この世界の日常2
3人とも年が1つずつ違うため綺羅が中三までは同じ学校で一緒に登校していた。綺羅が高校に入り綺羅の通学路が少し変わってしまったが3人で登校することは変わらずにいた。
「なんで、零は私と同じ高校選ばなかったの?そうすれば一緒に学校まで行けたのに」
「そうだよ。私もお姉ちゃんと同じ高校だと思っていたのに」
3人は仲が良く高校も同じ所に行くと思っていたが零は綺羅とは違う高校を選んだ。
「いや、ただ単に俺も自立しないとなって思って。いつまでも2人に迷惑かけられないし」
「何言ってんの!迷惑なんて全然これっぽっち思ってないから!」
「そうだよ!お兄ちゃん!」
「2人はそう思ってなくても俺はそう思っちゃうよ」
2人には見えない様に少し暗い顔になる。零はいつも思っていた。2人に守られていたことに。
綺羅と理奈は生まれた時から魔法が使えたが零は使えなかった。零の世代で魔法が使えないのは結構珍しいかった。ちなみに両親は魔法が使えない。
そのせいで小学校では軽く虐めにあっていた。周りの子達が魔法が使える中1人だけ違う存在がいればそうなってしまう。そんな、零を助けていたのが姉妹だった。
最初は男の癖に女に守られてって思っていたが使えないものは使えない。ならば違うことで恩返しを、2人の役に立とうと思った。だから、零は料理を必死で覚えた。綺羅と同じ学校を選ばなかったののもいつまでも綺羅と理奈に頼ってばかりでは駄目だ。いつかは1人で生きていかなければならない。 これは零の覚悟の現れだった。
「姉弟なんだからそんなに深く考えなくてもいいのに」
姉の優しさが心に染みる。
「その代わり理奈ちゃんは私と同じ高校選んでね」
綺羅の豊かな胸に理奈の顔が沈む様に抱きしめる。
「今の所はその予定。でもね、お姉ちゃん・・・」
理奈が言い淀む。
「ちょっと、恥ずかしいよ」
「いいじゃない。私の可愛い理奈~」
抱きしめる腕に力が入る。綺羅は本当に零と理奈が大好きなのだろう。ことある事に抱きついてくる。
そんな離して離してを言っている理奈を助けたのは意外にも小鳥のカトレアだった。
「わっ、わっ!ごめんってカトレア~」
綺羅の頭に向かってつついてくる。
「いたたたっ」
カトレアの頑張りが実り綺羅から逃れた理奈。
「お姉ちゃんがいきなり抱きついてくるからでしょ」
「いいじゃない可愛い理奈ちゃんに抱きつくくらい」
そんな2人のやり取りは続いている。それは眺めている零。
「な~に~、零。にやけっ面で~。もしかして、アナタも私に抱きついてもらいたいの~?」
自然とにやけていたのかもしれない。どんな変な顔をしていたのかと恥ずかしくなり一度、頭を振る。
「違うって。当分はこれも見れないんだなぁ~と思って」
あっと、思い出したように2人が固まる。
「そう言えば、零は今日から学校の寮に入るんだったね」
「そうだったね。・・・お兄ちゃんが居なくなると寂しいね」
「大丈夫。長い休みになったら帰るから」
零が通う学校には寮がある。別に入学したら強制的に入らなければいけない訳ではないが零は寮に入ることにした。
理由はさっきの話でもあったが自立していく意味でもあった。
「よーし!私から独り立ちのプレゼントを贈りましょう」
「いや、いいよ」
即答で拒否する。何故なら悪い予感しかしないからである。
「何よ~、私からのプレゼントが貰えないって言うの!?」
「別にそう言うことじゃなくて。だからー、なんで抱きつくー!」
「私からのプレゼントを受け取れー」
叫びながら零の顔に自分の顔を近づける。正確には零の頬に綺羅の唇が近づく。
「な、に、す、る、ん、だ、よー!!」
綺羅を放そうと全力で拒絶する。言葉一つ一つでも拒絶する。
「ん~~~ん」
唇を尖らせ綺羅が迫る。
「道のど真ん中で止めろー!」
零の悲痛な叫びが響く。
「みんなに見せつけてやればいいじゃない。私達のあ・い・を」
「アホか!いいから離れろー!」
姉弟愛の方なのか違う意味の愛なのか。綺羅にとってはどちらにも捉えることが出来るので怖いところだ。
「お姉ちゃん・・・」
理奈が救い・・・の言葉にしては酷く暗い殺意の籠った声音で言う。
「それは聞き捨てならないです」
「理奈、姉さんを何とか・・・」
零が言い終わる前に理奈が割り込む。
「お姉ちゃんだけズルいー!私もお兄ちゃんにプレゼントするー!」
「なっ!?」
思いがけない言葉に驚きが隠せていない。助けてくるとばかり思っていた理奈にあっさりと裏切られてしまった。
「オッケー。理奈ちゃんはそっち側からね」
「はーい」
理奈も綺羅と同じように逆サイドから迫ってくる。さすが、姉妹。息があっている。
美少女の部類に入る2人に迫られてかたら見たら羨ましい光景ではある。しかし、零からしてみれば姉妹である。確かにドキッとする時もあるがそこは家族であると自制心がある。
「零!私達のプレゼントを受け取りなさーい」
「受け取りなさーい!」
両サイドから迫る美少女達。零は必死に2人を放そうと頑張る。男の力をもってしても離れない。逆に迫ってきている。明らかに魔法を使っている。魔力を使い腕力を強化している。魔法を使えない零はどうあっても離すことは絶対に出来ない。
「や、止めろーーーーーー!」
結果は言うまでもなく力ある者が勝つ。零の悲痛な叫びが近所に響き渡る朝だった。