光のご子孫さま
第十章 光のご子孫さま
「シ、しまッ、……ぎゃンッ!!」
しゃがんで泣いていたリオが、まるで稲妻で構成されたネットの様な物に絡めとられ、更にスタンガンを当てられたかの様に痺れて気を失う。
さらに。いつの間にか紫音たちの眼前に――前衛的でスリムな形状のボディスーツと、三角形の耳の様なアンテナらしき物が付いたフルフェイス状のヘルメットを被った、黒ずくめのふたり組が現れていた。
「『トキトウイオ』ニハ、逃ゲラレテシマッタヨウデスニャ? 『ダークライオン』サマ?」
「――コチラダ、『ブラックキティ』」
そう短く会話した黒いふたり組は、神社の本殿の表側に向かって走り出した。
後ろから見ると、その腰の後ろにも短い尻尾の様な突起がある。
「ま、待ちやがれッ! ダレだオマエらはッ!?」
後ろから叫ぶ瑠琉奈を、小さい方のひとり、ブラックキティと呼ばれた方は完全無視。
中背のもうひとり、ダークライオンと呼ばれた方は少しだけ立ち止まり、何故か紫音、星崋、そして瑠琉奈の順で、値踏みをするかの様に顔を眺めた。そして再び走り出すが、
「……ここは通しませんよ? コスプレネコ族殿。お嬢さまのご学友、いえ、血縁者を傷つけようとする輩は、この『星崋団・団長』、長月永津と」
「同じく『星崋団・団員その弐』っ、神無月カンナがっ」
「「――泣かして差し上げますッ(っ)!」」
微妙な感じの口上を述べ、背中から木刀をすらりと抜いた長月と神無月が、黒いふたり組の前に立ちはだかる。
シュ。
構わず、猫の様に俊敏なステップで長月の横をすり抜けようとするブラックキティ。
刹那。
――ドゴンッ!!
長月の木刀一閃。
吹き飛ばされたブラックキティは、派手に木の幹へ叩き付けられる。が、直ぐに起き上がり、
「ニャハッ、効ッカナイニャー? コノ『キャットスーツ』ハ、アラユル衝撃ヲ吸収シ………………グニャァッ!?」
そしてまた直ぐに、ぱったりと地面へと崩れ落ちる。
「……斬ったのはあなたの中身ですよ? 死なない程度に手加減はしています……む?」
「きゃああああっ!」
悲鳴と同時。神無月が先ほどのリオ同様、稲妻で構成された電子ネットの様な物に絡めとられ、木の幹に縛り付けられてしまっていた。
「ご、ごめんなさい長月お姉さまっ! カンナは不覚にもこのクソネコに……きゃンっ!?」
その小さな身体に電流の様なものが流れ、神無月も気を失ってその場に倒れ込んだ。
(……あの、神無月が? こうも簡単に?)
そしてダークライオンは、次の獲物――長月に向けて歩を進め出す。
長月の本能が危険を告げる。この相手は、もうひとりの小さい方とはまるで格が違う!
「星崋の運転手さんッ! コイツはオレに殴らせてくれッ! オ、オレの子孫に手を出しやがってッ!」
瑠琉奈が走り寄りながらそう叫ぶが、長月は首を横に振る。
「……私は運転手ではありませんよ。瑠琉奈殿、今日の服装では満足に動けないでしょう? ここは私に任せて下さいませんか? 代わりに星崋お嬢様と紫音殿をお願いします」
瑠琉奈が振り向くと、星崋は震えながら紫音にしがみついていた。
「ちッ。しょうがねえ、分かったよ!」
相手の狙いはどうやらイオの様だが、今後どういった行動に出るかは全く予測出来ない。
そして長月が木刀を大上段に構えると、何とダークライオンは――左手でコードサインを瞬時に形成し、
「――《紫電★剣》」
その手に黒い稲妻の光で構成された剣の様なものが現れ、それを下段に構えた。
「……現世で」
長月が呟く。
「……師匠と別れて以来、我が剣を存分に振るえる相手に再び恵まれるとは――」
長月永津の木刀が月光に煌めき、時計回りに満月の様に大きく回転を始める。
彼我の距離は三メートル半。
一歩の踏み込みで、勝負は決する。
「……名乗りなさい。通称ではなく、真名を」
無論、本当に名乗ると長月は思ってはいない。それは、相手に隙をつくる為の――
「――――――ボクノ名ハ、『 』――――――――――――」
「……………………………………なッッッ!?」
上空で花火が破裂する中、かろうじて長月のみに聞き取れる声。そして、一瞬の隙。
じゅッ!
