第38精霊
「おぉぉぉ!」
「よっ!」
―――――ゴオォォォォォォ!
友春は背中に生やした翼から炎を噴射してエックスに凄まじい
速度でパンチを繰り出すが上空に飛び上がって避けられた。
「逃がすかよ!」
友春は掌に炎を集めて巨大な火球を創り出すとそれをエックスに向かって投げた。
「はぁ!」
―――――ドオォォォォン!
エックスも掌から青色の極太のレーザーを放ち、
巨大な火球をかき消し爆煙が辺りに立ち込めた。
「この程度か!? この程度で僕には」
「この程度じゃねえよ」
―――――バコォォォォォ!
「がっ!」
目の前から爆煙にまぎれて突然、友春が現れエックスが反応するよりも前に
顔面を殴りつけて、地面にたたきつけた。
「ハァ、どうだ! ハァ」
友春は肩で息をしながらエックスに叫ぶが威勢のいい声とは対照的に彼の
体は既にボロボロだった。
いろんなところに叩きつけられた事により体のあちこちからは血が流れており、
脇腹の骨はすでに折れているらしく、さっきから激痛が止まらない。
「へっ! このまま俺が勝っちまうんじゃねえのか?」
―――――ドオオォォォォォォォ!
「っ!」
突然、向こうの方から何かが光ったと思った瞬間、こちらに細い
レーザーの様なものが飛んできて友春の肩を貫いた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
「調子に乗るなよ、ガキが」
友春が肩を貫かれたことによる痛みで叫びを上げていると目の前に
さっきまで浮かべていた優しい表情とはほど遠い、鬼のような形相をしたエックスが立っていた。
「くそが!」
友春は悔しそうな表情を浮かべてエックスから離れようと後ろに飛ぶが
その瞬間、顔をエックスに鷲掴みにされた。
「なっ!」
「何が僕を倒すだ」
――――メキメキメキ!
「あ”あ”あ”あ”あ”!」
エックスは友春の頭蓋骨を砕かんとするほどの力で握り始めた。
「このまま頭蓋骨を砕いて終わりだ!」
―――――ピキィィィ!
「あ?」
エックスが友春の頭を潰そうとした瞬間、エックスの腕が氷結し力が弱まった。
その瞬間、友春はエックスから離れたところまで移動し、彼に大質量の
火球を何発も放った。
「な、なんだったんださっきのは」
『友春! 友春!』
どこかからかレヴィアタンの声が聞こえ、友春はポケットから
青色のメモリを取り出すとメモリが完全に凍結しきっていた。
「冷た!」
『私の力を使いなさい!』
レヴィアタンが言った事に友春は理解するごとが出来なかった。
レヴィアタンの力は本来、妹である彩加の物。
「でも、これは彩加の」
『エックスを倒すには私の力とファーブニルの力がいるわ! このまま闘っても
貴方は死ぬだけよ! そんな結末は私が許さない! 彩加が悲しむでしょ!』
「っっ!」
友春はレヴィアタンが言った事に驚きを隠せないでいた。
精霊の一人であるレヴィアタンがただの殺戮対象である一人の人間の妹の
事をここまで考えるようになるのかと。
確かにファーブニル達は人間の味方、しかし彼はどこかこの三人を疑っていた。
いつか裏切って人間を殺すのではないのか、信頼させておいて一気に殺すのではないか。
しかし、そんな物はレヴィアタンの先程の言葉で完全に砕かれた。
「何をする気かは知らないけどこれで死ね!」
――――ドオォォォォォ!
エックスの手から極太の青い色をしたレーザーが友春に向かって放たれた。
「お兄ちゃん!」
(………彩加……お前の力、借りるぞ)
心の中でそう呟き、友春は炎が燃え盛っている手首にメモリを挿した。
エックスの前方で大爆発が起きた。
「アハハハハハ! やはり所詮は人間だ! 精霊の王である僕に敵うはずがないんだ!
さて、君が持っている緑色の宝石を返してもらおうかな」
エックスは既に友春が死んだと思いこみ、彼の元へと歩き出した瞬間。
―――――パキパキィ!
「なっ!」
突然、彼の両足が氷結した。
完全には氷結していなかったのですぐに砕くことはできたが……あり得ないことだった。
レヴィアタンの力はメモリに封じられている、その情報があったからこそ
エックスは彩加を誘拐した。
それにより今、メモリを持っているのは友春。
しかし、氷結したという事はレヴィアタンの力を行使したことになる。
エックスは彩加の方を見るが彼女が力を使ったわけではなさそうだった。
となると、必然的に残るものはただ一人。
「あ、あり得ない! 精霊の力を二つ同時に扱うなんて! ありえない!」
―――――ヒョォォォォォ!
