうなんてね。そして君は、その事故直前の時間帯に向け《時間(タイム)跳躍(ジャンプ)》を敢行してそれを阻止しようとしたが、強力な天然の『時空障壁(タイムウォール)』に阻まれてそれは不可能だった。そこで頭のいい君は、考えた。ただひとりの記念ナビゲーター選抜を兼ねた『火星的(プリンセス)美少女(オブマーズ)コンテスト』で、自分が準優勝ではなく優勝していれば、と――――――」



「ダ……黙レッ!」

 イオは支える星崋の手を振りほどき、ふらふらとしながらも、立ち上がった。だが、



「――そしてそれは、“胸の差”だった、と。違うかい? 『銀乃火星的(シルヴァープリンセス)美少女(オブマーズ)』――」



「黙レェェェェェェ―――――――――――――――――――ッッッ!! ……………ウ、ウウウ、ウ………ウワアアアアアアァァアアア―――――――――――――――ンッ!!」

 核心を突かれたイオは、再びしゃがんで泣き出してしまった。


(イオ? そんなコトが……?)

(イオちゃん……)

 慰めようとする紫音と星崋。だが、あまりに衝撃的な話の内容に、上手く言葉を見つけられない。

 そしてそれは、彼らふたりにとっても全く人ごとではなく――その子孫が辿ることになる、壮絶な未来だった。


「コ、コノ胸ガ……ア、あたしの胸があと十センチ高けれバ、歴史は変わっていたのニィィィィィィ――――――――――――――――――――――――ッ!!」


 イオは、もう花火の上がらない夜空へ向けて、声の限り叫ぶ。

「あたしがソノ場に居れバ! パパとママを助けられたかもしれなかっタ! たとえ助けられなくてモ! トモダチだったアイツまで犠牲になるコトはなかっタ! デモ、デモ結局……、ウワアアアアァァァアアアア―――――――――――――――――――ッ!!」


 でも結局――この計画は、不可能だった。

 イオの頬を、とめどもなく涙が伝う。


 そして星崋も、密かにその小さな胸を痛め、罪悪感に苛まれていた。

(わたくしの、わたくしのこの胸のせいで、わたくしの子孫は……?)


「テメエッ! イオを泣かせやがって!」

 瑠琉奈が再び拳を握りしめた、その時。



「――悲しいのは分かるが、前を向いて生きなよ、刻任イオ」



「「「!?」」」

 瑠琉奈の拳が止まる。イオと、そして星崋も、その委音の言葉に顔を上げる。

「――起きてしまった変えられない過去よりも、これから起こる未来を素晴らしいモノにしなよ。でないと、君のご先祖さまであるボクのお兄ちゃんが浮かばれないよ?」

「? ぼ、僕はまだ死んでないけど!?」

 ボケたツッコミをする紫音の顔を、イオは眺める。


「――それに今。君は本当に不幸かい? そうじゃないだろ? だって君は……本来ならボクが居たハズの場所に、今は居るのだから」


 イオは、『僕のイオ』という紫音の言葉を思い出す。そして紫音と眼が合いそうになり、慌てて顔を背ける。

 涙はもう、止まっている。


「――そして君とリオのふたりには、ひとつに統合された『新宇宙(ネオユニヴァース)』がもう二度と揺らがない様に、その身命を懸ける義務がある。それが、君たちが犯してしまった過去への贖罪。いや――未来への、献身」

 ぴくり。何かに気付いた様子の、刻任イオ。

 そうして委音は、同じ顔をした兄と、その一族に対してくるりと背を向けた。


「――じゃあ、そろそろ小姑は還るとするよ。―――――――――《時間(タイム)跳躍(ジャンプ)》」


 長い長いコードサイン形成を終えた委音の、星形をした髪留め――『ベテルギウスⅠ』が赤黒く点滅を始める。

 そして、倒れている助手兼下僕のブラックキティを軽く肩に担ぎ上げ、

「キティ。戻ったらまたお仕置きだからね?」

 すると、まだ気絶している筈のブラックキティの小さな身体が、がくがくと震え出す。

 そうするうちに、その姿が徐々に黒い霧に包まれ始めた。


「! 待ってよ委音っ!」

「――何? お兄ちゃん」

「どうして君は、また行ってしまうの? どうして……往ってしまったの?」


「――さあね。……しいて言えば、前を向いて生きる為、かな?」


「――!?」

 紫音にはその回答の真意が、よく理解出来なかった。

 でも委音の方も、少し嘘をついていた。

(――だって。だってわたしは、まだ、お兄ちゃんのコトを―――――――――)

 そして『ダークライオン』刻任委音は、遥か時空の彼方へと還る。最後の、そのひと言を残して。



「――――またね、“わたし”のお兄ちゃん――――」




 その、数十分後。


「メッチャハラ減ったデ! とりあえずナンか喰わせろヤ!」

 ご先祖さまたちに横柄に食べ物を要求したリオは、紫音と瑠琉奈から与えられた、屋台の売れ残りで半額処分だった焼きそばとチョコバナナ二本をぺろりと平らげると、長いコードサインを形成し始めた。


「ほナ、ウチもさいならヤ!」


「か……、還っちまうのか、よ?」

「このままココにおったらまたおかしなコトになってまうシ、統合された『新宇宙(ネオユニヴァース)』とやらによっテ、ウチの時代がいったいどーなっとるんかも気になるしナ。……せやからアホのご先祖、コレデお別れヤ!」

「アホって言うな!」



「エエカ? 絶対に紫音を放すんやないデ! ……イイお嫁はんになるんやデーッ!!」



「お……!? おおお、おう!」

 顔を赤らめつつも寂しそうな顔をする萌木瑠琉奈が、こくりと頷く。


 そして完全に回復した『月乃(ムーン)簒奪者(テイカー)』刻任リオも、遥か彼女が元いた時代へと還って行った。



次章、いよいよ最終話ですっ! 乞うご期待っ!

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