投擲された稲妻の剣を、長月は咄嗟に木刀で受け止める。が、その剣は木刀を焼き切りながら透過して顔面へと突き進む。驚異的な反射で長月はそれをかわすが――
既にダークライオンは、視界から消えていた。
長月永津は、己の敗北を悟る。
「――《紫電★撃》」
「……ぐッ!?」
左斜め後方から声がすると同時。長月は後頭部に電撃を受け失神、地面に崩れ落ちる。
「長月…………っ、神無月…………っ」
紫音に掴まって震えながら、呟く星崋。
「う、運転手さんッ!? テメエこの―――ッ!!」
激昂した瑠琉奈は、ダークライオンを殴り飛ばす為に再び走り寄ろうとするが、
「――《不可視★障壁》&《成層乃★翼》」
「き? 消えやがった!? チクショウ、ドコ行きやがったッ!?」
「……ま、《マキナ》……」
「ん? ナンだ紫音、《まきな》って!?」
「イオたち――未来の人が使うアプリケーションっていうか、技みたいなモノだよ」
「!? じゃ、じゃあホントにイオも、未来から来た……、オマエと星崋との、その、し、子孫なんだ、な?」
「……うん、そうらしい。ゴメン、ふたりとも。今まで黙ってて……」
「べ、べつに謝るコトねーよ! 色々とフクザツな事情があったんだろーが」
「……………………」
星崋は何も語らず、ただ紫音にしがみついたまま俯いている。
そして紫音は、怯える星崋に何か声をかけ安心させようとするが、
(……はたして僕に、そんな資格はあるのかな?)
側では、自分と瑠琉奈の子孫と名乗った女の子が、稲妻のネットに絡み取られ気を失っている。
少し離れた場所では、いつかイオを助け、今回も逃げたイオの為に戦ってくれたふたりが倒れている。
(僕はまた、何も、出来ない。誰も、護れない……っ!)
それこそ、本当の植物の様に。ただ、風に流されながら見守るだけ。
震える拳を強く握りしめた、その時。
こつんっ、と。
ショートパンツのポケットに入っていた小さな何かが、紫音の左拳に触れた。
刻任イオは、涙に濡れる顔をお面で隠して――空を飛んでいた。
その横顔を、お祭りの終盤を迎えて連発される花火の灯りが次々と照らす。
(――遂ニ、ヤツらに見つかってしまっタ)
逃げないと、逃げないと、逃げないと。何処ヘ?
(元の時代にはモウ、あたしの還る場所などナイ)
せっかく此処で。ほんのひと時、自分の居場所を……………………でも。
見つかってしまった以上、もう、此処には……。
そして、大事な大事な目的も、全く達成出来なかった。
(グスッ。涙が止まらナイヨ、紫音。こうなったラ、あてもなくランダムな時代へ――)
「サヨナラ、紫音。―――――――――――――――《時間☆跳躍》」
イオが力なく長いコードサインを形成し始めると、その星形の髪留め――『シリウスⅠ』が白く点滅し出す。刹那、
「――逃ガサナイ、トキトウイオ!」
ざしゅッ!
眼前に、八枚の鋭角な漆黒の翼を背中に浮遊させたダークライオンが、突如出現した。
「――――――ナ!?」
驚愕するイオ。
何故なら、自分は《不可視☆障壁》を行使しているにも拘らず、相手からはこちらが完全に見えてしまっている。
可能性はふたつ。
生まれつき自分に近い周波数の《マキナ》を行使する者か、もしくは自分の《マキナ》の周波数を完全に解析し、コピーした者か。そのどちらかが《不可視☆障壁》を行使し、同じチャンネルに侵入して来ている。
そして、空中に突如 《空間☆跳躍》して来たかの様なこの動きは――
「――ソウ、《成層乃★翼》ダ。行使スル場が地球上ナラ、一瞬デ地表カラ成層圏マデヲ連続デ行キ来デキル。飛行用 《空乃★翼》ト、単発空間移動用 《空間★跳躍》ノ両 《A 級マキナ》ノ長所ヲ合ワセタ――《S 級マキナ》ダ」
これを行使する相手から居場所が特定されてしまえば、事実上大気中に逃げ場は無い。
そしてこの幻の《S 級マキナ》の使い手は、イオの知る限り“ヤツら”の中ではひとりだけ。それは時空の逃亡者たちにとって、まさしく最低最悪の――
「キサマハボクカラ、決シテ逃ゲラレナイ。『時空法第一条第一項 (私利私欲に基づく時空跳躍の禁止)』、オヨビ『時空法第七条第七項 (歴史的事実の変革による平行宇宙創造の禁止)』ニ基ヅキ、『黒乃時空管理局 (BLACK Controle Association of Time and Space)』の執行者01『ダークライオン』ガ――『星乃★継承者』トキトウイオ、キサマヲ裁ク!」
「ぐウッ!」
しかしイオは、逃げる。自らの《空乃☆翼》の最大速度で。
《時間☆跳躍》の長い長いコードサイン形成の時間を、どうにかして稼がなくては。そして相手からの追跡を逃れる為にも、なるべく離れた場所でそれを行わなくてはならない。
「――無駄ダ。コレマデコノボクカラ逃ゲラレタ者ハ……ム! 《紫電★撃》!」
逃げたイオの眼前に再び瞬間飛行して現れたダークライオンに、既にイオが先読みして放っていた青白い《紫電☆撃》が襲いかかる。しかし、驚異的速さでダークライオンはコードサインを形成、自らの黒い《紫電★撃》にて迎撃、相殺。
その隙に再び空中で方向転換したイオは、打ち上げられる花火の間を縫って、ひらりひらりと、逃げる。逃げる。逃げる。
そしてまた直ぐに眼前に移動してきたダークライオンに対し、今度は既に左手に発現させておいた《紫電☆剣》で斬りかかる。
だが今度はダークライオンの方も、既に《紫電★剣》を行使しており――
ばシュッ!
