第40精霊
友春たちは崩壊していく、精霊たちが住んでいた世界から脱出し、
友春の治療をするべく彩加が所属している組織の母艦へと急いで向かった。
「お兄ちゃんしっかりして!」
彩加は切断された友春の腕を氷漬けにしてこれ以上、血が流れ出ないように
していたがここに来る前にかなりの量を失っているらしく、友春の意識は曖昧だった。
「みんな! 来て!」
母艦にたどり着き、彩加は大声を張り上げて職員を呼んだが誰一人として
彩加たちのもとに来る職員はいなかった。
それどころか、いつも何かしらの音が聞こえていた母艦内はまるで誰もいない
家のように不気味さを感じさせるほど静かだった。
「ねぇ、みんな! どこにいるのよ!」
「ひとまず、司令室にでも向かったら? あなたならこの艦の
状況だって把握できるでしょうに」
加奈の助言を聞いた彩加は、ハモンたちに友春を任せてすぐさま司令室へと向かった。
「……それにしては静かざんすね。うんうん、静かざんす」
「前にここに入院っぽいことをいていた時はもっとうるさかったけど」
ハモンも加奈も、今のこの母艦内の静けさに疑問を抱かずにはいられなかった。
「きゃぁぁぁぁ!」
すると、突然向こうの方から彩加の叫び声が聞こえ、加奈たちは友春を
抱えて司令室へと向かった彩加の叫び声が聞こえた方へと向かった。
「どうしたの!?」
「あ……み、みんなが」
「みんな? ……な、なによ……この状況は」
彩加は何か恐ろしいものでも見ているかのような表情を浮かべて前を指さしていたので
加奈は彩加が指さしている方向を向くと、そこには悲惨な光景が広がっていた。
司令室には血生臭い匂いが充満しており、耳を澄ませばポタポタと何かが滴り落ちる音が聞こえた。
そう……加奈たちの目の前には職員たちの惨殺体が大量に横たわっていた。
『クスクスクス』
「っ! 誰かいるの!?」
どこからともなく笑い声が聞こえてきた。
その声は幼い子供が笑っているような声音だった。
「は~い。久し振り~」
「あ、あなたがこれをやったの!? シロ!」
彩加の前に現れた幼い風貌の精霊……それは数週間前に組織に入った
精霊であるシロだった。
髪の色はその名前と同じ色をしており、体格は今いる人物の中では彩加以上に
小さな体格をしていた。
「うん! だってだって! 優様の命令だからみんな、殺したの!
楽しかったよ! 私が襲いかかるとみんな怖がってみんな、逃げて行くから
慌てて追いかけて首とか腕とかを弾いちゃった♡」
言っていることと彼女が浮かべている笑顔とのギャップがあまりにも激しかった。
「あ、そうそう。このお船は後、三十秒くらいでドカーンって爆発しちゃうの!」
「み、みんな! ついてきて!」
彩加はその事実を聞いた瞬間、全員を連れて転移装置がある場所へと走った。
「逃がさないんだからー!」
シロは満面の笑みを浮かべて刀身が真っ白な刀を持って、彼女たちを追いかけていく。
「てめえはここで吹っ飛べ!」
エルンストはそう言いながら、黒い闇を放出させて壁を生成した。
その壁は触れればその部分が食われてしまう壁である。
「さ! 早く!」
彩加にせかされ、エルンストもその転位装置とやらに乗り込むと
辺りに光が放出されて、友春たちは一瞬で宇宙から地上へと転移された。
「あ~逃がしちゃった」
『構わないさ』
シロの背後の空間がゆがみ、そこから精霊となった優が現れた。
「あ! 優様!」
シロはまるで母親に出会ったかのような感じで優に抱きついた。
『よし、帰ろうか』
「うん!」
優がシロを抱きかかえて空間の歪みに消えた瞬間、母艦は大爆発を起こした。
―――――ドオオォォォォォォン!
友春たちが地上へと転移された瞬間、遥か上空で母艦が
大爆発を起こし宇宙の塵となった。
その爆音は地上からも聞こえていた。
「……みんな……ごめんね」
彩加は涙を流しながら、祈るように手を重ねた。
今まで数年という年月をともに戦ってきた仲間にできる唯一のことだった。
「……彩加ちゃん。とりあえず、友春君を」
「はい」
彩加は加奈に言われてすぐさま医療機関へと担ぎ込んだ。
「……ここは」
友春は閉じていた目を意識の覚醒とともにあけると、
真っ先に飛び込んできたのは白い天井だった。
当然、自分の家でないことは一瞬で理解したが
自分がいる場所がどこなのかまではまだ理解できなかった。
友春はいつものように起き上がろうとするが、何故か身体が
右側の方へ傾いてしまいそのままベッドから落ちてしまった。
「……イタ」
友春は利き腕である右腕でジンジンと痛む鼻を触れようとするが
感覚は鼻を触れているのになぜか、鼻を触れることができなかった。
「え? ……そうだったな」
友春は慌てて右腕の方へ、視線を移すがそこにはいつも見慣れている
自らの腕は存在しておらず、肩のあたりから包帯が巻かれていた。
「俺、斬られたんだっけ」
精霊の世界で友春は腕を裏切った優によって切断されたことを思い出しながら
友春がベッドに戻ったと同時に病室のドアが開かれ妹の彩加が入ってきた。
「お、お兄ちゃん?」
「よう……心配掛けたな」
そう言われた瞬間、彩加は持っていた花を床に落とし友春に抱きついた。
「よかった……本当に良かった」
友春は何も言わずに自分の胸で泣いている彩加の頭をなで始めた。
彩加が落ち着いたのはそれから十分くらい経った後だった。
「落ち着いたか?」
「うん……」
彩加は頷き、彼の右腕に視線を移すと沈痛な面持ちで友春の肩のあたりを撫でた。
「片手でも暮らせるから気にすんな」
「でも……」
彩加の表情を見た友春はふぅっと呆れ気味に息を一回吐くと、左腕で
彼女の後頭部を軽く押して自分の胸に引っ付けて抱きしめた。
「お、お兄ちゃん……」
「そんな顔すんな……俺は大丈夫だ」
「……うん」
良い雰囲気を醸し出している二人だったがその
雰囲気はドアが再び開けられる音によってぶち壊された。
「あらあら、なかなか良い雰囲気だったみたいね」
「友春……あんたはやっぱり、超がつくほどのシスコンよ」
病室にはいってきたのは加奈と茜だった。
「茜、無事だったか」
「ええ、偶然買い物に行ってたからね」
茜の視線が友春のない腕に移されると茜は沈痛な面持ちを浮かべた。
「気にすんな。片腕がなくても生きていける。死ぬよりかはましだ」
今の友春はどこか、今までの彼とは少し違った雰囲気を醸し出していた。
その後、加奈と茜、そして彩加は面会時間ぎりぎりまで残った。
こんばんわっす。あと十日でセンター試験
なので今月の更新はここで終了っす。
ふぅ、センター六割~七割……ま、頑張るっす!