突然、爆煙を中心にして冷たい風が辺りに吹き荒れた。
「くっ! なんだこの風は!」
「俺と彩加の力だ」
「―――――っ!」
爆煙が冷たい風によって払われ、そこに現れたのは先程の全身に
炎を纏った姿ではなく、冷気の様なものを全身に纏った友春だった。
「バカな。に、人間が二体の精霊を宿すなんて」
「この戦いを終わりにしよう。エックス」
友春が手をかざすと、彼の手に一本のジャベリンが現れ、彼の周りの地面から
火柱がつきだし、辺りを一瞬にして火の海に変えた。
「な、なんだこの炎は」
エックスが驚くのも無理はない。
地面から噴き出した火柱は辺りの地面を凍らしていたのである。
「行くぞ」
「――――っっ!」
―――――ガギィィィィィン!
エックスが本能的に危険を感じ、青色のエネルギーを腕に集中させた瞬間
目の前に友春が現れ、ジャベリンが振り下ろされた。
「確かに強くはなったみたいだね!」
『ギャオオォォォォォォン!』
突然、どこからともなく何かの生き物の遠吠えらしきものが聞こえ、エックスは
周りを見渡すがどこにも生物はいなかった。
「周りじゃねえ、おれの後ろだ」
友春がそうつぶやいた瞬間、突然彼の背中から五匹の巨大な氷龍が生み出され
天に向かって遠吠えをあげていた。
「な、なんだそれは!」
エックスは突然、現れた龍を警戒し友春から距離をとった。
「全てを燃やし、凍りつかせる龍だ。やれ」
『ギャオォォォォッォン!』
友春が命令すると氷龍は一度、高く上に上昇してから
エックスめがけて一気に急降下してきた。
「こんなもの!」
――――ドオオォォォォ!
エックスは掌に青い色をしたエネルギーを集め、巨大な弾を形成して
放つが氷の龍に当たった瞬間、一瞬にして氷の塊と化した。
「エ、エネルギーすら凍らすのか!?」
エックスは驚きつつも次の攻撃への準備を始めていた。
「だったら多角からの一斉攻撃はどうかな!?」
エックスは手のひらに集めていたエネルギーを空中へと放つと
そのエネルギーは上空で拡散し、氷の龍に向っていく。
「もう……彩加を泣かさねえって決めたんだ!」
『ギャォォォォォン!』
友春は手のひらを目の前に翳すと一体の氷の龍から別の龍が生まれ、
まるで細胞分裂のように数を増やしていった。
その数はすでに十を余裕で超えている。
「……こりゃ、参ったね」
―――――――ドオオォォォォォォン!
分裂した氷の龍が一斉にエックスへと放たれ、拡散したエネルギーすらすべて
凍りつかし、すべての龍がエックスへと着弾した。
「ハァ……ハァ……」
――――――パキン!
そんな音をたてて友春の姿が元に戻り、彼の足もとに青いメモリが転がった。
「お兄ちゃん!」
彩加は慌てて友春に近づき、彼の抱きしめた。
「お兄ちゃん!」
「あぁ……待たせて悪かった」
「ううん……助けに来てくれてありがとう」
友春はさやかの頭を撫でながら、乱れた呼吸を整え始めた。
――――――ドオオォォォォォォォ!
「「―――――っっ!?」」
突然、向こうの方から青色のエネルギーが柱となって立ち上り始めた。
「我の名はエックス」
「っ! まさか、霊解放か!?」
辺りにエックスの声が響き渡り、言霊がつぶやかれていく。
「すべての精霊を束ねし者。全ての力を今、解放せんとする!」
「うわっ!」
「きゃっ!」
大きく、力強い言葉が叫ばれた瞬間、友春たちが絶望するには十分すぎる
量のエネルギーが辺りに放出され、床が抉れていった。
「はっ!」
一方、その頃。サクヤと戦っていた桜は少し分が悪くなっていた。
こちらの弾丸は有限であるに対し、向こうは無限ともいえる量の桜を
武器としているため最初からどちらが有利かは考えなくてもわかっていた。
だから、桜は最初から全力で出し惜しみなしの戦いをしてきた。
「まったく。その剣一本でよく桜を防ぎますわね」
「褒めてくれてありがとう。この刀で何体もの精霊を斬ってきたんだよ!」
桜はそう叫びながら剣をサクヤに向かって振り下ろすが、大量の
桜の花びらの壁によって剣が止められた瞬間に、後ろへ急いで下がった。
「ふぅ、やれやれ。こんなところで戦うかい?」
「誰ですか? あな」
突然の第三者の声に桜もサクヤも驚きを隠せなかった。
なぜなら、その第三者の声の主はとても精霊には見えない、ただの人間だったのだ。
――――――ボシュッ!
「がっ!」
「―――――っ!?」
桜には一瞬、目の前で何が起きているのか理解できなかった。
そして、数秒後に理解した。『サクヤの胸が貫かれた』と。
「貴様! 何をした!」
「おや? 随分な言い草だな。私が倒してあげたんだぞ?」
そう言ってサクヤの胸から手を引き抜くと、サクヤは口から血反吐を吐いて倒れた。
「なんであんたがこっちにいるんだ! あんたの組織は向こうで!」
「うるさい子猫だ」
その瞬間、辺りは閃光に包まれた。
こんにちわー! いかがでしたか?
終わるとっておきながら終わりません!
次の章で最後です! もう少しお付き合いください!