大音響で花火が連発される上空で。刻任イオの青白い稲妻と、ダークライオンの黒い稲妻が交差する。
ふたりの姿は不可視状態で、その領域から零れ落ちる稲妻も大量の花火に紛れ、地上の観衆は誰もそれには気付かない。
ダークライオンは、無傷。
そしてイオも外傷は無いが、その被るお面が真っ二つに割れる。
「――綺麗ナ顔ダナ、トキトウイオ。『シオン』ニソックリダ」
「―――――――――ッ!?」
その一瞬の隙を逃さず、ダークライオンはイオの背後に瞬間飛行し――イオは咄嗟に回避を試みるが、四枚の翼のうち、下の二枚をばっさりと斬り落とされる。
その光る翼は実体の顕現では無いが、《マキナ》自体がダメージを受けたのは明らかだった。
バランスを失い、空中でくるくると回転するイオ。
「くゥッ!?」
「――ソロソロ遊ビハ終ワリダ! コレデ最後……ムッ!」
イオは斜めに回転しながら、浴衣の帯に挟んでいた何かを手裏剣の様に横回転で投げつけた。ダークライオンはそれを瞬間飛行で避けようとするが、
「――? 何ノ真似ダ?」
それは、ただのお祭りうちわ。
ダークライオンは、より『ヴァイタルエナジー』消費量の少ない《紫電★剣》で、冷静にお祭りうちわを軽く両断する。
「『シリウスⅤ=時空倉庫』!」
続けてイオは、浴衣の下にちゃんと穿いていた水色に白い星柄の四次元パン×から、お祭りでゲットした水風船ヨーヨーふたつを瞬時に取り出し、再び相手めがけて投げつけた。
「――コンナ子供ダマシニ!」
そう叫んだダークライオンは、再び《紫電★剣》で水風船を斬り払った。
イオは、嘲笑っていた。
これを瞬間飛行でかわされていたら、終わりだった。賭けに、勝った。
既にイオは、《紫電☆網》のコードサイン形成を終えている。青白い稲妻の網が、ダークライオンめがけて襲いかかる――が、難なく瞬間飛行でかわされ――――――しかし!
ダークライオンが瞬間飛行する直前。斬られた水風船から弾けた水を伝導して、イオの《紫電☆網》が、先に標的を捕らえた。
「―――――――――グッ!? シカシ、コンナモノスグニ“デリート”シテ……」
青白い稲妻の網に捕らわれながらも、動きが鈍くなった両手の指で強引にコードサインを形成するダークライオン。その特殊な漆黒のスーツは電流を通さず、動きはいくらか拘束されても気を失う事はない。
「遅イ。――《反☆重力場》!」
『黒乃時空管理局 』のエース――執行者01『ダークライオン』は、イオの狙いは満足に飛行出来ない状態の自分を地面に叩き付ける事だと理解した。
重力を操る《反☆重力場》は、上手く応用すれば上でも下でも自在に物体を空中操作する事が出来る。しかしダークライオンには、その前にこの電子網を消去出来る絶対的な自信があった。
(――ソウ、コノボクガ、例エ『星乃★継承者』相手デモ、決シテ負ケルハズハ――――)
突如。
周囲で打ち上げられていた数発の花火全部が、ダークライオンめがけて向きを変える。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ――ななつ。
「――――――――――――――――――――ナッ!? 七ツノ標的ヲ並列操作ダトッ!?」
咄嗟に。形成中だったコードサインを、滅多に使う必要が無い防御用の《マキナ》に切り換える執行者01。
だが。
「《反☆重力場》×2(スクウェア)―――――――――ッッッ!!!」
倍に加速する七つの閃光。
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ」
そして『黒乃時空管理局 』のエースは、満月が照らす葉月の夜空で、爆裂する七色の光の華に包まれた。




