この世界の日常1
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってきまーす」
そう言って零と理奈は玄関を出る。零の家は一戸建てで中々いい作りになっている。周りの住宅も立派な家が多い。
「ちょっと待ってー」
綺羅の慌てた声が2階から聞こえてくる。綺羅が慌ただしいのはいつものことだ。よっていつもの様に玄関を少し出た所で待っている。
そんな騒がしい綺羅とはうって代わり零の隣にはちょこんと静かに理奈がいる。そして、理奈の周りを飛び回る緑の小鳥、カトレアがいる。
「今日から新学期だね、お兄ちゃん」
姉を待つ間、理奈が零に話しかける。
「そうだな。理奈は今日から3年だな」
「うん、兄さんは今日から新しい学校だね。楽しみ?」
「ああ、楽しみではあるけど少し不安もあるな」
本音を話す零。まだ、見ぬ新しい教室。そして、クラスメイト。少なからず誰だって楽しみではあるが不安もあるだろう。
「でも、知ってる友達もいるから大丈夫だよ」
「そっか、それなら大丈夫だね」
そんな他愛もない話していると、2階から、姉の部屋からドカドカドカッと大きな音が響く。2人は家の中を見る。
階段からは姉の姿は見えない。が、次の瞬間、
「よっと、お待たせ」
軽く着地をする形で目の前に綺羅が現れる。階段の下りる音もなしに現れたにも関わらず2人は驚きもせずにいる。
「姉さん、空間移動出来るんだからそんな慌てなくても大丈夫だろ」
「えへへへへっ」
靴を履きながら笑顔を浮かべる。
それよりも空間移動という日常では絶対に使われない言葉に違和感を覚える者は誰もいない。それよりもこの世界ではこれが普通である。
超能力、魔法は日常生活で使われるようになっている。もちろん、規制や規則は設けられているが。何故、魔法が使える様になったのかは分からない。ただ、先々代、つまり零達にとって祖父、祖母の世代の人達からちらほらと使える人達が現れたそうだ。もちろん、魔法を使えない人もいる。
「それに何もわざわざ俺達と行かなくてもそのまま学校まで跳べばいいじゃないか」
綺羅の魔法。空間操作。違う空間を繋げる。その為、今の様にテレポートできる。ただし、綺羅自身が行ったことがある場所に限られる。
「いいじゃない。私の可愛い弟と妹なんだから一緒に行ったっていいじゃない。お姉ちゃんだけ仲間外れにしないで~」
零と理奈を左右に抱えるように抱きしめる。零と理奈の顔を自分の顔が潰れるほど近づけスリスリと頬づりをしている。
「ちょっ、姉さん」
「お姉ちゃん、痛いよ~」
姉に捕まりもがく2人の弟妹。
「綺羅、その辺にしてあげなさい」
「は~い」
母からの助け船で綺羅から逃れる零と理奈。綺羅は渋々と離れる。
「いいから姉さん、行こう」
「はい、はい」
「お母さん、行ってきま~す」
「はい、いってらっしゃい」
3人は母に見送られ学校へ歩き始めた。